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    かけはし2017.年6月19日号

問題は賞味期限がいつかだけ


米国

ロシア疑惑とトランプ

トランプ放り出しに弾劾は不要
支配階級に方法はいくらもある

デイビッド・フィンケル

米大統領選に対するロシアの介入なる疑惑をめぐりトランプ政権が追いつめられている、と日本のメディアも大きく報じている。米国の同志がこの騒ぎを、本当の重大な問題は別の所にあると論じている。要点は、選挙介入は米国の実績の方がずっとひどい、本当の選挙不正は、共和党による投票抑圧、また米国の支配階級は不要になった時にトランプをたたき出す上で口実はいくらでもあり弾劾は不要、といった点だ。この問題の背景と、トランプ政権の今後を考える素材として以下に紹介する。(「かけはし」編集部)。

 私は個人的におそらくそうらしいと推測しているが、ロシアは、ハッキングを行い米国の選挙に介入したと告発されているすべてのこと(そしてつい最近のフランスを含む他のものごと)に実際に有罪だ、と想定してみよう。しかしこれらの嫌疑が、二〇〇三年の悪名高いイラクの大量破壊兵器という想像上の作り話に類似した、イデオロギー的動機をもつでっち上げではない、ということは最低限はっきりしているように見える。
 現在の件では、ロシアのハッキングに関する事実性は、米国やその他のところのジャーナリストや情報関係専門家の消息に通じた判定であるように見える。

米国自身が選挙介入常習犯

 しかしそれが真実であるとして、それではそれはどういう結論になるのだろうか? 左翼の立場にある者は誰でも――そして歴史の学徒すべては――確かなこととして、それはほとんど、他国の選挙で米国が決まり事としてやってきたことより悪質なものではない、ということを知っている。新しいものは電子テクノロジーだけだ。それをここで概観するだけでもそのリストは長すぎるのだが、一九四八年まで遡ってイタリアの選挙の一例だけ取り上げよう。
その時CIAは、その自認によれば、イタリアの「中道諸政党」に一〇〇万ドルを供与し、イタリア共産党の指導者たちの信用を落とす目的ででっち上げ文書を公表したとして嫌疑をかけられた。外国での秘密作戦を可能にした一九四七年の国家安全保障法は、時の米大統領、ハリー・S・トルーマンによって約六ヵ月前に署名され法になっていた。
CIA工作員のF・マーク・ウィアットによれば「われわれは、彼らの政治費用、彼らのキャンペーン費用、ポスターやパンフレット向けに支払うために、選抜された政治家に渡すカネがつまったいくつものバッグをもっていた」。米国の手先たちは、一〇〇〇万通の手紙を書くキャンペーンを引き受け、数多くの短波ラジオ放送をつくり、書物と記事の出版に資金を出した。そしてそのすべてはイタリア人に、共産主義者の勝利の結末だと信じられていたことに警告を発していた。タイム誌はこのキャンペーンを後押しし、キリスト教民主主義派の指導者で首相のアルシデ・デ・ガスペリを一九四八年四月一九日号の表紙とトップ記事で特集した。
このパターンは冷戦期を通じて、そしてそれを超えて続いた。そしてそれには、グアテマラ、イラン、コンゴ、インドネシア、チリ、その他でのCIAが支援した殺戮的クーデターと暗殺は、まったく数に入っていないのだ。しかし、これがまさに時期遅れの臨時ニュースではまったくないとしても、本国での今日のわれわれの民主主義に対する脅威≠ノ関し言うべきことは何かあるのだろうか?

本当の民主主義への脅威は別に

 もちろんメディアは次のことを分かっていて、そしてある者たちはそれを腹蔵なく語り続けている。それは、ドナルド・トランプの雑なジェイムス・コミーFBI長官解任は、二〇一六年選挙におけるロシアの介入、およびトランプキャンペーン工作員のあり得る共謀に対する捜査を妨げるためのあからさまな動きだということだ。もっと重要なことだが、彼らが語っていないことがあり、それは、ロシアのハッキングは、われわれの民主主義への脅威≠ニしてリストの三番目より上にあるものではまったくない、ということだ。
つまりはるかにより大きなわれわれの民主主義に対する脅威≠ヘ、クラック(コーク)兄弟や他の者たちから政治に注がれる統制不可能な裏金であり、それが共和党州議会の立法によるあからさまなゲリマンダー操作と投票権抑圧と組になっている、ということなのだ。
事実として、政権によるコミー解任に対する最初の説明が飛び交っていたまさにその日、トランプ政権はピッタリと合わせて、全国規模で有権者抑圧を正規にするために「投票不正調査委員会」を作り上げたのだ。ジョージ・オーウェル(の「一九八四年」)風に名付けられた「選挙の清廉さに関する大統領委員会」は、副議長にカンザス州国務長官のクリス・コバックを据えて副大統領のペンスが主宰することになっている。その目的は、資格のない者と死者が「何百万人」とヒラリー・クリントンに票を投じた、というトランプのおとぎ話を確証することにある。
何の差し支えもなく想定できることだが、ウィスコンシン州の有権者名簿から二〇万人――比例とはかけ離れて黒人と民主党支持者に偏った――が取り除かれたこと、そしてそれがそこでの二〇一六年選挙におけるトランプの決定的に重大な勝利における差の九倍になること、といったこれらを、先の委員会が調査することはないだろう。投票権法は、ディープサウスにおいてだけではなく、米国の大きな部分で急速に死文になろうとしている。

