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    かけはし2017.年6月5日号

今こそ歴史の誤ち学ぶとき


5.9

関西共同行動連続講演会

共謀罪の正体は治安維持法

警察国家への道許すな


 【大阪】関西共同行動連続講演会の六回目が五月九日エルおおさかで開かれ、内田博文さん(九州大学名誉教授)が、「治安維持法と共謀罪」と題して講演をした。
 冒頭、中北龍太郎さん(関西共同行動代表)があいさつ、「共謀罪は一言でいうと話し合いを取り締まるということ。近代刑法の原則が破壊される。近代刑法は罪刑法定主義で、何が処罰されるのかがあらかじめはっきりしている、そのことによって自分の行動を規律できる。それが明確でないなら、市民は萎縮してしまう。警察はどんどん事前規制を行い情報収集をするようになる。密告を奨励しスパイを送り込むように、必然的になっていく。戦争をする国づくりをすすめる安倍政権の下で新共謀罪ができれば、市民を戦争に動員するということを結果的に果たしていくことになる」と述べた。  (T・T)

内田博文さんの講演(要旨)

戦争への道掃き清めた法

悪法の度幾可
級数的に上昇
治安維持法は一九二五年(大正一四年)制定され、一九二八年に改正され、その三年後の一九三一年に満州事変。一九三三年軍機保護法の制定。一九四一年国防保安法の制定、改正治安維持法の制定があった。現在は、二〇一三年特定秘密保護法(戦前の国防保安法)、二〇一五年安保法制制定、二〇一六年与那国への自衛隊配備、そして今共謀罪、さらに憲法改正発議?。とてもよく似た状況だ。
治安維持法は緊急勅令による一九二三年治安維持令(出版・通信の方法を使うかどうかに関わらず、安寧秩序を乱す目的を持って流言浮説をなしたものは一〇年以下の懲役)から始まり、一九二五年に制定された。治安維持令は言論統制法だったが、治安維持法は結社規制法だった。取り締まる対象は、共産党など非合法の左翼政党。法律に共産党と書けないので「国体変革」、「私有財産制度否認」を使ったが、それ自身あいまいな規定で、拡大適用された。これが審議された当時の帝国議会では、「思想を圧迫するとか研究に干渉するとかはあり得ない。善良な国民、普通の学者には何ら刺激を与えない」と司法大臣が答弁している。治安維持法は、一九二五年をホップとすれば、二八年ステップ、四一年ジャンプと幾何級数的に悪法の度を増していった。
一九二八年(昭和三年)緊急勅令で改正され、「国体変革」と「私有財産制度否認」が分離され、「国体変革結社の目的遂行のための罪」を新設、結社の役員等は死刑・無期を規定し、思想的内乱罪・思想的外患罪として強調された。以後、治安維持法違反ではほとんどがこの罪に問われた。この罪に当たるかどうかは、ほとんど検察官の判断によった。当時は共産党は活動休止状態だったので、合法左翼政党や労働組合を共産党の外郭団体とみなし、この罪で取り締まった。裁判になる場合は、公判の公開を停止した。

犠牲者は名誉
回復もされず
一九四一年(昭和一六年)改正治安維持法が制定。改正といっても、事実上は新立法。思想的内乱罪・思想的外患罪がさらに強調された。「結社の目的遂行のための罪」に代えて、「準備結社」の罪や「支援結社」の罪も、「結社の目的遂行のための罪」になるとされた。それにより、自由主義や民主主義的サークル活動や普通の国民の普段の生活もこの罪の取り締まりの対象になった。最高刑は死刑。
さらに、戦時刑法手続きを新設。控訴審の省略、検察官の強制処分権の付与、捜査段階の自白調書に証拠能力を付与、指定弁護人制度を導入した。治安維持法違反事件の弁護人も治安維持法違反の罪を問われ、弁護士資格をはく奪され、刑務所に収監された。予防拘禁や更生保護制度を新設し、更新すれば死ぬまで予防拘禁することも可能だった。家族を通じて、国のために死んでくれと言わせた。妻が夫(共産党委員長)のために家事を行うこと、金銭を用意することは自然の行為とはされず、結社の目的遂行のための行為とされた。友人(活動家)に餞別をやったらこの罪に問われた。弁護人が争い得ないようにするため、共産党が非合法結社であることは証明不要の公知の事実であると判示した。朝鮮人の「民族意識の昂揚行為」が、結社の目的遂行のための行為とされた。
このように、治安維持法の改正と大審院の逸脱適用により治安維持法の取り調べ対象は幾何級数的に拡大していった。
(内田さんが)横浜事件の家族に聞き取りを申し込んだとき、家族は戦後も社会からバッシングを受けてきたのでとの理由で断られた。日本では戦後総括をしていない、従って治安維持法の犠牲者の名誉回復をしていない。韓国ではやっている。

