中国
中国共産党18期6中全会決議の評価
「上に政策あれば下に対策あり」の歴史
張 開
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以下は、戦前から運動を引き継ぐ中国での最も古参のトロツキストグループが発行する「十月評論」に掲載された。中国共産党第一八期六中全会の決議の党活動を扱った部分を取り上げ、「中国の特色ある社会主義」の深刻な問題を認めつつもそれに意味のある闘いができていないとして、特に民衆による民主的統制の欠如を指摘しつつ厳しく批判している。この間本紙で掲載してきた區龍宇さんの見方とも合わせ参照していただきたい。(「かけはし」編集部)
理想信念が堅
固でない幹部
中国共産党は二〇一六年一〇月二五日から二七日の日程で第一八期中央委員会第6回全体会議(18期六中全会)を開催、「新情勢下における党内政治生活の若干の準則について」(以下、準則)を審議ののちに採択した。
「準則」ではまず「ある時期以降、党内政治生活において一部の突出した問題が出現している。主要には、高級幹部を含む一部の党員幹部のなかで理想信念が堅固ではなく、党への忠誠もおろそかで、規律も弛緩しており……さまざまな拝金主義が存在しており、形式主義、官僚主義、享楽主義、奢靡(しゃび)の風習という問題が突出しており、近親者を任用し、官職を得るために駆けずり回り、官職を売買し、選挙での買収現象は枚挙にいとまがなく、権力を濫用し、汚職収賄、腐敗堕落、違法行為や規律の乱れなどの現象がはびこっている。特に高級幹部のなかの極少数の人間は政治的野心の膨張、権力欲に目がくらみ、面従腹背、私党結託で利益をむさぼり、群れを成して、派閥に引き込み、権力の地位を奪い取ろうとするなどの政治的な陰謀活動がみられる。これらの問題は、党と人民の事業の発展に深刻な影響を及ぼす。これこそわれわれが引き続き改革イノベーションの精神で党の建設を強化し、党内政治生活を強化・規範化し、党の建設における科学化の水準を全面的に引き上げることを求めるものである」と書かれている。
それゆえに、六中全会では新情勢下における党内政治生活の準則を制定する必要を認識した。六中全会で制定された「準則」は一二カ条ある。
1)強固な理想信念、2)党の基本路線の堅持、3)党中央の権威を断固擁護する、4)党の政治紀律を厳しく明確化する、5)党と人民大衆の血肉関係を保持する、6)民主集中制原則の堅持、7)党内民主を発揚し党員権利を保障する、8)人選配置の適切な方向を堅持する、9)党組織の生活制度の厳格化、10)批判と自己批判の展開、11)権力行使の制約と監督を強化する、12)清廉潔白の政治の在り方を保持する。
準則の各章では具体的に列挙されており、あらゆることに触れており、大小の事柄にも漏れはなく、幹部党員が完全にそれを履行することが求められている。
中国共産党の
経験と教訓では
しかし中国共産党の歴史的経験は次のことを明らかにしている。上に政策あれば下に対策あり、面従腹背でお茶を濁す、である。このような抵抗は中央の政策を執行しようとしない状況が久しく、普遍的な風習になっていることを表している。中国共産党が三〇年余り前に開始した資本主義経済路線の推進は、「中国の特色ある社会主義」という美辞麗句がつけられているが、私有財産の氾濫によって党員幹部のカネ儲け第一主義や強欲主義を惹き起こし、政治的権力とマネーを結び付け、その相乗効果をさらに加速させ、ほとんどの官僚が腐敗しているという状況になった。彼らに既得権益を放棄させることは困難に困難を極めることである。
古い諺はうまいことを言っている。「前事不忘、後事之師」(前の事を忘れないのは,後の事の師とするためである)。我々も歴史を鑑としてみることにしよう。中国共産党のこれまでの経験と教訓がすでに物語っている。この「準則」の冒頭第三段落目においてすでにそのことを認めている。
「改革開放政策の推進から三年目、すなわち一九八〇年に党の一一期五中全会において、とりわけ『文化大革命』の教訓を真剣に総括して、『党内政治生活の若干の準則』を制定したが、それは混乱状態から正常な状態に戻し、全党内の政治生活を回復、健全化させ、党の建設の推進に重要な力を発揮した。その主要な原則と規定は今日においてもいぜんとして適用され、引き続き堅持させなければならない」。
これはつまり、同じような主要な原則と規定を当時すでに制定して実行してきたが、その後の有り余る「突出した問題」を防止することはできなかったということであり、「準則」のなかで指摘されているように、党内政治生活の準則の再制定が、今日においても必要となっているということである。
指導部自身に思
想信念の地滑り
「準則」の第一条の「理想信念の堅持」は、具体的には「共産主義の遠大な理想と中国の特色ある社会主義の共同理想は、中国共産党の精神的支柱と政治的魂であり、党の団結と統一を保持する思想的基礎でもある。思想政治の建設を極めて重視して、理想信念の堅持を党内政治生活の主要な任務としなければならない」。
「理想信念の動揺は最も危険な動揺であり、理想信念の地滑りは最も危険な地滑りなのである」。
