激動する世界と「トランプのアメリカ」
沖縄と共に安倍政権を打倒しよう
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直ちに撤去だオスプレイ
一二月一三日午後九時半ごろ、米軍普天間基地所属の垂直離着陸機MV22オスプレイが、名護市安部の海岸に墜落した。乗員五人のうち二人が負傷したとされているが、負傷の程度はわかっていない。同じ日、別の米軍オスプレイ一機が普天間飛行場で胴体着陸するという事故も起きた。
名護市の海岸に落ちたオスプレイについて、米軍や日本政府は「不時着」だとしている。しかし写真などで見る限り、機体は大破してバラバラになって、怪我人も出ており、「不時着」ではなく墜落事故と見るのが当然である。現に米軍は事故レベルを最大の「A」ランクに置いている。しかし稲田防衛相は、パイロットは事故機をコントロールして着水させているのだから「墜落」ではないと米軍を躍起になって擁護している。
同じ日に二機のオスプレイが事故を起こしたことは、オスプレイ配備への沖縄県民の恐怖と怒り、そして高江ヘリパッド建設への抗議の闘いの正当性を改めて明らかにするものである。オスプレイが開発段階から事故が多発し構造的欠陥が指摘されていたことには、まさに十分な根拠があったことが現実をもって示された。
一二月二二日、米軍北部訓練場の一部地域の「返還式典」が日本政府の代表も参加して大々的に行われる、その直前に起こったこの事故に、改めて沖縄県民の怒りがかきたてられている。とりわけ一二月一四日、キャンプ瑞慶覧(ずけらん)に墜落事故への抗議に訪れた沖縄県の安慶田(あげた)光男副知事に対して、在沖縄米軍トップのローレンス・ニコルソン四軍調整官が「住宅地への墜落を避けたパイロットの行動は沖縄を守った。表彰ものだ」と居丈高に対応したことは、今なお「最高権力者」然と振る舞う在沖米軍の姿を浮き彫りにするものだった。
ニコルソンは記者会見でも「米軍パイロットの行動は沖縄を守った」「あれだけの損傷で着陸を試みられたのは賞賛に値する」と傲慢な脅しを乱発するありさまだった。このニコルソン四軍調整官の振る舞いに「琉球新報」(一二月一五日)は「占領意識丸出し」との大見出しで厳しく批判している。
現在、安倍政権と米軍に対して、辺野古と高江の二つの反米軍基地闘争によって最も尖鋭な対抗基軸を作り出してきた沖縄の闘いの現実がここに示されている。本紙で毎号「沖縄からの報告」を詳細に執筆している仲間は、日本国家=中央政府に対する「沖縄の自治」という観点から沖縄の闘いの現状をとらえ返す必要を提起している(本号4〜5面参照)。
われわれは、安倍政権、そしてアメリカ帝国主義に対する「島ぐるみ」の闘いが突き出している沖縄の反基地闘争を共に闘うという構えから、あらためて二〇一七年の世界と日本で、労働者民衆がどのような課題に直面しているのかを捉えてみたい。
アメリカはどこへ行く
二〇一六年の世界を印象づける出来事は、多くの人びとに大きな衝撃を持って受けとめられた六月のイギリス国民投票でのEU離脱決定、そして一一月米大統領選での、ほとんどのメディアの予測を裏切る公然たるデマゴギッシュな排外主義者ドナルド・トランプの当選だった。
イギリスでのEU離脱派の勝利、米大統領選でのトランプ当選は、今日の世界を貫く、旧来の政治的常識を超えた大きな流れをあらためてわれわれに突きつけるものだった。マスメディアが予見できなかったこと、あるいは敢えて見ようとしなかったことが、衝撃をもって否応なく現実化した。
米国とイギリスだけではない。イギリス以外のEU諸国においても、一二月に行われたオーストリアのやり直し大統領選挙では反EU・反移民の極右自由党候補が「緑の党」出身のリベラル派に接戦の末、敗退したものの、二〇一七年におけるフランス大統領選挙で極右・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペンが勝利する可能性も取りざたされている。それはソ連・東欧のスターリニスト体制の解体と新自由主義的グローバル化の歴史的産物であったEUにとっての政治的終焉を意味するだろう。
