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    かけはし2017.年4月3日号

人間らしい生活を守れ


長時間労働規制「百時間未満」合意認めない

経営側の思惑を暴露し
労働法制改悪阻止せよ

月「百時間」
未満だって?

 三月一三日に経団連と連合の両会長が、長時間労働問題において残業上限を月あたり一〇〇時間未満とすることで合意した。一〇〇時間を「以内」とするか「未満」とするかで揉めたが、安倍首相が百時間未満で合意するよう求め、経団連が折れる形となった。しかしこれは労働者が長年要求し続けている一日八時間どころか、本来の上限である月残業四五時間の基準をも大きく上回る時間だ。さらに勤務間インターバル制度も見送られ、労働者を過労死ラインへ追いやる合意内容である。それにもかかわらず、合意要旨では「労働基準法七〇年の歴史で特筆すべき大改革に合意した」と自賛した。この最悪な合意の場面に安倍が主役として登場し「大岡裁き」をする様子を、社会評論家の荻上チキ氏がラジオで「茶番だ」と酷評したのも頷ける。
 一方、労働側でも青天井の残業時間を「抑制」できたことに、一定の評価をする向きもある。だが仮に一ミリの前進だとしても、経営側には「働き方改革」を通した雇用労働環境の大転換という戦略があるのであり、この合意も実質形骸化すると見込んでいるだろう。

「働き方改革」
への提言とは


昨年一二月に厚労省は「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」を提示した。それを受けた形で今年二月に「働き方改革」への提言が提出された。提出したのは、経済同友会(以下、同友会)、関西経済連合会(以下、関経連)である。
双方の基調は、長時間労働や非正規労働の問題解決への取組みを表明しつつ、各論におけるその解決案は抽象的でお茶を濁しているだけである。それよりも規制緩和や雇用の流動化促進をうたい、労働者をさらに疎外へ追いやり、労働者性そのものを奪いとるような施策を並べ立てている。
まず提言では、正規・非正規の二元論を批判し、これに代わる「多様な働き方」を提示。その実現のための労働契約等の見直しをせまる。これが経営側の一貫した構え方だ。同友会では成果主義を持ち出し、高度プロフェッショナル制度や企画業務型裁量労働制に属する労働者は「時間外労働の上限規制」の対象外だとしている(いきつく先は「残業代ゼロ」だ)。
関経連は、非正規労働者の呼称を止めよと訴え、「非正規雇用とされる労働者」と呼び、すでに雇用の定義をぼかしている。そして非正規労働の処遇改善には「期間を十分に確保してもらいたい」と先延ばしを要求する始末だ。
さらに処遇差の合理性について、「訴訟時の立証責任を使用者が負う」ような仕組みは認められないことを強調している(同友会も裁判はなじまないと否定的)。

多様な働き方
とは一体何か

 同友会が望む多様な働き方の一部について見てみる。テレワーク(在宅勤務)の促進は、育児、在宅介護を抱える労働者へのメリットとされているが、眼目は事務所維持費や二四時間体制業務への効果的な労働環境を構築することである。一日あたりの労働時間が八時間に満たない場合には深夜割増賃金不要とまで付け加えている。
また副業・兼業の促進にも意欲的だ――そもそも労働時間規制に逆行するシステムである。経営側は専門性の高い人材の共有化を進めたいということらしいが、かりに多くの企業で副業・兼業を解禁したら、高齢者を含む低収入の労働者がダブルワークに走り、実質長時間労働がまん延するのではないか。うちの給料で足りなければ、ヨソで稼げということだろう。

生活保護制度批判

 同友会、関経連とも既婚女性の就労を高めるための配偶者控除などの廃止を提言している。同友会ではさらに生活保護制度にまで踏み込み、「(生保が)就労を条件とせずに満額受給できる……勤労意欲を阻害する」と批判。かわって低所得勤労者を条件に、税額控除、控除がない場合は「給付付き勤労税額控除」を導入すべきとしている。

