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    かけはし2017.年9月18日号

食の安全を破壊する資本主義


加計学園問題から見えてくるもの

たじまよしお(長野県/画家)


効率性だけを追求


 加計学園問題についての野党と政府のやりとりを聞いていましたが、安倍首相の発言要旨は「鳥インフルエンザウイルス・BSEなど世界的に起きている事態に対処するためにも獣医学大学の新設が必要」というものでした。しかし、現在ある大学の内容を充実させることで対応できないのか。獣医師は不足しているのか。特別戦略特区も景気対策というけれど、一時しのぎのカンフル剤で、この社会の質的向上を目指すものではないように思います。
 そして、問題の本質はもっと深いところ、食の安全に目をむける必要があるのだと思います。効率性だけを追求した畜産や酪農、そこから必然的に産み出された矛盾を解決するための獣医学というのでは、消費者には納得のいかない部分があります。 

畜産・酪農に何を求める


 神山美智子著『食品の安全と企業倫理』/第2章/「なぜBSEは防げなかったのか」p54から引用します。
 「牛が廃物利用の牛や内臓を食べて病気になったように、人も健康な食品を食べなければ健康にはなれません。動物性食品の安全確保は、動物の健康が確保されて初めて可能です。窓もなく、人工的な空調設備にぎっしり詰め込まれ、美食と運動不足でストレスだらけに育てられ、病気を防いだり治療するため抗生物質などを与えられ、薬漬け畜産などと言われて育てられる家畜が、健康であるはずはありません。
 二〇〇三年以降に発生したコイヘルペスや鳥インフルエンザなども、大量の魚や鶏を密集飼育していることと無関係ではないのではとおもいます。家畜といえども、外の空気を思いっきり吸い、外の景色を眺め、適度な運動をし、適度なエサを食べて暮らす権利があるのではないでしょうか。ヨーロッパなどには、Animal Right(動物の権利)やAnimal Welfare(動物福祉)を目指す運動もあります。動物の権利を無視して、草や穀物を肉や乳に変換する装置のような扱いをしている限り、第二、第三のBSEが人間を襲うかもしれないと思います」。
 この間の秘密保護法・戦争法・共謀罪法そして原発再稼働などの安倍政権の一連の強硬姿勢をみるとき、動物の権利や動物福祉について考えているようには思えません。人類を滅亡へと導く第二、第三のBSEに対処するための獣医学、それをまるまる否定はしませんが、一番大切な前提に軸足をおいた獣医学・科学の発展であって欲しいものです。

グローバルな競争原理

 「なぜBSEは防げなかったのか」p36は次のように書いています。
「問題の本質は効率性だけを追求した畜産や酪農にあるということを、ジュディス・ペレラ氏は『サード・ワールド・ネットワーク、フィチャーズ1996年』の中で「狂牛病とウシ成長ホルモンとの関連」として「組み換えウシ成長ホルモン(rBGH)を投与された牛は、普通の牛より、もっとエネルギーの高い飼料を与えなければならない。そこで通常は、動物性脂肪精製飼料の形で肉骨粉をたべさせる」「組み換えウシ成長ホルモンを投与された牛は、妊娠と乳汁分泌サイクルを人工的に管理されるために、体力の消耗が激しい。そして二〇年から二五年の平均寿命を五年以下に縮めてしまう」。
「一九三〇年には乳牛の一日平均の乳量は五キログラムだった。一九八八年には、一日一八キログラムに増えていた。組み換えウシ成長ホルモンを投与することによって、一日二二キログラムに増やすことができる」と指摘しています。
「日本政府は合同調査団をアメリカに派遣して調査して結果、二〇〇四年一月一九日─略─アメリカが一九九七年八月から実施している肉骨粉の使用制限の実効性に問題があることなどから、アメリカ産牛の安全性は確認できないと報告しました」p40。

