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    かけはし2017.年1月23日号

突出した軍拡と民衆生活破壊


2017年度予算案

「1億総活躍」は大資本のため

安倍政権を打倒する共同の力を


社会保障費の大幅削減

 一二月二二日、安倍政権は、 二〇一七年度政府予算案を決定し、一六年度第三次補正予算案とともに通常国会に提出した。予算案の一般会計が九七兆四五四七億円となり、過去最大になった。
 「アベノミクス」の破綻によって、結果として税収は五七兆七一二〇億円でしかなく、新規国債を三四兆三六九八億円も発行した。歳入の三分の一以上を借金に頼っている状態を一段と深めた。すでに国と地方を合わせた長期債務残高は国内総生産(GDP)の約二倍に相当する一〇九四兆円に膨らんでおり、国と地方の基礎的財政収支(借金に頼らずに税収などで賄う)の赤字額は一〇兆八四一三億円に膨らみ財政健全化目標の実現どころではない。
 安倍政権は、財政破綻のツケを従来のように社会保障・雇用・教育・農業・震災復興予算などの削減によって切りぬけようとしている。
 社会保障関係費は、三二兆四七三五億円で前年度比一・六%増となった。だが政府は、自ら蓄積してきた膨大な借金財政の破綻を取り繕うために「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太)」を根拠にして社会保障関係費をターゲットに三年間で一兆五〇〇〇億円に抑制する方針を決定し、民衆に対して削減・負担増を強要し、医療受診抑制、介護保険増を強めている。
 具体的には、「高額療養費制度」(医療費負担の月額上限を定める)で七〇歳以上を対象に、月一万二千円から一万四千円に引き上げて二二〇億円を削減する。後期高齢者医療(七五歳以上)では、これまで低所得者の保険料を五割軽減してきたが、二割に圧縮する。さらに扶養家族の保険料も九割軽減から七割に圧縮して一九〇億円を削減する。療養病床に入院する六五歳以上の居住費(一日三二〇円を三七〇円に上げる。重病患者も一日二〇〇円負担を強要)も値上げして二〇億円削減していくことを強行する。
 医療改悪スケジュールとして、「かかりつけ医」以外を受診した場合の定額負担導入、「市販品類似薬」の自己負担引き上げなどの改悪を狙っている。
 介護保険では「総報酬割」(四〇〜六四歳の現役世代が支払う介護保険料の新たな計算方法)によって四四〇億円の削減だ。すでに介護保険への三割負担導入、要介護一〜二向け生活援助などの保険給付外しなどを強行し、カネがなければ介護を受けられない状況へと追い込んでいる。介護職員に対する処遇改善も月額一万円相当引き上げるとしているが、平均賃金水準にはほど遠い。これでは入社一年未満での離職率が高い状況をさらに押し進めるものだ。
 同様に保育士の処遇改善も必要だが、一律に賃上げするのではなく役職を新設して月額四万円を上乗せすることによって離職率に歯止めをかけようとしている。これでは、潜在的待機児童が増え続けているなかで企業主導型保育を増やしながらの「待機児童解消加速化プラン」の達成は後退せざるをえない。

原発被災者も切り捨て


政権は、「1億総活躍社会の実現」を掲げ「働き方改革推進」として、長時間労働の是正に四億円、同一労働・同一賃金の実現に六七〇億円を計上した。しかし、その実態は、例えば長時間労働の是正と称して「勤務時間インターバル制度」を導入した中小企業や、非正規社員の正社員化に取り組む企業に対して、新たな助成制度を設けるというものでしかない。残業代をゼロにするなど長時間労働を加速させる労働基準法改悪、労働者派遣法の改悪をただちに止め、長時間労働規制を雇用主に対する罰則付きで法制化すればいいのだ。さらに失業保険の国庫負担は二五%を暫定措置で一三・七五%に引き下げている状態を元にすることが優先されなければならない。
文科省予算は前年度比〇
・二%減の五兆三〇九七億円を計上した。国が教職員給与を賄う義務教育費国庫負担金は一兆五二四八億円へと削減し、公立小中学校の教職員定数が二〇一六年度比三二八二人減としてしまった。これでは少人数学級(不登校・いじめ対策、手厚い学習環境)への取り組みのサボタージュだと言える。給付型奨学金制度の創設を含む大学奨学金事業は、二〇一八年度以後一学年約二万人に月額二〜四万円を給付する。無利子奨学金は八八五億円を計上したが貸与枠八〇〇〇人程度の小規模なものだ。国立大の運営費交付金は一兆九七〇億円だが資本に奉仕する大学に向けた選別配分の比重を強めつつある。
農業関連予算は、TPPが発効しないにもかかわらずTPP関連経費として予算配分した。農地大区画化に向けた「農業・農村整備事業」は一六年度第二次補正と合わせて五七七二億円、農地中間管理機構(農地バンク)による農地集積・集約化のための予算一五五億円を計上した。高収益作物転換、農林水産業の輸出力強化施策に対しても手厚く配分した。
逆に中小農家への打撃となるコメの「直接支払交付金」は前年度比九億円減の七一四億円、「水田活用の直接支払交付金」も三一五〇億円だった。農林水産業の自給率向上、食料主権の確立に向けた予算配分をすべきなのだ。
東日本大震災復興特別会計は、二兆六八九六円で一六年度当初比一七%も減額してしまった。津波・地震被災地の整備等にめどがついたなどと、除染費削減に見られる切り捨て予算を作り上げた。住宅再建・復興まちづくりは七六九八億円に圧縮してしまったこともその現れだ。福島県による自主避難者への住宅無償提供も三月末で打ち切ってしまう。子ども・被災者支援法」に対する充分な予算措置を行うべきなのだ。「被災者支援総合交付金」、被災者生活・医療再建、産業育成など手厚い予算が求められている。