障がい者の就労促進?
一方の関経連では、障がい者の就労促進のための助成金アップを要求すると同時に、障がい者を雇用しないかわりに支払う納付金額を、福祉施設への発注額に換えろとまで言っている。障がい者の社会進出を阻む、この厚かましい要求には、こちらが呆れかえってしまう。

仲間の死を
無駄にするな


同友会は「人工知能やロボットなど先進技術の進展が、いよいよ労働市場にもパラダイムシフトを起こす」として「新産業革命」を見据えた改革の検討を呼びかけている。「工場法を起源とする一律的な規制ではなく、……保護や規制が必要な部分だけを規制する『ネガティブリスト方式』への転換が望ましい」とその意気込みを語っている。当然右記のようなことを実現するためには、個人請負や個人事業主など「雇用関係によらない働き方」を広げつつ、既成労働法への改悪攻撃を強めてくるだろう。
そして労働側たる連合は、安倍自民党政権への依存を強めているという厳しい状況だ。
しかし私たちは、昨年の電通における過労自死をはじめ、多くの仲間たちが長時間労働で倒れてきたことを忘れてはいけない。人間らしい生活を守る八時間労働制の旗をより高く掲げ、グローバル経済基準で、非人間的労働を強いる一切の策動に反対していかなければならない。
(大望)

3.12

マーチ・イン・マーチ2017

移住労働者の連帯強化へ

破壊された権利取りもどそう

 三月一二日に東京上野の上野公園で、移住労働者、出稼ぎ労働者、「外国」にルーツがある人々を主体とした労働者の行動、マーチインマーチが行われた。国籍を問わず階級意識と労働者の国際的連帯を再確認する闘争は一三〇年の人民の闘争の積み重ねたる五月一日の国際メーデーがあるが、別個の闘争の場を日本社会で築くことは難しい状況の中で、マーチインマーチは大変意義の大きい闘争といえる。
 会場に入るとブラジルからの参加者によるカポエラの披露がなされていた。カポエラのデモンストレーションは様々な団体がブラジル文化と交流出来る場で見られることが多く、この場にも来てくれていた。熱心な文化活動を日頃からされているブラジル文化を背景とした人々と、文化や価値観の理解を日頃から怠る日本社会が対照的に映る。因みにデモンストレーションの形式は飛び入り参加ありの参加者体験型である。
 スローガンは「奏でよう 移住労働者の連帯を」であり、様々な文化と地域を背景とした人々同士も互いに連帯する場でもある。日本社会と外国文化の交流というエスノセントリズムに凝り固まった考えを一瞬でもした私の傲慢さ、反動性を反省させられる雰囲気がそこにあった。

差別と格差の
拡大に抗して
所定の開始時間の午後一時を少しまわり主催者により、日本社会が抱える問題点の確認から集会がはじまる。格差の拡大による中間層の没落と、必然的に人民に打撃をもたらす雇用不安と低賃金、その閉塞感があろうことか差別・排外主義に結び付く現状を批判した。労働者階級の連帯すべき状況で人種と文化による差別に苦しまねばならない、階級問題と民族問題の複合的抑圧にさらされ権利が奪われてきている。聴いている人々の生活に日常的に根差している、体験している非情な現実が再確認される形となった。
続いてイタリア出身のコッポラさんと山川さん(神奈川シティユニオン)による歌の披露が行われた。「元気付ける」ことを高く掲げ会場の雰囲気は少し和らいだように見える。労働者人民の連帯の場は時に重苦しい課題を共有しつつも、時に互いに元気付ける場でもあるとこの時痛感した。前日の三月一一日で六年目を迎える東日本大震災の当事者を想い歌われた「花がさく」と、地方から国政に進出した議員が公約を守らないことを抗議した歌を披露して頂けた。
次に日本音楽協議会東京支部の人々による「私たちの暮らしは私たちで決める」を合言葉に、働く人々の権利、平和、世界で絶えない戦争の問題、原発問題、沖縄基地建設反対闘争への連帯を掲げた。為政者に任せていられない、行動するとの決意がなされた。
続いて山岸素子さん(外国にルーツを持つ人々と連帯し諸問題に取り組む「移住者と連帯する全国ネットワーク」所属)より報告があった。あらめて具体的問題提起へ切り込んでいく。長期滞在もする仲間の生活が「日本国民」と同等の権利があるのか、共に社会で生きている意識をし努力しようとしているのか。反動政権による杜撰な意識、移民を活躍といいつつ実質「活用」と化している低賃金労働の強化、横行するドメスティックバイオレンスにも「外国人蔑視」が混じる事例があること、日本に生活の基盤がある人々を強制退去させようとする政府の所業を批判し、共に暮らす社会へ転換するとき、と提唱した。私を含む「日本人」「国民」なる既得権を有する人々は、より多くの努力が必要になるだろう。
続いてビルマをルーツにする人からAPFS労働組合の代表が発言した。ビルマ情勢の報告と意識喚起がなされ、政治情勢は変わっているが法務省をはじめとする国家運営に影響をもつ部分では、軍事政権時代と同様に軍人が握っている旨を述べ、「ビルマを応援して下さい」と会場、ひいては社会へ提起した。
なお、現在公式名称たる「ミャンマー」の呼称をさけ、「ビルマ」の呼称をする旨を発表者ははじめに述べている。「ミャンマー」の名称は振り返ると軍事政権とイメージが強く結び付く。

