大統領選が労働者に突きつけている課題
イジュヨン政策局長(社会変革労働者党)
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ムン・ジェイン支持の本質
大統領選挙を控え、労働運動と民主労総内でムン・ジェインを積極的に支持しようという勢力が結集している。これらは今回の大統領選挙で独自の労働者民衆候補の選出に反対し、民主党政権に協力して、さらに政権の一部として参加しようと主張する。「今こそ政権交代のタイミング」であり、これまでの労働運動の守勢は、政権内に入って労働政策を主導できなかったからだという。
労働者民衆候補戦術について「どうせ当選することもないのに、なぜ選挙に出るか」という露骨な質問は、選挙と政治に対する彼らの思考が既存の保守政治勢力と全く違わないことをさらけ出す。選挙は票を得て当選するためのプロセスにすぎず、政治は議席であれ長官職であれその位置を占めなければ不可能だということだ。誰の、どのような力であるかを問いもせず、ただしもせずに大衆を投票の道具とのみ考えて世に走ること、大衆闘争を放棄した「進歩政治」の帰結を、私たちは目撃している。
キャンドル民意の歪曲反対
ムン・ジェイン支持勢力はキャンドルの民心が即政権交代であり、労働者民衆候補は政権交代の妨げになるので、民心に逆行すると主張する。明らかに、多くのキャンドル市民が政権交代を望み、ムン・ジェインは独走的な支持率を占めている。しかし、ここで問い返されなければならない。その市民たちが果たしてムン・ジェインと民主党を真の対案として考えているがゆえに支持しているのか? むしろ保守野党は抗争初期に朴槿恵と党首会談の推進、責任首相―中立内閣、「秩序ある退陣」などと右往左往して広場のブーイングを受けた。政権に対する怒りが極に達した状況で、ムン・ジェインと民主党は積極的対案ではなく、「朴槿恵ではなく、勢力のうちの執権が有力な集団」として漁夫の利を享受しているのだ。
政権交代を望む民心に服務しなければならないのなら、盧武鉉政権末期政権の支持率が10%序盤まで落ちて、「経済大統領李明博」風が吹いたとき、私たちは「民心にずれないように『李明博を支持し』、李明博政権に参加すべきだった」。保守野党に民心を持ち出すのは、ただの言い訳に過ぎない。
広場は、今までのヘル(地獄の)朝鮮と違う新しい国を要求している。選挙時だけ票を頼む政治ではなく、他の政治が必要であることを、財閥と政権が結託して富と権力を独占する世界ではなく、他の世界が可能であることを提起することだ。ところが、どのような選択肢も提示せずに再び保守政党間の政権交代という古い枠組みに回帰しようというのか?
「民主政府」の10年と今日の惨状
民主党政府が何か変えることができるという信念は幻想である。すでに20年前に、私たちは、いわゆる「民主的政権交代」を経験した。そうして登場した金大中政権は整理解雇、非正規職、構造調整、民営化などの新自由主義の嵐を起こし、今のヘル朝鮮を作る火ぶたを切った。利子を含めて250兆ウォンに迫る公的資金が財閥のために投入され、20年が過ぎた今日までにまだ半分も回収されていない。
盧武鉉政権は、必須維持業務制度、職場閉鎖の要件の緩和、整理解雇要件の緩和を網羅し、労使関係ロードマップを通じ、労働権破壊に先駆けとなり派遣法改悪、常時的構造調整体制によって労働者を絞り取った。サムスン共和国という名前を得たのも盧武鉉政権時だ。
「民主政府」の10年間、闘争する労働者は公権力によって厳しく弾圧され、多くの烈士たちが非正規職撤廃を叫んで労働弾圧に抵抗し、命を失った。その死の数々の前に「焼身で抵抗する時代は終わった」と言った盧武鉉の言葉は「民主的な政府」が労働者には抵抗の対象であったことを赤裸々にさらけ出した。
ただ過ぎ去った過去のことではない。まさに昨年の総選挙で民主党が院内第1党になった後、最初に推進したのが、労働者を大量虐殺する構造調整だった。わずか1カ月前に幕を下ろした鉄道ストライキで、労働改悪の決定版たる成果退出制(成果給)を「暫定保留」する代わりにストライキを撤回せよと勧めた。
また先週も、民主党はセヌリ党と取引して医療民営化、財閥特恵法である規制フリーゾーン法を通過させようとした。ミル―Kスポーツ財団の募金など財閥の賄賂罪を問わなければならないという広場の要求の前にムン・ジェインは、4大企業の研究所長と会談し、「企業を権力の横暴から解放する」として、被害者づらをしている財閥を助けた。これが過去から今日まで、民主党とムン・ジェインの政治的本質が示す具体的真実である。
民主党政府の10年間の教訓は、労働者が独自の力を持たない限り、誰も労働者に代わって生存権も、市民権も守ってくれないということだ。また労働者の命と労働運動の一部幹部の官職を交換することはできない。資本主義で進歩的労働政策があり得るとすれば、資本に対する闘争の結果としてのみ可能である。
1988年の最低賃金、1989年20%に迫った労働組合組織率は盧泰愚政権が進歩だったからではなく、87年の労働者大闘争と民主労組運動の噴出のためだった。歴史を消して幻想をひき起こし、20年前に戻ってはならない。闘いの基本的な敵味方の識別はこれまで以上に切実な理由だ。
青瓦台が指示し大企業が保守団体に支払う
次第に明らかになる「青瓦台–
保守団体–大企業」三角同盟
