米国
「嘆き悲しむことなかれ、組織せよ」
二大政党の外に新たな政治潮流を
「バーニーを求める労働者」の中に明日がある
ジョアンナ・ミスニク
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米大統領選に関する議論はホットに続いているが、その一つとして、以下に米「ソリダリティ」の指導的活動家に対するインタビューを紹介する。ここでは特に、選挙直後から全国で噴出した反トランプの街頭行動に関する情報と評価、それを念頭に置いた今後の左翼の展望が興味深い。(「かけはし」編集部)
まさにほぼすべての者が今、「嘆き悲しむことなかれ、組織せよ」のスローガン――労働者階級にとってのスウェーデン人殉教者、ジョー・ヒル(二〇世紀初頭のスウェーデン系米国人の労働運動活動家。伝説的なIWWのアジテーターであると共にソングライター。「嘆き悲しむことで時間を無駄にするな。組織せよ!」との名言を残した:訳者)との確かな連帯――を使っている。しかしそれは、トランプ選出後には特にピッタリしているように見える。われわれは、ソリダリティーの指導的活動家であるジョアンナ・ミスニクと、選挙について、また長期の組織化に向けた対応と展望について語り合った。
大きく異なる危
険な政治的世界
――この選挙結果に関するあなたの最初の考えはどういうものですか?
米国は今新しい「自由世界の指導者」を選んだばかりだ。彼と彼の敵対者であったクリントン両者とも、しつこく張り付いた公衆からの高い不支持率を抱えたまま彼らのキャンペーン全体を展開した。トランプに票を投じた丸々一二〇〇万人は、彼へは批判的な姿勢をもっている、と言明した。しかしサウスカロライナのクー・クラックス・クランは特別の祝賀会を開催し、フランスの国民戦線の右翼指導者、マリーヌ・ルペンは、喜びのあまり飛び上がった。トランプが、彼の病的なほどの自己中心主義的性癖、レイシズム、反移民、女性蔑視の言辞にもかかわらず指名を得た時に閉口させられた共和党は今や、はるかに度を強めた薄めていない白人民族主義、外国人嫌悪、キリスト教原理主義の要塞となるよう方向を再調整するだろう。民主党は、少なくとも一時的には、崩壊してしまったように見える。渡り鳥政治家の新種が政府に対する掌握を打ち固めようとしている――あらゆる型のレイシスト、命の権利の熱中者(頑迷な中絶禁止論者を指す:訳者)、気候変動否認論者、ムスリム嫌悪論者、反LGBTQ十字軍、労働組合破壊論者、反移民の壁建設論者、天地創造論者、そして欧州系白人の擁護者――。想定外だったとはいえわれわれは、一一月九日の朝から、大きく異なった、そして危険な政治的世界に生きている。
新自由主義によ
る打撃への拒絶
――この結果をどう説明しますか?
あらゆる世論調査と米国の主流メディアが早くから彼女を勝者と宣言していた一方、しかし実際はヒラリー・クリントンが選挙に負けた理由に関し、今何百という分析の論文を利用できる。この議論は部分的に、白人労働者(メディアからは大学の学歴のない白人と呼ばれている)が彼女を倒す上でどの程度、またなぜ犯人だったのか、を軸に回っている。議論には正しくも、ブレグジットとの対比がちりばめられている。
新自由主義の積み重なったスクラップの上に投げ出された工業労働者と人工知能との間の戦闘の中に、回答の奇妙な一片を見つけ出すことができる。クリントンのキャンペーンは、アダという名前をもつ、アダの後には、一九世紀の先駆的な女性数学者、ラヴラス伯爵夫人の名をもつ、計算ソフトに大きく依拠していた。アダは、クリントンのキャンペーンはどこで時間を費やし、どこに財源を投入すべきか、を決めるおよそ四〇万通りのシミュレーションを日毎に吐き出した。しかしアダは、感じ方や感情を計算できない。こうして彼女は、民主党の最終要塞線の安全性、つまりミシガン、オハイオ、イリノイ、インディアナ、ペンシルヴァニア、そしてウィスコンシンのラスト・ベルト諸州は民主党に約束されているとの想定、に疑問を突き付けるものすべてをまったく計算に入れなかった。
