オーストラリア
トランプの中国攻撃はわが国を戦争に引き出す
政府は中国対決路線を弱める兆候なし
トム・ブランブル
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以下は、トランプ政権の対アジア、特に対中国政策がオーストラリアを戦争に引き込む可能性があるとして、強い警戒を呼びかける当地左翼活動家による論考だ。トランプ政権の対中国政策にはまだ不透明な要素が多い。たとえばトランプ政権はこの論考が書かれた後、「一つの中国」については一応踏襲を明らかにし、フリン大統領補佐官を更迭するなど、この論考の情勢評価を基礎づけた要素にも若干の変化がある。しかしトランプの対外政策に危険が満ちていることは紛れもない。また安倍政権は自身の中国封じ込め志向の中で、オーストラリアを重要な連携相手に定めてもいる。その意味で、特にアジア太平洋に関し警鐘を鳴らすこの論考は日本のわれわれにも検討すべき問題を提起している。さらに、安倍政権が頼りにしようとしているオーストラリアが、米国との軍事的一体化をどこまで進めているかについて、具体的な情報が盛り込まれている点も興味深い。(「かけはし」編集部)
トランプ政権は、遠い先と言うよりも早期の中国との衝突に身構えたように見える。そしてターンブル政府は、ことが起きたならば彼らが米国に護衛として同行しているだろう、というあらゆる兆候を示してきた。今、危険な時になっている。
中国敵視を
全面化させた
トランプは、彼が選出される以前ですら、米国は中国を厳しく批判する必要がある、との信念をはっきりさせてきた。彼はそうした観点を抱いた初めての大統領ではまったくない。現に、オバマのいわゆるアジア回帰は、同じ評価によって駆り立てられたのだ。しかしトランプは、表現をエスカレートさせ、何らかの外交的な繊細さもなしにすまそうとしている。
共和党予備選期間中この百万長者は、米国の経済的苦境を中国の責任に帰した。彼は、中国からの輸入に四五%の関税をかけると脅した。彼はこの国を、想定では輸出品を安くするために元価値を抑え込んでいるとして、「為替操作国」と呼んだ。彼は、世界貿易機構(WTO)において「市場経済」とする中国の指名を妨げ、WTOメンバー国の便益の全面的利用は制限する、と脅した。
彼が就任している今、これらの諸課題に彼がどこまで進むのかは、まだ今後の問題としてある。しかし彼の選出以後、中国に対する米外交政策の方向は、紛れのないものになっている。台湾総統からの電話に彼が出る、ということがあった。そして彼は、一九七九年以後にそうしたことをやった最初の大統領だった。この後には、貿易並びに対北朝鮮国連制裁に関する立場について中国を攻撃するツイッターが続いた。そしてもっとも重要なことだが、トランプは、四〇年間米中関係の基礎であった、「一つの中国」政策に疑問を投げかけた。
トランプは、一連の中国強硬派を上級職に指名した。そこには、安全保障補佐官のマイケル・フリン、国家通商会議主席のピーター・ナヴァロ(「中国による死」の著者)、米通商代表部代表に指名されたロバート・ライトハイザーが含まれる。トランプの主席政治補佐官であり今や国家安全保障会議メンバーでもあるスティーブ・バノンも、もう一人の中国強硬派だ。バノンは昨年三月、電話で返答する彼のトークショーで「われわれは五年から一〇年の内に、南シナ海で戦争に入ろうとしている。君はそう思わないのか? それに関しては疑いがない」と電話相手に語った。
しかし、この新政権による攻撃的転換に対するもっとも呆然とするような確証は、新国務長官のレクス・ティラーソンによる一コメントだった。彼は彼の指名聴聞会の場で、あらゆる外交的ごまかしを窓から投げ捨てた。彼は南シナ海での中国の活動に関し、「われわれは、まずこれらの島々での建設の停止、第二に、中国によるこれらの島の利用を許すつもりはない、とのはっきりした合図を中国に送らなければならなくなるだろう」と言明した。
これらすべては、アジア太平洋地域での米海軍の展開をオバマの回帰以上に攻撃的に押し上げることを含め、米軍事力を「再建する」トランプの計画を背景として現れている。
豪・米・日の
戦争協力機構
