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    かけはし2017.年2月27日号

世界の危機を加速する米比新政権


2.3

アジア開発銀行50周年

気候変動と開発を考える

セミナーで多角的に論議

 二月三日夜、法政大学市ヶ谷キャンパスで「ADB(アジア開発銀行)横浜五〇周年総会にあたり クライメート・ジャスティス――気候変動と開発を考える」と題するセミナーが開催された。法政大学国際文化学部とATTAC Japan国際ネットワーク委員会の共催で行われた。

トランプ当選と
「単独行動主義」
基調講演は元フィリピン上院議員、フォーカス・オン・ザ・グローバルサウス元代表で、現在京都大学客員教授を務めているウォルデン・ベローさん。
ベローさんは、「アジア開発銀行は最もダーティーな銀行の一つであり、『質の高いインフラ』と称して石炭液化ガスを使った施設をどんどん作っている」と気候変動対策に逆行する開発政策を厳しく批判するとともに、アメリカでトランプが大統領に就任したことが何をもたらすかについて批判的分析を進めた。
「トランプは気候変動を否定する立場だ。トランプの勝利は、オバマ政権がTPPを推進してきたことが重要な要因になっている。もちろんTPPがすべてではなく、白人労働者階級に対して有効な政策を取れなかったことなどに要因があった。中西部の四州が経済的矛盾の最も深刻な地方であり、経済政策の失敗が民主党敗北の決定的要因だった。雇用がメキシコに持っていかれるという不満が広がっていた」。
「安倍政権はトランプの政策を非常に心配している。メキシコを通じて輸出される日本の車の問題、保護主義の壁、TPPからの離脱などだ。さらに中国と日本に対して為替操作を行っていると攻撃をかけている。トランプは中国を第一の敵としているが、今後は日本も同様な敵として扱われる可能性がある。安全保障についてトランプは『ただ乗り』という批判を行っている」。
「トランプの大統領就任演説に注目すべきだ。そこで彼が強調したのは@保護主義A単独行動主義Bアメリカ・ファーストだった。彼はそこで『世界の自由を守る』といったことに一言もふれてはいない。トランプは、アメリカはソ連との冷戦に勝利したが、経済的利益は日本に持って行かれたと非難しており、EU、とりわけドイツも批判の対象になっている。トランプはグローバリゼーションに反対しており、アメリカの単独利益を優先する安全保障政策を取ろうとしている。日本が米国に半ば従属していたことが日本の利益だったが、今後は戦略的問題に日本が責任を取らなければならないことに日本のエスタブリッシュメントは心配している」。

気候変動否定
論者との闘い
このように語ったベローさんは気候変動問題について次のように語った。
「私はパリ協定が大きな前進だったという考え方には同意していなかった。パリ協定はプロパガンダである。それは各国(とりわけ米国や中国)がしなければならない努力をさぼるための協定だ。CO2排出削減は自主的な目標に切り縮められ、低いレベルになった。気候変動を目標の枠内に抑えることは不可能になった。貧しい国には必要な資金が不足している。それは主要には先進国の責任だ。私はこういう協定には調印しない方がいいと考えていた」。
「しかし一一月八日にトランプが当選したことで私は立場を変えた。オバマは気候変動の事実を認めていたがトランプは気候変動否定論者だ。今後はすべての国がパリ協定を批准すべきだ。そうして米国に圧力をかける必要がある。トランプを孤立させ、気候変動に取り組めという圧力をかけなければいけない。トランプの登場は、地球の危機を深刻化させている。トランプが出てきたことに深刻な危機感を感じて人びとが団結すれば積極的な意味がある。トランプの歴史的使命は、私たちにそういう任務を自覚させることにある。
ホワイトハウスを占拠しているこのとんでもない連中と闘うために」。

