英国
レイシズム:抑圧された下僕のため息か?(上)
EU離脱論争の中心は紛れもなく移民問題
デイヴ・ランダウ
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レイシズムが欧州と米国の政治に大きな影を落としている。それは日本においても同じと言える。その根底に資本主義が逢着した深い危機があることは事実の問題だが、問題をそこだけに還元してはならないと思われ、左翼にはあらためて考え抜くべき問題が提起されている。以下ではそうした問題意識から、英国の現状が突き付けている課題が検討され、示唆的な論点も示されている。(「かけはし」編集部)
欧州諸政党に
とりつく暗い影
妖怪が欧州と米国をうろついている。レイシズム、外国人嫌悪、民族主義、さらにはファシズムまでも含む妖怪だ。ブレグジットおよびドナルド・トランプの勝利を理解するための努力として、大量のインクが費やされてきた。筆者と同じく、ほとんどの評論家は驚いた。しかし前途にあるものは、もっとぎょっとするものである可能性さえある。
極右、反移民、反イスラム、そして時としてむき出しのファシスト政党が、欧州中で現れ続けてきた。さらにそれらは、特にドイツ、オーストリア、イタリア、また一団の東欧やバルカン諸国に深刻な影響をつくり出した。マリーヌ・ルペンと彼女の国民戦線(FN)といった類がフランスの次期大統領となる可能性がある、ということが突如より信憑性をもつものになっている。
このフランスの政党は、マリーヌが党首になり、あからさまな親ナチの系譜をもつほとんどの者を取り除き、党を「清浄化」すると決める前、何十年も彼女の父親によって率いられたファシスト政党だ。しかし移民とイスラムに対する猛烈な敵意は、依然FNの心臓部にとどまっている。そしてほとんどのフランス民衆は、この党の歴史と現に今あるものを分かっている。
もちろん政党は、移民に敵対したり、イスラム嫌悪であるとしても、必ずファシストであるとは限らない。前者の要素は先に見たような突出勢力すべてをつなぐものだが、しかしそれはまた、主流諸政党も共有しているものなのだ。そしてこれらの主流政党は、先の突出勢力に票を奪われるとの怖れの中、日毎にそれら極右のいとこに似たようなものとなるよう、巨大な圧力下に置かれ続け、おそらくは常に極右の姿勢のあるものを自ら取り入れ、今やその姿勢を宣言することに喜びを見出している。
それではこのようなことがなぜ、どのように起きたのだろうか? まずこの疑問に答える前に、起きたことの中にあるいくつかの違いを認識することが重要だ。
ブレグジットと
は何だったのか
まず、離脱に票を入れた人々すべてがレイシストや外国人嫌いであると考えることは、重大な間違いとなるだろう。EUに反対することには、多くの健全な理由があるのだ。EUは一つの資本主義の機関だ。それが行っていることの多くは全体として防衛できない。
EUは、移動の自由に関するあらゆる話にもかかわらず、われわれが諸々の国境における難民の取り扱いから経験してきたように、ある種の反移民、反難民国家だ。それは移動の自由を、雇用主の利益を図る、第一に東欧移民に向けられた何らかのものと理解してきた。
それは、経済的により弱い諸国に、特にギリシャに、その社会的諸計画を一掃し緊縮を実施するよう、悪意のある圧力をかけてきた。実際それは、英国を含む大陸を貫く緊縮政策のいわば砦だ。確かにそこには、労働者の権利や医療や安全その他を守る重要な規制はある。しかし英国国家でもそうであり、それらは、労働者階級がより強くもっと組織されていた時の、労働者階級に対する譲歩だったのだ。
そうであるとしてもブレグジットの成功は、レイシズムと外国人嫌悪の一つの勝利だ。なぜか? 理由は、二人の主要な離脱キャンペーン主導者――ジョンソン(保守党の前ロンドン市長、現外相)とUKIP(英国独立党)――が、このキャンペーンを移動の自由に関する国民投票にしたからだ。
理解できる論争の中味は、ただ一つ移民だけだった。残りの問題は、それに関し各々の陣営が投げつけ、経済に関する誰にとってもほとんど無意味な引用とその対抗引用からもち出された、インチキな数字から構成された。人は、筆者が今あげたばかりの類の課題など理解しなかった。しかし移民は、ファラージ(当時のUKIP党首)が彼の恥ずべきポスターを貼りだし始めた後に大書された、見ることができる課題だった。
EU離脱がある種固有性をもつレイシズムということはないとしても、そこには一つの前史がある。UKIPは前回総選挙で一議席も取れなかったが、得票率が一四%にもなった。そして欧州議会選挙では第一党になった。
