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    かけはし2017.年4月17日号

反資本主義潮流の建設が不可欠


国際情勢

ブレグジットとトランプ後の世界政治(下) 

闘うべきは資本主義のバーバリズム

ソーシャリスト・レジスタンス

トランプ政治、予想される逆行


ここでわれわれはこの文書が長すぎにならないために、今知られているトランプ大統領期第一段階のありそうな計画を少しばかりまとめておきたい。
トランプメニューの第一にあるのは、メキシコとの間の壁、並びに「不法」移民に対する厳しい取り締まりだ。すでにオバマの下で、巨大な数のそうした国外追放が起きた。彼の政府は二〇〇九年から二〇一五年までの間に、移民の諸手続を通して二五〇万人以上を国外に出した。そしてそこには、自ら国外に出たか、米国家安全保障省国境税関管理局(CBP)により、国境で故国に戻されたか追い払われたかした人々の数は含まれていない。
今トランプは、さらに三〇〇万人を国外追放すると主張している。それは、正確な数がどうであろうが、ほとんどありそうなこととして、ラティーノコミュニティに対する魔女狩り的で恒常的な嫌がらせを焚きつけるだろう。もっともありそうなことだが新政権は、滞在許可のない子どもとして米国にたどり着いた人々が更新可能な二年間の滞在許可と職に就く認可を得ることができるようにしている、未成年向け据え置き措置計画(DACA)を廃止するだろう。およそ一七〇万人がこの措置の資格を求めてきたが、DACAが廃止される場合、彼らは国外追放に対し今やもっとも弱い立場に置かれている。
次いでトランプは、化石燃料への大々的な転換に向かっている。これが意味することは、石炭産業と石炭燃焼火力発電所の再建であり、さらに、シェールオイルをカナダから湾岸の精油所まで運ぶことを目的としている、ダコタアクセスパイプラインとキーストーンXLパイプラインの推進だ(両パイプラインともオバマ政権により止められていた:訳者)。同時に米国が演じそうに見える役割は、国際的な気候変動交渉における妨害者のそれだ。
新政権は、妊娠中絶、およびいくつかの州ではすでに極めて限定的になっている産児制限に関わる権利の行使を制限しようと試み続けるだろう。トランプは、現在の最高裁判事の何人かを、より右翼的で反中絶派の復位で置き換えるだろう。トランプ政権は思想的に、女性の諸権利にとっては全面的に悪いニュースだ。平等と平等な諸権利を求める女性の攻勢には幅広い抵抗が生まれるだろう。そして、大統領職に自己宣伝的に女性を口汚くののしる者をつけたことのイデオロギー的な効果は、非常に否定的なものになるだろう。
トランプは企業と富裕層に対する課税の大幅カットを計画し、それは社会サービスにおける国家支出の削減になるしかないだろう。その一部はもちろん、それ自身非常に限定された貧困層向け医療保険だった、オバマケアの置き換えだろう。
トランプとトランプイズムの到来は、イラク戦争から転用された四〇億ドルの価値をもつ余剰の軍事的ハードウエアの支えで半ば軍事化された、米警察部隊を勇気づけ支えることになりそうだ。これは、市民権と黒人コミュニティに対する全面的な攻撃の一部となるだろう。デモを行い抗議活動を組織する権利はすでに事実上厳しく制限されている。
トランプの選出は英国のブレグジット同様、レイシズム的攻撃とそうした事件の高まりを引き起こすことになった。選挙キャンペーン期間中には、黒人有権者に対する重大な嫌がらせと脅迫が起きていた。アファーマティブアクションに対する公的な支援は撤回されるだろう。米国内諸都市での「大虐殺」に対する新たな取り締まりという考えにしたがって、囚人数、特に黒人囚人の数は大いに高まることになりそうだ。
トランプ構想の弱点は、それが、彼を支持した脱産業化された地域で、白人労働者階級の有権者にとっての何らかの意味ある経済的改善を実現できるかどうかだ。トランプ支持率は、新任の大統領に対するものとしては歴史的な低さにある。そして彼はすでに、一月二一日の女性行進の規模と光景として、一つの政治的打撃を受けた。しかしトランプは、計り知れない反動的な政治的資本を保っている。もっともありそうなことだが、本当に右翼的な支持者に向けては、民族主義的―軍国主義的太鼓の打ち鳴らしが使われるだろう。サッチャーがフォークランド戦争の前にはひどく不人気で、世論調査ではマイケル・フット(一九八〇―三年に労働党党首:訳者)に先を越される方向にあった、ということを忘れないようにしよう。フットから勝利を奪ったのは、戦争をめぐってかき立てられた民族主義(プラス社会民主党/自由党連合の参入)だったのだ。