支援のあり方
を問い直そう
次にFoEジャパンの深草亜悠美さんが「気候正義(クライメート・ジャスティス)から見る支援のあり方とは」と題して報告。
「世界はすでに平均一・一℃の気温上昇を記録しており、途上国はより大きな影響を受けている。先進国が温室効果ガスを排出してきたことの歴史的責任が問われている」「日本は石炭火力発電を国策として推進しており、その端的な例としてインドネシアのバタン石炭火力発電所がある」と紹介。この問題を「先進国が途上国に対して有する負債だ」と指摘した。
JACSESの田辺有輝さんは「ADB(アジア開発銀行)による石炭火力発電〜モンゴル・ウランバートルの案件を例に」というテーマで報告。
すでに三〇カ国で太陽光のコストが石炭火力のコストを下回っている事実を紹介。CO2の排出を一・五%減らすためには化石燃料からの発電をなくすしかないにもかかわらず、日本は新たに石炭火力をやろうとしている、と批判。日本の双日が三〇%出資するモンゴル・ウランバートルの第五熱源供給プラントに関して、どのシナリオでも二〇一七年以後の石炭火力の運転開始が不要であることは明白であるにもかかわらず強行されようとしていることを批判した。
田辺さんは、ADBは石炭火力発電への投融資を実施しない方針を掲げるべきと訴えた。

「利己」と「利他」
のはざまで
最後に松本悟さん(法政大教授、メコン・ウォッチ顧問)は、「開発協力――利己と利他のはざまで」というテーマで報告。「ワシントンに頼らず東京が決める時代」というキャッチフレーズに対して「どういう時代なのか」と疑問を投げかけた。
いま学生たちは「人のため」という言葉に「胡散臭さやウソ」を感じ、「ウィン・ウィン」という言葉を好むという。また法政大学の「国際文化学部」の学生の間のアンケートをとっても七〇%が「難民受け入れに反対」だという。「難民にとっても受け入れ側にとってもマイナス」というのだ。
さらに学生層の中でも外国が再生可能エネルギーで進むならば「日本が勝てる分野」として石炭エネルギーで勝負、という声が上がっている、という。こうしたことは日本の政府にも企業にも「余裕」がなくなっている時代の現れだと松本さんは語り、改めて「ジャスティス」(正義)とは何か、を意識化していく必要を語った。     (K)

2.4

資本と軍事のグローバル化

「もう一つのアジア」をめざす

横浜でベローさんが講演


誰がドゥテルテ
を支持したのか
 二月四日、前日、法政大で行われた気候変動セミナーに続き、ウォールデン・ベローさんを招いて「資本と軍事のグローバリゼーションに対抗する人びとがつくるもう一つのアジア ウォールデン・ベローさん横浜講演会」が同実行委員会が主催して横浜市の神奈川近代文学館で開催された。集会に先だって午前中には、「すべての基地にNoを!ファイト神奈川」の木元茂夫さんの案内で横浜ノースドックなど米軍施設をめぐるツアーも開催された。
 午後からの集会では、最初に名古屋大学の日下渉さんが報告。日下さんは「貧者にやさしい政治の頓挫」という視点からアキノ前政権の不人気、エリートの代表と見なされたアキノの後継者であるロハスの評判の悪さを指摘するとともに、ドゥテルテを支持したのは必ずしも貧困層であるわけではなく、富裕中間層、大卒の高学歴者でもあったと指摘。かつ海外不在者投票では圧倒的にドゥテルテが強かったと分析した。
 なぜ「自由、民主主義、人権を脅かすドゥテルテ」が支持されたのか。それは「自由と民主主義の過剰による腐ったシステム」を改革するには強権が必要だ、という意識によるものであり、それが多様な不満を吸収してドゥテルテを押し上げたのだという。一方、貧困層もまた「独裁者による規律が必要」という感覚でドゥテルテを押し上げた。そのような形でナショナリズムに基づく若者、労働組合、左翼支持層もまたドゥテルテを支持した。
 アキノ―ロハス陣営は「誠実」「品行方正」のイメージを打ち出したがドゥテルテは「偽善批判」と「リップサービスとしての暴言」によって「いまある秩序に苦しむ人びと」からの喝さいを勝ち得たのだという。「暴言」は痛快であり、義賊・タフガイのイメージが受けている。「超法規的な手段による犯罪との闘い、秩序と治安の回復」というドゥテルテの政治は「フィリピンが遅れているからではなく、成長しているから出てくる」と日下さんは説明する。
 そこには民主主義と新自由主義の軋轢があり、「機能しない法制度を改革するために超憲法的な手段を使うことで、制度が弱体化する矛盾が見られる」と日下さんは語った。