渦巻くスキャンダル


ホワイトハウスを取り巻く渦巻くスキャンダルにおける本当の問題は、どのみちジェイムス・コミーではない。それは、ゴミタメとして悪名が付いた大統領職務それ自体の将来だ。
NBCニュースのアンカー、レスター・ホルトは、五月一一日の大きな喝采を送られた「ロシア国内にはどんな資産もビジネスももっていない」とトランプに言い抜けさせたインタビューで、重要な点を見逃した。問題は、「ロシア国内の」ビジネスではなく、ロシアの組織犯罪の人物および米国内を含んで世界中で彼のビジネスに政治的に結びついた人物たちと、トランプのビジネスと金融との諸関係、に関わるものなのだ。
これらの関わり合いは、記者のスティーブン・ローゼンフェルトにより、詳しく読む価値のあるオルタネット記事中で詳述されている。「一方国内的には、トランプはソビエト崩壊後にロシアで展開したことをまねようとしているように見える。そしてその時、国の価値ある鉱物資源を手段に数十人単位で寡頭支配者と暴力団一味が登場した。……そしてそこには、ロシアを源にするトランプへの私的な投資家たちが、新たに解放された米国の鉱物資産で最終的に賭け金を得ることができる、という可能性が含まれる」、ローゼンフェルトはこう示唆している。
はっきりさせよう。共和党指導部は、残りのわれわれ同様、ドナルド・トランプが何者であるかを分かっている。問題は、彼らの横領集団のようなかつ社会的に中世風な設定課題を押し通す上で彼がもはや役に立たなくなっているかどうか、またそれがいつかということだろう。今のところ彼らはまだ彼を必要としている。彼は、トランプは悲惨な社会的危機や小さな町と田舎のアメリカの崩壊を解決するだろう、との神話を信じている共和党の投票基盤に対して、一つの資産となっているのだ。
当面、僅かな上院議員だけが隊列を乱している。私の推測は、そのダムが壊れるとき基本原理としてそれはすべて一斉に起こるだろう――おそらく二〇一八年の中間選挙でトランプがその基盤を弱らせつつあるということが鮮明になるならば――、あるいは遅かれ早かれあらゆる種類の想定外のできごと(たとえば大規模な金融崩壊)次第で、というものだ。
トランプを捨てることが必要になれば、それを行う方法は数多くある。弾劾は必要ない。この男が詐欺師、ペテン師、さらに腐敗した家族企業の頭目であることは、ニュース速報などではない。それにより彼は脅迫にさらされるのであり、脅しはロシアからだけではなく、その選択が支配階級にとって重要になれば、またその時、米国のシステムそれ自身から出てくるのだ。(「アゲンスト・ザ・カレント」より)

▼筆者は、米国の社会主義組織であるソリダリティが発行する「アゲンスト・ザ・カレント」誌の編集者。(「インターナショナルビューポイント」二〇一七年五月号)  

フィリピン

戒厳令布告の即時取消しを

革命的労働者党―ミンダナオ 中央執行委員会

二〇一七年五月三〇日

無差別な暴力と
破壊を糾弾する

 革命的労働者党―ミンダナオ(RPM―M)は、ミンダナオのイスラム教徒の都市、マラウィ市における、残忍な殺害と諸々の財産の無分別な破壊を糾弾する。イラクとシリアのイスラム国(ISIS)に触発されたマウテ一族が率いるグループと彼らの武装追随者は、アブサヤフの指導者(イスニロン・ハピロン)がフィリピン軍(AFP)部隊による捜索と検挙網から逃れるのを助けるために、マラウィ市のいくつかの戦略地域で陽動作戦攻撃を仕掛けようと試みた。
 ことが展開する中で、マウテグループとアブサヤフは、イスニロン・ハピロンの安全な逃亡をやり果せることができただけではなく、正確な攻撃を行い、この市の刑務所の囚人数百人(彼らの同志たちを含んで)の解放をも保証できている。彼らは、問題の刑務所とキリスト教の教会と関係する諸機関(セント・マリー・カテドラルとプロテスタントが運営するダンサラン・カレッジ)を焼き討ちすることができた。彼らはまた、これらの施設の中で、司祭と教員を含んで人々を人質として確保することもできた。
 言及に値することとして、マウテグループと彼らの過激な武装追随者は、この町を焼き討ちし、人々を殺害し彼らに混乱を引き起こす中で、少数派のキリスト教徒民衆により大きな打撃と苦しみを加えることにより多くの注意を向けた。彼らは、いわば宗教戦争に火を着けようと挑んでいる。