適用犯罪削減
に意味はない
この犯罪の要件は五つある。@ 組織的犯罪集団の活動として行われる A 犯罪の実行のための「組織」により行われる B 重大犯罪(懲役・禁錮四年以上の刑を科す犯罪)である C 計画は具体的・現実的な計画である D 計画に加えて、計画した犯罪の準備行為が行われる、である。
対象犯罪は、テロの実行関係が一一〇犯罪、薬物関係が二九犯罪、人身に関する搾取関係が二八犯罪、その他資金源関係が一〇一犯罪、司法妨害関係が九犯罪、合計二七七犯罪である。警察などの特別公務員職務乱用、暴行凌辱罪、公職選挙法・政治資金規正法違反罪、公権力を私物化する罪、民間の贈賄罪などは当初の六七六犯罪から削られたが、「共謀罪」を適用したい部分はそのまま残っている。オリンピック招致のための法整備を検討する文科省委託のワーキンググループで、共謀罪創設の議論は全くなかった。日本政府は、国際組織犯罪防止条約の関連で国連に、マフィアとテロは全く違う。マフィア対策のみにしようとわざわざ申し入れている。
対象犯罪を六七六から五つか一〇ぐらいにするならともかく、二七七になったからといって絞り込んだことにはならない。A罪の共謀罪が削除されても、B罪の共謀罪で取り締まることは十分に可能だ。治安維持法の罪で共謀罪に近似しているのは「結社・集団目的遂行罪」の罪だ。この罪は、普通の国民生活を取り締まるのに猛威を発揮し、逸脱解釈が適用された結果、歯止めがなくなった。暴力団による殺傷事件については、行きすぎと批判されるぐらい法整備が重ねられている。「テロ等準備罪」をもうける必要はない。

処罰対象範囲拡
大に歯止めなし
政府によると、普通の団体も犯罪を行う団体に一変したときは、取り締まりの対象になる。計画の具体性について、練馬事件の最高裁大法廷判決(昭和三三年五月二八日)では、計画の日時、場所、方法をいちいち具体的に判示する必要はないとされている。だから、具体性は絞りにはならない。著作権法違反も共謀罪の対象になる。およそテロリズムと無関係なようだが、組織の資金源になりうるとの理由だ。
偽証も共謀罪の対象犯罪とされる。例えば、秘密保護法違憲確認訴訟や安保法国家賠償訴訟について、原告団が弁護士と裁判の打ち合わせを行い、「次回口頭弁論でこう証言しよう」と話しあったら、共謀罪に問われかねない。辺野古基地建設に反対の住民が反対について話し合ってもこの罪に問われかねない。また、「共謀罪」は正犯だということも重要。ということは、正犯を幇助したものは従犯となる。このようにして、処罰対象範囲は幾何級数的に広がる。

刑事手続きと
連動する動き
刑事訴訟法の一部改正法は、通信傍受が許される範囲を著しく拡大した。国民監視に猛威を発揮することは必至であろう。自分のメール友達が一〇〇人いるとし、その友達も一人につき一〇〇人の友達がいるとしよう。すると、自分の回りの一万人が対象となり得る。「共謀罪」がもうけられると、通信や室内会話の盗聴、スパイによる情報取得など、捜査権限が拡大され、国民生活が広く監視される。捜査機関も共謀の捜査が任務として科せられる。
窃盗罪を例に取ると、窃盗罪と窃盗共謀罪は全く意味が違う。窃盗罪の成立には、「行為」・「結果」・「因果関係」等が必要で、これらの客観的要件によって窃盗罪の成否が客観的に判断される。これに対し、窃盗共謀罪には客観的な要件は不要である。普通の国民が普段に行う「物の取得や用意」・「場所の移動」・「金銭の取得や用意」・「情報の入所」といった日常的な言動も「準備」と疑われ、罪を問われる。
問題はその行為の判断主体が検察官であるということ。日本の場合、起訴するかどうか、有罪にするかどうか、どのような罪を言い渡すか、実刑にするか執行猶予にするかはほとんど検察官の裁量に委ねられている。

