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    かけはし2012.年6月4日号

欧州を貫く労働者階級の闘争へ

ギリシャ

五月六日の選挙、次は何か

ワイマール共和国的力学の中
で資本との衝突回避は不可能

アンドレアス・クロケ

五月月六日のギリシャ総選挙結果を受けて、左翼は国際的に大きな関心をもって今起きていることを注視している。以下に、第四インターナショナル(FI)ギリシャ支部のOKDE――スパルタコス並びにANTARSYAのメンバーであるアンドレアス・クロケによる結果分析の論文、二〇〇一年のアルゼンチンと比較したエリック・トゥサンの論文、そしてFIイギリス支部のソーシャリスト・レジスタンスによる編集部声明を紹介する。(「インターナショナルビューポイント」二〇一二年五月号、IV編集部)

メモランダ政策への完全な拒絶


 ギリシャ議会選は、政治的地勢に地震のような変革をもたらし、保守の新民主党(ND)と社会民主主義のPASOKによる「二党支配」の終焉に導いた。二〇〇九年の選挙と比べた場合、支配政党のPASOKは四三・九%から一三・二%へと落ち込み、現在は最強政党であるNDは一八・九%を勝ち取った(二〇〇九年:三三・五%)。他方SYRIZA(急進左翼連合)は、四・六%から一六・八%へと伸長し第二党となった。NDから分裂し二〇一二年二月に創立された右翼民族主義のP・カメノス率いる「独立ギリシャ人」はメモランダ政策支持を拒否する一政党だが、一〇・六%の得票率をもって第四位にある。これまで左翼最強政党であったギリシャ共産党(KKE)は八・五%(二〇〇九年:七・五%)だった。ヒトラーの復古的心酔者であるネオナチちんぴら集団の「黄金の夜明け」は、確かに今回の選挙で本物の「大もうけ」に浴したと言えるが、七・〇%(四四・一万票、二〇〇九年:〇・三%)を獲得した。「民主的左翼」(DIMAR)は、六・一%をもって七位となった。DIMARは、二〇一〇年創立、ユーロコミュニズムに起源をもつ左翼改良主義の、かつSYRIZA主要政党であるSYN(シナスピスモス)から右に分裂した組織だ。
 極右のLAOSは得票率二・九%(二〇〇九年:五・六%)で議席獲得に至らなかった。議席獲得要件得票率が三%だからだ。同じことが二・九%(二〇〇九年:二・五%)を得た「グリーンエコロジスト」、および三つの右派新自由主義勢力、つまり「民主連合」(DISI、二・六%)、「ディモウルギア・クサナ」(二・二%)、「行動」(一・八%)に起きた。基本的に約一〇の反資本主義革命組織の連合であるANTARSYA(「転覆をめざす反資本主義左翼連合」)は一・二%(七万五〇〇〇票以上、二〇〇九年:〇・三六%)、二つのML組織の連合は〇・三%、自称トロツキストのEEKは〇・一%、という結果だった。
 投じられた有効票の割合は六二・七%(二〇〇九年には六八・九%、二〇〇七年には七二・一%)となり、再度かつて以上にはっきり低下した。そしてそれは、軍事独裁体制崩壊後に一九七四年に設立された議会制民主主義に対する、ギリシャ民衆の中における受容感覚の低下の一指標を提供するものでもある。
 この選挙結果は、メモランダ政策に対する完全な拒絶を明確な有権者多数によって表現するものだ。そのことに疑いはまったくない。一方、広い意味における左翼の割合は、三四%へと(エコロジストも数えれば三七%まで)上昇している。他方、「反メモランダ」――陣営は全部合算して約六〇%に達した。左翼の極めて良好な結果の要因は、確実に、過去二年のゼネストに、特にいくつもの大動員と広場占拠、とりわけ二〇一〇年五月から昨年七月にいたるシンタグマ広場の占拠、一〇月一二――一三日の大ゼネスト、今年二月一二日におけるアテネだけでも五〇万人をはるかに超えた大衆的抗議など、これらに求められなければならない。つまりその要因は、メモランダ政策反対に直接向けられた、特に二〇一〇年五月から二〇一二年二月の強力な運動だ。

