サード「密室の合意」が招いた外交の惨事
ねじれた糸をとく文書は軍機密に指定され事実確認困難に
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トランプらしい。4月27日(現地時間)ドナルド・トランプ米国大統領は「ロイター」通信とのインタビューでサード(THAAD、高高度ミサイル防御)の値段を「10億ドル」だと明らかにした。「費用は韓国が出す」とし「通報した(infomed Southkorea)」とも語った。奇襲的配置の2日後にして電撃的にサードを再交渉のテーブルにのせたのだ。
彼はこの日、韓米自由貿易協定(FTA)についても言及した。トランプ大統領が1987年に書いた「取引の技術」(The Art of the Deal)に登場するノウハウを30年ぶりにサード配置に適用したかのようだ。真実はどうであれ、米国はFTAの再交渉と共にサード費用負担の主体を明確にした。本の題名のようにサード配置の取引(deal)は芸術(art)に近い。
費用負担という急所を突かれた青瓦台は大急ぎで収拾に乗り出した。キム・グワンジン青瓦台国家安保室長が4月29日、ハーバート・マクマスター米国家安保補佐官と通話した後「わが政府が敷地、基盤施設を提供し、サード体系の展開および運営・維持費用は米国が負担するという既存の合意を再確認した」と発表した。けれども思い通りにはならなかった。マクマスター補佐官が直接乗り出してサード費用の再交渉と共にトランプ大統領の発言を再確認した。
青瓦台は要領をつかめなかった。トランプからサードの「価格」を突きつけられた主体が誰なのかについてからして霧の中だ。「韓国日報」は5月2日「キム・グワンジン国家安保室長がサードの費用を昨年末に通報を受けていた」と報道したけれども、青瓦台は報道内容が事実と異なるとして言論仲裁委員会に提訴した。また別の当事者である国防省や外務省は沈黙を守っている。米大統領がサード配置の費用を韓国が負担すべきだと主張して再交渉の場が開かれた状況にあって、政府のどの部署も責任をもって乗り出せないという外交的惨事が繰り広げられたのだ。
ねじれた糸の塊りを解こうとするなら、韓国と米国が進めたサード配置の協議過程を事態の流れにそってもう一度再確認しなければならない。韓国と米国がサード配置の「実務の論議」を公式に始めたのは2016年3月だ。その年の1月4日、北韓(北朝鮮)は第4次核実験を断行し、パク・クネ大統領は1月13日の国民に対する新年の談話および記者会見で「安保と国益を考慮し、サードの配置を検討していく」と語った。2カ月後の3月4日、国防省は「国民の生命と財産を保護し、国家の安危を守るための責務を完遂するための一環」だとして駐韓米軍とサード配置関連の共同実務団構成の約定を締結するに至った。
トランプの「10億ドル」発言以降
この約定はリュ・ジェスン国防省国防政策室長と駐韓米軍司令部参謀長が締結したものだ。これは当時、追っての合意のための実務レベルの約定文書として受け入れられた。けれどもトランプ大統領の10億ドル発言以降、国防省は共同事務団の約定を挙げて、サード配置の費用負担は既に合意された事案であることを強調した。ムン・サンギュン国防省代弁人はこの約定を根拠として5月1日のブリーフィングで「再交渉する事案とはなり得ない」と語った。
論難が続いているにもかかわらず、国防省の主張の真偽を文書で確認するのは事実上、困難だ。国防省がこの文書を2級の秘密に指定したからだ。国防省の説明通りであれば、この文書の内容を確認できるのは2026年からだ。