世界のBSE対策と日本

 日本政府のBSE対策は紆余曲折を経ていますので、ここでは省略させていただきます。「食の安全と企業倫理・神山美智子/八朔社」を参考にしていただきたい。
ネットのHatena::Diaryに興味深い記述が見られます。
「これまで遺伝子組換え牛成長ホルモンを認可したのはブラジル・南アフリカ・パキスタン・メキシコ・東ヨーロッパなど規制の緩やかな国々です。それに対してEU一五カ国を始めとして、オーストラリア・ニュージランド・ノルウェーも認可していません。(米国の)規制値のないホルモン剤と『rBST』が投与された乳製品や牛肉はフリーパスで日本に輸入されています。しかし、残留はあるのかどの程度の量なのか、その実態は全く分からないのです」。
日本政府は国内では「遺伝子組換え牛成長ホルモン」を厳しく取り締まっているのに『rBST』が投与された米国の乳製品や牛肉はフリーパスで日本に輸入されているという。こうした状態を「アメリカの言いなり」というふうに片付けてしまうのには異論があります。自動車をはじめとした輸出産業の利益と引き換えに、私たち消費者の安全を無視していることを見なくてはならないと思います。

計画経済の理念復権


以上縷々述べてきました畜産、酪農に関わる食の安全については、獣医大学を新設するという加計学園理事長の加計孝太郎さんは、先刻ご承知であると思います。こういう事態をどのように変革してゆくのか、孝太郎さんの熱き理想を国会の場で全国に発信するならば、そしてそれが時代の要請にかなうならば「そこまで言うならしっかりやってみろ」と大向こうから励ましの大合唱がまきおこると私はおもいますが「逃げ隠れしているようでは」それは望めません。一方、加計学園問題について追及する野党も畜産・酪農、食の安全にしっかり軸足を置いて、いま問題になっている建築費水増し問題など厳しく追及していくならば、人々の受け止め方に変化が現れ「この人たちに政権を任せてみようか」という世論も醸成されてくるとおもいます。そこの理念を欠落させた国会論戦ですと、党利党略と誤解される恐れがあると思うのです。
やはり、資本主義経済の下では解決できない問題、計画経済、社会主義という言葉が頭をよぎるのです。グローバルという単語を目にするようになってからどれほど経ったでしょうか。世界各地でこの問題に向き合っている人々の気持ちはどんなであろうかとおもいます。加計学園問題に関する野党と政府のやりとりをテレビで観ながら、思いついたことをとりとめもなく記してみました。(8・28)

9.2

福島原発事故刑事裁判第1回公判報告会

歴史的犯罪の糾明・責任者の処罰を

東電だけでなく国の責任も問う

 九月二日午前一〇時半から、東京・田町の交通ビルで福島原発刑事訴訟支援団の主催で、六月三〇日に行われた福島原発刑事裁判の第一回公判報告集会が行われた(同公判の記事は本紙七月一〇日号2面参照)。
 第一回公判報告集会は七月に行われた福島県での集会に続いて二回目である。福島原発刑事訴訟支援団長の佐藤和良さん(いわき市議)は、「勝俣恒久元東電会長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長を被告として、いよいよ東電幹部の刑事責任を問う裁判が始まった。しかしこれまでにも多くの人が亡くなった。その中には自死した人もいる。亡くなった人たちの無念をはらすためにも、事故の真相を明らかにし、責任の所在を明確にすることが絶対に必要だ」と強調した。
 次に河合宏之弁護士が、「相次ぐ原発再稼働と福島原発事故の刑事責任隠蔽とは結びついている」「刑事責任追及の闘いは、日本から原発をなくしていくための闘いだ。損害賠償を実現させることで、電力資本に原発を断念させよう」と強調した。小森和樹弁護士は「六月三〇日の公判では、誰を証人とするか決められなかった。第二回公判の期日は決められなかったが、年内にもう一回ということになる。第二回から証人尋問となる可能性があり、承認の数は二〇数人になる可能性もある。審議は早くても来年いっぱいかかるだろう。今は低い山を登り始めたくらいのところだ」と見通しを語った。
 保田行雄弁護士は自ら関わった薬害エイズ裁判について語り「四〇〇〇人の患者のうち一六〇〇人が発症し、数百人が死亡した。傍聴を通して人々に裁判について広く知らせ、公正な裁判への署名を求めていった。裁判の内容を明らかにしていくことが必要だ」と訴えた。