「統治不可能性」が意味するもの

 この選挙結果と結びついた一つの重大問題は、国の「統治不可能性」、すなわち、「民主的な」連立政権という見せかけの下でメモランダ政策を継続することの重大な諸困難、として知られている。ギリシャの指導者たちは、それだけではなくシステム迎合的なメディアも、欧州(いつものように特にドイツ)と共に、ギリシャを軌道上に留め、メモランダ奴隷制を、つまり国内外の資本の抑制のない支配を強める形におけるギリシャ社会の破壊と略奪を確実にしようとする、ある種興奮した宣伝キャンペーンに乗り出した。ユーロ圏からのギリシャ追い出し要求はその声を一層大きくしつつある。
 選挙の好成績の故に、SYRIZA指導部はA・チプラスの下で、鍵となる役割を演じつつある。選挙運動期間中左翼諸党の考えは全体として、「非現実主義的」、「高度に危険」、「破局的」と性格付けられた。しかし選挙後机はひっくり返され、SYRIZAは「責任感覚を身につける」よう、ND、PASOK、DIMARと共に「挙国一致政権」に参加するよう求められた。このような政権に奉仕する気のあったDIMAR指導部は、特にまずい役割を演じた。しかし結局この党は、選挙の諸結果を前に、SYRIZAの同意がないままそうする勇気はなかった。新政権形成をめぐる一日かけた口論が始まったが、それも結果のないまま終わった。それゆえ、選挙第二幕が六月一七日に設定された。現在の世論調査によればSYRIZAには、二〇%を楽に超え最強の党となる、こうしてまた議会に五〇議席という「ボーナス」(全議席三〇〇の内)を確保する、有望な見通しがある。この全面的に非民主的な議席割り当て方式は、最低でもNDとPASOKの連立政権に対して多数を可能とするために、特別に選挙法に組み込まれた。しかしそれは、両党合わせても一四九議席しか確保しなかった以上、機能しなかった。
 SYRIZAが左翼の第一勢力となったということは偶然ではない。それを否定することなど決してできない。この党が選挙期間中、たとえばKKEに圧力をかけるため一つの「左翼政府」について語ったが故に、またメモランダ政策拒否にもかかわらずユーロ圏からの撤退を支持していないが故にも、人々はこの党に大量に投票した。ここにはある程度、抵抗運動の停滞あるいは弱さが反映されている。それらは二月以来見えるものとなり、政府の政策における原理的な変更は議会多数派の変更を通して達成可能だという、どちらかと言えば漠然とした希望の高まりを引き起こした。SYRIZA指導部は、その選挙公約のあいまいさの故に、二つの方角からの攻撃の下に置かれつつある。すなわち第一に既成勢力は、ギリシャを確実にユーロ圏に留めるために、あるいはその意図のあり得る破綻に対する責任をSYRIZAに着せるためにあらゆることをやることで、SYRIZAを間断なく悩ませることができる。他方で、SYRIZA指導部のさまざまな公約には首尾一貫性がなく矛盾がある、と正しく指摘する左翼に立脚する批判がある。緊縮政策の取り止めを、次いでギリシャ社会のいわば絞殺に導きつつあるトロイカと合意した借り入れ協定の廃止を、ギリシャ左翼政権が、それがたとえば生まれたとして、ユーロ圏からの離脱あるいは排除なしに成し遂げ得る、このようなことは事実上信じがたい。

