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    かけはし2017.年6月5日号

立憲主義・民主主義の破壊だ


天皇「生前退位」特例法案反対

今こそNO!の意思表示を!

5.25

国会前でアピール行動

批判の声を広げる時だ

「沈黙・容認」を突き破ろう


「退位特例法」
の反立憲的本質
 五月一九日、安倍政権は、昨年八月の天皇の「生前退位」メッセージに基づいた「天皇陛下の退位等に関する特例法案」を閣議決定した。与野党が事前に時間をかけて法案の内容をすり合わせるという異例の方法で決定した同法案を、政府は今国会中に成立させようとしている。
 同法案の第一条は、新聞では一段一四字詰め二九行にわたって句点の「。」がないという異例の文章だ。この条文では天皇として「国事行為のほか、全国各地への御訪問、被災地のお見舞いをはじめとする象徴としての公的な御活動に精励してこられた」とか、「今後これらの御活動を天皇として自ら続けられることが困難となることを深く案じておられる」との文面がみられる。また「これに対し、国民は、御高齢に至るまでこれらの御活動に精励されている天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感している」とも書かれている。付け加えて「皇嗣である皇太子殿下は、57歳となられ、これまで国事行為の臨時代行等のご公務に長期にわたり精励されている」などの文面もみられる。
 これら一連の「天皇一家賛美」の言葉が、一つの法律の中にまき散らされていること自体、天皇制というシステムが民主主義的法治の理念・原則といかに相反する存在であるのかをはっきりと示すものだ。そして「第二の玉音放送」ともいうべき昨年八月の「ビデオメッセージ」以来の「生前退位」騒動と、天皇の意思の「立法化」の過程がいかに「立憲主義」に反する政治的仕掛けであるかを示している。

「沈黙・容認・
推進」に風穴を
「八・一五反『靖国』行動」実行委員会(準)は、五月二二日の議員会館でのチラシ入れ行動に続き、五月二五日には正午から議員会館前で「生前退位特例法案」反対の集会を行った。三五人が集まった。
司会の仲間が、「天皇が一言しゃべれば法律ができてしまう」という今回の法案策定に反対しようと訴えた後、反天皇制運動連絡会の天野恵一さんは、「『翼賛国会』と言われるが、今回の特例法案は、審議もぬきで法案を作ってしまうことを全メディアが批判しない『翼賛』的あり方そのものだ」と厳しく批判した。
「日の丸・君が代」拒否で処分を受けた教育労働者の根津公子さんは、三日前の自分に対する地裁判決が「一定の価値観を生徒に与えるのは学校教育として当たり前」とする内容だった、と怒りを込めて訴えた。「裁判官は私の過去の処分歴を並べ立て、一連の言動はきわめて問題だ、と述べた。モノが言えなくなる社会にしてはならない」。
「日の丸・君が代」の法制化と強制に反対する神奈川の会の京極紀子さん、立川自衛隊監視テント村の井上森さん、静岡からこの日の行動に駆けつけてくれた仲間、共謀罪NO!実行委の中森圭子さん、「反改憲運動通信」の国富建治さん、二〇二〇年東京五輪「おことわりんく」の宮崎俊郎さんなども次々に発言。憲法を踏みにじり、民主主義を破壊する「生前退位」法反対の言葉を、マスメディアの「沈黙・容認・推進」の壁に風穴をあけながら広げていこうと訴えた。
集会後、内閣府に「生前退位特例法案」反対の声明を提出した。メディアの沈黙。権力・右翼の敵対をはねのけて、憲法破壊の「生前退位特例法」に反対の声を広げよう。    (K)

 

 今国会で「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が成立させられようとしている。昨年8月の明仁天皇による「生前退位」意思表明のビデオ放送をきっかけに、憲法・皇室典範に規定のない「天皇退位」が天皇自身の意思として発せられた。大きな驚きをもたらしたこの天皇による意思表明が違憲の政治行動であることは明らかである。そして「政治的権能」を有しない天皇の意思表示によって新たに法律が作られ、それが当たり前のように報じられることは立憲主義・民主主義を踏みにじるものだ。批判の声を上げよう。(編集部)