詳細に説明
された論点
海渡雄一弁護士が「第一回裁判の報告」をパワーポイントで詳細に説明した。
「1 強制起訴にいたる告訴団の長い道のり」「2 2016 2・29ついに起訴」「3 2017 6・30第一回公判」「4 検察官役による冒頭陳述と証拠説明」「5 2008 3・31耐震バックチェック中間報告 2009 6には、津波対策は完了予定」「6 武藤取締役への説明とちゃぶ台返し」「7 対策を取るべきだったことは明らか」「8 政府事故調調書などによって明らかになった貞観の津波をめぐる保安院と東電の暗闘と東電福島地点津波対策WGの小田原評定」「9 震災4日前の保安院への報告」「10 誰がどのようにして真相を隠したのか」。
これらの経過を六九枚のパネルにして映し出し、説明した海渡さんの報告によって、東電と保安院による津波想定の隠蔽、検察と政府事故調が決定的な事実をつかみながら、それを隠したこと、すなわち東電のみならず事故の責任を隠蔽した国の責任を明らかにすることも、この刑事裁判の課題であることが明らかにされた。
最後に、蛇石郁子さん(郡山市議)、支援団副団長の武藤類子さんが発言し、この歴史的犯罪の真相究明と責任者への処罰を求める裁判への注目と支援を呼びかけた。       (K)

コラム

夏の鰻と月の光

 今日は、友人と二人で川へ「鰻釣り」に行く日だ。大学受験を控えた友は毎夜遅くまで勉強に励む。
 「高校卒業後働くこと」とされた私。学校の面談でも「仕事の希望は?」と聞かれても? 暇を持て余した「お邪魔虫」が、スタンドの小さな灯りのなかで「苦闘」する友の横に寝転がって雑誌を眺めていた。やおら「明日、鰻釣りに行かないか?」と友が声を挙げた。ラジオから静かに流れるビートルズの曲。
 竿と「餌箱」と「フゴ」を括りつけ「自転車」に跨り釣り場へと急ぐ。懐中電灯の明かりの中を細い水路の縁を渡って鰻の居そうな「淵」へと辿りついた。「テグス」に「重り」「針」だけという至極簡単な仕掛けにドバミミズを付け「ポチャン!!」と投げ込む。コロコロコロ、リーンリーンと虫達が奏でる音楽と川の流れる音。青々とした夏草の匂いに包まれ身を潜め、後は「果報は寝て待て」だ。
 「どうだ調子は?」「うーん!まーね。頑張るしかないよな」「ふーん。」「おめは?」「何やっていいがわがんね。」「何かねーの?」「判れば苦労しねべ!」「うん。まあ〜そうだな」。他愛のない話は続く。やおら甲高く響く鈴の音! 鰻が食いついた合図だ。「かかってる!かかってる!」「おっき!おっきい!」。グイッと引き上げると川面から太い鰻が姿を現した。やる気がみなぎり集中力を高める。が、その後は何の音沙汰もなく退屈な時間が黙って流れて行く。
 友が不意に立ち上がり「ミスタあ〜あ ムーンラあイト!」と夜空に向かって大きな声を張り上げた。見上げると本当にビックリするほどのデッカイ月が天に浮かんでいた。まぶしい程の月の光。バイクに跨り地球の悪を退治にやって来る「月よりの使者」、映画「月光仮面」。輝く月、自転車の少年が空を飛んでいく「ET」の一場面。月あかりの夜空に向かって叫んだビートルズの「ミスタームーンライト」は、少年の不安な心の中を一挙に解放した。田舎町での取るに足りない小さな出来事。
 中学時代は「金のたまご」と評され、「青春時代」は経済成長と反抗する青年運動が高揚した「刺激的な時代」。いま「希望は正社員」と話すリクルートスーツ姿の言葉が突き刺さる。過去最高「内部留保四〇〇兆円」、四六年ぶりの低水準「労働分配率四三・五%」。強力な「油絞り機」で骨の髄まで絞られる「一億総搾取社会」。 際限なく底辺に延びる「分断と階層化」に異議を唱え、拳を突き上げ闘う先に見えるもの……その日は美酒を酌みかわす「特別な日」だ。
 穏やかな陽の光のなか「サクラ サク」の電報が届く。二人の歩む道が決まった日だ。友は常磐線の「上り列車」で旅立ち、僕は「下り列車」で大人社会の群れの中に飛び込んで行った。
 大地を大津波が襲い、天から放射能が降り注いだ故郷の町。白髪交じりになった友と二人で川面を眺め思い出す。少年時代の鰻と月の光に魅せられたあの日の川と他愛のない話を。   (朝田)


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