パク・クネと各企業の不当取引
ミル、Kスポーツ財団問題の背景
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この記事は去年11月21日に「ハンギョレ21」に掲載されたものである。現在パク・クネ大統領が弾劾裁判にかけられている「パク・クネ、チェ・スンシルゲート」の本質が政経ゆ着であり、その中心的問題が労働法改悪であった。この事実を時間的経過に沿って政府と企業側の双方から克明に調べあげている。(「かけはし」編集部)
「今こそ、すべてが理解できる」。
2015年9月の「絡まった糸の固まり」が14カ月ぶりに解けた、と思った。パク・クネ政府は9月15日、労使政合意というお膳を調えていて、まさにその翌日にそれをひっくり返した。9月16日、政府と与党セヌリ党は派遣労働の範囲を広げるなどの内容を盛り込んだ、いわゆる「労働関連5法案」を発議した。
4月に辞意を表明していたキム・デファン経済社会発展労使政委員会(労使政委員会)委員長と、削髪籠城まで敢行したキム・ドンマン韓国労総委員長を無理矢理テーブルにつかせ、賃金体系改編など「労働市場の構造改善」に合意するようにしておいて、政府・与党が後ろから頭を殴った形だった。政府はさらに1歩踏み込んで「たやすい解雇マニュアル」と呼ばれる、一般解雇指針のカードまで持ち出した。
政経ゆ着の復活
「社会的大妥協が青瓦台(大統領府)の立場からはどれほど大きな成果なことか。それなのに何かに追われるかのように引き続き解雇指針や労働5法の改正を押しつけた。なぜそれほどに執着したり、そうしたいと思ったのか、それにはすべて理由があったのだ」。当時の労使政合意の状況をよく知っている高位関係者の言葉だ。
彼は「大企業のトップたちが大統領と個別に対面する場や、イ・スンチョル全国経済人連合会(全経連)常勤副会長、アン・ジョンボム青瓦台経済首席などがミル、Kスポーツ財団の募金に関連して緊密に連絡しつつ、「労働改革」など財界の宿願事業をどんな形であれ、論じなかったのかと思う」と推量した。
2015年夏から続けられたパク・クネ政府の反労働の歩みを、再び記憶の中から呼び戻す理由がある。「ミル、Kスポーツ財団」を媒介とした政治権力と各企業の結託がより強くなっていく時期と、労働改革5法や、サービス産業発展基本法など親財閥政策に加速度が付いた時期は正確に一致しているからだ。
パク・クネ大統領はその年の7月、青瓦台に大企業のトップらを招待し、昼食を共にした後、その中の7人を下半期に個別対面して、ミル財団を後援してくれることを要請したという。政治の民主化と共に巧妙なやり方へと進化しただろうと考えられていた「政経癒着」が、親しく気兼ねがないながらも旧弊のやり方を復活した、というわけだ。
政治権力は「何はばかることなく」カネを要求し、企業は「耐えられないふり」をしながら財布のひもをほどいた。ミル財団には2カ月で486億ウォンが、Kスポーツ財団には7カ月で288億ウォンが集まった。各企業がミル財団に入金した翌日の2015年10月27日、大統領は国会の施政演説で労働改革5法の通過などを訴え、Kスポーツ財団の入金が終わった2016年1月18日には財界が経済活性化法の処理を追求しつつ繰り広げた1千万署名運動に参加するために直接、街頭に乗り出した。
どこかでよく見た光景だ。1974年チェ・テミンが設立し、パク・クネ大統領が名誉総裁として名をあげた救国女性奉仕団(以降、セマウム奉仕団)は、各企業に強制募金要求したとして「話題」になった。チョン・ドゥファン元大統領は1984〜87年、イレ財団を作り、企業の寄付金で600億ウォン近くを集め、5共(第5共和国、チョン・ドゥファン時代)の聴聞会で論難が起きた。1992年に大統領候補として乗り出していた故チョン・ジュヨン現代グループ名誉会長は、ノ・テウ元大統領に名節(国の祝日や記念日)のたびに持っていって渡した「ワイロ」だけで200億ウォンになると暴露したことがある。2002年の「チャツテギ(まとめ買い)」など主要選挙のたびごとに不法政治資金の論難は跡を絶たない。全経連の「自浄宣言」も、うんざりするほどに繰り返された。