米国と中国が南シナ海で衝突となる場合、トランプは、この地域における米国のもっとも長期に続いている同盟国のオーストラリアと日本を支援者として当てにしようとしている。これはオーストラリアを、米国と足並みをそろえた戦闘へとさらに近づかせることを意味するだろう。
オーストラリア北部の大きな領域が、アジアにおける様々な戦争を戦うための米国とオーストラリアにとっての跳躍台として準備されようとしている。オーストラリアは、米国に関する限りこの役割にとって理想的な場となっている。その理由は、ここが中国のミサイルほとんどの射程外にあり、中国の主要な貿易路のいくつかに近い位置にあり、したがって中国の船舶を攻撃する良好な位置を確保でき、その上実弾演習のために利用可能な広大な内域をもっているからだ。
米国はすでに、ダーウィンの基地を軸として六カ月毎に一二五〇人の海兵隊を巡回させている。また米国艦船の寄港回数の増大がある。この北部の首都における海兵隊の数は、二〇二〇年までには倍になるだろう。海兵隊はその間北部地域で、敵地にとりつき確保するための訓練を行い続ける。米軍はまた、キャサリンのティンダルオーストラリア空軍基地から、B52爆撃機をも飛行させ続けている。B1長距離爆撃機と空中給油機の基地をダーウィンに置くという昨年の話し合いは今止まっているとはいえ、それらは今後に来るものを示すものだ。
米国はさらに、実弾演習のために、北オーストラリア統合区(ブラッドショー、ブンデイ山、デラメア)の利用権も確保している。西海岸では政府が、パース近くのステアリング海軍基地を高度化し、米艦船の寄港やインド洋における潜水艦作戦に向けたハブ港に変えるために、四億ドル近くも支出中だ。
二〇一三年と二〇一六年の防衛白書は、まさに中国との衝突に際した米国へのオーストラリアによる支援を高めるために、軍事支出の実質的増額を提示した。支出が他の費目全体で切り下げられようとしている一方、二〇一六―二〇一七年での三二〇億ドルから二〇二五―二〇二六年の五九〇億ドルへという予算増額の形で、軍部はそこで吐き出されたカネを確保しつつある。一二隻の新潜水艦、新たな一〇〇機のF35戦闘爆撃機、数十隻以上の洋上艦、さらに哨戒機が購入されるだろう。これらすべては、米軍との「共同運用可能」――つまり、米軍と肩を並べた戦闘で展開される準備――として設計されている。
アジアにおける将来の米―オーストラリア共同軍事作戦はすでに、二年に一度の「タリスマン・セーバー」演習で主役を演じ、そこには、ロックハンプトン近くのショールウォーター湾で水陸演習を行うオーストラリアと米国の兵員一万九〇〇〇人が含まれている。ダーウィンの基地と同じく、これらの演習は、敵地で上陸地点を抑えるための兵員訓練用として考えられている。来年以後には、他の強力な米国の同盟国、シンガポールの兵員一万四〇〇〇人も、ショールウォーター湾で年次演習を始めるだろう。
年々強化される
軍事共同作戦
これらの便宜供与以上に軍事的な重要性をもつと言えるものの中には、両国が共有する広範囲な軍事と諜報の共同作戦がある。アリススプリングス近くのパインギャップ衛星追跡施設、および西オーストラリアのエクスマウスにある、ノースウエストコープ(ハロルドEホルト海軍通信施設)は、王冠にはめられた宝石だ。これら二つの施設は、米国とオーストラリアが、敵対者、同盟者、あるいはエドワード・スノーデンが暴露したように、本国の市民、これらに対する二四時間の監視を続けることを可能にしている。
パインギャップやノースウエストコープに加えて、「ファイブ―アイズ」パートナーシップメンバー国(米国、オーストラリア、ニュージーランド、英国、カナダ)間で共有する広範な諜報活動があり、そこには、HMASハーマンにある監視所施設と並んで、ゲラルドトン近くのコジャレナにある三つの地上衛星局、ダーウィンのショアルベイ受信局、そして西オーストラリアのリアマウス太陽観測所が含まれている。米国はさらにオーストラリアから、航空機とドローンのための滑走路を含む、パース北西三〇〇〇q沖合のコーコス諸島の海運監視行動施設設立のためにも招かれている。