その上民主党は、伝統的に共和党に投票していた新しい中間階級の有権者の後を追う必要があった。民主党は、僅かの白人労働者が亀裂を通ってそっと消えるかもしれない、と気にかけていただけだった。オハイオ、ペンシルヴァニア、ミシガン、ウィスコンシンでのクリントンの減票分は、人気に基づく投票ではないとしても、トランプに選挙での票を与えた。これらの白人労働者の多くは、二〇〇八年と二〇一二年にはオバマに投票していた。そしてそれは、レイシズムが単独の、あるいは主な刺激だった、との言及に異議を突き付けている。
確かに、人種、ジェンダー、性的特質、移民、ムスリムに対する退行的で国粋主義的姿勢は、彼や彼の個人的特質に対する否定的姿勢にもかかわらず、トランプが票を獲得する点で一定の役割を演じた。しかし概してこの白人労働者階級の票は、特にトランプがラスト・ベルトで勝利したところでは、民主党に対する、また新自由主義諸政策がこれらの産業コミュニティーにもたらした打撃に対する、はっきりした拒絶だった。それは、どのような救援策も提供せず、NAFTA(北米自由貿易協定)や「われわれの」職を盗み彼らを気にかけない貿易協定を支持した、そのような党と候補者に対する拒否だった。
選挙以来、一定数の記者たちが、厳しく打撃を受けているオハイオやミシガンの諸都市に向かった。再三再四インタビューを受けた労働者たちは、トランプに対する大きな敬意を表明してはいない。しかし彼らは、彼が約束したように彼らの町に失われた職を戻すことによって、米国を再び偉大にすることをトランプに期待している。インタビューされたほとんどの者は、六ヵ月以内の、多くて一年後までのこれらの変化を期待している、と語った。
これらの期待は、トランプの富裕層向け減税 潜在的可能性としては代償のないオバマケアの廃止、そして多くの共和党議員が待ち望んでいるメディケア(六五歳以上の高齢者を対象とした高齢者医療保障制度:訳者)と社会保障への諸々の攻撃と組になって、彼に不承不承の支持を与えた労働者階級の新自由主義による犠牲者と新大統領の間に、おそらくは実体のある緊張を引き起こすだろう。
選挙人制度と制
度的レイシズム
――選挙人制度について説明できますか?
これは特殊な制度だ。クリントンは全国民の投票では一五〇万票以上勝利した。それでもトランプは、クリントンの二三二人に対して二九〇人の選挙人を獲得して、選挙人制度を通して勝者になっている。米国大統領は、クリントンがまさにそうだったように、相対多数の個人票を得る者が直接選出されるわけではない。多くの者はそれを、政党が創立される以前の時期に、不潔で教育の乏しい者が賢明ではない選択をするかもしれないと、「建国の父たち」が恐れた、と語ることで説明している。
しかしながら選挙人制度は、米国建国時代に、その時代に投票資格のあった白人有産者による大統領の直接選出が、有資格有権者のより大きな人口のいた北部を大きく利し、南部の支配階級の影響力を引き下げると思われた中での、奴隷制と南部の奴隷所有者の全国政府に対する影響力の非民主的な名残なのだ。こうして選挙人制度が憲法の中に書き込まれた。
各州には、国会にもつその代表数を基礎に選挙人の数が割り当てられる。議会の代表は、当該州の全人口を基礎にしている。そして一七八七年、南部の農園主たちはすでに、議会により多くの代表を獲得する目的で、奴隷各人を五分の三人と数える権利を勝ち取っていた。
これは、奴隷制と制度的レイシズムによって誕生した、古めかしい制度だ。それが今もそのままそこなわれず残っているのだ。アフリカ系米国人が一人として数えられる権利は、公民権運動の結果として生まれた。そしてこの運動は、彼らの投票権を守ることを目標とした一九六五年の投票権法を勝ち取った。
今回の最新の選挙では、最高裁が先の法の保護策を多く取り除いたことによって、身分証明の要求、有権者名簿からの取り除き、僅かしかあるいはまったく移動手段をもっていない貧しい有権者を投票できなくすることを目的にした、八〇〇もの投票所の閉鎖、こうしたことを通して、黒人民衆の投票権は脅威にさらされた。反トランプ抗議行動の中で街頭でははっきりと、直接選出を支持して選挙人制度を終わりにせよ、と要求する掲示物が現れつつある。
草の根から湧き
上がる抵抗の渦
――大統領選翌日に国中で数々のデモを見るのは新しいことだ。これらはどのようにして現れたのか、それを誰が呼びかけたのか、彼らは主に若者なのか、あるいはまた労働者なのか、さまざまな抗議運動の結集を誰が助けることができますか?