治安維持法と共
謀罪の類似点は
治安維持法では、大日本帝国憲法で保障された自由主義、民主主義も非日本的なものとして取り締まりの対象になった。刑法の基本原則にも違反した。治安維持法の取り締まりは「共産党等」から最後は、「普通の国民の普段の生活」を取り締まりの対象とした。「共謀罪」も同様だ。
刑事裁判の一層の形骸化も進むだろう。戦前は、治安維持法の改正で検面調書などの証拠能力が認められたが、戦後は刑事訴訟法によってすでに認められている。戦前は、治安維持法と保護観察・予防拘禁制度は一体だった。戦後のいま、精神保健福祉法の改正で、措置入院退院後の「支援」を強化するための関係機関の連携が打ち出されている。
「共謀罪」は市民刑法ではなく敵味方刑法に立脚している。敵味方刑法では、社会の構成員を敵と味方に分け、危険性があると見なされる者を敵とし、その者には同等の人権保障を与える必要がないと考える。社会の分断と社会的排除、差別を醸成し、隔離と従順な国民づくりに連動していく。【防犯は国民の義務】という標語も、その一環だ。従来の市民刑法は、犯してしまった犯罪行為にたいして振り返って考察を加えるが、敵味方刑法は未来予測に基づいて危険性の除去に傾斜していく。 
(講演要旨、文責編集部)        

5.23

狭山事件再審求め集会

東京高裁は全証拠開示の命令を

 五月二三日午後一時から、東京・日比谷野外音楽堂で「不当逮捕54年! いまこそ事実調べ・再審開始を! 狭山事件の再審を求める市民集会」が市民集会実行委主催で開かれた。真夏のような太陽が照りつけるなか、全国から部落解放同盟を先頭に労働者・市民が参加した。
 中川五郎さんの歌によるプレイベントの後、本集会が始まった。組坂繁之さん(部落解放同盟中央本部委員長)の開会のあいさつ、民進党、社民党のあいさつの後、石川一雄さんと早智子さんがアピールした。
 石川さんは看守から送られた曽我兄弟の仇討の本の話を紹介し、そこから不屈の精神を培ったことを話した。そして「被害者の万年筆が私の家にあるはずがないことを下山鑑定が明らかにした。この新証拠をもって再審を勝ち取る」と決意を語った。連れ合いの早智子さんは「闘いが最終段階に入っている。裁判所は検察に対して、全証拠の開示を命令すべきだ。東京高裁に対して、何年間も訴え、全国でも闘いを続けている。希望は閉ざされていない。新しい世界がある。確信を持って進もう」と訴えた。
 次に弁護団が報告した。中山武敏さん(主任弁護人)は「石川さんが自分に弁護人を依頼した時、中山さんは部落出身者だから、部落問題に根本的にメスを入れて欲しいと言ってきた。これが私の狭山闘争を取り組む原点だ」と語った。続いて中北龍太郎弁護団事務局長が「@国語能力が小学一年生にも達していないので脅迫状を書けるはずがない。A取り調べのテープは、自白が強要・誘導されたものであることを明らかにした。B五つの秘密の暴露のなかで、石川さん宅から発見された万年筆が下山鑑定によって明らかになった」と石川さんの無実を新証拠から明らかにした。

えん罪増やす
共謀罪批判も
基調提案の後に、袴田事件の袴田巌さんの姉の秀子さんが「弟は最近、ジョギングをするようになり、体重が一一キログラム減り、食事もきちんと取り元気である」と報告した。支援者が「検察主張のDNA再鑑定が行われたが結論が出せないでいること」を報告し、いったん決定した再審を取り消す動きを批判した。足利事件の菅家利和さんと布川事件の桜井昌司さんが、えん罪をつくり出す検察と裁判所、社会のあり方を厳しく批判し、石川さんとの固い連帯、石川さんの無罪を勝ち取るように力強く語った。
雨宮処凛さんがえん罪事件、狭山集会に初めて参加したことを明らかにし、貧困問題をテーマに取り組んできたが、現在起こっているのは新しい貧困・差別であり、共謀罪が成立すればえん罪が増えると話した。集会アピールの採択・閉会のあいさつ、団結がんばろうで集会をしめくくり、数寄屋橋・東京駅方向に向けてデモ行進し、狭山再審・部落完全解放を訴えた。(M)


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