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    かけはし2017.年4月10日号

不条理の爆発としての極右伸長


世界情勢

ブレグジットとトランプ後の世界政治(中) 

論理性欠く展開力学に潜む危険

ソーシャリスト・レジスタンス

リーマンショック源に変化急進

 この外見上の世界的現象は、どのようにして到来することになったのだろうか? それは、政治と経済の基礎をなすものについて何を意味しているのだろうか?
もちろん、各国の情勢には多くの異なった要素がある。しかしトロツキーが指摘したように、「各国の情勢は、世界の進展がはらむ諸要素のある種不均等な組み合わせだ」。全体を覆う諸要素は国際的に、二〇〇七―八年の経済的崩落に源がある。そしてそれを、新自由主義的グローバリゼーションのイデオローグと新自由主義の諸政権は予見していなかった。その崩落の結果は、すべての帝国主義諸国とその他で、労働者階級とプチブルジョアジーのより貧しい層にもっとも厳しい形で背負わされた。たとえば、米国におけるサブプライム住宅ローン危機(全過程の始まり)およびそこから必然となった何万という住宅の差し押さえは、米国のアフリカ系米国人コミュニティがこれまでに被った一回では最大の経済的後退だった(白人の鉱業と製造業心臓部における産業的低落を壁で囲って特筆するために、普通はその壁の中に塗り込められて忘れられている事実)。
危機に続く不況は、以前の産業地帯から、多くはアジアやラテンアメリカの低賃金地域へ職を追いやったグローバリゼーションの作用と混ぜ合わされた。同時に新自由主義の資本主義は、金融化に内包された危機とグローバリズムの否定的作用を前に、新たなポスト新自由主義の資本主義について総意を固めることができなかった。ケインズ主義再生の可能性に関するほとんど空論的思索には、根拠がないことが分かった。世界の資本家階級の政治的指導者たちにできたことは、化け物的な財政投入による金融機関救出を組織し、厳しい賃金統制とゼロ時間契約(断片的な短時間の賃金労働のために、何の賃金保障もなしに労働者を二四時間拘束する、究極的細切れ雇用)のような新自由主義の労働制度を深めることを通して、労働者階級にハンマーを振り下ろすことだけだった。
トマ・ピケティが指摘したように、この時代には、所得というよりも資産所有者に向けた報酬の大量移動がある。そしてこれが、富裕層と貧困層間のかつて以上に高まっている分極化という結果に帰着している。それは特に、以前の産業地帯に当てはまり、そこでは産業の低落は代わりとなる仕事をほとんど残さず、崩壊中のインフラ、人口の高齢化、そして貧困なあるいはないに等しい社会サービスと一体となった巨大に「空洞化された」コミュニティを残した。
国家資本の前例のない額を私的金融機関に流し込んだことは、世界的な金融システムを安定化した。利益は私有化されたまま、損失は「国有化」された。投機に走る者たちは勝ちのチップを寄せ集め続けているが、納税者は損失の出た賭けをまかなわなければならなかった。

支配層の戦略不在と民衆の敗北

 これは危機を解決するものではなかった。二〇〇八年の規模では前例のない崩壊は、国家、企業、家計の財政的準備を縮小させることになった。そして世界経済を、次第に頭をもたげる不況へと投げ込んだ。
諸々の金融機関にシャベルで放り込まれた国家基金は、不良債権のブラックホールに単純に消え去った。その上二〇〇八年以後、富裕層は以前よりも急速に豊かになった。カジノ経済は再びフル出力になっている。次のバブルが急速に膨らみつつあり、世界はもう一つの崩落の瀬戸際にある。実体経済は長期的停滞に陥っている。人間的必要と緑への移行に向けた投資の代わりにわれわれが抱えているものは、負債や投機や一%の一層の富裕化を基礎とする経済なのだ。
それでも政治的エスタブリッシュメント全体――伝統的保守派から社会民主主義者まで――は、新自由主義の呪文を唱え続け、銀行家たちが求める緊縮を強いている。誰一人としてビジョンはなく、危機の特性と規模にふさわしい代わりとなる経済戦略を提案する勇気ももっていない。あらゆる者が、富裕層を財政投入で助けること、また貧しい者たちを痛めつけることによって、破綻したシステムにつっかい棒を当てようと協力している。
心に留められなければならないことがある。それは、二〇一一年以来、反緊縮の抵抗に厳しい打撃を加えた一連の敗北があった、ということだ。その第一の、そして最大のものが、反動的なイスラム主義、抑圧、帝国主義者の介入の組み合わせによる、アラブの春の挫折だった。そしてギリシャでの反緊縮反乱の敗北もまた大きな打撃だった。われわれは、シリザ指導部が誤った戦略を採用したと考えている。しかしたとえそうだとしても、主な要素は、反緊縮政府が大きな譲歩を勝ち取ることを許さない、というEU指導部の絶対的な決意だった。ちなみにそのような譲歩の獲得は、この大陸の他のところでも、ポデモスのような勢力を権力へと推し進める可能性を開いたと思われる。そしてオキュパイ運動は、その鋭気の、またその地理的な広がりにもかかわらず、その後戦略的な問題――全体を覆う政治的オルタナティブの建設に向け抗議の先へとどう進むのか、そしてスコットランドの急進的な独立した勢力がうまく応えられなかった問題――に直面した。
トランプの勝利とブレグジットに向かう基礎を生み出したのは、この歩みだ。しかしこれはどのようにして達成されたのだろうか? 米国や英国やフランスのような諸国で、経済の下降と労働者階級の生活基準の低落が、どのようにして主に右翼を利するようなことになったのだろうか?

