池田五律さん(有事立法・治安弾圧を許すな!北部集会実)に聞く B
地域社会の変化と自衛隊の浸透
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2013年防衛大綱
――二〇一三年の防衛大綱によって、戦後最大の大改革を行った。統合機動防衛力として陸自の各方面隊や空自・海自、そして米軍との一体化をより進めた。そのために陸上総隊を方面隊の上に設置した。戦車隊を北海道と九州に集約し半減し、列島の真ん中に戦車ではなく機動戦闘車を配備する。冷戦期の対ソ戦ではなく、対中戦ともいうべき南西諸島などを第一列島線とする防衛ラインにシフトを変えた。そして、島しょ防衛戦争の訓練を行っている。@抑止A実力部隊の機動展開A奪回作戦。こうした自衛隊の「大改革」は練馬駐屯地へどのような影響を与えていますか。
自衛隊の任務は、この他にも弾道ミサイル、サイバー攻撃、宇宙空間、特殊部隊の潜入ゲリラ対策(各自衛隊、米軍、原発など)、災害救助、原子力災害対策などにも広げている。練馬・朝霞駐屯地での対応はどうなっていますか?
脅威がなければ防衛省・自衛隊は仕事がなくなるので、脅威を言い立てて、それで組織を維持し新しい組織をつくる。北朝鮮からの弾道ミサイル攻撃からの防衛を理由にして推進されているミサイル防衛を始めた。何を防衛するかと言えば、まず自衛隊の拠点。だから、政経中枢の防衛の要である東部方面隊総監部のある朝霞に入間のPAC3が移動展開されたりしてきた。といっても、先にも言ったように、役に立つとは言えない。加えて、表向きの理由とは異なる使い方もいくらでもある。米軍は海外に展開した際に展開拠点防衛のためにミサイル防衛システムも移動展開させている。
今一番キーワードになっているのが機動展開力。それを高めるということで陸自の総隊司令部を朝霞に作るし、その他のもろもろ部隊編成も変える。陸上自衛隊だけを見ていると分からないんです。航空自衛隊の航空機を使って海外に行くわけですから。今南スーダンに行っている部隊だってそういう形です。海自のヘリ搭載可能な大型護衛艦は、洋上出撃拠点になる。対中脅威論を前面に掲げて行われ、抑止・機動展開・離島奪還で進められている自衛隊再編は、島しょ部どころか、南シナ海をはるかに超えて、自衛隊がグローバルに海外展開できるようにしていくということとつながっている。多国籍軍支援だけでなく、邦人救出名目でも、海外展開していくことが目指されている。それらは、大雑把に言えば「対テロ戦争」参戦です。南スーダンPKOも、「テロとの戦場」になりつつあるアフリカでの「対テロ戦争」の一環です。
そうした「対テロ戦争」参戦は、内に「大規模テロ」の「脅威」を呼び寄せる。それを理由にまた強化を図る。練馬駐屯地に司令部を置く第一師団は、そうした文脈でさらに強化が図られると思います。
あらゆる官僚組織がそうなんでしょうが自己増殖する。何らかの口実をつけて組織を増やしていく。冷戦崩壊後九〇年代以降、その口実とされたものの一つが、北朝鮮のゲリラ・コマンド部隊による破壊工作だった。また、九・一一以前から、「対テロ」も口実にされてきた。そこで想定されているのは、国家間の戦争ではなく、非国家を相手にした「非対称な戦争」。相手はテロ・ゲリラ組織であったり、北朝鮮のコマンド部隊であったり、そういう想定なんです。中央即応集団の中に特殊作戦群をつくり、佐世保の相浦に自衛隊版の海兵隊と言われるものをつくっている。
そうした中で、東部方面隊、特に第一師団は、政経中枢である東京都心での「大規模テロ」への対処が主な役割。首都直下型大規模震災でも、被災者救援ではなく「政経中枢機能」の維持・防衛、いわば治安維持が主な役割。東京都総合防災訓練でも、ビッグレスキューのように自衛隊は前面に出ない。パフォーマンスを通して災害救援で役立つと人びとに思い込ませ、自衛隊容認・支持の宣撫工作に成功したら、本当の姿を見せ始める。東京都の「テロ対処訓練」でも被災者救護の主役は消防。自衛隊はテロ部隊を掃討するものだということをハッキリ見せ始めた。
これから注意して欲しいのは、東京オリンピックを理由とした戒厳態勢です。伊勢志摩サミットでは、自衛隊ばかりか米軍も連携した警備態勢が敷かれた。名古屋港には護衛艦などが入り、P3Cが空から監視し、化学防護隊も配備された。そうしたことが東京オリンピックを理由に行われるでしょう。
化学防護隊と言えば、東部方面隊隷下では、大宮駐屯地の第七化学防護隊が中心になります。朝霞には現中央即応集団隷下、将来は総隊司令部直轄となる特殊武器衛生隊が存在しています。NBC(核・生物・化学)兵器への対処と言えば、部隊医学実験隊(世田谷区三宿駐屯地)も忘れてはなりません。その上部組織は、朝霞駐屯地にある研究本部です。そうした研究機関の強化もますます図られることになると思います。宇宙空間やサイバー空間での日米共同対処態勢の構築は、これから本格化すると思われますが、それらに関する研究機関も拡充されるでしょう。朝霞には情報保全隊の東部方面隊も駐屯していますが、そうした関連部隊の増強もあるかもしれません。