二〇一五年に続いて二〇一六年にも、ISを中心としたジハーディストのテロ作戦が、中東・アフリカ諸国、フランスなど欧州全域、中東・アフリカ諸国、アジアでも吹き荒れた。バングラデシュでは「ホームグローン」ISとも言える勢力によって、JICAのメンバーなど日本人七人も殺された。こうした状況の中で、帝国主義中枢諸国におけるレイシストの政治舞台への登場は、さらなる不安定要因、新しい緊張、そして戦乱の可能性すら作りだすものとなっている。
本紙ではこの間、第四インターナショナルの同志たちが次の世界大会に向けて進めている、討論と問題提起を紹介してきた。グローバルな資本主義的政治・経済統合の枠組が分解したことによる「地政学的カオス」と旧来の帝国主義による支配的な枠組の危機、ならびにそれがもたらすISに代表されるジハーディスト的傾向の反動的役割と、帝国主義本国におけるデマゴギッシュな極右レイシストの制度圏政治での急速な拡大の意味、そして労働者民衆のグローバルな闘いの戦略についてなどである(ピエール・ルッセ「集団的思考のための序論的ノート 地政学的カオスはわれわれに何を求めるか」本紙二〇一四年一一月一七日号、平井純一「『地政学的カオス』をめぐる討論のために」同二〇一五年一〇月一九日号〜一一月二日号、故川出勝同志の一連の論稿など)。
それはアフガン戦争・イラク戦争の失敗によるアメリカ「グローバル単独覇権」の崩壊、「気候変動」が明確にした資本主義的「成長」の限界、リーマンショックに表現された新自由主義的な資本主義グローバリゼーションの構造的危機と帝国主義大国での「国民統合」の衰退と分解、旧来の「左翼」ならびに労働者運動の衰退とレイシスト的・ファシスト的政治勢力の急成長、ロシアのクリミア併合と中国による南シナ海での領土拡張主義、そしてムスリム世界でのIS(イスラム国)に示されるジハーディスト・テロリズムの噴出やアフリカ諸国での国家的機能の事実上の崩壊と終わりのない「内戦」、欧州への難民の波などにおいて日々、直面する現実となってきた。この「カオス化」についてアメリカの政治学者イアン・ブレマは「Gゼロ」(G7もG20も秩序形成力を失った世界)と規定している。
「軍人とCEO」の政治
「トランプ現象」は決してアメリカ政治の「突然変異」ではない。そしてトランプの「アメリカ・ファースト」の宣言は、アメリカの自信の表れではない。その逆だ。それは新自由主的グローバル資本主義世界システムそれ自体の長期にわたる行き詰まりの政治的表現であり、アメリカ帝国主義が、新しい秩序の形成者たりえないことの宣言なのである。彼の言辞の余りにもストレートな「露骨」さは、やはりアメリカ帝国主義の政治的「劣化」の例証と言ってよい。
かつて二〇〇三年のイラク侵略戦争を前にして二〇〇二年九月のブッシュドクトリン(「アメリカ合衆国の国家安全保障戦略」)はこう述べていた。
「アメリカは妥協の余地のない人間の尊厳の諸要求――すなわち法の支配、国家の絶対的権力の制限、言論の自由、信仰の自由、平等な正義、女性の尊重、宗教的・エスニック的寛容、私有財産の尊重――を確固として表現しなければならない」「偉大な多民族的民主主義としてのアメリカの経験は、多くの継承遺産と信仰を持った人びとが平和に生き、繁栄することができるというわれわれの確信を確認するものである」。
トランプには、それ自身は鼻もちならないこうした「アメリカ的普遍主義」のかけらも感じられない。
現実のトランプ政権の性格がどのようなものになるかは、まだ未確定の要素が多い。しかしすでに確定したトランプの政権チームから一定の特徴を見いだすことができるだろう。
現在すでに決まっている人事で見れば、国務長官にはエクソン・モービル元CEOのレックス・ティラーソン、国防長官には元中央軍司令官でイラク・ファルージャでの虐殺作戦を指揮した「狂犬」の異名を持つジェームス・マティス、主席戦略官兼情報顧問にゴールドマン・サックス出身のスティーブン・バノン、商務長官には投資家のウイルパー・ロス、大統領補佐官・国家安全保障担当には前国防情報局長のマイケル・フリンなどである。日経新聞(二〇一六年一二月一四日)は、「安全保障」分野では前軍人、経済関係では元企業CEOクラスが目立つと評価している。経済政策の司令塔である国家経済会議(NEO)委員長もゴールドマン・サックス社長兼最高執行責任者(COO)のゲーリー・コーンだ。