30年代のファシズムとの類似

 上昇基調にある権威主義的右翼の諸運動は多くの場合当初、プチブルジョアジーの、あるいはブルジョアジーそのものの右翼部分内部に基礎を置いてきた。しかしながらUKIP、トランプ、さらに国民戦線はすべて、本当の国民的運動――経済的にゆとりのあるプチブルジョアジーを起源とするより伝統的な右翼反動派と搾取された労働者階級諸層の連合を構成する――の建設に向けた行軍路を示している。
それはどのようにしてなされるのだろうか? 極右のイデオロギー的主張を、純粋に経済的なあるいは文化的な民族主義から引き離し、角の立った外国人嫌悪、反外国人、反移民、レイシズムに移すことを通じてだ。以前は岩盤のような労働党地区でUKIPを一つの競合者にしたのは、反EU主義というよりも、反移民のレイシズムを浸透させるという、二〇〇九―二〇一一年におけるUKIPの転換だった。
「新」右翼勢力のあるものはファシストであるか、その多数派ではないか少なくともまだそうではないとしても、ある種ファシスト的要素を抱えている。しかしそれらには、その反外国人、反エスニックマイノリティレイシズム、また階級的連携の点で、一九三〇年代のファシズム運動や反ファシズム運動との強い類似性がある。
加えて、新しい右翼権威主義政党やその運動のほとんどには、リベラルや都会人エリートと対決し民衆(少なくとも白人民衆)の擁護者と見せかける、反エスタブリッシュメント主張がある。もちろんこれは、トランプの百万長者でほとんどもっぱら占められた内閣が示すようにデマゴギーにすぎない。しかしそれは、伝統的な左右双方の政党が見捨てた労働者階級諸層の内部にある感情に沿う機能を果たしている。これもあらためて、新右翼「ポピュリズム」が一九三〇年代のファシズムと共有している特徴だ。
われわれはここで、反動的な右翼とISISのようなテロリストグループの間に、不幸なことだがある種象徴的な関係があることを心に留めなければならない。この一〇年、フランス、ドイツ、スペインで数百人の市民を殺害した各々のテロ行為は、より多くの人々を右翼の腕の中に追い込み、イスラム恐怖症の深化を助長した。そしてこれは、一九三〇年代の反ユダヤ主義との強い平行関係をもつ、今日のレイシズムの主要な最前線だ。

労働者運動敗北が残した空白

 もちろんわれわれは、テロリストが殺害した、あるいはひどく傷付けた市民の数が、イラク、シリア、リビアでの皆殺しに近い大虐殺との関係では些細なものだということを知っている。しかしマスメディアにより提供された反移民のイデオロギー的メッセージは、パリ、ニース、ベルリンでの死体によって異様に高められているのだ。難民危機の同時的到来は、反動的な政治屋と右翼メディアに、レイシズム的で外国人嫌悪の路線を押し出すための広大な好機を贈呈した。
われわれは、難民危機が、帝国主義的経済諸政策、および特にここ一五年に起きた諸々の戦争を通して、帝国主義諸国自身によって引き起こされた、との指摘を決して止めてはならない。難民脱出の焦点となったのは、イラク、リビア、アフガニスタンだったが、これらすべての国は、西側の侵攻と空爆という直接、間接の作用によって切れ切れに引き裂かれたのだ。この光の下では、今何万人もが地中海で溺れ死ぬことを許している難民に対する冷酷な姿勢は、ホロコースト以後では、欧州人による最大の道義的破綻の一つだ。社会主義者は、自身と全体としての労働者運動が反移民右翼によって圧迫されることを決して許してはならない。
しかし、権威主義的右翼がそうした成功に達する可能性は、八〇年代以後の、労働者階級とその組織が喫した数々の敗北に基づくことがなかったとすれば、ありそうにもないことだ。振り返ってみれば、こうした敗北の中で最も重大であったものは、一九八四―八五年の英国における炭鉱労働者のストライキだった。英国と米国は新自由主義強要の点では中心的二ヵ国だった。そして炭鉱労働者に対するサッチャーの敗北は、彼女の政権を倒壊させ、欧州規模で、また世界的広がりでさえ、ものごとを変えた可能性があった。
しかしまた、極右に空白のまま戦場を残すことになったのは、労働者運動の大きなイデオロギー的危機、特に社会民主主義の完全な衰弱でもあった。
破裂を起こした経済モデルにはらまれた緊縮と停滞は、全体としての世界システムの幅広い諸々の危機に油を注ぎ込み続けている。不平等と不公正は社会的紐帯を引き裂き続けている。国際秩序は壊れつつある。戦争が、全社会を圧倒し、何百万人という人々を追い立てることになった。民主主義は空洞化されつつあり、市民的自由は腐食した。地球温暖化は、気候の破局をもってこの衛星と人類全体を脅かしている。

