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                          かけはし2002.9.30号より

ブッシュ政権のイラク侵略戦争を阻止する大衆的闘いを!

小泉政権の戦争協力エスカレート許すな


 九月二十日、アメリカのブッシュ政権は包括的な対外政策文書である「米国の国家安全保障戦略」(以下「米安保戦略」)を発表した。ブッシュ政権になって初めての「安保戦略」文書である。ブッシュの「米安保戦略」は、「9・11」以後の「対テロ・グローバル」戦争の発動を受けて、その侵略的・単独覇権主義的な「先制攻撃」戦略をより明確にしたものになった。それは、今年一月のブッシュの「年頭教書」演説や、八月の国防総省「国防報告」の延長上にあるものだが、対イラク全面戦争に突進するブッシュ政権の「決意」をあらためて表明するものになっている。
 「米安保戦略」は、第一に「テロ組織と、大量破壊兵器を手に入れるか、使おうとするテロ国家」を当面の焦点とし、「米国は国際社会の支援を得る努力は続けるが、必要であれば先制攻撃による自衛権行使の単独行動を行う」と宣言する。「国際法」や「国連決議」などの枠組みによって「正当化」されなくても、アメリカは独自の国家的判断によって戦争を起こす、と主張しているのだ。「国際法」「国連決議」をおおっぴらに無視するこの立場は、アメリカの世界的覇権の邪魔になる存在は戦争を一方的に仕掛けて叩きつぶすというものであり、まさにアメリカこそが最悪の「テロリスト国家」「ならず者国家」であることを自己証明するものである。
 第二に、「イラクは核兵器の保有をめざしている。北朝鮮は、世界の弾道ミサイルの主要な供給源となっている」と決めつけ、「大量破壊兵器は、それが使用される前に阻止しなければならない。ならず者国家とテロリストに対して、米国はこれまでのように受け身の対応に頼ることはできない」と述べる。「テロ支援国家」に対して「攻撃は最大の防御」とするこの立場は、イラクへの戦争宣言であり、サダム・フセインの打倒宣言であるとともに、北朝鮮の金正日独裁体制を「先制攻撃」でどう喝することによって、そのいっそうの屈服をひきだそうとする企図をはっきりと示すものである。
 「米安保戦略」は第三に、「米国をしのいだり並んだりしようと期待して軍事力を増強することを思いとどまらせるに十分な力を持たなければならない」と述べる。これは、明らかに中国を「潜在的敵国」として見据え、アメリカが将来にわたって世界唯一の「秩序形成国家」であるために軍事力の絶対的優位を確保し続けなければならない、とする意図の表明である。対イラク全面戦争とサダム・フセイン体制の一掃は、アメリカに対抗しうるパワーを備えた「潜在的敵国」の台頭を抑え込み、「同盟国」がアメリカの帝国主義的秩序から離反する兆しを前もって牽制するためにも不可欠、というわけである。
 その意味で、対イラク戦争がたんにブッシュ政権のみならずアメリカ帝国主義総体の長期的な戦略的利害をかけた避けがたい決断であることが、この「米安保戦略」から明瞭に読み取れるのである。
 「9・11」一周年の翌日の十二日、国連総会で行われたブッシュ演説は、「イラクが一貫して一九九一年の国連安保理決議を裏切り、大量破壊兵器を蓄積し、テロリストを支援してきた」ことを強調し、「イラクに責任を取らせる」ための武力行使の必要性を訴えた。その一方で、「国連加盟国の協調関係」や「わが国は、国連安保理の新たな決議に基づいて行動するだろう」という文言を組み入れることで、対イラク戦争を正当化するためには「新たな国連決議の必要性」を主張するアナン事務総長や、アメリカの単独武力行使に危惧を表明するフランス、ロシアなどの主張との折り合いをつけようとした。
 九月十六日発売の米「ニューズウィーク」誌は、「必要な諸決議の実現に向け、国連安保理と協力する」という一文が、「国際協調」の建前にこだわるパウエル国務長官やブレア英首相の説得によって直前に挿入されたものであることを明らかにしている。
 しかしアメリカの対イラク戦争にかけた思惑が、「国連を通じた国際協力」ではなく、アメリカとそれに歩調を合わせたイギリスなど一部の同盟国による国連の枠組みにとらわれない武力行使にあることははっきりしている。
 それは、九月十六日にイラク政府が「査察の無条件受け入れ」を表明した時、ブッシュ政権が「受け入れは戦術に過ぎない」として無視する姿勢を取っていることにも示されている。国連安保理はこのイラクによる「無条件査察受け入れ表明」を受けて九月十九日に査察再開協議を行った。国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス委員長はすでに査察準備のためイラクとの実務協議を始めている。ロシア、ドイツ、中国などはイラクの「査察受け入れ」を歓迎したが、米英両国政府はこうした「査察協議」の進展を無視し、イラクへの戦争を容認する新たな安保理決議草案を作成するために躍起になっている。そして、かりにこの「安保理決議」が承認されない場合でも、ブッシュ政権は全面戦争に突き進む体制を着々と整えているのだ。