青瓦台―保守団体―大企業の三角同盟が実体をさらけ出している。新聞「ハンギョレ」は1月31日、青瓦台(大統領府)が、サムスン、現代自動車、SK、LGなど財閥序列1〜4位の各企業が大韓民国オボイ(父母)連合、オムマ(母さん)部隊奉仕団など10余の保守団体に2014年から16年までの3年間に70億ウォン余に達するカネを支援するようにした、と報道した。パク・ヨンス特別検事チームの捜査結果だ。
保守団体活動の背後
資金伝達の通路は全国経済人連合会(全経連)で、入金は各保守団体の借名口座になされたものと判明した。「ハンギョレ」は更に青瓦台が2014年1月、15の保守団体名簿と支援金額が書き込まれた、いわゆる「ホワイトリスト」(支援団体名簿)を作成し、全経連に支援要請を行い、全経連側はホワイトリストに含まれた韓国自由総連盟、大韓民国在郷軍人会、大韓民国在郷敬友会の場合、国家の支援を受けるために政治活動が禁止されている点を挙げて、12団体にのみ支援することにした、と報道した。保守団体支援の過程で青瓦台と全経連の間に活発な意見交換があったものと見られる状況だ。
全経連と保守団体のコネクションは2016年にもあらわになったことがある。昨年、全経連が2012年から14年までベデル福祉財団を通じてオボイ連合に5億ウォン余を支援した事実が確認されたからだ。当時も、保守団体への資金支援の背景には青瓦台が存在するとの疑惑があった。青瓦台はこの疑惑を全面否認したけれども、今回の特検捜査によって、それがウソだったということが明らかになった。青瓦台がさまざまな保守団体に組織的かつ体系的な資金支援がなされるように乗り出した事実も、さらに明らかとなった。各大企業が支援の過程に積極的に参与したものと見られる状況もまた1つ1つ出てきている。
保守団体が政権好みの活動をしつつ、さまざまな支援を受けてきたという疑惑は、イ・ミョンバク政府の時節から明らかになってきていた。国家情報院の大統領選挙(大選)での世論操作事件を捜査した検察特別捜査チームは2013年、国情院心理専担職員パク某氏の電子メールを押収した。パク氏はさまざまな保守団体の関係者たちに無償給食反対、全国教職員労働組合への批判など、政府や与党勢力、保守団体の立場を盛り込んだ広告文や記事などを作成し、電子メールで伝達した。パク氏の手を経て伝達された広告文などは実際に新聞に意見広告の形態で掲載されたりもした。国情院を中心として広範囲な保守団体の管理が行われていたのだ。
パク・クネ政府の発足後はキム・ギチュン前大統領秘書室長ら青瓦台の核心的実力者が主軸となってこのような活動をしてきたものと思われる。文化芸術界のブラックリストを作成し、政府に批判的な個人や団体に対する支援を阻んだ容疑で特検が拘束起訴したキム・ジョンドク前文化体育観光部(省)長官らの公訴状を見ると、キム前室長は2014年初めにシン・ドンチョル当時大統領室疎通秘書官に「左派に対する支援は多いが、右派に対する支援はあまりにも少ない。中央政府ででも乗り出して支援しなければならない」とし「政権は変わったのにかかわらず左派の連中はたらふく飲み食いしてるのに比べて右派は腹ぺこだ」と語った、とある。キム前室長のこのような認識は国情院の大選世論操作事件、セウォル号の惨事、チョン・ユンフェ裏ルート実力者疑惑など主な山場のたびに街頭でパク・クネ大統領を保護し守ってきた保守諸団体に対する積極的な資金支援へとつながったものと思われる。
資金問題をあいまいにする右派
けれども全経連から資金の支援を受けたものと指摘された保守団体の関係者たちは、この疑惑を否認した。チュ・オクスン・オムマ部隊奉仕団代表は「ハンギョレ21」との通話で「(全経連から)支援を受けたことはない」「オムマたちが活動しているのに何でそんなにカネがかかるのか」と語った。チュ代表は他団体の名義で借名支援を受けたことはないのかとの質問に「そんなものはない」と語った。
キム・ギチュン前室長に直接資金の支援を要請したものと伝えられていたソ・ギョンソク「新しい韓国のための国民行動」執行委員長(牧師)は、「ハンギョレ21」に「キム前室長を直接たずねて行ったことはない。ミーティングの場で会ったことがあるだけだ。多くの人々と一緒に会った。保守団体の代表たちと会ったが、時間がたちすぎてどんな話を交わしたのか、誰が出席していたのかも思いだせない」と語った。ソ牧師は自らが関係する団体に全経連の資金が入ってきたことはあるのかとの質問には答えることなく、忙しいのでと電話を切った。
各企業は責任がないのか
企業は全経連に責任を押しつけた。保守団体に流れた70億ウォン余の中で最も多くの金額を出したと伝えられるサムスン・グループは一連の報道以降、「青瓦台が保守団体への支援対象と金額を確定して全経連に通告し、全経連が各企業の会費分担の比率にそって金額を決めた」と明らかにした。また「70億ウォンのうちの50億ウォンは全経連の既存の社会貢献基金が支出され、2015年末に4大企業が追加で21億ウォンを特別会費の形式で出したことがある、この時サムスンは9億ウォンを負担した」と付け加えた。各企業が集めたカネ数十億ウォンが保守団体に流れ込んだ事実はあるけれども、このような支援を主導したのは青瓦台と全経連であって、サムスンではないとの趣旨だ。けれども全経連の意思決定には各大企業が大きな影響力を行使してきたものと伝えられてきたがゆえに、保守団体の支援に乗り出した各企業が、この疑惑にかかわる責任において、そこから自由ではありえないと思われる。(「ハンギョレ21」第1148号、17年2月13日付、チョン・ファンボン記者)
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