文書の公開が必要なわけは、国防省が主張している合意の存在のためだけではない。「ハンギョレ21」は約定締結日である3月4日に国防省が発表した報道資料の内容を問いつめてみた。この過程で納得しがたい所が登場する。国防省は報道資料において「韓米共同実務団が適正な敷地選定、安全ならびに環境、費用問題、協議日程などに関して協議を進めるであろう。駐韓米軍のサード配置は韓米共同実務団が準備した建議案を両国政府が承認する過程を経て推進されるであろう。駐韓米軍が運営するサード体系は北韓の増大する核とミサイルの脅威から大韓民国を防御することに寄与するであろう」と発表した。
国防省は費用問題についての協議を「進める」という意味と共に共同実務団が作った建議案が「両国政府が承認する過程を経て推進する」と明確にしたのだ。サード費用の分担に関連する国防省の主張をそのまま受け入れるとしたとしても、費用分担関連の事項は約定によって確定されるものではなく、約定の締結以後に共同実務団の協議を通じて決定されなければならない「未来のこと」だった。ところが国防省は、この約定に費用の合意が含まれていると主張しているのだ。
「条約や機関間の約定でも見ることはできない」
キム・チャンス・コリア研究院長は「百歩譲って国防省の解釈を受け入れるならば、約定を締結する時(費用問題は)総論的レベルから『韓米駐屯軍地位協定(SOFA)による』として移管された可能性はある。各論レベルの事案は追加で協議できる道を開いておいたのならば結局、韓米両者のいずれもが真実を語ることができる」と語った。キム院長は「だからと言ってサード配置の合意の過程を国民にキチンと説明しない点は取り返すことのできない問題であり、密室合意を進めて結局は外交の惨事が起きたのだ。5月9日の大統領選挙以降、韓国政府が最も急いで収拾しなければならない課題が投げかけられた」と付け加えた。
「合意文書はない」(ソン・ヨンギル「共に民主党議員)。
論難は意外なところから簡単に解決できる可能性もある。ソン・ヨンギル民主党議員は去る3月、「ニューストマト」とのインタビューで「サード問題に関連して国防省や外務省などに関連する合意文書が存在するのか確認したが、結論的には存在しないという事実を確認した」と語った。ソン議員は「機密を理由として政府が確認を拒否したのではないのか」との質問に、「そのような可能性まですべて確認したけれども、実際に存在しなかった」と答えた。5月4日、ソン議員は「ハンギョレ21」との通話で「(サード配置の後にも)変わったところはない」として政府部署の立場が変わらなかったことを再確認した。
当時、ソン議員と共に合意文を探していた「平和統一を開く人々(平統サ)」も最終的に合意文書は存在しないと判断した。平統サを初めとする市民社会団体が集まった「サード韓国配置阻止全国行動」も最近の情報公開請求で、国防省から合意文自体が存在していないとの回答を受け取ったと伝えた。これと関連して平統サの関係者は「2月に国防省、外務省の複数の関係者たちから『サードの配置は書面で合意されておらず、法的に検討してみると条約や機関間の約定だと見ることはできない』との答えを聞いた」と語った。さらに「2016年3月の約定について国防省法務管理室の関係者も『国家間の合意は条約と条約ではないものとに分けられるが、サード配置の合意は条約だと見ることはできず、機関間の約定だと見ることもできない。サード配置の合意は書面になったものではない』との答弁をした。韓米共同で発表した行為だけがあるばかりで、書面になったものはないという意味」だと強調した。
「(サード配置は)決定されて下におりてきたもの」
見えないのは10億ドル分の「約定」だけではない。主務部署である国防部ハン・ミング長官や外務省ユン・ビョンセ長官が見えない。特にサード配置の過程で韓米連合資産管理の責任があるハン・ミング長官は、はなから行方をくらました。その代わりにキム・グワンジン安保室長が責任を担った。キム安保室長は今年の1月と3月、米国ワシントンを2度にわたって訪問し、マクマスター国家安保補佐官に会った。特に3月には米国が習近平中国国家主席と米中首脳会談を前にした時点だった。当時、北核とサードの配置問題を調整したものと伝えられた。