米国の不安定化
工作と軍の失態


これらの不幸なできごとすべてが起きたのは、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領と彼の最高位の軍事顧問と治安顧問の全員が、防衛と中でも軍事協定に関し、ウラジミール・プーチンロシア大統領との公式会談に臨むためにモスクワにいたときだった。これらの攻撃がはっきり示したことは、マウテとアブサヤフにより前もって打ち合わされた計画があったこと、そしてAFP情報機関のとてつもない失態だった。しかしこの攻撃の間で最悪なことは、一〇三旅団(この都市に基地を置く)が完全に不意を打たれたことだった。この部隊の男と女の何人かは、この町では何かがたくらまれているとの話がすでに流れていたにもかかわらず、休暇に入っていた。
ドゥテルテ大統領は、モスクワの公式訪問を途中で切り上げただけではなく、ミンダナオへの戒厳令をロシアから布告した。
ドゥテルテ大統領は、彼の戒厳令布告には憲法上の問題がいくつかあるということを完全に知っているだけではない。彼はさらに、米中央情報局(CIA)が宗教的過激化を口実に、マウテ一族を利用するアブサヤフを通じて彼の政府に向け不安定化工作を始めたことに、もっと気付いている。またそれに懸念を深めてもいる。
米国の秘密作戦従事者たちは、極めて高い支持率(八〇%)の真ん中でドゥテルテを不安定化することは極度に困難、と分かっていた。しかし彼らは行動しなければならない。ドゥテルテのロシアと中国に向けた止めようもないように見える旋回の故だ。米国は、フィリピンのような戦略的な同盟者を決して失いたくない。それは、一世紀を超えるいわゆる友好関係なのだ。

軍の超法規行動
に力与える暴挙


ミンダナオへの戒厳令布告は明確に、マラウィ事件を封じ込め、国の他の部分におけるさらなるエスカレーションを防ごうとのドゥテルテのもくろみだ。マラウィ事件の扱いがテロリズムに対する彼の戦争を始める方法であり、これが違法麻薬に対する彼の戦争に結び付いていることもまた明白になった。超法規的殺人は、人身保護令の凍結および報道と諸運動の統制された自由と一体的に、戒厳令に包摂されることになるだろう。これは決定的に、その執行者たち(軍)を、罪に問われることなくテロとの彼らの戦争、また反麻薬戦争を遂行できるとして勇気づけるだろう。
マラウィ市はこの間、二〇万人以上の住民(九三―九五%がイスラム教徒、五―七%がキリスト教徒)に混乱を巻き起こし、避難を強いつつ、打ちのめされることになった。マウテとアブサヤフの死者がほぼ一〇〇人に達し、AFPも四〇人弱の命を失ったように、死亡数は日々高まってきた。しかし市民の死者数は二〇人以下で安定した。とはいえあらゆる者は、マラウィの通りが放置された遺体により、文字通り血の流れる通りになったことを知っている。
マラウィ事件とミンダナオでの戒厳令布告はまた、もう一つの悲しい現実――民衆の諸権利を守る上で両院を頼りにできないという現実――をもあらわにした。彼らは全員、ミンダナオへのドゥテルテの戒厳令布告を継続することに、討論もなく承認を与えたのだ。

民衆の権利を守
る決起と連帯を

 われわれはあらためて、マラウィ市における、またこの国の他のところでの残忍かつ無分別な殺害を糾弾する。
われわれはドゥテルテ大統領に、ミンダナオへの彼の戒厳令布告を直ちに取り消すよう強く要求する。麻薬とテロに対する闘いが、より多くの殺人や民衆の基本的な諸権利の抑圧によって解決されることはあり得ない。麻薬とテロに対する一貫した闘いは、この邪悪な病の表れの原因に対する闘いが民衆と共に、また民衆によって始められる場合にのみ効果を発揮できるだろう。
われわれは米国とその秘密作戦従事者に、フィリピンと世界の他のところへの介入をやり遂げるために、またそこでの彼らの利益を守るために宗教戦争を利用することを、直ちに止めるよう訴える。
われわれは非武装のまた武装した活動家に対し、民衆の諸権利を守るための、そしてテロと不法な麻薬と闘うための決起を呼びかける。
われわれは、ミンダナオ、全国、また世界の諸々の連帯グループ、同じ見解のかつ平和を愛する人々に、ミンダナオでの戒厳令と国の他でのさらなる布告を直ちに取り消すようフィリピン政府に圧力をかけることに、みなさんの支援と助けを提供するよう訴える。
われわれは勝利する!


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