注目を浴びているのは次期国務長官とされるティラーソンがプーチンと親交のある「親ロシア派」であるのに対し、トランプが自ら台湾の蔡英文総統と電話会談し、「一つの中国」の原則に異議を呈していることである。台湾への武器供与を主張し、南シナ海での中国の動きをけん制するために台湾を利用するようトランプに勧めているのもカリフォルニア大教授でトランプの外交顧問であるピーター・ナバロだという。
「アメリカ・ファースト」「強いアメリカを取り戻せ」を前面に掲げたトランプは、TPPからの離脱を政権発足後に最初に行う課題の第一に掲げた。TPPからの離脱は二国間経済協定の重視を意味し、アメリカ企業の利益を直接的に強制することにつながる。軍事力と企業利害をもろに結合した「国益第一」の圧力の強化こそ、トランプ新政権の骨格なのだが、米国がその「単独主義」的ヘゲモニーを行使しうるのかといえばきわめて否定的だと言わなければならない。
「軍人・CEO」政権と評されるトランプ新体制は、外交・軍事面では中東政策においてはシリア・アサド政権の後ろ盾となっているプーチンとの関係を強化するとともに、イスラエルのネタニヤフ体制との軍事・政治的連携をさらに強化する道を選ぶだろう。そしてトランプ新政権は、それとともにシリア・アサド政権を全面的にバックアップしているロシア・プーチン政権の中東政策を承認する方向に向かうだろう。それがトルコやサウジアラビアとの関係において重大な「自己矛盾」を引き起こす可能性について、レバノン出身の卓越した活動家・理論家であるジルベール・アシュカルが指摘している(本紙二〇一六年一一月二一日号)。
トランプは中国に対しては先述したように「一つの中国」の原則に敢えて異を唱え、台湾カードを持ち出して中国を牽制している。しかし次期中国大使となる現アイオワ州知事のテリー・ブランスタドは習近平中国国家主席との年来の親交があるとされる人物であり、トランプが敢えて「台湾カード」を切って、中国との関係に緊張をもたらすことでゆさぶりをかけ中国と取り引きする戦略が、思うように進む可能性はそれほど大きくはないと思われる。
抵抗の火、復活へ
リーマンショックを土台にして、労働者民衆の中から貧困・差別に抗する新しい「民主主義的」な政治の流れがいまだ萌芽の形ではあれ登場してきたことにもわれわれは注目してきた。
「リーマン危機」後、二〇一〇年から一一年にかけてアラブ世界で、そしてアメリカ、スペイン、ギリシャなどで青年たちを中心に繰り広げられてきた広場占拠の運動は、アラブ世界ではチュニジア、エジプトなどで独裁政権打倒の大きな奔流となった。スペインで二〇一一年五月一五日にマドリッドでスタートした「広場占拠」運動(M15)を母体に出発した運動の多くは、新しい政治組織「ポデモス」へと引き継がれた。ギリシャではリーマン危機後の失業・貧困の急速な拡大に抗するアテネ・シンタグマ広場の座り込み運動が、「黄金の夜明け」などの公然たるファシスト勢力との対決を伴いながら発展し、二〇一五年一月の総選挙ではSYRIZA(急進左翼連合)の勝利をもたらした。
われわれは今日、ギリシャ・シリザ政権の屈服に示されるように、グローバル資本主義の危機から直接的に登場した「新しい政治」の諸形態が、重大な困難に直面していることを直視しなければならないが、その可能性を清算してはならない。レイシスト的極右の「戦争・民主主義と人権の破壊そして差別・貧困と失業・環境破壊の政治」に対決するグローバルな闘いの創出を目標にした運動と政治の形成に挑戦しつづけることが必要なのである。
アメリカでも二〇一一年以後の「オキュパイ・ウォールストリート」の運動が、今回の民主党の大統領候補選で「民主的社会主義者」のサンダースを押し上げる要因となったことを忘れてはならない(ついでに言えば、自覚的に使われている「民主的社会主義」という政治概念は、日本ではかつての民社党との連想で、右翼的、あるいは社民主義と同義に捉えられる場合もあるが、英語圏ではスターリニズムと社会民主主義をともに否定する用語として使われることが多い)。
以上のことを踏まえたうえで、「トランプ」的政治、「安倍の政治」を打ち砕く流れを切り拓いていくことが求められている。
「日米同盟」はどこへ行く