ミル、Kスポーツ財団をめぐる疑惑が大きくなるとパク・クネ大統領は「善意の援助をしてくれた企業人たちを失望させて恐れ多い」と語った。各企業は、まるで不意をつかれた善良な生徒のように、「チェ・スンシルとは何者なのか知らなかった」だとか「全経連の自発的募金要求に従っただけ」と言い訳した。本当に各企業は「被害者」に過ぎないのだろうか。
「パク・クネ、チェ・スンシル・ゲート」の全貌があらわになればなるほど、各企業は助演ではなく「主演」として登場する。検察はチェ・スンシルとアン・ジョンボム前経済首席の拘束令状を請求する際、「賄賂罪」ではなく「職権乱用」容疑だけを適用した。2人が全経連や大企業に圧力を加えて財団にカネを出させたけれども、企業側はいかなる「不正の請託」をしたのか、また大統領ないし政府がいかなる「対価」を与えたのかは明確ではなくて賄賂の罪の適用を延期したのだ。
大法院「賄賂」を包括的に認定
ところで11月8日を起点として検察捜査の流れが変わった。検察の特別捜査本部(本部長、イ・ヨンニョル・ソウル中央地検長)は11月8日、ソウル江南区端草洞のサムスン・グループ未来戦略室と大韓乗馬協会長であるパク・サンジン・サムスン電子社長執務室などを電撃的に押収捜索した。サムスンはチェ・スンシル氏の娘チョン・ユラ氏に乗馬訓練の支援目的で特恵を与えたという疑惑を受けている。
引き続いてサムスン、LG、現代自動車など財団にカネを出した大企業の役員たちはゾロゾロと召喚調査中だ。11月11日にはクォン・オジュン・ポスコ会長まで召喚した。大企業の会長の中で初めての召喚だ。既に拘束令状が請求されたチャ・ウンテク前創造経済推進団長とソン・ソンガク前韓国コンテンツ振興院院長は昨年、ポスコ・グループの広告系列社「ポレカ」を引き受けた中小企業の代表を脅迫し、ボレカの持ち分を強奪しようとしたとの容疑を受けている。この過程でクォン・オジュン会長も関係したとの疑惑がある。
「パク・クネ、チェ・スンシル・ゲート」から自由な企業は多くはない。ハンファ、CJ、ロッテ、プヨンなどはグループ総帥の特別赦免や検察の不正資金捜査、税務調査のように政権の力を借りなければならない直接的利害関係があったし、現代自動車やポスコ、KTなどはチェ・スンシル氏とチャ・ウンテク氏が実際の所有主と疑われている広告会社に仕事をまとめて渡したとの疑惑を買っている。
各大企業はいかなる対価を望み、あるいはいかなる憂慮または期待のゆえにミル、Kスポーツ財団に寄付金を出し、またチェ・スンシル氏側にさまざまな特恵を与えたのだろうか。これは検察捜査において必ずや明らかにされなければならないところだ。各大企業の「不正請託」、そして財団に出した寄付金が「包括的ワイロ」だったという点が認められれば「第3者ワイロ提供罪」が成立するからだ。1億ウォン以上のワイロをもらった者は無期懲役または10年以上の懲役刑を受けることになる。またパク・クネ大統領が直接、財団の募金過程に関与したり介入したのであれば、大統領に対する検察捜査は不可避だ。
「大統領は政府の主要政策を樹立・推進するなど、すべての行政業務を総括する職務を遂行し(中略)企業活動に関する政策など各種の財政・経済政策の樹立ならびに施行を最終決定し(中略)企業体の活動において職務上または事実上の影響力を行使することのできる地位にあるので、これに関して大統領に金品を供与すれば賄賂供与罪が成立する。(中略)賄賂は大統領の職務に関して供与されたり授受されたものとして充分であり、個々の職務行為や代価関係にある必要がないのであって、その職務行為が特定されたものである必要もない」。
1997年4月に大法院(最高裁)がチョン・ドゥファン、ノ・テウ賄賂収賄事件で「包括的賄賂罪」の法理を定立した判決の中の一部だ。つまり、大統領に提供したワイロの対価関係が必ずしも具体的に立証される必要はない、との意味だ。
4年間大企業も「主人公」だった
これを「パク・クネ、チェ・スンシル・ゲート」にそのまま当てはめてみよう。
第1に、パク・クネ大統領とアン・ジョンボム前経済首席などが財団設立や募金を企画・主導した。
第2に、募金が進められていた当時、全経連など財界は労働改革5法、ワンシャット法(企業活力を高めるための特別法)、サービス産業発展基本法などを要求した。
第3に、財閥総帥の特別赦免・復権や検察の不正資金捜査、経営権の承継のための系列社合併など個別企業ごとの「不正請託」と考えられるに充分なイシューが存在した。