高揚確実な抵抗と行手阻む壁


ワシントンにおける、そして米国中の――さらに世界規模での――決起は、今後に来る抵抗を予示するある種歴史的なできごとを表している。米国、英国、そして他のところでの決起の規模はあらゆる予想を超えた。それと比較できる唯一の世界的な決起はおそらく、二〇〇三年二月一五日の反戦デモだった。そしてその結果は、全体としての反トランプ運動にとって、また世界規模の女性運動の再建と強化にとって、計り知れないものになるだろう。
米国人デモ参加者と諸々の集会での発言者の中で非常な注目に値するものは、トランプの設定課題は全体に及び、多数のコミュニティを脅かすという、広範に広がった理解だ。映画女優のアメリカ・フェララは、これを十分にはっきり言い切った。「ミスター・トランプ、われわれはあなたを拒絶する。われわれはムスリムの兄弟と姉妹に対する悪魔視を拒絶する。われわれは、黒人の兄弟姉妹の体系的な殺害と投獄を終わりにすることを要求する。われわれは、安全で合法的な妊娠中絶に対するわれわれの権利を放棄しないだろう。われわれは、わがLGBTQの家族たちに後ろに引き下がるよう求めることなどしないだろう。われわれは、様々な移民からなる国民から無知の国民になど進まないだろう」と。
一月二一日の規模は、米社会にある分極化の程度の証明となっている。数知れない逸話に飛んだ諸報告は、米国内の急進的な諸勢力の決意と高い士気について語っている。
他方、あらゆる見通しは暫定的なものだとしても、トランプ大統領執政の急速な解体は極度にありそうにはない。つまり米政権は、米国内で最後まで闘われるものは長期に引き延ばされた、厳しい政治的戦闘であることを確かなものにする、巨大な資源――政治的、金融的、軍事的、思想的――を所有している、ということだ。現段階で、米国内の苦しめられた諸々のコミュニティや急進化をはらんだ多様な勢力が政権を倒し、それを奪取することはないだろう、ということはほとんど確実だ。逆に、特に女性、黒人、また移民の中での持続的な抵抗はありそうに見える。
問題は、政治的な首尾一貫性と指導部の問題として残っている。つまり常のように、主な障害は民主党それ自身にあるのだ。持久力を備えた何らかの急進的な政治的オルタナティブがバーニー・サンダースを中心にした諸勢力から現れるか否かは、今後に分かる問題としてとどまっている。

メディアをめぐる闘争が重大化

 抵抗の中では、マスメディアとオルタナティブメディアの役割に関する理解は本質的になる。資本主義社会は常に、日常的な「常識」の一部となるブルジョアイデオロギーで満ちている。しかし、マスメディア支配――部分的あるいは完全な――は、ブルジョア政治家と彼らのイデオローグの精力を注ぐ常の政策だ。危機と鋭い政治的分極化の時代に独裁的政治家たちは、反対派のまた批判的な思考のあらゆる中心を、大声で黙らせるか脅しつけようと試みる。今日の二つのあからさまな事例はエジプトとトルコだ。前者では、アル・シシの軍事独裁体制が、批判的なジャーナリストと全体としての反対派を拷問し、投獄し、殺害している。そして後者のイスラム―警察独裁体制では、エルドアンの対抗クーデターの中で、またその後、、新聞社とテレビ局が閉鎖され、何百人もの人びとやジャーナリストが解雇され、あるいは投獄され、批判的な知識人や学者に対する広範な攻撃が行われてきた。
これら二つの事例に類するようなことはまったくないとしても、マスメディアに対する米国内のムードは険悪だ。スティーブ・バノンが米国メディアに「黙れ」と告げる時、トランプがジャーナリストのある者たちを地球上最大の嘘つきと呼び、「代わりの事実」の提供に伴う多くの懸念がある時、政権が批判的マスメディアを統制しそれとなく分からせたがっている、ということを知ることができる(もちろん皮肉なことだが、確かに地球上最大の嘘つきであるジャーナリストが何人かはいて、そのほとんどは親トランプだ)。われわれのもとには今、まさにワシントンでの反トランプ暴徒を取り上げたことで逮捕され、潜在的可能性として長期投獄刑宣告に直面しているジャーナリストの事例がある。これは、ダコタアクセスパイプラインの紛争を彼らが書いたことを理由に、アミ・グッドマンと他の者たちを起訴しようとするもくろみに続くものだ。
批判的なジャーナリストに対する右翼の心配は、ソーシャルメディアにまで広がっている。そして後者は、公然たる独裁体制の下では、決まって閉鎖されている。帝国主義諸国の強硬右翼は、ソーシャルメディアに大きな存在感を保持している。しかし左翼リベラルと左翼諸勢力もまた、重要な存在感を確保している。そして次の時期にわれわれが確信できることとして、大ソーシャルネットワークは、圧力の下で左翼の検閲にいたるだろう。また、諸企業と「財源に信頼がおける者」が今得ている以上のさらなる優先度を得る、「二層」インターネットの義務化という危険も残っている。左翼的で批判的なオンラインとソーシャルメディアの存在は、単なる娯楽ではなく、精力的なイデオロギー的戦闘の一部なのだ。
マスメディアは、人間の諸権利と民主的な諸権利全体に対して、現在の諸々の危機が大規模な攻撃を生み出してきた、まさに一つの領域だ。拷問に関する新たな話、極端な言い換えなど、これらはまさにその兆候だ。
今日、世界人権宣言は大概は無視され、ある種革命的な文書であるかのように解されている。それはまさしく、あらゆる人々の権利として、恣意的な逮捕や処罰からの自由、職や住む場所を確保する権利、自由な移動を享受し、別の国に避難を求める権利、「人種、肌の色、性差、言語、宗教、政治的あるいは他の見解、民族的あるいは社会的出自、財産、生まれや他の地位といったあらゆる種類の区別なく」平等に扱われる権利、拷問のような冷酷かつ普通ではない処罰にさらされない権利、結婚を強要されない権利など、を宣言しているのだ。しかし新自由主義の資本主義はますます、民主主義とだけではなく、人権に対する最低限の尊重とも両立できなくなっている。

