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    かけはし2017.年4月10日号

民衆総決起は光化門キャンドルの灯心


拘束されているハン・サンギュン民主労総委員長に聞く

大統領選挙の目標は政権交代でもない世の中の交代だ

 歯車は後ろの歯を押し出して前に進んで行く。パク・クネ大統領を窮地に追い込んだ巨大なキャンドルの民心はある日、空から落ちてきた炎ではない。歯車を逆に回せば、2015年11月14日の民衆総決起がある。その日、ペク・ナムギ農民は警察の水大砲に撃たれて倒れ、遂には命を失った。ハン・サンギュン民主労総委員長は民衆総決起を主導したとの理由で拘束された。
 裁判所はハン委員長に1審で懲役5年、2審で懲役3年を宣告した。ペク・ナムギ農民を死に至らしめた人々の責任を問うたことはない。「ハンギョレ21」は江原道春川矯導所(刑務所)に収監されたハン委員長に書面で「パク・クネ、チェ・スンシル・ゲート」や弾劾政局、大統領選挙(大選)などについて尋ねた。ハン委員長に面会した民主労総関係者たちを通じて伝えられた答弁を整理して掲載する。(「ハンギョレ21」編集部)

――収監生活はどうか。

 2016年12月9日、国民の力によって国会でパク・クネ弾劾訴追案が議決された。その日以降、監獄は形式的な場所になった。心の中ではここが監獄だとは考えない。日常は単調だ。主に非正規職、不平等、政治改革関連の本を関心をもって読んでいる。最近、読んだ本の中で思い出すのはパク・ノジャ先生の「株式会社・大韓民国」だ。韓国社会の不平等の構造的問題をしっかり分析していた。今回のキャンドル革命のように、民衆が立ち上がるだろうと予見した点が印象的だった。

弾劾案通過後、監獄は形式な場所


――2015年11月の民衆総決起の意味は何だったのか。

 非常識に抵抗する民衆の叫びだった。当時のスローガンはセウォル号の真相糾明、労働改悪の廃棄、米価の保障、国定教科書の撤回などだった。国民の正当な声だった。けれども全国から上京した労働者、農民、市民が広場で最初に見たのは(警察車両による)巨大な車壁と、やむことのない水大砲の洗礼だった。青瓦台はもちろん光化門広場にも踏み込めないようにした。それでも民主労総は闘わないわけにはいかなかった。弾圧に屈することなく闘った。
当時の民衆総決起は国民の要求に耳を塞いだ政府が作り出した集会だった。大統領が耳を塞いだ理由は、最近の国政ろう断の事態が暴露されるとともに鮮明になっている。そういった面で、2年前の総決起は今日の光化門キャンドルの灯心の役割を担ったものと思う。

――その日、ペク・ナムギ農民が倒れた。

 ペク・ナムギ農民の死は国民をイヌやブタと見ているパク・クネ政権が招いた悲劇だ。パク・クネの国民を見る視角は、サムスンを初めとする財閥に対する態度とは克明に対比される。「1%の権力と財閥のための政府」との批判は、もののたとえや象徴ではなく鮮明な現実そのものだ。1987年に民主化がなされたとは言うものの、催涙弾が水大砲に変わっただけで、民衆の声は相変わらず抑圧されている。危険業務に追いやられた非正規職の労働者は列車にはさまれて死に、修学旅行に行った大切な子どもたちを乗せたセウォル号は沈没した。ソウル松坡区の3人の母娘は死に際して「貧しくて、すまない」との遺書を残した。あえて棍棒や水大砲でなかったとしても、国家が救い出せない国民が死んでいると言うのはありえないことだ。

1%の権力と財閥のための政府

――パク・クネ政府が労働者たちに及ぼした最大の害悪は何だと思うか。

 千人の労働者には千個のそれぞれの事情があって当然だ。パク・クネ政府が労働者たちの暮らしを破壊した実像を挙げようとするなら、それはキリがない。ただし制度的に見れば、憲法が保障した労働3権を全面否定し、労働法が保護しているあらゆる保護装置を解体した労働改悪が最も代表的だと言えるだろう。また故キム・ヨンハン前大統領室民情主席の業務日誌を見ると、最低賃金委員会が最低賃金を決定する以前に、あらかじめ青瓦台が最低賃金のガイドラインを7%と決めておいたことが確認できる。これがまさに労働者のためだと宣伝しながら、実際には500万低賃金労働者を崖っぷちに追い立てているパク・クネ政府の素顔だ。
労働改悪と最賃の抑制は財閥・大企業をはじめとする資本の要望事項だった。特に労働改悪に関連した諸法案の発議や行政指針の発動時期を見ると、財閥がチェ・スンシルを通じて巨額のワイロを渡した時期とピッタリ一致する。権力と資本がワイロをやり取りしながら法案商売、政策商売をしたことが確認されたわけだ。
――パク・クネ政府以後を率いる大選候補者たちの労働に対する観点はどうしなければならないのか。