安倍首相は、一一月一九日からペルーの首都リマで行われたAPEC首脳会議への参加の途上、ニューヨークのトランプタワーでトランプと約一時間半にわたって会談した。「各国首脳の中で最初に次期米大統領と会談した」という触れ込みで行われたこの会談は、一切その中身が公表されていないが、むしろトランプが次期大統領に当選してから一五時間後に約束したということの中に、安倍の不安と焦りが垣間見えるというべきだろう。リマのAPEC首脳会談が「あらゆる形の保護主義に対抗する」との決議を出した翌日の一一月二一日、トランプが大統領就任以後一〇〇日以内に進める優先政策のトップに「TPPからの離脱」を挙げたことで、安倍の淡い期待は消え失せてしまった。
安倍の外交路線の枠組は、日米同盟を基礎に「戦争法」を通じた実戦的日米共同作戦体制を対中国包囲網として形成し、その下でアジア諸国との政治・軍事・経済すべてにおける「平和と繁栄の孤」のためのイニシアティブを形成しようとすることにある。
その最もあからさまな表明は、二〇一四年五月にシンガポールで開催された第一三回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で、安倍が議長として行った基調講演の中に示されている。
同講演で安倍は、南シナ海における紛争解決のためにベトナムやフィリピンの立場を支持して、中国による「現状変更固定化」を非難するとともに、日本からのフィリピン、ベトナム、インドネシアへの新造巡視艇の供与を誇示した。また新たな「防衛装備移転原則」(すなわち武器輸出解禁)によって「日本の優れた防衛装備の提供」が可能になったと誇らしげにアピールし「ODA、自衛隊による能力構築、防衛装備協力など、日本が持つ支援メニューを組み合わせ、ASEAN諸国が海を守る能力をシームレスに支援してまいります」とにこやかに語った。すなわち安倍の「積極的平和主義」による対中包囲網へのASEAN諸国の取り込みは、同時に「武器輸出市場」の開拓でもあったのである。
「経済支援」や武器輸出と中国を意識した軍事的展開の一体化の構図は、南スーダンPKO派兵と連動した形で初めてアフリカ(ケニア)で開催された第六回アフリカ開発会議(TICAD6)でも見られたことだった。米戦略と連動した「戦争国家」化と改憲の戦略は(さらにはTPPも)、こうした国際展望と結びついていたのである。
ひび割れが広がった
安倍政権は、この構想を二〇一六年六月の大統領選で当選したフィリピンのドゥテルテ政権との関係でも適用しようとした。おりから二〇一六年七月一二日、オランダ・ハーグの国際仲裁裁判所は、南シナ海(フィリピンの呼称では西フィリピン海)の大部分が自国の管轄権に属するとして南沙諸島(スプラトリー諸島)、西沙諸島(パラセル諸島)の領有を主張していた中国の主張を拒否し、フィリピンに有利な判決を出した。
安倍は、この国際仲裁裁判所の決定を利用してドゥテルテ政権を米国が主導する対中包囲網に組み込もうとしたが、ドゥテルテはむしろ中国・習近平政権と接近し、アメリカから離反する方向に傾斜してしまった。フィリピン新政権が中国寄りの姿勢を取り、米国批判を強めていることは、安倍政権の外交戦略にとって「予定外」の穴があいてしまったことを意味する。この点から言って、「米国ファースト」のトランプ体制の登場、そしてフィリピン新政権の性格は、安倍政権の外交戦略・安保戦略にとって、そして言うまでもなく改憲戦略にとって、予想外の事態の出現を意味するものである。
一二月に予定されていた日中韓の首脳会談は、パク・クネ韓国大統領がついに政権の座から追放されることを余儀なくされる労働者・民衆の怒りの前に吹きとばざるをえなかった。
最後に、安倍首相が相当の決意と期待をもって準備し、わざわざ会談の場を安倍の故郷である山口県長門市に設定した「北方領土」をめぐるプーチンとの交渉も、プーチンの側にあっさりとかわされ、安倍にとって事実上何の得点を上げることにもならなかった。国際関係を追い風にして、強化された戦争同盟=日米安保同盟をベースに、九条改憲への道を一気に掃き清めようとしてきた、安倍外交の思惑は「空振り」に終わったと言うだけではなく、対米・対ロ、そして東アジアの近隣諸国すべてとの間で「方向喪失」に直面せざるをえなくなろうとしているのだ。
危機のスパイラル
