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    かけはし2017.年2月6日号

セウォル号特調委の復活が最大の核心


ドキュメンタリー「セウォルX」捜索隊へのインタビュー

沈没原因についての答えではなく質問を投げたもの

 8時間49分02秒。ネッティズン捜査隊「ジャロ」が制作したセウォル号ドキュメンタリー「セウォルX」の総映像時間だ。セウォル号沈没事故が発生した2014年4月16日午前8時49分を意味する時間でもある。寝る時間を除き、1日のほぼ半分を費やさなくては見ることのできない長い映像をユーチューブで視聴した人は2016年12月30日昼12時現在、450万人を超えた。

8時間49分02秒、450万人視聴

 ドキュメンタリーはジャロが2年以上も個人的に収集したさまざまな資料でびっしりと埋められた。映像公開を前後して「潜水艦衝突説」が浮上したが、それに関連する部分はいくらにもならない。
「セウォルX」において潜水艦衝突疑惑を提起している部分は、セウォル号の航跡などを見ると操舵の失敗や過積を理由に沈没するのは不可能であるがゆえに、外部の力が作用せざるをえないとの前提で始まる。特に2014年4月16日、セウォル号が急変針(旋回)をしていた時点でレーダー映像に現れた物体は、政府の発表通りにコンテナだとは考えにくいとの主張が外力説を裏付ける。
むしろ「セウォルX」において注目すべき部分は、この結論を下すまでの過程だ。「セウォルX」は平衡水(バラスト)、セウォル号積載貨物の問題から始め、故意による沈没疑惑に至るまで広範囲の争点を扱いつつ、今日まで語られた沈没原因を検証する。現在、提起されているセウォル号沈没原因のすべての内容を取り上げたと言っても過言ではない。
ジャロは、かなり以前からインターネット・コミュニティを中心として名前が知られていた。「今日のユーモア」などで主に活動していた彼は2013年、国家情報院による大統領選挙への世論操作事件当時に、ツイッターで活動した国情院職員らのIDを整理して公開したことがある。強制捜査権はもちろん資料の接近にも限界がある一般人のジャロが公開したIDの数々は、それ以降に大部分の国情院職員らが使用したものであることが明らかになった。その後も国軍サイバー司令部による世論操作事件、チョン・サングン文化体育部(省)長官内定者による政治変更的ソーシャルネットワークサービス(SNS)への掲示文の公開など多様な活躍をしてきた。
多くの人々が「セウォルX」を待っていた理由は、ジャロの活躍がそれくらいにずば抜けていたからだ。最初に作った「セウォルX」の容量は54ギガバイト、ユーチューブに上げるには余りにも膨大な容量だった。19ギガバイトに容量を減らしてアップロードしたけれども多くの時間がかからざるをえなかった。結局、映像は予定日より1日延ばして2016年12月26日に公開された。
反響は大きかった。ネイバー、ダウムなどのポータルサイトのリアルタイム検索順位に上がったのはもちろん、韓国のメディア各社の大部分から連絡が来たと言う。12月28日の夕刻、ジャロに会った。家族の日常や職場生活の平穏を壊したくなかった彼は、自らを40代のサラリーマンとだけ書いてくれ、と記者に頼んだ。

国情院のコメント操作を暴露

 国情院による大統領選挙(大選)での世論操作事件の時から本格的に「ネッティズン捜査隊」として活動した。
その通りだ。当時の国情院職員らのツイッターのIDが一部公開された。ツイッターは米国本社から情報を受けなければならないが加入者の情報をしばしば与えない。その時、IDが浮上した。普通、人々は同じIDをさまざまなサイトで使用するので、ネイバー、ダウム、ネイトなどのポータルサイトに当該のIDツイッターにIDで加入した人物がいるか重複チェックをしてみた。探してみると国情院職員ではと疑われるツイッターIDの相当数が国内のポータルサイトにも加入した。ポータルサイトだけではなく中小コミュニティにもほとんどが加入した。その内容を公開したのだ。
たやすいことではないのに、このような活動をしている理由は。
最初は、いくつかのメディアに情報を提供した。けれども、みんな無視したのだ。とてももどかしかった。そこで直接分析して内容を公開した。国軍サイバー司令部の大選世論操作事件の時もキム・グワンジン前「共に民主党」議員と共に作業をした。この過程でネッティズンの信頼を得た。想像力や推理力のある方のようだ。何らかの事件が発生すると、記者や研究者たちが見逃している部分が見える。その部分を掘り下げて知らせることが社会に寄与することだと考えて、やり続けている。