資料

国会議員各位

「天皇の退位等に関する皇室典範特例
法」を廃案にすることを求めます

 

【要旨】天皇の「発議」による法の制定は違憲であり、日本国憲法体制の根幹を否定する。異なった見解を排除してなされる立法は、民主主義に反するもので許されてはならない。あらためて広く議論を喚起するべきであり「退位特例 法」は廃案にせよ。

 現在制定されようとしている「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」には、その立法の前提に憲法上の重大な問題があります。このような法律を、十全な論議も経ないで制定されることがあってはなりません。
日本国憲法は、第四条において、天皇の国政に関する権能を否定しました。さらに、第九九条において、天皇自身に憲法の尊重と擁護の義務を課していま す。
二〇一六年夏のいわゆる「天皇メッセージ」において、明仁天皇は、天皇が 高齢になり身体が衰えても「国事行為や、その象徴としての行為を限りなく縮小していくこと」は無理だとし、重病などによりその機能を果しえなくなった場合に、天皇の行為を代行する摂政を置くことについても、適用を否定しまし た。天皇による「拒否権」の事実上の行使により、皇室典範上に規定のない 「天皇の退位」を求め、天皇・皇室関連法の改定を要請したのです。これは、 明らかに国政に関する干犯であり、違憲行為であることを十分に認識しながら なされた、天皇による政治行為です。
現天皇は、即位にあたって「日本国憲法を守り、これに従って責務を果たす ことを誓い」、それからのちにも「護憲」の意思を繰り返し表明しています。 にもかかわらずなされた今回の天皇自身による違憲行為は、明確に否定されね ばなりません。事実上、天皇の「発議」による皇室関連法の改定は、現憲法と 皇室関連法の法的位置を、大日本帝国憲法と旧皇室典範のそれに、限りなく近 づけるものです。
現天皇は、さきの「天皇メッセージ」においても、またそれまでの多くの発言においても、「国事行為」として憲法に規定のない自らの公的な行為のすべ てを「象徴としての行為」としています。このように、天皇や皇族たちにより 現実に進められていることは、一貫して天皇の権能の拡大であり、解釈改憲と も呼ぶべき事態がそこにはあります。
天皇の「退位」は、現憲法においても皇室典範においても規定がなく、憲法 制定の当初から、むしろ意図的に天皇の「退位」は否定されてきていますが、 それでも、天皇の究極の「人権」として、天皇の地位からの「脱出の権利」を 認めるべきではないかという有力な憲法解釈が存在します。しかし、今回のいわゆる「退位特例法」は、まったくそのようなものではありません。
今回の「退位特例法」には、第一条に「趣旨」として、天皇のこれまでの国事行為のほか「象徴としての公的な御活動」を賛美し、「国民」が天皇を「深く敬愛し」「お気持ちを理解し、これに共感」という、法として他に類例のない記述で満たされています。これらはいずれも立法にあたって議論の対象とすらされていません。そのことは、この法案がきわめて異質なものであることを表しています。
また「退位特例法」においては、現天皇は退位後に天皇に準じる「上皇」と なり、現皇后は皇太后に準ずる「上皇后」となります。「上皇」が憲法上の国事行為を行うことができないのは明らかですが、そもそも憲法上の規定のない 「象徴としての行為」については、さらに憲法上の制約があいまいなものとして、恣意的に維持されることになるでしょう。「上皇后」については、皇太后と同様の存在とされており、摂政となることも否定されていません。
「上皇」「上皇后」という存在とともに、同じく新たに規定された「皇嗣」 という存在ともあわせ、天皇および皇族の地位や権能は、明らかに拡大されており、日本国憲法体制における天皇や皇族の制約もまた、同時に緩和されています。これらはいずれも、立憲主義に基づいた法体制を突き崩し、「天皇制」 を強化安定させるためのものです。敷衍するなら、それは即ち、憲法上の国民主権をも揺るがすものとしてあります。
天皇や皇族の権能やその行為について、厳密な議論をすることなく、それど ころか国会での開かれた議論自体があたかも「不敬」であるかのごとく拒絶し て、衆参両院議長の与野党間調整により、法制定の内容や経過を隠蔽しつつ進 められていることは許されません。
さらに、天皇の「退位」に伴い、新天皇による「皇位の継承」がなされるこ とになります。「退位特例法」制定における、このような憲法上の問題をそのままに、なし崩しの退位や即位が行なわれることに対して、私たちは強く懸念を持ち、批判せざるを得ません。私たちは、まずもって「退位特例法」の廃案 を強く求めます。