左翼諸派およびわれわれの方針


 すなわち、ギリシャ、EU、米国の金融資本と大企業の利益との直接的衝突に入り込まない、その一方で労働者階級とメモランダの犠牲者すべてに利益となる、そのような首尾一貫した「政治改革」は、ほとんどまったく実践可能とは思えない。SYRIZA指導部は、この不可避的な衝突、加害者とその犠牲者の、搾取者と被搾取者の共通点がない利益の間の衝突を、政治的に指揮する準備はまったくできていない。しかし彼らは、あれやこれやの形でそのカードを机の上に置かざるを得ないだろう。SYRIZAは、(今までのところでは)議会外左翼潮流の「半トロツキスト」諸組織といくつかの「半スターリニスト」組織の連合であり、シナスピスモス指導部によって支配されている。この指導部が決めてかかっていることは以下のことだ。つまり、世界資本主義の危機という諸問題は、しかしまたギリシャ社会の危機も、資本主義の搾取システムの枠組み内部で、「ケインズ主義的」手段を用いて解決できる、ということだ。この展望の中で社会主義は最良でも、遠い目標であり、「全欧州」レベルなどでのみ到達可能だ。その「急進的な」名前にもかかわらずSYRIZAは、たとえばドイツ「左翼党」よりもいくつかの細部で左にあるとはいえ、限定された改革に向けられた連合だ。メモランダ政策に関して、チプラスがフランス大統領のF・オランドと討論し彼との協定にできればこぎ着けたいと思っていることは、確実にいい兆候ではない。現在の社会政治情勢の爆発的性格は、SYRIZA指導部の政策にある諸矛盾を不可避的に明確化することとなるだろう。継続的な貧困化を終わらせるという大多数の願いはあまりに強く、この必要を実のある反資本主義的な(終局的には革命的な)方向で実行する点での、SYRIZA指導部の現在の意志と能力はあまりに弱い。
 KKE指導部は、選挙結果が非常に有利とはならなかったが故に、自身をかつて以上にSYRIZAおよび残りの左翼から孤立させると決定した。この姿勢の問題点は、この戦略と戦術がうまくいくかもしれないということを彼ら自身の基盤に納得させることがますます難しくなっている、ということだ。KKE指導部は、下からの大衆動員による、また運動それ自身によるメモランダ政策の転覆、などということは決してないだろう、このように多少とも公然と見ている。こうして彼らは、いわば未来の「人民経済」と「人民民主主義」に顔を向けている。しかし彼らは、明らかに見える所にあるわけではない何ものか、つまりKKE票の突然の大量増大を手段としないのであれば、それがどのようにすれば達成可能なのかを説明できないのだ。全面的に言葉だけで宣言されている目標、特に資本主義と帝国主義の打倒をいかにすれば強制できるか、それは依然党指導部の秘法に留まっている。予見可能なことは、党自身が危機にとらえられる可能性があるということであり、そこではより大きな軋轢含みの後退へと早晩行き着くかもしれない。
 ANTARSYAの結果は驚くほどよいものではなかったが、堅実なものだった。この勢力は、ストライキ、占拠、大衆的抗議、メモランダ政策の犠牲者すべての、労働者、若者、年金生活者、また部分的に「不法」移民の自己組織など、これらを貫く社会的抵抗の重要性を選挙運動の中心に置いた、そのような左翼の主要勢力だった。ANTARSYAは、現実性のある過渡的回答の綱領に基づく宣伝を通して、また現存政治社会システムの反資本主義的で革命的な転覆という展望をあくまで支持することによって、社会的抵抗がいかに勝利できるかの道を示した。その回答は、住民の大多数の実際の必要に適合させられ、それらの人々の自己組織に的が絞られている。
 ANTARSYAは、過去二年間のより首尾一貫した政治を通して、地方委員会その他のより大きな統一、もっと量が多く良質な活動を通して、さらに良好な結果に達する可能性があった。しかし、主に投票日前一週間における議会変革という圧倒的なムードをひっくり返すことはほとんどあり得ないものだった。選挙前の「左翼政権」というスローガンが漠然としたものであり、今なおそうであり続けている以上、そのような希望に燃料を送らないということは基本的に正しかった。しかしANTARSYAは、一定の諸条件の下で、左翼政権を批判的に支持する声明を提起することは可能だったかもしれない。これまでそれは現実になされていない。結局のところANTARSYAの基本的な政治的かつ綱領的方向は、正しく保たれている。

ファシズムの危険への準備を

 何十年にもわたる大衆メディアの中での、また悪意ある政府の人種主義並びに当局の人種主義的諸政策を通しての人種主義扇動と排外主義が、ギリシャにおけるファシズム異常発生の広がりに責任がある。そしてこの異常発生は、一九三三年以前のドイツナチス党の進路に沿って大衆運動に転換されることから、ほんの一歩離れているにすぎない。しかし、左翼と労働者運動の政党並びに諸組織のしらけと無頓着もまた、ナチズム徒党の台頭に大いに寄与してきた。そしてこの責任は極めて深刻だ。この惨劇を呼ぶ傾向を緊急に逆転させることが必要だ。ギリシャにはおそらく、左翼政権という幽霊が出現したのかもしれない。しかしもっと深刻なことは、社会的、政治的諸条件のワイマール共和国的方向への漂流だ。ギリシャ資本主義とそのブルジョア民主主義は、魔女の徘徊する夜半を呼び出した。(二〇一二年五月一六日)

▼筆者は、OKDE――スパルタコスの指導部メンバー。

ANTARSYAの声明(抜粋)

労働者の闘争基礎に生活再建を
ユーロ圏とEUからの離脱を!


