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    かけはし2017.年8月14日号

北朝鮮の核・ミサイル開発問題


討論のために

米朝対話の実現以外に
解決する道を見出せない

米本土が射程
内に入った!

 北朝鮮は七月二八日の夜間に発射した大陸間弾道弾(ICBM)火星14の二回目の発射実験に成功したと発表した。米国のミサイル専門家の試算によると、通常軌道での最大射程距離は一万四〇〇キロで米国本土のロサンゼルス、シカゴなども射程内ということになった。
 金正恩朝鮮労働党委員長は今回のミサイル発射実験の成功について「米本土全域がわれわれの射程圏内にあるということがはっきりと立証された」と豪語する一方で、トランプ米大統領は「二度目の発射に踏み切ったことは向こう見ずで危険な行動だ」と非難する声明を発表した。また韓国の文在寅大統領は米軍の迎撃用THAADミサイルの発射台四基を追加配備するよう指示した。
 七月四日の最初のICBM発射実験に続く今回の二度目の発射実験によって、極東アジアにおける軍事的な緊張が増々深まったかに見える。しかし一方では、北朝鮮に対する国際的な対応は米中・米露関係に端的に表れているように、各国の思惑が複雑に絡み合って足並みが揃っているわけではない。しかも北朝鮮問題は依然として「中国頼み」なのである。

中国は「金王朝」
を防衛する


東アジアにおける中国の仮想敵国は米軍を中軸とする米日韓軍事同盟体制である。その中国にとって北朝鮮は、今でも重要な軍事的緩衝地帯なのである。金正恩体制が中国の忠告を無視して「核とミサイル開発の暴走」をしているとしても、そうした地政学的な位置が変更されることはない。また朝鮮戦争停戦協定の調印当該国としても「金王朝を壊滅させない」ことには、中国の面子がかかっている。
そうした中国政府の立場は四月七日に行われた米中首脳会談の習近平発言に端的に示されていた。会談の前日に、反政府勢力に対して「毒ガス攻撃」をしたことを口実としてトランプ政権は、シリアのアサド政権軍に対して五九発のトマホーク巡航ミサイルを撃ち込んだ。そして首脳会談でトランプは「中国の対北朝鮮政策は不十分だ。米国内にある中国企業に制裁を加える。米国の単独行動もありうる」という趣旨で習近平を脅したのである。
これに対して習近平は、北朝鮮は核・ミサイル開発は自制すべきだという中国政府の公式的な立場を表明したうえで「米韓合同軍事演習などを中止して、問題解決のために米朝が対話すべきだ」と言い返している。習近平にとっては金正恩よりも「厄介な人物」がトランプなのだろう。

金正恩の中国へ
の不信つのる


北朝鮮の金正恩体制は国連安保理による制裁決議に強く反発している。特に、貿易総額の九割を占める中国もこの制裁決議に同調したことへの反発は強いもので、この間、中国に対する批判を強めている。しかし中国は軍事関連物資や石炭などの交易を停止してはいるものの、それ以外の「生活消費物資」は制限していない。北朝鮮体制を崩壊させるわけにはいかないからだ。
また、金正恩が中国に反発している理由はそれだけではない。中国は金正恩という何の実績もない「若僧」の新体制を不安視し、この新体制が破産しそうになったら、中国の息のかかった「金正男を担ぎ上げて叔父の張成沢と組ませる」ことを考えていた。張成沢の処刑とマレーシアでの金正男殺害は、そうした中国の思惑を粉砕するというものであった。
金正恩は何としても早い時期に「実績」を作らなければならなかった。それが祖父・金日成と父・金正日から引き継いだ「核・ミサイル開発」であり、「核保有国・北朝鮮」の実現であった。まだその実現途上なのだが。

核には「抑止
力」がある


日本や韓国が軍事条約に基づいて米国の「核の傘」の下にいるように、北朝鮮もまた冷戦時代にはソ連・中国の「核の傘」に依拠してきた。朝鮮全土の八割が焦土と化し、三〇〇万人が死亡した朝鮮戦争の停戦協定締結から七月で六四年を迎えた。朝鮮戦争は米国にとっては建国以来、初めての「勝てなかった戦争」だった。
建国まもない祖国を防衛するために参戦した中国人民志願軍が朝鮮人民軍に合流することによって、戦況はこう着状態となった。国連軍(実態は米軍)の最高司令官であったマッカーサーは、本国に「核兵器の使用を要請」した。しかし米政権は当時すでに核兵器を保有していたソ連の報復と、国際世論の反発を恐れてその要請を却下したのであった。もしも当時、米国が唯一の核保有国であったのならば米国はためらうことなく、それを使用していたはずである。同じような構図は、ベトナム戦争にも当てはまる。「核には抑止力がある」ということである。
朝鮮戦争停戦後も北朝鮮体制は、米軍と対峙しながらの祖国の復興を強いられた。また同時に戦中、停戦後の一時期を通して旧南朝鮮労働党、延安派とソ連派の一部など反金日成勢力が「米帝国主義のスパイ」などと烙印されて粛清されたのである。こうして、朝鮮戦争のどさくさに紛れて「金王朝」が始まったのだ。