選挙直後の何万人という自然発生的な反トランプ行動の噴出は、感激を与えるものだった。そして抗議行動は今なお組織され続けている。若い人々はあらためて、ソーシャルメディアを通して、これらの行動の主要な組織者となった。都市に次ぐ都市で、何千人もの高校の生徒と大学の学生が、トランプの設定課題に反対して行進するために彼らの教室から歩み出た。
街頭にそれほど数多かった非常に若い人々は、ポストバーニー世代の一部に存在したが、はじめて政治行動に登場している。デモ参加者たちには、社会運動活動家の全範囲、特に黒人の命も大事だ(BLM)、「最初に三〇〇万人の追放」というトランプの計画に反対し移住の正義を求めているラティーノ、そして共和党の新たにされた猛攻に対決して中絶の権利を守るための最初の歩みを始めている女性たち、が含まれている。
この諸々のデモは、トランプと彼の右翼の仲間たちは抵抗に直面することになるという、また左翼は隠れたり脅されたりはしていない、敗北に身を任せない、という即時の表示をつくり出している。オキュパイ運動以後の事例がそうであったように、これらの諸行動は、何らかの特定の組織あるいは連合によって導かれたものではなかった。いくつかの革命派グループによるそう主張しようとする努力はあるとしても、再度言うがそれらの行動はあらゆる種類の個人やグループによる、ソーシャルメディアの伝達による成果だ。すでにフェースブックには、トランプが大統領として宣誓させられる日である一月二〇日に向けて、さまざまな行動が投稿されつつある。
全国女性解放運動のニューヨーク、ブルックリン支部は、通常は二、三〇人の女性が参加する月例の集会を開いてきた。トランプの勝利直後、まさに多くの人々が、近くのスタジアムに予約を入れた、とフェースブックに投稿しようとしていると語った。何千人という女性がこの集会に殺到し、スタジアムからさえ溢れた。ワシントンにおける一月二一日の一〇〇万人女性行進もまた、ものごとがどのように動いているかの典型となっている。フェースブックのページが、「組織者」により州から州へと開かれつつある。この行進は成功を見るだろう。しかし今それをもたらしている実際上の名前をもつ、そして現在活動中の組織あるいは連合は、一つもない。
深い政治的変革
必要な労組運動
――労組運動の姿勢はどういうものですか?
抵抗を建設するための初期の努力から、組織された労働者のほとんどは行動に姿が見えない。労働運動は何十年も自身を、この党の新自由主義が勤労民衆にさらに過酷な打撃を重ねてきた中でさえ、民主党の忠実な従属的パートナーと見てきた。労働組合への組織率が僅か一一%のみであることで、労働運動はトランプ右翼政権からの不可避な諸攻撃に一層脆弱になっている。そしてこの運動は、この極めて深刻な挑戦に対しまったく準備ができていない。
二六州の共和党政権は、反労組の「働く権利」法を通過させてきた。トランプの大統領職と議会両院の共和党多数をもって、効力をもっている労組の私企業部門を縛るための共和党法案――全国働く権利法――が通過する、ということはありそうなことだ。労働者の権利を扱う政府諸機関に対する諸々の新たな指名は、似たような後退の歩みを許すことになるだろう。最高裁票決での右翼多数が確保される場合、組織化する権利に異議を差し挟む訴えの殺到が現れる可能性は十分ある。州と連邦レベルにおける公共サービス私有化のエスカレーションは、公共部門労働運動を空洞化させかねないと思われる。
労組運動がこの近づく嵐を生き延びるとすれば、徹底的な政治的変革が必要だ。クリントンに投票した労組員の家族は五一%だけであり、これは、民主党のレーガン化の年である一九八〇年以後では最低の比率だ。過去にはオバマに投票した何万人という労組員労働者が今回はトランプに向けて敷居を超えた。「バーニーを求める労働者」を形成した諸労組を含んで、反企業、社会民主主義的綱領のバーニー・サンダースが勤労民衆の間で得た人気は、前途に控える戦闘に向け決起する政治的に刷新された労働者に対し、前進への道を示している。早くから諸労組を道の隅に押しやってきた新自由主義の民主党に影響力を行使する、あるいはそれを刷新するというもう一つの試みは、死んだ戦略をさらに死に向けだめ押しをするにすぎないだろう。希望は、九九%による一%との争いの中に、また攻撃下にある諸社会運動との行動による連帯――一人への危害は全員への危害として――の中にある。
米国政治の「革
命」の行方は
――サンダースの方向転換はどのように見られたのですか? 彼のキャンペーンの中にあったものの進展はどういうものですか? われわれは、BLMのような若者運動の合流、新党、いわば一九三〇年代に討論されたような労働党の問題を提起している労働運動の一部門をイメージできるのでしょうか?