 前回の大統領選のイシューが「福祉」だったとするならば、今回の大選のイシューは「労働」となるだろうと思う。バラク・オバマ前米国大統領は2015年のメーデーを迎え「よき働き口と安定した雇用を望むならば労組に加入せよ」との趣旨の演説を行った。大選の候補者たちが労働問題を重視するのなら今すぐにでも、こう話すべきだ。「労組に加入せよ」と。
オバマ前大統領のこの演説が発表された時期は、米国労働関係委員会(NLRB)が、下請け労働者たちが元請け使用者と交渉する権利を認める決定が下された直後だった。オバマ大統領を親労働者の政治家と見ることはできないだろうが、大選の候補ならば少なくともこの程度の労働観は持たなければならないと考える。

――最近、イ・ジェミョン城南市長が次期労働部(省)長官にハン委員長を、と語った。

 そもそも民主労総の委員長が明日すぐさま労働部長官に任命されたとしても、労働者たちは解雇を阻み権利を守るために闘争せざるをえないことが韓国社会の現実だ。働く人々が生きがいや楽しみを感じる世の中を作る核心は、長官を誰がやるのかではなく、働く人々の権利や暮らしを大切にする基盤や制度を作ることだ。イ・ジェミョン市長がいかなる意図によって私の名前をあげたのかは分からない。自身が労働者に愛情を持っているという点を強調したかったのではないだろうかと、あれこれ推量してみるばかりだ。考えてみたこともないことだ。

――大選の時期に民主労総はどんな役割をする計画なのか。

 政権交代でも政治の交代でもない世の中の交代、つまり世の中を変えることが今回の大選の目標でなければならない。世の中を変えるということは誇張したものではない。わが社会の積弊や悪習を断ち切り、キャンドルに集まった大切な声を実現することだ。民主労総は今回の大選で最低賃金1万ウォン(約千円、時給)と非正規職の撤廃などの要求と共に財閥体制の解体、国家の大改革など全社会的イシューも全面に掲げる計画だ。キャンドルの力によって積弊の清算、改革の課題を完遂しなければならない。大選以降も同じように広場の市民たちと共に闘っていく。

新たな大韓民国を作ろう

――市民たちに伝えたいことは。

 民主労総委員長としての任期は2017年12月31日までだ。偶然にもパク・クネ大統領の任期と一緒で、選挙の際に「パク・クネを私の任期が終わる前に1日でも早く引きずり下ろそう」と言った。私がよくやったというわけではないだろうが、キャンドル広場に集まった国民の力によって、組合員にした約束を守ることができるようになった。パク・クネ政権が重ね重ねに積み上げた積弊の垣根を打ち壊さなければ、私とわが子らの人生は1歩も前に進みゆくことができないという国民の切迫さがTVや新聞によって伝えられる。
若者たちは、このような社会を「ヘル(地獄)朝鮮」と呼ぶ。差別と不平等、ワイロと特恵が支配してきたヘル朝鮮を変えるその日まで、広場で一人ひとりが感じたであろう連帯感を忘れなかったならば、と思う。冷たく厳しい寒さと風とを耐えぬいた光化門広場の隣人の熱気を覚えていたならば、と思う。新しい大韓民国を共に作ろう。民主労総も、いつも一緒に進みます。(「ハンギョレ21」第1151号、17年3月6日付、チョン・ファンボン記者)

