7.7 関西共同行動が学習討論会
これからの闘いをどう作るか
「多様性」こそ運動の保障
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【大阪】安倍首相が自民党の改憲草案や国会の憲法審査会での論議を無視し、唐突に九条の改憲を主張し出したことで、急きょ改憲の動きが具体的な状況になってきた。東京都議会での自民党の歴史的惨敗にもかかわらず、安倍首相は改憲の行程を変更しないという。このような中での七月七日、今後の反改憲運動に資するため、関西共同行動は中北龍太郎さん(関西共同行動代表、弁護士)から問題提起を受け、質疑応答のかたちで学習討論会を開いた。 (T・T)
中北龍太郎さんが問題提起
近づく改憲へ
の「総仕上げ」
安倍首相は第一次の任期中に改憲を実現すると公言したが、参議院選の大敗北が引き金となり〇九年九月に政権は瓦解。それまでの一年間に国民投票法と改憲原案の審査権限をもつ憲法審査会を設置し、安保法制懇をつくった。明文改憲を掲げて登場した第一次安倍政権は、その後の改憲のための布石をつくった。
第二次安倍政権では、棚上げになっていた安保法制懇の最終報告がよみがえり、集団的自衛権行使の部分的合憲化という解釈改憲が具体化され、戦争する国づくりのための秘密保護法、安保法制(戦争法)が制定され、共謀罪が成立。総仕上げとして九条改憲が政治課題になってきた。
臨時国会終了
前に自民党案
それに至る経過は、衆参両院で三分の二以上の議席を確保したことから始まる。昨秋日本会議の三項追加改憲案の提起、それを受けた今年三月五日の自民党大会(憲法改正原案の発議に向けて具体的な歩みを進める)、さらに三月一五日日本会議国会議員懇談会の運動方針採択(憲法上に明文の規定を持たない『自衛隊』の存在を、国際法に基づく自衛権を行使する組織として、憲法に位置づける)と続く。
そして、四月二六日読売新聞が首相にインタビュー、その内容が五月三日に読売新聞に発表。同日「民間憲法臨調」「美しい日本の憲法をつくる国民の会」主催の改憲集会に首相がビデオ・メッセージを送った。その中で、ちゃっかりと憲法改正は自民党結党者の悲願だったとのべ、その悲願を受け継いできたと言っている。自民党結党者とは、岸信介のことだ。
自民党憲法改正推進本部体制を拡充し、発議案の議論が始まっている。六月二四日には、神戸「正論」懇話会で講演し、自民党改憲案を秋の臨時国会の終わる前に衆参憲法審査会に提出する意向を表明した。来年の通常国会冒頭から審議を始め、会期内に衆参両院で三分の二超の同意を得て改憲発議する方針を固めたとのことだ。これで行くと、来年の通常国会で発議し、六〇日〜一八〇日後に衆院選と同時に国民投票をし、過半数の賛成で二〇年オリンピックの年に施行するということになる。安倍首相にとって二〇二〇年は、日本が生まれ変わる年なのである。
さまざまな改憲
・加憲の幅
いろいろの案が出されているが、〇五年草案では、九条一項は維持し二項を削除して自衛軍を保持。一二年草案では、一項を一部変更し「戦争を放棄し、武力による威嚇・行使はしない」とする、二項は削除し「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と変更し、国防軍を保持する。
三項追加案の源流は〇四年公明党憲法調査会の「論点整理」の一案、加憲論だ。三項の条文案として安倍首相の発言は、「九条一項、二項を残しつつ、自衛隊を明文で書きこむ」。九条解釈規定型の自民党のたたき台は、「前条の規定は、自衛隊の保持を妨げるものと解釈してはならない」。
その他の案として、九条枠内規定型の「前条の規定に反しない範囲内において、自衛隊を保持する」。目的明示型の「〜のための自衛隊を保持する」。九条枠外規定型の「前条の規定にかかわらず、自衛隊を保持する」、などである。
際限なき武力
行使への道だ
侵略戦争と核の惨禍を経験した国民の非戦の決意であり、日本が生き延びていくための世界公約であり、武力によらない平和を目指し平和的生存権を希求することだ。安倍首相の積極的平和主義は、武力行使主義だ。安倍首相の改憲案は、自衛隊合憲論とは大きく異なる。自衛隊合憲論は、個別的自衛権の行使のための自衛力は二項の原則に反しない、いわゆる専守防衛論だ。
限定的集団的自衛権行使の法制化後の自衛隊の憲法明記は、九条二項の空文化の極大である。現状追認と見せかけて、多数を占める自衛隊支持・合憲論の世論をとりこみ、際限なき武力行使の道を開くペテン政治である。日本会議国会議員懇の「国際法に基づく自衛権を行使する」という場合の自衛権は集団的自衛権を含む。