安倍政権は、二〇一六年の参院選で改憲に必要な三分の二議席を超える議席を確保した。そして今、自民党は「二期六年」の総裁任期を延長し、二〇二〇年の東京五輪を安倍首相の下ですでに改憲を実現した体制として迎えようとする構えで臨んでいる。二〇一六年九月の臨時国会の所信表明演説を「世界一」をキーワードに「アベノミクスの加速」「一億総活躍」「地球儀俯瞰外交」などのスローガンで満たした安倍は、同演説の最後を「与野党の立場を超え、憲法審査会の議論を深めていこうではありませんか」という「呼びかけ」で締めくくった。
一見すれば、安倍自公政権の改憲戦略はすでに整えられているように見てとれる。しかし安倍政権の体制が決して盤石ではないことはすでに明らかである。
第一は、冒頭でふれた米国のトランプ政権の「米国ファースト」政策による軍事・経済戦略が引き起こす先の見えない不安定性である。言うまでもなく今日の安倍政権の改憲路線は、米国のグローバルなイニシアティブを前提にしたものである。その安定性は「トランポノミクス」「アベノミクス」の相互作用を通じて、世界経済・日本経済を新しい成長軌道に乗せることが条件となる。
「米国ファースト」のトランプの経済政策がどのように展開され、彼の「反TPP」の公約がどのように展開されるのかについて確定的なことはわからないにしても、それが世界経済全体を押し上げる「奇跡のテコ」となりえないことは明白だろう。むしろグローバルな資本主義経済の現実は、新しい破綻、恐慌を不可避とする危機の再燃、失業・貧困のスパイラルを加速させる危険性を不断に拡大させるものになっている、というべきだ。それはグローバルな資本主義システムの危機が繰り返され、社会的・地域的紐帯の解体、国内・国外への難民の流出と、深刻な暴力・紛争を拡大する要因となっていく。自民党改憲案の「緊急事態」条項は、明らかにそうした事態を射程に入れたものとなるだろう。
第二は、すでに二〇一六年臨時国会で端緒的に垣間見えたことではあるが、安倍自民党が「カジノ法」の強行にあたって、公明党内の意見対立にもかかわらず、「おおさか維新の会」と組んで採決・成立を強行したことである。この問題では民進党内でも意見の相違が明らかとなり、新しい分岐・分裂の現実性が、より切迫したものになった。蓮舫党首の党執行部体制は、この分岐を修復し得る力を持ち得ていない。
安倍自民党は、公明党と維新をてんびんにかける姿勢で、公明党に圧力をかけており、民進党にも手を突っ込みながら、改憲三分の二勢力の形成を、執行部のイニシアティブで確保すべくさまざまな工作を進めていくと思われる。
「一億総活躍」とは何か
こうした中で自民党サイドからの中心的工作は労組ナショナルセンター「連合」に向けた「働き方改革」の提案を通じて進められている。それは言うまでもなく民進党にとっても重大な圧力となっている。
安倍は二〇一六年九月の「所信表明演説」の「一億総活躍」の項において、そのカギとなるのは「働き方改革」であるとして、次のように述べた。
「子育て、介護など多様なライフスタイルと仕事を両立させるためには、長時間労働の慣行を断ち切ることが必要です。同一労働同一賃金を実現します。不合理な待遇差を是正するため、新たなガイドラインを年内を目途に策定します。必要な法改正に向けて、躊躇することなく準備を進めます。『非正規』という言葉を、皆さん、この国から一掃しようではありませんか」と。
本紙掲載のインタビューの中で、全国一般全国協特別執行委員の遠藤一郎さんは次のように述べている(本紙二〇一六年一〇月一〇日号、一〇月一七日号)。
「『一億総活躍』とは端的に、今使える労働力の総駆り出し、総動員と言っていい。……女性、高齢者、外国人の総動員に向け、法整備を含めた政策メニューが準備されているということだ」「安倍は『日本から非正規という言葉をなくす』と言った。……非正規労働者が直面している不安定で劣悪な諸条件という過酷な現実をなくすとは言っていないのだ。この豪語の裏の意味は、結局は正規をなくす、非正規と言われている労働のあり方を当たり前にするという以外ではない」「『働き方改革』は、そこで言われている長時間労働抑制含めて、あくまで今回の労基法改悪が基礎になっている。そしてその核心こそ『定額働かせ放題』という形を取った八時間労働制の破壊だ」と。
自民党・経営側は連合執行部へのどう喝をかけ、そのような形で労働組合運動の基礎を破壊しようとしているのであり、まさに「貧困・格差」そして権利剥奪の攻撃に対する闘いと結びつけた社会的反撃を作り出すことが求められている。