韓国の反共主義者たち

「すべてあなた方の間違い」

パク・クネの弾劾手続きと逮捕


太極旗と星条旗を
振りかざす集団
 パク・クネ弾劾に反対する侮ることのできない数の人々が街頭に出てきている。太極旗と星条旗を一緒に振りかざしながら「弾劾却下」を宣言し、「パルゲンイ(アカ)を殺そう」と叫ぶ。進歩系のメディアはもちろん、保守系のメディアさえもが、国政ろう断の波紋の中でパク・クネが問題の核心であることを指摘するものの、これらの人々はそれらのことはものともしない。メディアが作りあげたニュースによってすべての人々が煽動されている、と主張する。これらの人々の「広場」は宗教染みた信じ込みに満ち満ちている。これらの人々は、いったい何を語りたいのだろうか。
 去る3・1節の集会で広場を埋めた太極旗の旗の波の主体は大体にして50代以上の壮年層だった。40代が5人中1人、20〜30代は100人中1〜2人ぐらいに見えた。壮年層が広場で語っている核心的キーワードは「反共」だ。
 韓国社会において反共主義は単純に戦争のトラウマにのみ起因しているのではない。実際に現在街頭に出てきた壮年層の大部分は戦争を経験していない戦後世代だ。韓国社会において反共主義は政治的に俗物的であり、物質的には貪欲的な生存戦略の、もう1つの呼称だ。
 政治的に勝ちぬこうとすれば非道徳的にならなければならなかったし、生存しようとするならば支配勢力の論理に服従しなければならなかった。これに抵抗するすべての人間は「パルゲイン」として他者化(別の者)された。「チェ・スンシル・ゲート」で表面化した政経ゆ着や水面下の取引、問題提起者の排除や各自図生(おのおのの生き道を図る)などは韓国社会の反共主義者たちが生きてきた生き方の戦略そのものだ。

アイデンティ
ティーの崩壊
そのうえパク・クネはクーデターという不正な手段を動員して権力を握ったアボジ=パク・チョンヒとは違って、正当な民主的手続きに従って多数の支持を得て権力を手にした大統領だ。この点は壮年層の人生において極めて重要だ。アボジ=パク・チョンヒが持つことのできなかった政治的正当性を娘パン・クネが満たしつつ、壮年層の人生を支配したパク・チョンヒ主義の片一方に大いに欠如していたある空間が、やっと初めて満たされたからだ。
パク・クネという名前は、パク・チョンヒ時代を生きて来つつ、非道徳的に支配勢力の論理に服従するだけだった壮年層世代の反共主義的人生に道徳的正当性を付与した。2012年の大選(大統領選挙)において韓国社会の多数がパク・クネを選出してやり、「国際市場」のような映画が興業されたのは、これらの人々の人生を完結づけてくれる1つの社会的認知だった。
けれども、これらの人々は昨年の秋からあらゆるものがガラガラと崩れ落ちるのを目撃した。同時に、キャンドル集会に出てきた若い世代が自分たちに後ろ指を指している姿を見守らなければならなかった。完結性を目指して進んでいた人生はパク・クネが崩れるとともに根こそぎ否定されている。これらの人々が集会の現場で「パク・クネは間違ったことをしたけれども、弾劾を受けるほどのことではないではないか」と語っているのは、このような理由からだ。
これらの人々にとって弾劾は単純に大統領パク・クネを罷免する手続きではなく、パク・クネの2012年の当選を否定する制度的承認なのだ。その決定はまた壮年層にとって「これはすべてあなた方の間違い」だと語っている国家の公式宣言なのだ。これは、あの人たちにとっては大いなる苦痛なのだ。

陰謀論の登場
の背景と構造
苦痛は説明されなければならない。ここで陰謀論が登場する。メディアがどんなにていねいに取材しても、特検(特別検事)がいかに精密に捜査しても真実は総体的に確保されない。そのすき間を埋めようとするなら、どんなやり方であれ1つの完結した反論のストーリーを構想することができる。JTBCのタブレットPCの出処についての陰謀論がそうであり、コ・ヨンテの録取録や憲法裁判所への出席をめぐる陰謀論がそうだ。真実に進もうとする努力などは全く重要ではない。
それにもかかわらず憲法裁判所の「弾劾時計」はアラームに向かって進んでいる。弾劾が決定すれば彼らがどれほど否定しても、パク・クネが率いて行こうとしていた時代は終末を告げる。だが我々は再び三たび問う必要がある。パク・クネに道徳的正当性を付与しようとしていた韓国社会のパク・チョンヒ主義は終末を告げたのか。政治的に俗物的で物質的に貪欲的な生存戦略は本当にパク・クネと共に消えてなくなるのだろうか。(「ハンギョレ21」第1152号、17年3月13日付、イ・ジェフン「ハンギョレ」新聞記者)

 



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