財界の動向として、五月八日経団連の見解は「経済界としても重要かつ重たい発言であると受けとめている」。自衛隊トップの河野統合幕僚長の五月二三日の発言は「(個人的見解と前置きして)非常にありがたいと思う」。
「国民投票」を
射程に入れて
安倍政権の今後の動向。都議選での大敗を受け、反省したポーズをとりつつ、公明・維新とは協調し、民進党分断、北朝鮮脅威論で危機をあおりながら、巻き返しを企んでいるだろう。PKO自衛隊日報問題、共謀罪、森友問題、加計問題などなど、説明責任を果たすどころか全く無視し続けているが、この問題を粘り強く追及する。九条改憲についての世論調査は、NHKが賛成二五%、反対五七%。TBSは賛成三一%、反対五六%だ。
改憲発議をさせない運動は、発議前の倒閣だ。しかし、自民党や改憲派が議席の三分の二超を持っている現状では、可能性としては国民投票があると考えて準備しておかなければいけない。その場合、衆議院選との同時実施の可能性がある。自民党にとっては、その方が敗北した時のリスクが軽減できる。しかし、厳しく規制される選挙運動をしながら、投票の二週間前までは原則自由である国民投票運動をすることで混乱は必至である。自民党などが多数決の原理を単純に主張するのに対し、市民は熟議による合意をめざす。国民投票運動では、テレビのCM、新聞広告が原則自由化され、資金力の相違による宣伝力は歴然と違いが出る。
「草の根」の力で
勝利しよう!
そのようなハンディを克服し、草の根直接民主主義で勝つ。地域で地を這う反改憲運動から攻めあがっていく。戸別訪問、街宣の展開をこまめにやっていく。その中で、九条の意義を説き、三項追加案の危険性・欺瞞性を暴いていく。教育無償化改憲論の批判を展開する。教育無償化は、改憲せずとも直ちに可能である。憲法二六条の教育を受ける権利があり、国際人権A規約一三条二項がある。
このような運動は初めての経験であり、選挙や一般の大衆運動とは異なる過半数を獲得する新機軸を編み出し、反改憲の大きな渦巻きを創る。自衛隊容認・支持・合憲論の人々を説得する私たちの言説を獲得しよう。 (報告要旨)
質疑応答と討論
Q 国民投票のイメージを考えるとき、二〇一五年の大阪都構想住民投票の経験を全国に伝え共有しよう。米国大統領選の時バーニーサンダースが草の根の人々から資金を集めた。それも参考になる。
Q 三項を追加することは整合性があるとも思える。戦争法ができたことで、憲法に三項を入れれば法律としても完結する。
Q 公明党の加憲は戦争法ができる前のもので、今安倍が言っているものとは違うと思う。
Q シリアにトランプがミサイル攻撃したとき、世論の六割は話し合いが重要だという意見だった。このことをもっとアピールすべきだ。国民投票法にはさまざまな欠陥がある。
A 公明党の加憲は、憲法で歯止めをかけ専守防衛に限定しようとするものだった。今のものと違うので、平和の党としての公明党が問われる。
A 国民投票法をよくしていく要求は当然だが、いま持っている議席から考えて、自民党が不利になることをするとは考えにくい。
Q 安倍の積極的平和主義が本当に嫌いだ。許せない。九条改憲すれば世界の人々がどう判断するか。世界に対する信頼をなくすことになる。日本人のプライドとしてそんなことは許せない。
Q 中北さんの提起には賛成だが、負ける方向で現状分析しているのではないか。勝つ論点をつくるべきだ。都構想の場合は、大阪市解体の賛成反対でわかりやすかった。選挙や投票は我々が最も苦手な分野だ。自衛隊違憲で闘うなら負ける。自民党も、すでに戦争法で目的を達成しているのだから、憲法問題を争点にしなくてもいいのでは。
Q 自衛隊合憲・違憲を問うなら勝負で負ける。三月に行われたJNNの世論調査では、回答者の九〇%が自衛隊に求める役割として人命救助・災害復旧を挙げている。戦争する自衛隊ではない。訴えるときにこの点を考えるべきだ。国民投票法で最低投票率は検討されないだろうか。
Q 国民投票では、発議案に対する態度を考えればいいのだから、発議案に反対でもその理由は多様だ。反対理由を一つにまとめる必要はない。反対が共通点であればいい。
Q 安倍は社会の在り方全体を転換させようとしている。権力を縛る立憲主義の問題まで幅を広げて考えるべき。対立点をはっきりさせた論を立て、保守層を取り込むのに耐えるような論がいる。
Q 安倍政権のほころびを追及し、国民投票に持ち込ませない闘いが必要だ。
A 議論できてよかった。キーワードの一つは多様性。その様な運動をどう論理立てていくか、今後詰めていく。安倍政治と対決していく。(T・T)
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