私は、われわれは次のように言って構わないと考える。つまり、UKIPはレイシスト政党であるということ、さらに、そのメンバーのほとんどはおそらく自身をレイシストとは考えていないとしても、彼らは一人の指導者を称えることに熱を上げている、ということだ。
そしてその指導者が自身の政治的ヒーローとしている人物はイノック・パウエル(戦後に保守党下院議員を務め後に北アイルランドのウルスター統一党の下院議員になった:訳者)であり、その理由を彼が行った「血の海」演説(一九六八年四月二〇日に行われ、英連邦諸国からの移民を辛らつに批判、当時進められていた反差別法に反対、この演説はその後先の名で有名になった。パウエル自身はこの後保守党影の内閣国防相を解任された:訳者)としているのだ。移民に関する諸々のファラージの演説をよく見れば、人は、それがほとんどパウエルの悪名高い演説の変種であることを理解するだろう。
移民問題には原
則的議論が必要
絡み合った様々な危機は世界的に、移民を政治的課題の頂点に置くことになった。諸々の戦争、気候変動、飢饉と貧困、多国籍企業による生態系破壊、巨大な不平等、これらすべてが前面に現れている。欧州内には経済的危機があり、それは一方で人々を、仕事のため、またまともな生活を得るために移動するようせき立て、他方では他のあらゆる国で、諸々の緊縮、失業、ホームレスその他を生み出し続けている。
こうしたことを背景に置けば、移民や難民への反対が一つの人気ある意見であることを理解することはたやすい。それは常識的反応だ。十分な仕事がなく、社会的制度や医療や教育が圧力の下に置かれ、十分な住宅その他がないとすれば、先のような回答は自然に見える。それは、こうしたさまざまな危機の力学を理解しようと努めるよりもやさしい。時としてこれは自覚的なレイシズムとなるだろうが、多くの者にとって、レイシズムは自覚のないまま隠れている。
移民コントロールは実際はレイシズムだ。生まれた場所や親の誕生地、また話す言葉や肌の色を理由に人々を犯罪視するあらゆる法は、レイシズムである以外ない。しかしこの主張は、何度でもはっきり主張される必要がある。
移民は経済を押し上げているという議論は、経済後退とその作用をこの間経験してきた人々には効き目がない。われわれは、メール、サン、エクスプレスといった新聞が移民はこの国のシステムを枯渇させる者だと主張する中で、この神話を壊すためには、事実をはっきり指摘する必要がある。
しかしそれは主軸の議論ではなく、いずれにしろ条件に左右されるものだ。たとえば他の諸環境の下ではそれは、実際システムへの重荷となるだろう。ナチ占領下の欧州からの成人ユダヤ人、ロマ、ゲイ、共産主義者……に扉を開くことは、英国における諸々の公共サービスには大きな重荷となったと思われる。しかしそうすることは、それらの人々を死の収容所の中で死に行くままに任せるよりも、正しいことだったはずだ。
それは不人気であるかもしれない。しかし、われわれはこれらの議論を原則的に進めることによってはじめて、長期的に人々を勝ち取ることを期待できるのだ。
イスラム嫌悪
扇動の安直さ
イスラム嫌悪は、反ユダヤ主義が長い道のりをとって舞い戻っているとまさに同じく、新しいものではない。しかしそれは、九・一一を起点に政治的議論における支配的なテーマになっている。あらためてイスラム嫌悪が安直な議論となっている。人はテロリズムを止めたいと思う。それゆえムスリムを入れるな! と。
トランプとファラージの議論がもつ主要な力の一つは、その単純さだ。それは、現在をつくり出している危機などまったく気にかけない。帝国主義がもっとも反動的な戦争の頭目や指導者に言い寄り続けてきたことも気にかけない。そしてその頭目は、イスラエルに次ぐ英国のもっとも親密な同盟者であるサウジアラビアであり、それはアルカイダやISISを生み出し、英国が武器を売りその軍を訓練している人々、イスラムのもっとも反動的分子、その本国なのだ。
そして先の議論は、漫画化されたイスラムを伝道している専制者と対決する、これらの地域における数多くのムスリムによる、女と男による闘争がある、ということも気にかけていない。 (つづく)
▼筆者は、反レイシスト、反ファシストキャンペーン組織者であり、「英国内居住者に不法な者は誰もいない」のメンバー。(「インターナショナルビューポイント」二〇一七年一月号)
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