しかし実際には、この思想理念が動揺し地滑りを起こしているのは、中国共産党の指導部自身なのである。一九七八年に中国共産党の指導者であったケ小平は改革開放路線を提唱し、計画経済路線を改革し、資本主義市場経済を実施して、国外からの投資に開放し、「一部の人から豊かになる」と語ったが、それは中国で資産階級を発展させるということであった。その後、中国経済の破竹の発展にともない、非公有制経済も大々的に発展し、その勢力はますます有力になり、それまでの国営(あるいは公有制)経済の比重は日を追うごとに減少していった。二〇一六年三月一二日の「文匯報」に転載された三月一一日付の「南方日報」の論評によると、「改革開放の三〇年余り、中国の非公有制経済の発展は、無から有へ、小から大へ、弱から強へというものだった。現在の中国の非公有制経済の規模は市場のアクター総数の九〇%以上を占めており、六〇%以上の国内総生産を創造しており、八〇%以上の社会的雇用を創出しており、六五%以上の固定資産投資を行っており、六七%以上の対外直接投資を行っている」。
この数字から、中国共産党がかつて重視してきた公有制経済はすでに「主体」、つまり主要な部分ではなくなっているということである。市場アクターにおけるその割合は一〇%以下であり、GDPの四〇%以下しか創造しておらず、三五%以下の固定資産投資しかしておらず、二〇%以下の社会的雇用しか創出していないのである。これらすべて、公有制経済(あるいは「国有」経済)がすでに中国経済の主要な部分、つまり中国共産党のいうところの「主体」的地位にはないのである。
このような不利な格差は引き続き拡大しており、中国共産党が引き続き「社会主義」の名をかたって人々にそれを信じさせようとすることは、さらに困難だろう。
民衆統制なしに
党内監督不可能
各級の指導者、幹部、そして一般党員でさえも全身全霊で「準則」の各項の規定を実現しようとするものはかなり少ないということは、中国共産党の最高指導部もわかっていることであり、しかも党内には解決すべきさらに多くの問題も存在していることから、六中全会ではあわせて「中国共産党党内監督条例」が審議ののち可決された。この条例はその第一条でこう述べている。
「党の指導を堅持し、党の建設を強化し、全面的に厳しく党を統治し、党内監督を強化し、党の先進性と純潔性を保持するために、『中国共産党規約』にもとづいて本条例を制定する」。
「条例」は八章、四七カ条に分かれており、特に党内各級の指導機構、指導者、党委員会、幹部、党員などが負わなければならない監督任務を詳細に列記している。しかしそれは党内でのことに限定されており、公共世論による監督、公衆による監督を排除しており、新聞報道やインターネットで官僚のスキャンダルを暴露することに対しては厳然とコントロールしており、官僚の資産の開示もされず、官僚同士のかばい合いをさらに強化するだけである。党内監督の強化ができなければ、全面的に厳しく党を統治することに実効性を持たせることも難しいだろう。
「条例」の二七条では党内に深刻な弊害が存在することを認めている。
「規律検査機関は、党の政治紀律と政治規範の擁護を最優先事項とし、上に政策あれば下に対策あり、有言不実行、禁じられても止まらない、口是心非(コウゼシンヒ、口先だけ)、面従腹背、徒党を組んで組織を欺く、組織への対抗などの行為に対しては、断固として是正し、調査して処分しなければならない」。
中国共産党中央政治局の常務委員であり中央規律委員会書記の王岐山も、党の指導力が弱体化しており、党の建設が不十分であり、全面的に厳しく党を統治することもできておらず、党管理にゆるみがみられ、不正の風習と腐敗が蔓延しており、党の執政の基礎と執政の安全性が深刻に脅かされているということを認めている。彼はまた、中国共産党一八回大会以来(2012年11月)、全国の党紀律機関と検察機関において一〇〇万件以上を立件し、一〇〇万人以上が党の懲罰処分を受けたことを明らかにしている。これほど多数の処分は、問題が普遍的なものであることの反映である。
個人専断が大手
を振って歩く
六中全会までに、習近平は党、政府、軍、公安系統すべての最高指導権力を掌握していたが、今回はそれに「核心」という権威が加わり、彼がすべての権力の中心になり、主動的役割を果たすことのできる指導的中心になったことを示した。
これほど大きな権力を掌握した習大人は、個人崇拝や個人独裁を行うことも可能になった。今回の六中全会は彼の権威をさらに堅固なものにし、それに異を唱える疑いのある高級官僚を排除し、忠実な腹心やとりまきを抜擢することができた。
六中全会の文書には「集団指導の堅持」が記載されているが、三六年前の「党内政治生活に関する若干の準則」のなかで強調された、「個人専断に反対する」という文言はついに見られなかった。まさしく個人専断が大手を振って歩くということの反映であろう。
2016年12月10日
『十月評論』 2016年第二期、第三期合併号
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