野党共闘と民衆運動
二〇一六年の参院選は、自民・公明をはじめとした戦争法推進・改憲容認勢力が三分の二の議席を獲得して勝利した。しかし同時に、二〇一五年の戦争法反対運動を通じて作りだされた野党と市民運動のブロック・共闘が一定の成果を得て、一人区では二〇一三年の参院選で自民党の二九勝二敗だったのが、一六年参院選では野党が一一議席を獲得した。とりわけ東北では秋田県を除く五県で野党が勝利し、沖縄では野党共闘の伊波洋一候補が自民党の現職閣僚に一〇万以上の大差で勝利し、衆参を通じて選挙区のすべてで自民党候補がゼロになるという結果になった。東電福島原発事故の被害が今日でも生々しい福島県でも自民党の現職閣僚が落選し、野党候補が勝利した。
一〇月一六日投票の新潟県知事選でも参院選での勝利を引き継いで、柏崎・刈羽原発再稼働反対を掲げた新人の米山候補が大差の当選を勝ち取った。これらの成果とは対照的に、七月都知事選で、野党共闘の鳥越俊太郎候補が惨敗を喫したことは、重要な総括が必要な事態だった。
現在、民進党執行部と連合指導部は、共産党をふくむ選挙での共闘を事実上ボイコットする傾向を強めている。労働者・市民はこのような動きに反対し、共同のための努力をさらに進めていくべきである。われわれは、複雑な現実を見極めながら、安倍政権による改憲と海外派兵を阻止し、戦争国家に向けた全面的な攻撃、国家・社会の作り変えに反撃する共同の戦線を柔軟で、かつ効果的な形を取りながら築き上げていく努力を選挙でも大衆運動の現場でも放棄してはならない。改憲・戦争国家に向かうブロックに抗して、保守リベラルを含む共同を作り出してきた戦争法案反対の行動を、清算すべきではないし、いまどのような行動が可能かつ必要であるのかの討論を持続することが求められている。
とりわけ「本土」政府からの過酷な弾圧に直面している沖縄の反基地「島ぐるみ闘争」を支援し現地に結集する行動、そして福島の原発被災者の切り捨てに抗して全面的な補償を要求し、原発再稼働・原発輸出に反対する共同の闘いを原発立地と連携して拡大することが今こそ決定的に重要である。破綻した「核燃料サイクル」計画にしがみつく自民党を糾弾しよう。
天皇制と東京五輪を撃つ
いま改憲阻止をめざす広範な共同を作り出すための努力の中で、われわれが絶対にゆるがせにできない闘いの一つが明仁天皇の「生前退位」=代替わりの意向表明をめぐって現実化した「新しいXデー」問題である。明仁天皇の8・8「生前退位」メッセージは、きわめて意識的に仕組まれた明らかに憲法違反の政治的行為であった。それは「象徴」としての「公的行為」というそれ自体憲法に違反する行動を拡大してきたあり方をあからさまに正当化し、またそうした違憲の行為を通じて、天皇自らが天皇の存在と政治的役割を憲法上に規定しようとする意味を持っている。
天皇自身が二〇一八年を区切りとして求めている「生前退位」について「有識者会議」によるヒアリングが行われ、天皇主義右翼の「専門家」の中でも意見が大きく分かれているが、「一代限りの特例法」による「生前退位」を認めるという案が浮上していると報じられている。われわれは改憲が安倍政権によって具体的に日程に上げられようとしているこの時期にキャンペーンされているこうした動きを批判し、あらためて「天皇制はいらない」の訴えを広げていくべきである。
また、二〇二〇年の東京オリンピックに対して、圧倒的な「オリンピック翼賛」運動が繰り広げられていく中で、「オリンピックおことわり」の運動がスタートしようとしている。
「オリンピックと国家主義」「オリンピックと社会的排除」「祝祭とファシズム・戦争」などさまざまなテーマでオリンピック批判の運動を進めていくことは、安倍政権の改憲キャンペーンに対峙していく上で避けて通ることができないことを確認しよう。
われわれは、一般論としての「反資本主義左翼」の必要性を語るのではなく、こうした闘いの多様で、共同した取り組みの中からこそ反資本主義左翼を形成する共同の目標をしぼりあげていこうとするだろう。ロシア十月革命から百年の二〇一七年、共に新しい前進へ踏み出そう。(平井純一)
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