米太平洋軍最高司令官のハリー・ハリスは昨年二月、ワシントンで上院委員会に対し、米国はその軍事能力向上のために「大いに」オーストラリアに依拠していると告げたが、その米国の戦争計画にとってのオーストラリアの重要性こそ先のようなものごとだ。米国は、オーストラリアが提供する情報なしには、一発の弾道ミサイルも発射できず、たった一機のドローンも誘導できず、あるいはアラビア湾からカリフォルニアまでのどこであれ、作戦中の洋上艦や潜水艦のただ一隻に対しても信号を送ることができないのだ。われわれは、オーストラリアの陸軍や海軍や空軍による一発がない場合であってさえ、米国の戦争機構の心臓部に埋め込まれている。
政府はトランプ
を後押しする
ターンブル政府は、その攻撃的な外交政策をもってトランプをけしかけようとしている。この首相と彼の内閣の仲間たちは、米国がアジア太平洋に焦点を絞ったまま確実にとどまるようにしようと決意している。そして、トランプがオバマの回帰の要をなした一つ――TTP――を放棄した今、米国がそうすることをなおのこと切望している。
ターンブルはトランプ選出に際して、「より強い米国はより安全な世界を意味する」と記者たちに語った。外相のジュリエ・ビショップは、アジア太平洋での「強力なプレゼンスを維持する」よう米国に強く促した。ターンブルは、トランプ就任の余波の中で、二つの帝国主義大国間の温かい関係を力説した。いわく「われわれは、第一次世界大戦以来のあらゆる重要な紛争において米国と肩を並べて戦ってきた。その関係は非常に、非常にかみ合い、それは極めて緊密であり、またそれはまさに多くのレベルで機能している。……それは単に二人の指導者間のことではなく、あらゆるレベルでのことだ」と。
米国との同盟に最後まで忠実な労働党は、辛うじて泣き言を一つ言っただけだ。陰の外相のペニー・ウォングは、ターンブルとビショップのコメントに対して、「われわれの地域に対する米国の建設的な関与を力づけた」にすぎなかった。影の内閣ではただの一人も、中国との対決に向けたティラーソンの要求を拒否しなかった。そして影の防衛相、リチャード・マーレスは、高度に挑発的な南シナ海における米国の「航行の自由」作戦に加わるため、オーストラリア海軍を送るようターンブル政府に公然と要求し続けてきた。
ポール・キーティングやヒュー・ホワイトを例として、何人かの元の政治指導者や上級の防衛官僚は、中国に対するトランプの好戦的な言葉の調子を懸念している。そして、米国にしたがうことで、オーストラリアの貿易と投資に潜在的な可能性として悲惨な結末を起こしかねない対立へと入らないよう、ターンブル政府を促そうとしている。しかし少なくとも今のところオーストラリア政府は、オーストラリアの軍事的姿勢と軍事力向上計画の分野では、米国と足並みをそろえた対中国対決路線に関し、それを弱める兆候はまったく示そうとはしていない。
アジア太平洋の
戦争基地に発展
われわれは、アジア太平洋における戦争計画へのオーストラリアの関与に関するこのエスカレーションを終わらせなければならない。われわれの指導者たちは、この地域への米国の「関与」を確保することについて話し回っている。これが何を意味するかを思い起こそう。一九四一年の太平洋戦争勃発以来、米国の関与は、何百万人という非戦闘員のいのちを、同様に米国とオーストラリアの何十万人という兵士のいのちを犠牲にしてきた。中国との衝突へのそうした関与はそれ以上に、血と財における計算不可能な、また破滅的な結果をもたらしかねないだろう。
米帝国はこれまで、日本への原爆投下や一九六五年のインドネシアにおける殺戮の支持から、ベトナムとカンボジアへの侵略やこの地域全体で殺人的な独裁者たちを支えたことまで、どのような点でも残忍でなかったことなど一度もない。
今やこの帝国は、もっと多くの死と破壊という脅威を与えつつ、あらゆる方向で激しく襲いかかろうとしている指導者の手中にある。今は過去の時代以上に、オーストラリアが米国の戦争機構との結びつきを断ち切り、この帝国への支援を捨てる時だ。(二〇一七年二月七日)
▼筆者は長期にわたる左翼活動家であり、ブリスベーンの「ソーシャリストオルタナティブ」のメンバー。クイーンズランド大学で産業関係の教鞭をとっている。(「インターナショナルビューポイント」二〇一七年二月号)
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