この反動期を終わらせる道は一つ

 第一に言うべきことは、ドナルド・トランプの選出は多くの意味で米国資本主義にとってのイデオロギー的敗北になる、ということだ。このような人物が米国大統領になり得たということは、この国の威信に対する恐ろしいほどの打撃になっている。今起きそうに見えることは、気候変動、軍国主義また経済的民族主義に関する米国の計画に対する、世界的規模での民衆的敵意の大量発生だ。
トランプの勝利によって多くの右翼と反動の諸勢力が勇気を得たということに疑いはまったくないとはいえ、彼の国際的な全体像は、彼による引き立てを明白に異種混交的な恵みにしている。つまりニジェル・ファラージは、トランプを無条件に称えたことを最後は後悔するかもしれない。トランプの「米国第一」路線は、米ブルジョアジーのいくつかの部分との衝突ということに加えて、欧州資本主義の指導者たちとの大きな政治的緊張となる運命にある。われわれは、大きな政治的かつ経済的な不穏という一時期を見ることになりそうだ。そしてわれわれは、その正確な結果を正しく予測することはできない。そこでの主要な変数には、欧州の極右がさらに大きな成果を得ることになるかどうか、米中間対立の程度、プーチンとの親善回復があるのかどうか、世界経済の躓きがあるのかどうか、そしてそれがどの程度の早さで現れるのか、といったことが含まれる。
右翼に向かう世界規模の動きの一部はおそらく、ラテンアメリカにおける「二一世紀の社会主義」に起きている破滅的な危機だ。これには注意を向けなければならない。ブラジルのPT政権は倒壊し、ベネズエラのマドゥロ政権は恐ろしい危機の中にいる。そしてボリビアでエボ・モラレスは包囲攻撃下に置かれている。これらの急進的改良主義構想の崩壊は国際的に、また特にラテンアメリカで、左翼にとって相当に志気をくじく要素になるだろう。われわれは、ラテンアメリカ左翼に関する真剣な文書を委任し、何らかの急ごしらえかつ単純化された評価を行う前に、組織を挙げた討論をもたなければならない。
トランプの権力到達は、現情勢の明白な特徴であるものの、つまり右翼や権威主義的な豪腕人物(主には男)の世界規模での登場過程――インドのモディ、トルコのエルドアン、フィリピンのドゥテルテ、エジプトのアルシシはその明白の事例だ――における一部だ。ジルベール・アシュカルが(グラムシにならって)あふれかえる「憂鬱な兆候」と呼んだもの、そして資本主義のバーバリズムについて語っていることは、もはや誇張ではなく、今ここにある。
われわれは米国内の抵抗を詳細に追い、連帯して結集しなければならない。しかし分析の最後としては、米国内でのまた世界中での急進的で反資本主義的なオルタナティブの建設なしには、危機と反動が終わることは決してないだろう。この任務は困難だとしても、われわれは一月二一日から、この構想に対しては世界規模で巨大な聴衆がいる、ということを知ることができる。(了)

▼ソーシャリスト・レジスタンスは当初二〇〇二年に、左翼の再編を支持する英国のマルクス主義者によって創立された。その支持者はその後二〇〇九年七月にこの組織を、第四インターナショナル英国支部として再建した。(「インターナショナルビューポイント」二〇一七年三月号)


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