 ジャロは「セウォルX」を制作するうえで2人の「恩人」がいたと明かした。1人はセウォル号の惨事によって犠牲になったスヒョン君の父親パク・ジョンテさんだ。彼はセウォル号惨事以降、事故に関連した数多くの記録を集めて分析してきた。パクさんがジャロに伝達した記録がなかったならば「セウォルX」は作れなかった。もう1人はキム・グァンムク梨花女大教授(化学生命分子科学部)だ。キム教授はセウォル号が外力によって沈没したという主張をずっとしてきた。ジャロは「セウォルX」に出てくる科学的分析は、そのほとんどがキム教授が主張した内容を一般人が理解しやすく解き明かしたものばかりだと語った。

 セウォル号に関心を持ったきっかけはあるのか。
セウォル号惨事から6カ月後の2014年10月頃、遺家族であるパク・ジョンテさんと知り合いの方がツイッターで私に連絡をしてきた。当時のセウォル号裁判記録の中に船員たちの通話目録があるが、もしかすると国情院と関連した内容があるかを調べることができるか、と聞いた。惨事以降、セウォル号に関連して何かをしなければならないという思いが絶えなかった。その時の縁でパク・ジョンテ・アホジ(お父さん)からさまざまな資料をもらい、分析を始めた。調査をしてみると、資料が実にたくさんあったのだ。
自分の仕事があるのに、「セウォルX」を作るのは難しかったか。
本格的に映像を作り始めたのは(昨年の)1月からだ。それ以降、昼食を摂ったことはない。寝る時間と食べる時間を削るしかなかった。あたりまえの生活はできなかった。目もかすむし健康も害した。やめたいと思う時もしばしばだった。
けれどもヤマ場ごとに運に恵まれた。窮地に陥ると、きまって「恩人」が現れて救ってくれた。偶然、真実の断片に遭遇したケースも少なくなかった。「セウォルX」を完成した時期も絶妙だった。大詰めの作業をしている時、パク・クネ、チェ・スンシル・ゲートが炸裂した。「セウォルX」を作りながら、これを公開をしないうちに捕まりはしないかと心配した。公開しても脅威にはならない状況が作られた。

論難になった潜水艦衝突説


潜水艦衝突説が大きな論難となった。
私も初めは、潜水艦衝突説は話にもならないと考えた。セウォル号惨事の真実を明らかにするためには排除しなければならない観点だと思った。インターネットにセウォル号惨事当時に付近にいた潜水艦の姿だとしてネッティズンが上げた写真の原本をすべて探し出して反論した。2015年5月には私のブログに「セウォル号潜水艦衝突疑惑を逆追跡します」との文も書いた。それまでに出てきた潜水艦衝突疑惑に反論する内容だった。
その後、ツイッターで誰かが引き続き抗議のコメントを送った。「あなたは何をもって潜水艦の衝突ではないと言うのか」というようなものだった。その方が送ったブログの住所を訪問した。セウォル号にかかわるさまざまな内容が極めて合理的かつ論理的に整理されていた。私にとっては完全に新しい世界だった。最初は、国情院職員では、と疑うほどだった。
後になって、ツイッターで抗議しブログを整理した方がキム・グワンムク教授だということを知った。調べてみると世界的な碩学だった。今日まで重ねた業績は並大抵なものではなかった。キム教授の分析内容を1つ1つ検討してみた結果、セウォル号は外力なしに沈没することはありえないとの結論を持つに至った。
潜水艦衝突説を裏付けているのはレーダー映像だ。「セウォルX」を見るとレーダー映像に間違いがあったり、実際にコンテナである可能性などに対しては寛大ではないのかという思いがする。
レーダーの誤りの可能性も、さまざまな資料にあたってみた。レーダーにも虚像が現れるということはあり得る。けれども虚像が生じるためには、セウォル号と虚像が一直線上に現れなければならない。セウォル号が急変針したその場所にのみ現れているのではなく、レーダーのここかしこに現れなければならない。当時のレーダーの映像を詳しく見たけれども10分もの間、虚像が出てくるケースはなかった。
コンテナの可能性も考えてみた。けれどもレーダーに捕えられた物体の大きさはもちろん、当時の貨物が落下した時期や慣性などによる移動経路を調べてるとコンテナとは断定しがたい。もちろん私の意見が無条件に正しいとこだわるわけではない。私も偏見に捕らわれるということもあり得る。仮に別の客観的証拠があれば、いくらでも受けいれる。私もまた今後、より学んでいくだろう。