派兵にむけた軍拡予算だ

 民衆の生活破壊を促進し、異常に突出した予算が軍事費だ。
軍事費は前年度比七一〇億円増(一・四%増)の五兆一二五一億円で五年連続で増え続け、過去最大に達した。米軍との共同戦争体制構築の一環として自衛隊のグローバル派兵軍隊に向けたレベルアップに貫かれた予算配分となった。アベノミクスの破綻で税収不足が発生し、財政危機だと言いながら二〇一六年度第三次補正予算において赤字国債(一兆七五一二億円)を追加発行し、そのうち軍事費(北朝鮮弾道ミサイル防衛体制の強化の迎撃ミサイルPAC3、イージス艦ミサイル迎撃態勢、レールガン〈電磁加速砲開発費一〇億円〉、国産水陸両用車開発費、自衛隊運用費体制強化)などに一七〇六億円も配分しているのだ。
つまり、軍事費は第三次補正の軍事予算と合わせて五兆二九五七億円だ。この増額ペースが中期防衛力整備計画(一四年から一八年で総額約二四兆円/毎年度平均〇・八%に抑制)を突破することは明らかだ。稲田防衛相は、「中期防衛力整備計画の枠内だ」と平然と嘘を言い放ったが、防衛省幹部は、「一七年度(軍事費)を少なく見せるため、補正にできるだけ回した」(朝日新聞/一二月二三日)と述べ、従来通り補正予算に上積みして軍事費を増額していく手法を隠すこともせず居直る始末だ。
日米安保のグローバル派兵実戦化と戦争法運用のために垂直離着陸輸送機オスプレイ四機(三九一億円)、F35ステルス戦闘機六機(八八〇億円)、無人偵察機グローバルホーク一機(一六八億円)、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)システム改修一〇五六億円、イージス艦迎撃ミサイルSM3日米開発取得費一四七億円など米国軍需産業の高額兵器を軒並購入しているのが大きな特徴だ。また、在日米軍関係経費(在日米軍駐留経費(思いやり予算、基地周辺対策費、基地交付金、土地の賃料等/在日米軍再編経費/SACO〈沖縄に関する特別行動委員会〉関係経費)の総額が七六四二億円と過去最高の増額となっている。
対中国・北朝鮮軍事シフト強化にむけて南西諸島への自衛隊増強に七四六億円、セットでC―2輸送機三機(五五三億円)、新型潜水艦建造(七二八億円)、一六式機動戦闘車三三両(二三三億円)などを導入し、日本の軍需産業に対しても手厚く配分した。さらに辺野古米軍新基地建設強行に向けて本体工事費(護岸工事、土砂の採取・運搬・埋め立て費用)五三六億円、自衛隊オスプレイ配備強行に向けて県営佐賀空港施設整備関連費など約三〇億円を計上した。
軍拡予算はこれだけではない。経団連は「防衛産業政策の実行に向けた提言」
(一五年九月)で政府に兵器開発「安全保障技術研究推進制度」予算の拡充を求めてきたが、一六年度予算の六億円より増額の一一〇億円だ。政府は、資本の要求に忠実に従いながら国立大学の運営費交付金を削減し軍拡研究費支出を増額するという「軍産複合体」路線の強化をねらっている。
安倍政権は、「財政健全化」や社会保障費抑制と称して民衆生活破壊予算を作り上げながら軍事費の削減は絶対にやらない。カネがないなら軍事費を大幅に削減せよ。このようにいかに軍事費が無駄なのか、一目瞭然だ。米軍とのグローバル戦争体制反対!過渡的措置として自衛隊解体プランに着手し、軍事費を民衆生活予算へと配分しろ。