今回の諸々のデモという応答は、連帯と公然たる反抗のモデルとなった。しかし、反トランプの戦闘、政府内右翼に反対する戦闘は、フェースブックネットワークを超えた何かを必要とする長期の過程だ。それは、第三のもの、左翼政党あるいは米国におけるプレ政党組織、あるいは再活性化された労働組合運動をも含むものの役割となるだろう。現在は強さを備えた要塞となっていない社会運動の力は、統一された左翼の戦線によって高められるだろう。
支持者たちからなるバーニー・サンダースの軍勢は、多くが若者たちだったが、彼がクリントン選出に向け努力するとの彼の誓いを光栄だとした時、基本的に四散した。しかしバーニー反乱は、米国政治における実体のある「革命」だった。そして今もそうあり続けている。若者たちの、特に勤労民衆と移民家族出身の若者たちの社会的移動が妨げられていることは、消えることのない、不安定な社会的・政治的現実だ。
多くはまさに今街頭に出ている。ミレニアムズ(ミレニアム世代、二〇〇〇年代に成人、あるいは社会人になる世代を表す新語:訳者)でクリントンに投票した者は、オバマに投票した者よりもはるかに僅かだった。二つの資本主義政党からの彼らの離反は、緑の党の大統領候補者、ジル・スタインの得票を一〇〇万票以上まで押し上げることを助けた。トランプの勝利から僅か二、三日の内に、「アメリカ民主的社会主義者」(バーニー・サンダースの諸理念に関連づける目的で民主的社会主義を検索した時、グーグルが送り出しているもの)は報告では、党員申込を二〇〇〇件近く受けた。
第三の全国政党が短期的あるいは中期的に米国で出現するという見通しは、大きくはない。自らに対する階級意識は、実際のところ非常に低く、そして政党と他の諸機関に対するミレニアルズの不信は高い。第三政党という考えには、クリントンの惨めな敗退と新自由主義的民主党の後ではより大きな牽引力がある。しかし、小さくまた分裂した革命的左翼は、それを辛抱強く説明するだけではこうした党を生み出すことはできない。そうした党を創出するためには、実体のある社会的諸勢力が行動の中で合流しなければならない。
それ以上に、いわゆる進歩派とリベラルは、民主党内にとどまるための議論に新たなひねりを加えようとしている。つまり彼らは、一つのブランドで新政党が必要とされ、今あるものとしての民主党は終わりを遂げたということに同意し、それゆえ、民主党を新党に変えよう、と言うのだ。
これは今までと同じ古い冷笑的なゲームだ。米国の進歩派は、民主党が何らかの実体的な意味をもつ政党ではなく、米資本の諸々の同業者が全体で所有する付属物である、ということを十分に分かっている。たとえばこの党は、英国労働党とは異なり、本物の綱領などはまったくもってはいず、それを通じて平の党員たちが反乱を企てるための決定策定の仕組みをまったくもっていない。
しかし自治体レベルでは、諸々の社会運動、諸労組、緑の党活動家、また地方指導者と組になる中で、小さな革命的左翼が当地の自立したキャンペーンと候補者たちの口火を切る、ということも可能だ。地方の自立した政治というこの型で先駆的なモデルにはリッチモンド進歩連合が含まれ、この連合は、このカリフォルニアの町で市議会の支配を、世界で八番目の大きさをもつ企業であるシェブロン石油からもぎ取った。
二大政党の外で新たな政治をめざして散在する自治体の努力の全国ネットワークは、勤労民衆に向けた新しい政治の声の建設を正統なものにする助けとなると思われる。レフトエレクトは二大政党政治に反旗を翻す反乱のそのようなネットワークだ。レフトエレクト第二回全国大会は、来年三月シカゴで開催予定だ。自立した政治的努力を育てるための全国的協力は、一つの出発として、われわれがこれまで何十年も経験してきたこと以上のものだ。
▼筆者は、米国ソリダリティーの指導的活動家であると共に、自立した政治キャンペーンの全国連合であるレフトエレクトの常任委員会メンバー。(「インターナショナルビューポイント」二〇一六年一一月号) |