原子力災害対策という点では、最初の国民保護訓練が武装組織に原発が破壊されようとしたというシナリオだったことを思い出して欲しいです。そんなに危険なら、原発をやめればいいのですが、原発を再稼働させて、狙われる・危険だと騒ぐ。そしてそれを理由に行う「原子力災害対策」の名の訓練で、「テロ対処」や「ゲリラ・コマンドゥ対処」の能力を向上させるという具合です。しかもその能力は、例えば、敵地で米軍が核施設を破壊した後に自衛隊が展開していくといった場合にも使える。「防衛」名目で進められている多くのことが、海外派兵でも使える装備の拡充・ノウハウの向上であるのです。
自衛隊員で戦死傷者が出る危険が最も高いのも、やはり海外での活動だと思います。南スーダンでその最初の犠牲者が出なければいいのですが…。
ちなみに、災害救援で自衛官が避難所で「心のケア」にあたっているといった光景がよくテレビで報じられますよね。あれにしても、不審者狩りという治安目的もある。それから、心的外傷後ストレス障害(PTSD)への対処は、戦闘経験者のそれへの対処の知識、ノウハウを向上させるということにつながっています。
陸自の総隊制
への移行とは
――自衛隊の中でも空海陸のあり方が違う。空自・海自は最初から機材を含めてない中で米軍に完全に依存しなければならなかった。そこから米軍に完全にコントロールされていた。しかし、陸自はそうではなく旧陸軍をひきずってきた。海外派兵での戦闘となれば陸自になるわけで、それはやりたくないという意識を転換させられて一体運用となっている。
戦前から陸は、郷土部隊が伝統なんですよ。「またまた負けた何連隊」みたいな言い方がされた。甲子園的な組み立てになっていた。郷土の部隊なんです。改憲草案でも「郷土と国を愛する心」が掲げられていますが、郷土部隊を媒介に国家への統合が組織されていた。
戦前からその歴史があって、戦後、陸上自衛隊が創設される時も地方方面隊ごとに部隊が編成された。だが、陸上自衛隊の全体の司令部は置かれなかった。それには、戦前の陸軍参謀本部の暴走への反省が反映されている。その反省に基づく歯止めが突破されていっている。陸自の総隊制への移行と総隊司令部の設置は、そのようにとらえることもできます。
さまざまな住民対策
――自衛隊は住民に理解を得るためとして、毎年の駐屯地祭では、野外売店、戦車試乗、ちびっこ体験などを行っている。その他、常設の陸自広報センター「りっくんランド」では、ヘリ、車両体験試乗、音楽隊コンサート、駐屯地見学ツアーなどをやっている。人を殺す武器がかっこよいとインターネットで流されている。私は恐ろしいと思うのだが、住民の反応は?
それは深刻な問題です。「りっくんランド」を使っての広報。これはただで遊べるゲームセンターみたいなものですから、3Dシアターがあったり、写真撮ったり、子づれで溢れている。地方の修学旅行のコースにも入っている。はとバスのコースにも入っている。地域への浸透という意味で、自衛隊友の会がある。朝霞の場合は観閲式の時なんか、振武会というOBたち(旧軍も含めた)が集まります。だから朝霞や和光、大泉学園の居酒屋は振武会第何期という人たちで溢れかえる。
軍都化とでも言える状況も生まれています。大泉などは高級住宅地だった。高級住宅地であるがゆえにベトナム反戦の時は朝霞の米軍基地に対するベ平連の運動があった。その世代の人たちが相続税の問題で土地を売り出す。その所に幹部自衛官が住むようになっている。まだそんな深刻になっていないけど、ほっとくとどんどん軍都化していく。
もう一五〜六年前の観閲式の時、大泉学園の駅で反対のビラまきをしていて、女子大生風の若い女の子が観閲式のですよねと取りに来た。うちのメンバーが喜んで渡したら、どうも兄が帰ってくるんですとわけの分からないことを言っていた。高級自衛隊の幹部のお嬢さんだった。お兄さんが自衛隊員。観閲式にお兄さんが出るというのでビラを受け取りにきた。ほっておくとこうなるんです。
これは北町の方ですけど、板橋は化学工場とかがあった。そこには化学反戦労働者がいた。北部という広がりで見ると、福寿印刷とかオリジン電気も北部から移転した。北部・東武東上線沿線から工場がなくなっていく。そうすると飲み屋にカネを落とすのは若い自衛隊員しかいない。北町の商店街は当然イラク派兵の時は黄色いリボンを掲げた。自衛官出身の区議もいますし、自衛隊友の会議員連盟もあります。
練馬区は衆院選の九区と一〇区に分かれていますが、九区は小池百合子の地盤です。北町駐屯地は小池の所なんです。がっちり、小池・自衛隊・町内会になっている。石泉(せきせん)地区という言い方をしますが石神井公園、大泉地区というのはまだ比較的若い子育てが多い。北町周辺は高齢化が進んでいる。北部の学校も自衛隊中心になっている。区を通さずに直接自衛隊が学校に行く。幼稚園とかにも、駐屯地の池にカルガモの親子が来ました、見に来ませんとか、声をかけてくる。