「大型公共投資」を優先


公共事業費も五兆九七六
三億円と膨らみ無駄使いに満ちている。一六年度に比べ二六億円で五年連続で増額した。三大都市圏環状道路等整備と高速道路等の物流ネットワーク(二五二九億円)、北陸新幹線を含めた整備新幹線建設費(七五五億円)、国際コンテナ戦略港湾機能強化(七六六億円)と巨額な予算を計上した。
さらに航空関連予算は昨年度を上回る三八九一億円。首都圏空港等の機能強化として羽田(六〇九億円)・成田(三九億円)両空港の空港処理能力を過密運行・安全警視、航空・空港公害の拡大を無視して二〇二〇年までに約八万回拡大する計画だ。成田空港では第三滑走路計画も射程にしている。
リニア中央新幹線の全線開業の最大八年前倒して事業主体のJR東海への財政投融資による低利貸し付けで一兆五千億円を計上した。難工事で建設費が膨れ上がり、地下水脈破断、環境破壊が必至だ。
大型公共事業予算を増額しバラマキしていながら、防災・減災対策(三〇四億円)、防災・安全交付金(一兆一〇五七億円)、東日本大震災復興道路整備(二四〇〇億円)などは不十分な配分でしかない。環境破壊・乱開発の大型公共事業、ゼネコン・族議員などを潤すことを優先した予算だ。
原子力関連予算は、脱原発のうねりと真っ向から対決する居直りの原発再稼働推進予算となっている。
再稼働した原発立地自治体には、交付金制度に基づいて増額する。原子炉の安全技術の強化等に九一・五億円、電源立地地域対策交付金に八六三億円も配分した。高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の廃炉は決定したが、関連費用計一七九億円だ。今後も廃炉措置費用が膨大に膨れあがっていくことは必至だ。核燃料サイクル政策を放棄せず、「実証炉」へと進めるために予備調査費一一〇〇万円を計上した。核燃料サイクル政策とプルトニウム再処理工場を廃止せよ。
「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」(一二月二〇日)を決めた。経産省と電力会社の談合によって東京電力福島第1原発の廃炉や損害賠償・除染代二一・五兆円を電気料金の値上げや税金投入によって民衆に負担を押し付けようとしている。東電救済のために交付国債枠一三・五兆円に拡大した。これは福島原発事故被災者に対する年間二〇msv以下の地域への「帰還」圧力、区域外避難者への住宅支援打ち切りとセットである。国・東電は、すべての被災者への補償を行え。

東京五輪にばらまき


文部科学省の二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピックを見据えた関係予算は、 三二四億円を計上した。カネ儲けにひたはしるオリンピックマフィア・族議員・ゼネコンは、「大喜びだ」。国威発揚、ナショナリズム強化のためにメディアを通してメダル大量獲得競争を煽りながら、競技力向上事業八七億円(一三億円増)、ハイパフォーマンスサポート事業 三五億円(四億円増)など次々と増額予算を作り上げた。
組織委員会は、当初、総額七三四〇億円と発表していたが、「最終的に二兆円だ。三兆円は必要」などと「どんぶり勘定」を演じた。結局、組織委が五〇〇〇億円、都や国が一・一兆〜一・三兆円を負担すると言いだしている。それでも結果としてカネが足りないから関係自治体も負担してくれと言い出した。一〇自治体の首長から「話が違うではないか。仮設施設の整備費は大会組織委員会が負担するとした招致時の原則を再確認せよ」と迫られている。こんな金食い虫の東京オリンピック・パラリンピックは返上すればいいのだ。無駄なオリンピック予算は、民衆生活のために組み替えるべきだ。
総務省は、治安弾圧・民衆管理監視強化のためのマイナンバー(共通番号)関連予算として二三〇億九〇〇〇万円を計上した。その根拠として「マイナンバー制度の着実な実施とマイナンバーカードの利活用の促進」などと言っているが、セキュリティー対策は不完全なまま見切り発車で運用開始し、立ち上がり時点から管理システムの事故、個人情報管理の軽視の管理、運営実態が立て続けに発生した。
結果として個人番号カードの取得数は、国内人口の八%程度でしかない。安倍政権は、これまでのマイナンバー事故をなんら反省することもなく、民衆に取得を強要している。金融機関の預貯金口座と個人番号の連結を皮切りに戸籍事務、パスポート申請、医療・介護・健康情報の管理、自動車登録など管理監視を拡大させようとしている。欠陥だらけ、人権無視、管理監視のためのマイナンバーを廃止にしろ。
警察庁は、テロ対策推進費として一七億円を計上した。警察庁・警察官を増員する。すでに盗聴法など刑訴法改悪を強行し、今国会では新共謀罪を提出と合わせて2020年東京オリンピック・パラリンピック対テロ治安弾圧体制構築にむけて増額していくことをねらっている。

トリクルダウンの嘘

 安倍首相が豪語してきた「トリクルダウン」(大企業が儲ければ、民衆所得、消費も増えるという願望論)がまったくの嘘であったことが実証され、それを覆い隠すために必死だ。それにもかかわらず安倍首相は、年頭会見(一月四日)で「金融政策、財政政策、成長戦略の三本の矢を撃ち続けていく」と言い放っている。つまり、二〇一七年度政府予算案(民衆生活破壊を強め、大資本奉仕、軍拡、原発再稼働予算)をバネにして押し進めようと策動することは明白だ。安倍政権の野望を許さないためにも予算案を批判し、民衆のための予算案への組み替えが必要だ。
(遠山裕樹)



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