資料

天皇明仁 殿

  国の機関である天皇は、憲法上いくつかの制約を受ける存在です。
 立憲主義の基本原理は、主権者人民によって国家の恣意を縛ることにありま す。だからこそ、憲法第99条は国家の機関を担っている人間に対して、憲法尊 重擁護義務を課しているのです。そしてこの条項のトップに上げられているの は天皇、すなわちあなたです。いうまでもなく天皇は、憲法第7条に列挙されているところの「国事行為のみ を行ひ、国政に関する権能を有しない」と、第4条において明記されています。
 しかしあなたは、201
6年7月13日のNHKリーク放送、8月8日には「国民」 に直接訴えかけるかたちでのビデオメッセージを放送させ、そのことによって 政治家を動かし、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」を国会に上程させ るに至りました。
 この一連のあなたの行動は、紛れもなく憲法違反の行為です。私たちは、ま ずこのことに対して強く抗議します。
 そもそも、あなたは退位の理由として、「天皇の象徴的行為」が十分果たせなくなったということを挙げていますが、この、「国事行為」とは区別される 天皇の「公的行為」なるもの自体が、戦後象徴天皇制が発足して以後も行われ続けた天皇の逸脱行為を、後付けで正当化するために生み出された、いわば天皇条項の「解釈改憲」の産物です。あなたは、「天皇の象徴的行為」というい い方で、憲法解釈上も議論がある天皇の役割を、自分で決めたのです。
 今回あなたが発議し、政治家が忖度することによって、「皇室典範」の事実上の「改正」とそれに伴う関連法「改正」がおこなわれようとしています。民主主義とは真逆な態度と言わざるをえませんが、天皇の行為を認めた政治家の責任と共に、そのような権利がないのに「法改正」を発議したあなたの責任も大きいと言わなければなりません。
 あなたの父親である昭和天皇は、「天皇家の家法」といわれた戦前の「皇室 典範」を廃止し、新たに国会の下で制定される一般の法律としての「皇室典範」が作られる際に、「皇室典範改正の発議権を天皇の手中に留め置けないだろうか」という願望を強く抱いていたといいます(『芦田均日記』)。もちろん、現行の「皇室典範」に、天皇による「改正発議権」は認められていません。しかし今回あなたは、違憲の行為を重ねることによって、実質的にそれを 自らの「手中」のものとしました。
 私たちは、将来的に天皇制という身分差別の制度をなくしていくことを求め ています。ですから、あなたが天皇を辞めることに反対はしません。しかし、 それが「上皇」や「皇嗣」などという新たな皇族身分の新設と制度化を行い、 天皇制の拡大をもたらすことになる法改正には反対します。退位するなら天皇を辞めるだけでなく、皇族からも離脱して下さい。
 「天皇の地位は主権の存する国民の総意に基づく」と憲法では明記されてい ます。この総意には私たちは含まれていませんし、ましてやその総意とは決し て「一般意志」ではありません。
 上記の通り考えるものも少なからず存在することを認識されるよう、書状としてお送りします。



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