金日成の
「敗北宣言」

 しかし、停戦後も金日成体制は安泰ではなかった。革命中国は経済政策に失敗するなどして、経済的にも政治的にも混沌とした状態に陥り、また中ソ対立が顕在化するなか、北朝鮮は極めてデリケートな政治判断を迫られることになった。
根本的な解決は「分断された祖国の統一」に求めたいのだが、第二次朝鮮戦争がもたらす惨事を考えれば、そこに踏み込むこともできない。七二年の米中平和共存体制の成立は、朝鮮半島を取り巻く政治情勢を決定づけた。それは中国が朝鮮戦争の停戦協定を飛び越えて、米国との和解に入ったということであった。
こうして北朝鮮建国以来の、北朝鮮主導の「祖国統一」は完全に放棄されることになる。七二年の七月四日に電撃発表された金日成と朴正熙による「南北共同声明」は、ある意味で金日成の「敗北宣言」だった。

NPT体制は
無力化する


七月三日のストックホルム国際平和研究所の発表によると、核弾頭の保有は、ロシア七〇〇〇発、米国六七〇〇発、フランス三〇〇発、中国二七〇発、英国二一五発、パキスタン一四〇発、インド一三〇発、イスラエル八〇発、北朝鮮一〇〜二〇発ということのようだ。この数字を見れば一目瞭然である。自国の防衛のために限定して核を保有しているということと、世界に脅威を与えるために、すなわち「核による世界覇権」の目的で核を保有しているという明確な戦略的な違いが浮き彫りになる。「核問題」の核心は、米露の「一方的な核弾頭の大量削減」なのである。そのことの強制なくして、「核兵器のない世界」など絶対に実現しはしない。しかもそれは、トランプの米国、プーチンのロシアでは絶対にありえないということだが。
今後、原発の世界的な拡散と並行して、核武装を確立しようとする国がますます拡大するだろう。大国と対峙関係にあり通常の戦力で劣る国にとっては、核武装は最強の「番犬」を飼うようなものである。そしてそれは数百機の戦闘爆撃機を配備し、数十万人の重武装した兵力を鍛え上げるよりも安上がりなのである。核大国によって作られた核拡散を防止しようとする「NPT体制」は完全に無力化する。

なぜ核開発に
踏み切ったのか


北朝鮮の核開発問題で最初にアクションを起こしたのはクリントン米大統領だった。米・露・中・日・韓・朝の六カ国による協議で北朝鮮の核開発を断念させようとする試みだった。しかしこの協議が遅々として進まないなか、〇一年九・一一米国でハイジャック機によるテロが引き起こされた。ブッシュ米大統領はアフガニスタンに対する軍事行動を進めるなか、〇二年一月にはイラク・イラン・北朝鮮を「悪の枢軸」だときめつけて、三月には「核先制攻撃戦略」を打ち出した。
そしてフセインの殺害を目的に、あらん限りの巡航ミサイルと爆弾を無差別にイラクに打ち込んだのであった。さらにはどさくさにまみれて、リビアのカダフィを空爆で殺害を試みた。こうしたなか北朝鮮は〇三年一月にNPTを脱退して、核開発を再開し、〇六年一〇月に初の地下核実験を実施するのであった。北朝鮮はこの間の連続するミサイル発射実験と並行させて、実戦配備可能な核弾頭開発を続けるだろう。
現時点での米国と北朝鮮との対話は極めて困難である。しかし現在の軍事的な緊張の深まりを和らげるためには、米朝対話以外にありえない。そのための政治的・軍事的な環境を作り出さねばならない。
?トランプは米軍による北朝鮮への軍事的な圧力を中止すること。?金正恩は核、ミサイル開発を凍結すること。?国連安保理は北朝鮮への制裁決議を撤回すること。?安倍は北朝鮮への敵視と差別的政策をやめること。?文在寅は米軍によるTHAADミサイルの配備に反対すること。?習近平は米朝対話のための仲介を行うこと。(高松竜二)