ハン長官の代わりにキム安保室長が乗り出したことをめぐって国防省はおだやかではなかった。この論難は次期戦闘機(FX)事業で機種決定当時の長官だったキム・グァンジン安保室長が「政務的判断」だとF―15ではなくF―35の手を挙げたことをめぐって、ロッキードマシンと関係があるのではないのかとの疑惑があった。サードもまたロッキードマシンが生産している武器体系だ。ソ・ヨンギル民主党議員は5月1日にツイッターで「大統領も弾劾されたのに青瓦台のキム・グァンジン(室長)があるように国民をだまして経済の報復を自ら招き、米国に弱みを握られて10億ドルを要求されている状況についての理由は何なのか? (キム室長と)ロッキードマシンとの癒着疑惑を明らかにする国政調査が必要だ」と主張した。
サード問題は単純にキム安保室長のレベルを超えてパク・クネ政府の裏ルートの実力者チェ・スンシル氏まで関与したという主張も提起された。キム・ジォンテ正義党議員は昨年10月27日のフェイスブックで「国政ろう断勢力が外交・安保分野にまで浸透したという事実がおぼろげに表れている。昨年(2015年)メリン・ヒュスン・ロッキードマシン会長の訪韓に続き社長、副社長が群れをなして韓国を訪れた」し、「その後にロッキードマシン副社長が韓米両国がサードの韓国配置を論議中だと秘密を洩らした。ロッキードマシンに列をなした政府裏ルートの実勢たちを必ず追いつめなければならない」と語った。チョン・ドンヨン「国民の党」議員も2016年10月、平和放送のラジオ番組に出演し、「(サード配置は)国防省長官を排除し、だれかのために決定されたものではないのか。決定されて下に下りてきたもの」であるとし、「(チェ・スンシルであるかについては)大統領の良心告白が必要だ。知っている人はみんな知っている。キム・グァンジン(安保)室長も知っているし、青瓦台にいた人は、みんな知っている」と語った。
キム安保室長の言動は、平素の彼の韓米同盟への立場が反映されたものだとの解釈もある。キム安保室長に近いある人物は「今までのキム室長の言動を見る時、サード配置は米軍の資産を利用して北韓(北朝鮮)をけん制しようという立場がそのまま貫徹されたもののようだ。サードのミサイル防御能力はさておくとしても、サードを運用しつつ手にすることのできる情報資産や韓米同盟強化など付随的利得だけでも効果は充分だと判断したのだろう」し、「キム室長は厳密に言えば親米派というよりは米国を利用して防衛力を高めようというプラグマティストに近い」と説明した。
国政調査、特別検事まで推進すべき
費用をめぐる論難についても、国防省はサード配置を既成の事実として受け入れる雰囲気だ。ある国防省関係者は「10億ドルをめぐる論難に関連して、実際の費用負担についての(文書での)合意があったにせよ、韓米駐屯軍地位協定に準ずるにせよ、そうでなければ韓米FTA協商において米国が有利な位置を占めるためのテコになるにせよ、明らかなことはサードが運用可能な形で既に配置されたという事実だ。これを米国の情報資産と共に韓米がどのように効率的に協力して運営していくかが、より重要な状況」だと語った。
ボールは新政府に委ねられた。「共に民主党」内では費用の論難を糾明するための聴聞会を開こうという主張が出てきており、中道・保守の票を意識して一歩、ひきさがった状態だ。けれども大統領選以降、聴聞会ではなく国政調査、特別検事まで推進して今回の事態を国防分野における積弊清算の契機としなければならないとの意見も相変わらずだ。(「ハンギョレ21」第1161号、17年5月15日付、ハ・オヨン記者)
* この記事は大統領選挙の投開票以前に執筆された。
コラム
脳出血患者の入院生活