職場での暴行
暴言をやめろ
全統一労働組合よりアピールがなされ、ベトナム出身の労働者が代表で問題提起、「外国人」労働者に対する差別を糾弾した。日本で働くために語学の勉強をしたが、労働現場では暴言・暴力が横行し昼食と休憩もない、「国に帰れ」と人格否定の発言までされたことを訴えた。
その後、労働組合に相談したというが、日本社会での厳しい仕打ちの後にすべての人に同様の行動力が残るか、会場に立つことも合わせ、大変勇気のいる行動である。

JAL労働者
の闘争に連帯
日本での継続的な活動の末に、最高裁判所で企業側の不当行為と認められる判決が出た報告がはじめになされた。地道な活動と勝訴に会場から大きな拍手が贈られたが、会社が団体交渉に応じないとしている現状も報告された。労働者が機内で倒れる、到着後に救急搬送される、旅客機という長時間外部と閉鎖される場所であるまじき、労働者の一人一人の生命に関わる状況が放置されている。
組合は引きつづきJAL本社前で抗議を続ける。

韓国サンケンの
仲間から発言
韓国から来たサンケン労組の人々により解雇の撤回闘争が行われている。サンケンは日本に本社があるが、韓国で同時に事業もしており大規模な解雇が行われたことに抗議した。妊娠中の人、子育てをしている人、共働きの人々も解雇をする暴挙に及んだ。
現在、現地の韓国で継続的な座り込み闘争が行われる中、日本で並行して闘争に取り組んでいる。
パク・クネ右翼政権に対するの大統領弾劾の成功は労働者が団結して闘い勝ち取ったものであり、サンケンとの闘争も私たち労働者の力で勝ち取らねばならないと述べた。
「国も言語も職業も関係ない、みな労働者です、連帯しましょう」とエールを送った。
その後、「カラカサン」と「カラバオの会」の人々による、フィリピン、タイの文化に根差した歌と踊りや日本とブラジルにルーツをもつ「MC BETO」の人々によるラップを通した抗議もなされた。「何でもする、何処へでもいく、何処も変わらない」、日本社会は目を背けていないだろうか。
集会の後はデモ行進を行った。デモ隊の前方では沿道の人々に行動の趣旨と日本社会への問題提起を行いつつ、後方では国際労働運動でお馴染みの闘争歌、「不屈の民」「ベンセレーモス」「インターナショナル」を歌い、デモの国際主義的な性質と多くの文化が日本社会に併存しているものの、共存できているのか提起する形となった。
集会とデモを通し、重要な課題と文化交流を和やかな雰囲気ででき、マーチインマーチの場が改めて闘争の出発点になれたと思う。          (S)


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