 
7.16

福島原発事故緊急会議シンポ

高浜原発再稼働を
めぐる2つの判決

 七月一六日、福島原発事故緊急会議は一三回目となる連続シンポジウムを、東京・水道橋のスペースたんぽぽで開催し、四〇人が参加した。今回のテーマは「検証:高浜原発再稼働をめぐる2つの『判決』――再稼働ラッシュを止めよう」。講師は、二〇〇六年、金沢地裁の裁判長として北陸電力志賀原発差し止め判決を下し、二〇一六年三月に、今度は弁護団長として関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止め仮処分を大津地裁で勝ち取った井戸謙一さん。
 今年三月二八日、大阪高裁は大津地裁による昨年三月の福井県の高浜原発運転差し止め仮処分の取り消しを求める関西電力の抗告を認めて、福井県・高浜原発の再稼働を認める決定を下した。
 この大阪高裁の「運転差し止め仮処分」取り消しは、安倍政権と電力業界の意を組んだ不当なものだった。関西電力は、大阪高裁の「お墨付き」を得て、ついに六月六日には4号機の再稼働を強行してしまった。川内、伊方の再稼働に続く暴挙だ。
 この日のシンポジウムは、裁判長と弁護団長という、異なった二つの立場から原発運転差し止めにかかわった貴重な経験を持つ井戸さんの話を聞き、原発ゼロを実現する思いを具体化していくための企画となった。

井戸謙一さんの
報告に聞き入る
現在、滋賀弁護士会に所属している井戸さんは、パワーポイントを使って「福島第一原発事故後の裁判所の変化」、「大津地裁、大阪高裁決定に至る経過」、「大津地裁決定の意義・特徴」、「避難計画の問題」、「深層防護の考え方」、「大阪高裁決定の特徴」、「新たな安全神話」、「これからどうする」といった各項目について一時間半以上にわたって提起した。
昨年三月の大津地裁による「高浜3、4号機運転差し止め仮処分」の意義は、「司法の力で現に運転中の原発を停止させたこと」「隣接県の住民の申立てにより、隣接県の裁判所が運転を差し止めた」ことにあった。その特徴は「関西電力に立証の高いハードルを課した」「新規制基準の不合理を明確に指摘した」「原発を受け入れるか否かは、専門的判断ではなく、社会的判断であることを明記した」ことにある。そこでは明らかに、福島第一原発事故を通じた裁判所側の判断の変化が示されていた。
たとえば安全性を立証する事業者側の責任について「福島原発事故を踏まえて基準がどのように強化され、関西電力がこれにどのように応えたかについて立証する必要がある」というのが大津地裁判決の立場である。「避難計画」の問題についても、福島第一原発事故の経験に照らし、「過酷事故を経た現時点においては、幅広い規制基準を策定する信義則上の義務が国家に発生している」とされる。
しかし今年三月の大阪高裁判決は、国家と電力資本の意に沿って、昨年の大津地裁の仮処分決定を完全に逆転させるものだった。井戸さんは、それを@福島原発事故被害への無関心A三・一一前に戻った立証責任論B新規制基準に対する無批判な信頼C関電・原子力規制委員会の主張をなぞっただけの判断内容D新しい安全神話として特徴づけている。
最後に井戸さんは、「合理的な立証責任論をとらせる」(安全性を立証すべきは事業者)、「原発に求められる安全性についての理論の深化が必要」(絶対的安全性か相対的安全性かではなく、相対的安全性の中でどのレベルの安全性が必要かについて裁判所に真剣に検討させる必要)、「原発に求められる安全性は誰が決めるのかについての考察が必要(それは市民が決めるのであって、原子力規制委員会には決める能力も専門性もない)」と今後の課題を提起した。井戸さんは「流れを変えることはできる。市民の普遍的な意識とねばり強い運動によって、裁判官の意識を変えていくことは可能だ、と訴えた。

裁判闘争含め
あらゆる方法で
井戸さんの報告の後、たんぽぽ舎、再稼働阻止全国ネットワークの山田和秋さんが、全国の原発再稼働状況について報告。
「これまで国策としての原発は、東芝、日立、三菱が相互に談合しながら作ってきた。今ある原発六二基のうち、廃炉が決まっているのは『もんじゅ』をふくめて一五基であり、稼働中が五基、稼働可能は四二基となっている。そのうち玄海3、4号機と大飯3、4号機に再稼働の可能性がある。関西電力は若狭湾で一四基の原子炉を持っており、ここで事故が起きれば日本列島全体が危険だ」「玄海原発は規制基準をクリアしているが地元の自治体や漁師たちも反対している」。
こうした状況の中で、再稼働ラッシュに躍起となっている政府、資本の動きを封じ込め、住民とともに、裁判をふくめてすべての原発をなくすための世論と行動を、再度大きなものにしていこう。 (K)

 


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