 「左翼はその目標として、破壊力のある政治的かつ社会的運動による政治権力と政府権力の奪取を掲げなければならない。この目標は、民衆権力と労働者管理の諸制度、および現代的な革命戦略と政府権力問題の結合を通して、それ自身の権力と政権を強要し得る労働者と民衆の運動を通じる資本主義と帝国主義との断絶によって、達成可能となる」。
 「ANTARSYAの影響力は結局のところ、『左翼政権』という議会主義的幻想によって限定された。その幻想は、反乱を必要としない対立のない即時の解決に導くかもしれないというものだ。そうであっても、ユーロ圏からの離脱、EUからの分離なしに、またメモランダと危機を作り出したシステムとの完全な断絶なしに、『反メモランダ』に単純に向けられた回答をもって最も緊急かつ即時的な社会問題に立ち向かうことは可能ではない、ということを広範な民衆層に納得させる努力を続けることが必要だろう。貸し手と資本との衝突という進路は、たやすい道ではないし、『左翼政権』がわれわれに与えるかもしれないたやすい勝利でもなく、それは困難で骨の折れる戦闘、労働者の大衆的な闘争機関の発展を要する階級闘争の極致であるだろう。『反資本主義的革命』の綱領と社会主義と共産主義の展望の現代的形態という基礎の上で、急進化の歩みにある全戦士と彼らの諸闘争を結び付ける努力を続けることが必要だろう」。
 「民衆の広範な層がものごとを自己の手中に握ることが必要だろう。それは、後退を避け、偉大な諸闘争と五月六日の結果から生まれた成果の道を進み、政治的な労働者と草の根の運動を発展させ、メモランダと借り入れ協定とすべての関連法の廃止のために闘い、賃金と年金をまともな水準にまで引き上げ、解雇の禁止を強要するためだ。これ以上の私有化すべては阻止されるべきであり、すでに実施されたものは逆転されなければならない。われわれは、戦略的重要性をもつ大企業と銀行の、労働者管理の下での国有化を要求しなければならない。教育と保健に対する支出は増大されなければならない。『われわれは払わない』という市民不服従運動は、人頭税や使用税その他の最終的廃止を求める運動は、支援されなければならない。反労働者方向のEU決定に対する抵抗と反抗は強化されるべきであり、労組官僚機構を超えた自己組織機関を強化することによる、財政パッケージ法の取り消し、ユーロ圏とEUからの離脱が要求され組織されるべきである」。
 「ANTARSYAは、システムとの断絶と攻撃に対する防衛をめざす戦線を直ちに構築し、諸闘争の強化と共に即座に進むという提案を保持する。労働者の闘争機関は発展させられ支援されなければならない。この方向に可能な限り早期に活動を高めるべく、先の呼びかけは左翼の全勢力に提起されている」。
 「ANTARSYAは同時に、ファシストの脅威並びに移民と運動の活動家に対して向けられる『黄金の夜明け』の犯罪的な活動に対決する、左翼と労働者運動の幅広い統一戦線の創出を押し進める。その社会的基盤を崩すために、『黄金の夜明け』のシステムと深く親和的かつ反動的な性格、EUとメモランダに対するその密着、そのナチズム的心性とでたらめなポピュリズム的言い草を暴き出すことに狙いを定めた働きかけを発展させることが必要だ。労働者運動と左翼(KKEとSYRIZAを含んで)の社会組織と政治組織すべての側での、中央と地方双方における、ファシストの脅威に対処する共通の取り組みをめざし、ANTARSYAは即座に率先した動きを作り出すだろう」。
 「われわれは、反資本主義左翼の戦線の必要な道に沿って進むつもりだ。そして、システムとの断絶とその転覆を支持することを選択するすべての勢力と戦士たちに、開けっぴろげに討論し、共同で行動し、選挙で協力することを訴える。同時にわれわれは、主要には運動の中での闘いによって、しかしまた次の選挙の中で、ANTARSYAのさらなる強化のために闘いを継続する」。

 


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