 九月十七日のロイター通信の報道によれば、米国防総省はインド洋の英領ディエゴガルシアにB2ステルス爆撃機6機を配備することでイギリスとの協議に入っており、そのための特殊格納庫の建設を求めている。いままでB2機は米本土のミズーリ州の基地以外に常駐したことはなく、アフガン爆撃の際にも大西洋を超えてアメリカからアフガンに直接飛来したのであるが、今回初めて海外基地に配備されることでイラクとの距離は半分に短縮される。同報道はまたフロリダ州にある米中東軍司令部のスタッフ六百人と支援兵力四百人がペルシャ湾岸のカタールに移動する計画も進行中だという。
 九月十九日、ブッシュはイラクに対する武力行使を容認する上下両院合同決議草案を米連邦議会に提出した。草案は「武力を含むあらゆる手段の行使」を認めるものであり、この決議が可決されればブッシュはいつでも軍事攻撃に踏み切る決断を下せる。草案提出の背景説明をした米政府高官は、ブッシュ大統領が求めているのは「最大限の柔軟性」であり、米国独自の軍事行動の権利は今後の国連などの動向によって左右されるものではない、と強調した。同草案の採択は、十一月五日投票の米中間選挙に向けた議会休会の前に行われるとされている。
 また九月二十一日のニューヨーク・タイムズは、すでに九月十二日の国連演説の数日前に、ブッシュは米中東軍のフランクス司令官から複数の詳細なイラク攻撃作戦計画の提出を受けていたと報じている。
 「フセイン打倒」を掲げた非道きわまる対イラク侵略戦争は、すでに日程に上っている。ラムズフェルド米国防長官は九月二十二日、「イラクを軍事攻撃する場合には、標的をフセイン大統領の政権基盤に絞り、一般国民に被害を及ぼさないよう努める」との偽善的でシニカルな言葉を吐いた。「一般国民に被害を及ぼさない」だって? 湾岸戦争で米軍が使用した劣化ウラン弾や、その後の経済制裁によって百万人をはるかに超える人びとが死んでおり、その数は今日もなお増加し続けている(昨年十二月にイラクの国連代表が提出した書簡によれば一九九〇年八月以後、経済制裁の影響で亡くなった人びとの数は百六十万人だが、その中には劣化ウラン弾の放射能被害によって先天性の障害をもって生まれ、すぐ死んでいく赤ん坊の数は含まれていない)。そして犠牲者の多くは子どもたちなのだ。
 こうした戦争犯罪をただちにやめさせなければならない。イラクへの経済制裁をただちに中止せよ!
 小泉首相はブッシュ大統領の会談で「戦争には大義名分が必要」「気持ちは分かるが我慢が大事」と語った、という。しかしこれはマスコミが報じるように「ブッシュに慎重さを求めた」と評価されるべきものではない。小泉は、ブッシュの「大義名分」を掲げた対イラク戦争に追随する方向に大きく傾斜している。「カネだけ出して部隊を派遣しなかった」という湾岸戦争時の政府・官僚たちのトラウマが、小泉政権にまとわりついている。
 実際、小泉政府の閣僚は、対イラク戦争が起こった場合には「何らかの新しい協力措置が必要」という主張を繰り返している。それが現行「テロ対策特措法」の拡大解釈という形を取るのか、新規の立法なのか、あるいはアフガニスタン駐留の米軍の穴を埋める形でのアフガニスタンへの自衛隊陸上兵力の派兵という形をとるのか――いずれにしても、小泉政権はアメリカとの軍事協力のエスカレーションを突きつけられている。
 おりしもイスラエルのシャロン政権は、パレスチナ自治政府の議長府を包囲してアラファト議長を監禁し、議長府に立てこもっているとされる「テロ容疑手配者」を議長府の建物を爆破しても逮捕するという、新しい侵略・虐殺の拡大に踏み込んでいる。シャロンによる軍事攻撃の激化が、ブッシュの対イラク戦争と緊密に連動したものであることは言うまでもない。
 われわれは訴える。ブッシュのイラク侵略戦争を阻止する闘いを全国で拡大しよう。十月六日、「戦争反対、有事法制を廃案に! 市民緊急行動」の発足シンポジウム(午後1時半、全水道会館)が開催される。十月七日には八月二十九日から九月一日までフィリピンで開催されたアジア平和連合(APA)設立会議で確認された「アメリカの戦争に反対するアジア民衆行動」(APAW)の一環として、米大使館抗議行動(午後2時)と集会・デモ(午後6時半、渋谷・宮下公園)が行われる。
 十月六日、七日の集会・行動を成功させ、新たな戦争協力や有事法制反対の闘いと結び付けて、イラクへの侵略戦争を阻むキャンペーンを作り上げよう。(9月24日)(平井純一)    

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