第4に、各企業が財団に数百億ウォンを寄付した後、青瓦台や政府が財界の要求(「不正請託」)に応える経済・労働政策を提出し各種の特恵を与えたがゆえに「対価関係」が黙示的に認められる。この論理に基づいて、参与連帯や民主労総はパク・クネ大統領と青瓦台・政府関係者、企業人らを「第3者ワイロ供与罪」でソウル地検に刑事告発した。
「ハンギョレ21」は、この4年間パク・クネ政府と各大企業がどんなドラマのストーリーを作ってきたかを時期別に整理してみた。理解しやすくタイムラインも挿入した。(略)この長編時代劇を順々に見ると、政府と全経連の間で交わされた「不当取引」の内容が何だったのかを推量させる「伏線」や、各企業が今回の脚本の「被害者」にのみとどまってはいないという証拠を発見できる。
2013年:発端
ドラマのすべての脚本はパク・クネ大統領の就任とともに始まった。パク・クネ政府の初期に限れば、青瓦台と大企業の間に若干の緊張感が流れた。ともあれパク大統領は大統領選で「経済の民主化」を公約として掲げて当選し、2013年にチェ・テウォンSKグループ会長とイ・ジェヒョンCJグループ会長がそれぞれ拘束された。法務省は「総帥一家から独立的な理事・監事を選任することができるようにする」商法改正案を立法予告した。大統領は労使政委員会の本会議を直接主宰した。
けれどもその年の夏から亀裂が現れた。8月28日、財界のトップと会った席でパク大統領は「商法改正案は慎重に処理する」と一歩退いた。以降、経済の民主化は消えた。
チェ・スンシル氏側の動きも水面上に初めて浮上した。4月「影の実力者」であるチェ・スンシル、チョン・ユネの娘チョン・ユラ氏が出馬した全国乗馬大会でチョン氏が2位にとどまると、警察まで動員された判定の是非が起きた。9月にはキム・ジョン文化体育観光省の「実力次官」が任命され、年末にはチョン・ウォンドン青瓦台経済首席(当時)がソン・ギョンシクCJ会長に電話をかけ、イ・ミギョン副委員長の退陣圧力をかけた。
2014年:展開
イ・ミョンバク政府の時から親政府系の「落下傘」人事たちの「遊び場」になってしまった「主人のいない」大企業2カ所の会長が代わった。ファン・チャンギュKT会長とクォン・オジュン・ポスコ会長体制が登場した。ポスコは広告系列社であるポレカの持ち分を売却することに決定したが、この時からチャ・ウンテクと側近たちのボレカ強奪の試図が続いた。優先交渉対象者に選定された中小企業K社代表にソン・ソンガク前韓国コンテンツ振興院長、キム・ヨンス・ポルカ代表などが接近し、持ち分の80%を出せと脅迫したこと。クォン・オジュン・ポスコ会長が初めからこのような陰謀を知っていたのかが関心を集める。
KT側には翌年の2015年になって徐々に手が伸びた。チャ・ウンテク氏の古くからの知人であるイ某専務が2015年2月、KTに特殊入社した後、チャ氏側に広告の大量供与が始まった。今年2〜9月に公開されたKTの映像広告24編のうち11編がチャ氏と直接的間接的に結びついている。KTは2016年に突然、韓国馬事会と「乗馬産業」に対する了解覚書(MOU)を締結し、チェ・スンシル氏の所有会社であるダブルKとスポーツ発展方案についての研究領域を論議した。
利にさとい各企業は既に2014年に一歩先んじて「実力者」チェ・スンシル氏に接近した。5月、イ・ゴンヒ会長が心筋梗塞で倒れた後、経営権承継問題が切迫していたサムスンが最も積極的だった。サムスンは乗馬選手団が存在しないのに2014年12月、大韓乗馬協会の副会長を担ったのに続き、2015年3月には会長社を受け持った。反面、ハンファ・グループは任期が2年余も残っているのに会長社から退いた。この時、ハンファとサムスンの間に、防衛産業など4つの系列社を吸収・合併する「ビックディール」が進行中だった。
以降サムスンはチェ・スンシル氏母娘が所有したドイツの会社口座に35億ウォンを小分けにして送金してやった。チョン・ユラ氏に10億ウォン相当の名馬を買ってやり、馬場馬術の有望株育成支援という名目で2020年までに最大186億ウォンを与えようとしたとの疑惑も提起される。検察は、チェ氏とサムスンの間での橋渡しと疑われているヒョン・ミョングワン会長(前サムスン物産会長)がいる韓国馬事会も11月9日に電撃押収捜索した。