トランプと極右の代替(?)戦略

 二〇〇七―八年の崩壊は、一九七〇年代中盤にケインズ主義の危機から現れた(徐々に)新たな蓄積様式、新自由主義の破綻を示した。多くの人々は、当てもないまま、ケインズ主義の回帰もあり得るとあれこれ思案したが、しかしこれは、特に金融ブルジョアジーによって阻止された。「量的金融緩和」の現金で一杯になっていた彼らは、大衆のためにこの金の卵を産むがちょうを殺すつもりなどまったくなかったのだ。こうして彼らは、まさにより厳しい緊縮を指令し、特にギリシャ、スペインで、さらに米国の黒人の中で次に続く数年が示したように、何百万人もの貧困化をもたらす形で新自由主義を深めた。
今投げかけられている疑問は、トランプに実際に新たな政治的・経済的構想があるのかどうか、彼が一九三〇年代的な保護主義への回帰――世界貿易の減速と多数の勤労階級コミュニティにとっての惨害に確実に導くと思われる何ものか――をはっきり支持するのかどうか、ということだ。トランプは就任に際して、「保護」を支持すると宣言はしたが、米国資本家階級の主要部分内部では、新自由主義的グローバリゼーションの何らかの実質的清算に対する反対は猛烈な勢いとなるだろう。
アップル、アマゾン、マイクロソフト、ナイキといった企業――世界でもっとも収益力のある中に含まれる――にとって、アジアやラテンアメリカの安い労働力の利用は、彼らのビジネスモデルにおいては絶対的に急所となっている部分なのだ。米国、欧州、日本の――もちろん中国の――諸企業にとっても真実は同じことだ。
しかしわれわれはここで、極右の台頭を理解する上で何か重要なことに突き当たる。人はトランプ、マリーヌ・ルペン、AfGの主張から直接には、全体としての世界ブルジョアジーは言うまでもなく、彼ら自身の民族資本がもつ直接的利害をすらすら読み上げることができないのだ。これらの強硬派右翼勢力は多くの意味で、政治に向けられた不条理の爆発であり、そしてそれには常に、整った論理をすっかり取り去ったそれ自身の運動がある。
世界を相手とした総力をあげた保護主義への逆戻りがたとえ疑われるべきだとしても、疑いのないこととしてトランプは、いくつかの産業のために、強力な保護の諸策と「アメリカンファースト」を推し進めるつもりでいる。経済的保護主義と歩を並べて進むものは、甲高い民族主義であり、現情勢の中でそれは、特に反中国のレトリックとして現れている。トランプの内閣に対する彼の指名者が語った中でもっとも危険なことはおそらく、レクス・ティラーソン(国務長官)の言及であり、それは、新政権がスプラトリー諸島への中国の権利を容認することはないだろう、というものだった。おそらくこれは大言壮語だったが、しかしそうした試みはどのようなものであれ、中国との軍事衝突に容易に導く可能性があるのだ。中国人は、彼らの領域主張のほとんどに無理があるという事実があるとしても、南シナ海から追放されることを受け入れることはないだろう。
ティラーソンの言及が示すものは、甲高い経済的民族主義と政治的民族主義は通常、軍国主義の高まりと一体的に進む、ということだ。トランプの就任演説は、軍の増強という彼の誓約を繰り返した。二〇一〇/一一年の軍事支出は七〇〇〇億ドル近くに達したが今は、二〇一六年向けとして、僅か五八七〇億ドルと評価される額に縮小しつつある。強化された軍が使われる予定にないなどということはまったくありそうにない。そしてトランプは着任するとすぐ、即座にISISを打ち砕くための計画をつくるよう統合参謀本部に求めた。これが意味することはおそらく、イラクおよびシリアにおける大規模な米軍の介入だ。これは特に、シリア北部のクルド解放区であるロジャバにとっては極めて悪いニュースだ。米国は今、クルド戦士と共同作戦中の米軍部隊とは完全に離れて、彼らに対するトルコの攻撃を支援しそうなのだ。
トランプの勝利は国際的に、あらゆるところでの反動勢力の勝利と見られている。そして彼は、それらすべてを支持することがもっともありそうだ。われわれはすでに、トルコにおけるエルドアンに対する強力な支援に加えて、象徴的に米大使館をエルサレムに移し、西岸でのイスラエルの新たな入植に対する米国の反対にブレーキをかけつつ、彼がイスラエルに対する米国の支援を強化するつもりであることを知っている。キューバに対するオバマの新たな解放が逆転されることもありそうなことだ。さらに米国は、他のラテンアメリカでも、ブラジルでの右翼新政権との温かい関係を発展させつつ、特にベネズエラとボリビアで、反動勢力支援をさらに一層活発化させそうに見える。      (つづく)


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