例えば、ショスタコービッチの大砲をドーンと撃つ曲がある。実際はコンサートで大砲を撃つわけにはいかないが朝霞には音楽隊があり、大砲の音を出す演奏をする。それを聴きにこないかと、高校に誘いをかける。田無工業高校の生徒が防災訓練の名前で朝霞駐屯地で訓練していたことが話題になった。練馬工業高校も同じような形で行っていた。職業訓練という形で中学生とかが位置付けられている。東京国体の銃剣道大会は、練馬で行われた。銃剣道という肉弾殺傷術の訓練をしているのは自衛隊だけ。それを、高校の剣道部の一部の生徒にやらして、国体に出場させる。その指導は、自衛官OBとかが関わっている。
また、自衛隊募集の協力本部が池袋から練馬区役所の目の前に引っ越した。どの地域でも同じですが、自衛隊募集協力本部は自衛官募集だけでなく、実は国民保護ということでは、自治体との窓口にもなる。一〇年ぐらい前は大きな演習があったら、必ず区の方にはこういう訓練がありますと連絡があった。それが最近ない。そういう意味では増長している。うるさいと苦情があって、区が問い合わせたら訓練やっていると分かる。と言ってもまだまだ練馬は止めている。危機管理室にも自衛官OBを入れていません。(つづく)
コラム
「ガッテン!」とNHK
三月三日高尿酸値の検査のために病院の待合室に座っていると知人が隣に。彼は高血糖値の検査、二〇年来の病院仲間。その彼が「水曜日の『ガッテン!』を観ましたか、やっぱりNHKが謝罪してましたね」。彼が話題にしたのは二月二二日のNHKの人気番組「ガッテン!」が「運動や食事制限とは関係なく、睡眠薬を飲むだけで糖尿病が治る」と放送した件。番組に沿って丁寧に説明すると「充分な睡眠を取ると体内に『デルタパワー』という脳波が増え、この脳波が血糖降下作用に有効。したがって睡眠薬を使用し長い睡眠時間を取ると糖尿病が治る」というのである。NHKも「睡眠時間と血糖値」ぐらいで止めておけば、これ程の混乱や怒りを買わなかったのにと思うのだが。
この話を聞いて思い出したのが、今から一〇年前に告発された番組「発掘!あるある大事典U」。問題となったのが「納豆を食べるとダイエットができる」という特集であった。納豆の値段は安価であることも加わって翌週には全国のスーパーなどで品薄となり、生産が追いつかないという社会現象が具現。制作がフジテレビ系の関西テレビであったこともあり、近畿圏一帯に納豆を広げるための業者と結託した宣伝ではないかと騒がれ、番組自身の打ち切りにまで発展。後に関テレの孫請け会社が、放送に間に合わせるためにデータをねつ造したと弁明した。逆に今回の「ガッテン!」を制作したのはプロデューサーもスタッフもNHKの社員。彼らは視聴率を稼ぐためにコンプライアンス(法令順守)を無視したのである。
同じような番組作りが先日もNHKであった。それも人気番組「プロフェショナル」の中で競争馬「オグリキャップ」が「人間に代わって格差社会に挑む星として描かれた。「オグリキャップ」は岐阜県の笠松競馬場の出身、つまり地方競馬の出身でありながら、並み居る中央競馬の血統馬を次々に打ち破り、引退する最終レース有馬記念でも優勝した。一億総中流社会が崩れ格差社会が広がり始めた風潮の中での「オグリキャップ」の出現は痛快であったと言いたかったのだろうが、奇をてらった視聴率稼ぎだと思ったのは私だけではないだろう。
その一方でNHKは天皇の「生前退位」問題や国会の焦点である「共謀罪」問題などの安倍政権が暴走する時事についてはほとんど形だけの報道にとどまっている。まるでフジや読売などのヨイショ!グループと同じ水準。今騒がれている森友学園の問題でそれを見てみよう。二月二八日の読売新聞社説は不透明な国有地の売却に疑義を呈するふりをして、「政治家や家族には、その肩書を利用しようと、様々な業者が接待する。便宜供与を期待するケースもあるだろう」とまるで安倍首相は悪徳業者に利用された被害者であるかのように誘導していた。同じ森友学園問題について三月一日のNHKの報道は、「首相、国有地の売却や寄付金集めに関与なしと強調」「氏名使用に抗議」など、どこから見ても政府の言い分ばかりを側面支援。
NHKは一方では権力におもねり、他方では大衆に迎合するという体質が蔓延し始めている。森友学園の報道と「ガッテン!」番組はメダルの裏表であり、一対の構造。メディアが権力に対して沈黙するあり様は、「いつか来た道」への一歩である。米国ではトランプに対してメディアが闘い、フランスではルペンに対してメディアが先頭に立って警告を鳴らしている。問われているのは私たちなのだ。 (武)
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