「サービス産業活性化のための規制改善の課題」を建議するなど、全経連の声が次第に大きくなっていった。パク・クネ政府の経済・労働政策は、既に親企業の側へと完全に回帰した。チェ・ギョンファン経済副総理の就任以降の11月、企画財政省が初めて解雇要件の緩和に言及し、12月に雇用労働省は非正規職総合対策において、これを再確認した。
2015年:危機
パク・クネ政府と財界の仲は一層親密になった。大きな局面が動いていた。大統領は新年の記者会見で、労働市場の構造改革を強調する一方、その年の夏に、創造経済革新センター長の集まりという名目で大企業の会長団を青瓦台に招き入れた。
下半期になって青年希望財団、ミル財団、Kスポーツ財団などが順々に設立された。労働改革を強調する大統領の声は、9月15日の労使政合意にもかかわらず、次第に高まるばかりだった。「労働改革すなわち青年の働き口作り」「労働改革にもはや残された時間はない」などとする大統領の発言が続いた。
その年、幾つかの大企業は慌しい雰囲気だった。サムスンはヘッジファンド・エリアットマネージメント(エリアット)がサムスン物産―第一毛織の合併に反対する勢いに、経営権承継に「赤ランプ」がともり、ロッテグループは長男シン・ドンジュ・ロッテホールディングス前副会長と次男シン・ドンビン・ロッテグループ会長の間で繰り広げられた「兄弟の乱」で騒がしかった。その渦中にも財界は水面下でまめまめしく動いた。
サムスンはチェ・スンシル側と接触するためにパク・サンジン社長(大韓乗馬協会会長)らをドイツに送った。またこれとの関連で最近SBSとインタビューしたチェ氏の会社のドイツ法人共同代表は、「サムスンが労組問題への協力などの政府支援を約束され、チェ氏に資金を支援することにしたと聞いた」と伝えた。旧サムスン物産の持ち分11・2%を所有した国民年金公団は、エリアットのせいで合併が霧散する危機にあってサムスン側の肩を持った。
全経連など経済5団体は「簡単な解雇」を要求する緊急記者会見を行った。チェ・テウォンSKグループ会長は光復節(注)に特別赦免された。その年の秋から2016年初めまで、各企業はミル、Kスポーツ財団に数百ウォンを入金した。その年の12月、ハン・サンギュン民主労総委員長が拘束された。
2016年:絶頂
大統領は今や露骨に大企業の側に立った。1月、経済活性化法の処理を求める1千万署名運動に直接参加した。各企業に向けたミル、Kスポーツ財団の要求は2月に入って組織的に進化した。
Kスポーツ財団はSKやポスコなどをつっついて回りながら支援金とスポーツ・チームの創団を要求した。イ・ジュングン・プヨングループ会長はアン・ジョンボム前経済首席とKスポーツ財団の関係者たちが数十億ウォンの寄付を要求している席で「税務調査」へのさじ加減を請託した。
チェ・スンシル氏側は平昌冬季オリンピックの利権事業にも手を伸ばした。この過程で不協和音が生じ、チョ・ヤンホ韓進グループ会長が平昌冬季オリンピック組織委員長を辞退した。「K―カルチャベリ」に1兆ウォンを投資すると発表したCJはイ・ジェヒョン会長の特別赦免を手にした。そして去る9月、新聞「ハンギョレ」などの報道によって「パク・クネ、チェ・スンシル・ゲート」の実体が徐々に明らかになった。
政経ゆ着ドラマの結末
4年にわたったこの長編ドラマの結末は、まだ定まってはいない。「パク・クネ大統領を中心とした政治権力、チェ・スンシル、チャ・ウンテクを中心とした利権勢力、全経連と大企業という経済権力」の間で行き交った「不当取引」は我々が現在想像しているもの以上に、はるかに根深く、社会の到る所にクモの巣のように広がっているのかも知れない。
検察はサムスンと馬事会を除いた他の各企業をまだ捜索もしていない。複雑に絡まった糸の固まりが、今こそ最後のほどきが始まったが、結論は再び迷宮に陥るということもあり得る。数十年間にわたって続いた政経癒着のドラマが、はたして今度は終わるのだろうか。(「ハンギョレ21」第1137号、16年11月21日付、ファン・イェラン記者)
注 1945年8月15日、韓国が日本統治から解放されたことを記念する日。
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