いかに連帯し
いかに闘うか
ウォールデン・ベローさんは講演の中で次のように語った。
「いま世界は大激震に見舞われている。二〇一六年五月、フィリピンでドゥテルテ大統領が誕生したこと、そして一一月にアメリカでトランプが大統領に当選したことだ。それは日本にとってどのような意味を持っているのか」。
「二〇一六年初めには戦争法の成立や、TPPによって『日米による中国の封じ込め』という方向に沿って安倍政権の思うように動いていたように思われた。しかしオバマと安倍のアジア構想はドゥテルテの反米的構想によって崩れ去った。次にトランプの『アメリカ・ファースト』という路線が勝利した。トランプのスピーチは孤立主義・一国主義・保護主義がポピュリスト的言辞で飾られて貫かれている。白人労働者のナショナリズムに依拠した『アメリカ・ファースト』の主張だ」。
「トランプの演説は、アメリカが軍事的・経済的大国として世界に介入するというあり方の終焉が示されている。伝統的な安全保障への考慮が欠落し、ある国の政治がアメリカの経済的力を強くするのか、弱くするのかによって、敵か味方を判断するという形になっている。アメリカは冷戦に勝つことで経済的には失うものが多かった。勝ったのはドイツや日本だ、という理解だ」。
「アジアにおける政治情勢の変化は日本にとって衝撃的なものだ。安倍は日本を憲法上の制約をはずした一人前の主権国家としようと願い、アメリカを利用して中国との対決にとって大きな軍事的役割を担おうとしていた。しかしフィリピン、アメリカの二つの選挙によって、日本は自分の頭で考えなければならなくなった。日本が半主権国家だったことは日本にとって利点であり、防衛に大きな力を注ぐ必要はなかったが、いま一人前の主権国家であることの困難さを自覚せざるをえない。しかしこの事態を日本とアジアの市民にとってのチャンスと考えたらどうだろうか」。
「ドゥテルテがアメリカと距離を置くことをフィリピンの左派は支持している。フィリピンはアメリカの同盟国であることで抑えつけられてきたが、それを外すことで進歩になるというのだ。日本の右派は、核武装という方向をねらうだろうが、アメリカが孤立主義的になっているのを利用した、そうした右派の動きを抑えることをアジアの市民は歓迎する。これをチャンスと捉えて逆襲を!」

対米関係の分か
れ道に立つ日比
木元茂夫さんがフィリピンのスービック湾の上空を飛ぶオスプレイの画像を示しながら、この間の日米の共同訓練で海上自衛隊が無理を重ねて疲弊している現状を紹介しつつ、同時に「地球儀俯瞰外交」という安倍の戦略が武器輸出問題をふくめて成功していない現状を紹介した後、一橋大学大学院の原民樹さんがフィリピンの政治状況について報告した。
原さんは、ドゥテルテの強権路線とアキノ的な「ピープルズパワー」との対比でフィリピン政治を捉え、「ドゥテルテ的強権路線が勝利したもののピープルズパワー的改革路線も残っている」と説明。「どちらも中間層・貧困層の支持の上に成り立っており、マイルド的・強権的な違いがあるが、今回の大統領選では大統領・副大統領がそれぞれ強権的・マイルド的候補の異なったセットで別々に選ばれた」と紹介した。
原さんは、「フィリピンには開発独裁の必要性がまだ残っている。人口構成から言っても平均年齢二三歳でマルコスの時代を知らない人が多い」と語ると共に、ドゥテルテが長年市長を務めたダバオの市政について、シンガポールのリー・クァンユーと対比して捉え、幾つかの共通性を指摘した。ドゥテルテについて原さんは「開発独裁的課題とポスト開発独裁的課題(汚職一掃)にいっぺんに立ち向かう」という特徴を持っていると語った。
これに対してベローさんは「リー・クァンユーとドゥテルテの対比」に疑問を呈し、「ドゥテルテはファシストだがリー・クワンユーはファシストではない。またドゥテルテの政治はマルコス・モデルでもない」と語り、「中間層からの支持、閣僚に共産党勢力が参加するという左派からの支持」をもった独自的存在として特徴づけた。
またベローさんの長年の盟友である武藤一羊さんも「危機をチャンスに変えるには、日本においてはどういう条件が必要か」と問題を提起すると共に、ドゥテルテ政権の社会経済政策の特徴が、どのようなものになっていくのか解明が必要だと指摘した。ベローさんは日本もフィリピンも対米関係の分かれ道に立っており、国境を超えた交流の中から問題をさらに深めていくことの重要性を再確認した。
なお翌日、二月五日にはアジア開発銀行(ADB)五〇年の総会に向けて「ADBのABC」と題した討論会が「債務と貧困を考えるジュビリー九州」の仲間を迎えて行われた。 (K)


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