今日は六月六日火曜日、五月八日の夕方、友人に助けられて救急車で新宿高層ビル内にある病院に運ばれてすでに三二日目。朝は六時起床、六時半〜七時半に検温、血圧を計り、酸素量を計る。八時半朝食、九時洗面と薬を飲み、身体を洗う。午前一〇時からリハビリ。最初が話し方、顔の麻痺、次が手、足と続く。一二時半昼食、一時から二時半、いろいろな検査。三時から五時リハビリ。六時半夕食、七時〜九時自由時間(本、テレビ)、九時消灯。
毎日見舞いに来てくれた人が二人として計算してみると延べ八〇人を超す全国の友人、仲間が見舞いと激励に来てくれました。そして、全国からたくさんのお見舞いをいただきました。本当にありがとうございます。感謝の念に堪えません。
この中には、しばらく会っていなかった大阪と秋田の弟二人も入っています。彼らには早く復帰するには「リハビリをがんばるしかないよ。私たち兄弟は父ががんばって会社に復帰したのを見ているんだから。それに負けては父に申し訳ないよ」という涙が出る言葉をかけてもらいました。実は父も同じ病気で倒れました。
病室はビルの一五階にあり、右手からは高層ビル街が臨めます。昨日は雨でビル街は夕方、白い雲(雨)に包まれました。そんな中、二回程雷がビルに落ちるのが見えました。梅雨時の落雷は結構な迫力です。
小説の「新宿鮫」に登場する眠らない街を、高層ビルの都庁以外の窓がほとんど朝まで灯が消えない風景を見ていると感じます。「脳出血」の入院生活は最初から四つの課題に直面し通しです。
第一の課題は、最初の二週間続いた点滴です。すべての栄養も降圧剤などの薬も三つの点滴袋に入れられ、二四時間、頭の上に三つもぶら下がっていました。まるで「友達」のように検査にもリハビリにもいつもいっしょです。その一つから「かぜのウイルス」が入り、最初の一週間は三八度台の高熱に悩まされ、いろいろな治療やリハビリも約一週間遅れてしまいました。三週間で栄養の点滴がはずされ、口から食事をとるように切り替わりました。しかし、食事の中心は三食お粥。その他の三種類は野菜を蒸しただけの全く味も塩気もないもので、なかなか口を通りません。お粥は友人に、振りかけののりたま、鰹節の入った味道楽、鮭の入ったふりかけの三種類を買って来てもらい、毎回それをかけて食べています。それでも半分ぐらいしか食べられず、看護師さんや友人からもっと食べろと叱咤されています。約三週間で、すべての点滴がはずされました。それでようやくすっきりしました。
第二の課題は、寝返りです。脳出血患者は、麻痺している反対方向に体重が傾き、背中や腰に痛みを感じます。これは寝ている時だけではなく、車イスで一時間以上検査やリハビリを行っても体重は麻痺している反対方向に倒れ、痛みもその方向に集中します。この痛みも寝返りによって緩和するしかありません。そのため夜寝ている時に、ナースコールで看護師さんに寝ている方向を直してもらうことが認められていますが、その寝返りだけで「痛み」を取り去るのは大変です。
第三の課題は、トイレ問題です。入院最初から小便にはおちんちんに管が通されています。排尿量が管より多いと常に排尿する時、痛みに襲われます。この結果、第四週では血尿になり、連日検査が続きました。逆に排尿量より、管を通る量よりも少ないと無意識のうちにいつも排尿することが続きます。
排便に関していうと今も一人でトイレにはいかせてもらえません。トイレにしゃがんだり、動くだけの体幹の力がないからというのがその理由で、今ようやくトイレに一人で行くためのリハビリが始まりました。現在の排便対策の中心は「おしめ」です。どうしても出たい時は看護師さんに下剤と浣腸をお願いします。そして、出たらナースコールで看護師さんを呼んで、身体をふいてもらいます。この時間が一番苦痛で、恥ずかしい。しかし、排便を気にしているとリハビリに集中できません。早くリハビリが進んで一人でトイレに行けるのが当面の目標です。六月一六日、リハビリ病院ヘ転院します。 (武)
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