ジャロはセウォル号惨事を「避けることができるなら避けたいが、避けようとしても避けることのできない運命のようなもの」だと定義した。「セウォルX」の公開によって自らの暮らしがすべて変わったとも付け加えた。彼は映像を作りながら、閉回路テレビジョン(CCTV)や携帯電話に残された子どもらの顔を直接見るのが、とても辛かったと語った。けれども最後まであきらめなかった理由は、セウォル号沈没の真実に一層近づくためだと語った。
外力説が正しいかは今なお分からない。特に潜水艦衝突説は可能性が極めて小さいとの指摘がある。けれども「セウォルX」がセウォル号の沈没原因の究明についての関心を再び呼び起こしたことだけは確かなようだ。

陰謀論と本当の沈没原因


「セウォルX」全体を見ると潜水艦衝突が中心的主張ではないようだ。
そうだ。「セウォルX」をすべて見た人と見ていない人の感じは大きく異なる。私は潜水艦衝突が沈没原因だと断定してはいない。セウォル号が傾く前に衝撃音を聞いたという船員や乗客の証言、非正常に急回転した航跡、海洋事故の際に核心的証拠資料として使用されるレーダー資料などを総合して、外力が作用した可能性が高いとの意見を提示した。
むしろ言いたいのはセウォル号の沈没原因の調査がキチンとなされていないという点だ。「4・16セウォル号惨事特別調査委員会」(特調委)がさまざまな妨害のために沈没原因の調査をキチンとできなかった。特調委が復活されるべきだというのが最大の核心的主張だ。正答を語ったのではなく、質問を投じたのだ。沈没原因は潜水艦なのか、そうでないのかというよりも、セウォル号がなぜ沈没したのかをちゃんと調査したのかへと質問を変えなければならない。
「セウォルX」の相当分量は故意の沈没説など他の疑惑に反論するなどの内容を盛り込んでいる。
ハンギョレTV「キム・オジュンのパーパイス」が主張した故意沈没説を批判する内容が大部分だ。「パーパイス」は今も重んじ尊重している番組だ。共に仕事をしようとも考えた。けれども、違うものは違うと話さなければならなかった。
「パーパイス」ではAIS(船舶の位置、速力などの情報を盛り込んだ船舶自動識別装置)、レーダー映像、CCTVなどが、すべて操作されたと主張する。故意沈没説の根拠は操作説だ。私も初めは操作の可能性を念頭において調査した。けれども操作の痕跡は現れなかった。検証のない主張は真実を求めるうえで、むしろ妨害になると考えた。
周辺で「同じ側に銃撃をするな」という話もたくさんした。けれども操作説と故意沈没説は真実を求めるために排除しなければならないと思う。疑惑を提起していること自体は望ましい。けれども必ずや事実であること、客観的に確認可能なことを主張しなければならない。これまで明らかになった内容の中で科学的でない部分が多かった。むしろ真実に立ち向かうことを困難にするものが陰謀論だ。
海軍は法的措置をとると言った。
海軍は映像が公開されて幾らもしないうちに立場を発表した。絶対に、8時間超の映像をすべて見て報道資料を出したのではない。海軍は該当地域に潜水艦が立ち入ることはできないと主張するが、レーダーに怪物体がとらえられた場所の付近は大部分が水深50m以上の地域だ。セウォル号が沈没した所は水深が浅いけれども、潜水艦の衝突と疑われている地域は全くそうではない、ということだ。
海軍が「セウォルX」の内容は間違っていると主張したいのならば証拠を出さなければならない。合理的証拠が出てくれば当然にも受け入れる考えだ。特調委の調査にちゃんと協力しないまま証拠もなしに強迫ばかりをするのは、維新時代あたりにやっていたことだ。

疑惑を調査できる強力な特調委を


最後に、ぜひ言っておきたいことは。
一切の疑惑を調査することのできる強力な特調委が作られなければならない。「セウォルX」が新たな特調委を作るうえで、いささかなりともプラスになれば良い。最後に特調委の活動をしていた方々に尊敬と感謝の言葉をぜひとも伝えたい。(「ハンギョレ21」第1144号、17年1月9日付、チョン・ファンボン記者)


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