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動揺を繰り返す極右国家主義内閣             かけはし2007.1.29号

安倍政権の分解は加速する

憲法改悪・米軍再編に反対し波状的な国会行動のうねりを


最重点課題は
改憲手続き法

 一月二十五日から始まる第166通常国会に向けて、一月十七日に開催された自民党定期大会で、安倍首相は「立党の精神に立ち返って憲法改正に取り組む」と重点政策の冒頭に改憲問題を取り上げ、「国の骨格、国の形を示すものは憲法だ」と、改めて今年を憲法改悪の実現に向けた決定的な一年とすることを強調した。
 安倍はそのために「通常国会ににおいて手続き法である国民投票法案について各党との協議が進んでいくことを期待したい」と述べ、今国会の最重点法案が改憲手続き法案であることを打ち出したのである。それを受けて中川秀直自民党幹事長は、五月三日の憲法記念日までに同法案を成立させるというアドバルーンを上げ、与党の決意を促すとともに、民主党を牽制し「野党共闘」の分断をもくろんでいる。
 同時に安倍は、ブッシュ政権の二万二千人に上る新たなイラク増派が「同盟国」をふくむ諸外国だけではなく、共和党内からさえも反発が噴出するなど米国内でも大きな批判を引き起こしている状況の中で、あくまでブッシュを支える決意を内外に示した。
 一月九日に防衛省が発足した。海外派兵を「本務」とする自衛隊の「外征軍」化という成果を引っさげて、安倍は、首相として初めてNATO本部を訪問して同理事会で演説し、NATOとの戦略的連携の下に「自衛隊の海外派兵をためらわない」とのアピールを行ったのである。これは防衛相や外相をNATO閣僚会議に出席させるとともに、NATOがアフガニスタンで行っている「地域復興チーム」(PRT)に人員を派遣するという宣言でもあった。現在、インド洋で海上自衛隊が行っている多国籍軍への支援活動のみならず、泥沼化の度合いをさらに深めているアフガニスタン国内でもNATOとの連携の下に、「人道的支援」の名目で自衛隊員をふくむ「人的貢献」を進めようというのである。

札束でほっぺた
を叩く米軍再編

 安倍は「米軍再編」という名のグローバル戦争に向けた「対米従属」的日米軍事一体化の遂行に向けた一連の法案を成立させようとしている。日本版NSC(国家安全保障会議)設置法案も、「対テロ」戦争の一角に能動的に参加するためのものだ。
 今国会で安倍政権が上程・成立させようとしている「米軍再編法案」は在沖米海兵隊のグアム移転に伴う予算措置と「駐留軍等再編円滑実施特別措置法案」のセットである。「駐留軍等再編円滑実施特別措置法案」は、沖縄の名護市辺野古への新基地建設、厚木基地の空母艦載機の岩国移転、嘉手納のF15戦闘機訓練の本土移転などを実現するために、関連自治体への交付金を拡充するというものだ。
 そこでは「再編計画受け入れ」「環境影響評価の着手」「施設整備の着工」「工事完了・運用開始」の四段階に分けて上積みが行われ、公共事業の国負担割合を沖縄県内で最大九五%とするとともに、沖縄以外でも通常三三〜五〇%の公共事業の交付金、補助金の負担割合を最大九〇%にまで拡充し、財政事情が悪い自治体の起債も財政投融資で引き受けるなどの「特別配慮」をすることが盛り込まれている。つまり、財政破綻にあえぐ地方自治体に米軍移転の負担と代償にカネを与えるという、まさに札束でほっぺたを引っぱたいて、米軍再編を認めさせるという露骨な政策だ。

危機におちい
る「官邸機能」

 しかし安倍政権は、本紙でも指摘してきたように、小泉首相の「靖国参拝」強行で行き詰まった対中・対韓関係の手直しを進めながら、その政策展開能力において重大な弱点を早くも露呈している。
 政府税調の会長に就任した本間正明のスキャンダルによる辞任に始まり、昨年十二月二十八日には佐田行革担当相が金銭問題で辞任した。さらに松岡農水相、伊吹文科相らの「事務所費」問題が続出している。通常国会での提出を明言していた不払い残業強制=「過労死」促進法案としての「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入も、四月全国自治体選挙や参院選を前にして「格差社会」問題が前面に出ることを恐れた政府・与党は「国民の理解が得られていない」として見送ることになった。
 与党内では参院選対策として、「最低賃金引き上げ」と「残業代割増率の引き上げ」法案を提出しようという動きもあるが、厚労省や財界は「ホワイトカラー・エグゼンプションと最低賃金や残業代割増率の引き上げはセットだ」と強調し、これに抵抗している。「官邸主導」で与党内の「抵抗」を押し切るという小泉内閣の手法は、「道路特定財源の見直し」で見られたのと同様に、安倍内閣の下ではことごとく挫折を余儀なくされている。

支持率は急速に
低下している

 安倍政権は、小泉政権の五年間が作りだした新自由主義的「構造改革」による「格差社会」の現実と東アジア外交の破綻に直撃されている。極右国家主義で固めた安倍政権は、しかしその統治能力の弱体さをさらけ出して、発足当初の七割近い高支持率からわずか数カ月のうちに急カーブを描いた支持率の低下に悩んでいる。一月二十日、二十一日の両日に朝日新聞が実施した全国世論調査によれば安倍政権の支持率はついに四割を切り三九%になった(朝日新聞、1月23日。前回の06年12月の調査では支持率46%)。それは安倍個人の資質もさることながら、本質的には小泉―安倍政権が依拠してきたブッシュの先制的「対テロ」戦争の完全な敗北と、新自由主義的グローバリゼーションの構造的危機に起因している。
 一月二十一日の宮崎県知事選での、保守の分裂、タレントのそのまんま東の圧勝と与党支持候補の完敗は、保守の絶対的基盤である地域でも旧来の政党集票構造が崩壊している現実をあらためて示した。この結果は、四月統一自治体選や七月参院選でも一定の影響を与えざるをえないだろう。小泉前首相は、この旧来の政党支持基盤の解体・流動化をパフォーマンス政治によって自らの支持へと転化することに成功したが、党内派閥「調整型」手法に依拠せざるをえない安倍にそれは望めない。「改憲」を正面に掲げた安倍・自民党の方針は、「ポスト安倍」をにらんだ自民党内各派閥に上からタガをはめるための方策でもある。

右往左往する
民主党執行部

 しかし最大野党の民主党は、青息吐息状態の安倍政権を追撃する気構えも体制もない。前掲朝日新聞の世論調査では、「民主党は野党第一党の役割を果たしているか」という問いに六九%もの人びとが「果たしていない」と答えた(民主支持層では76%)。
 松岡農水相や伊吹文科相と同様の「事務所費問題」は小沢代表をはじめとする民主党幹部をも直撃している。教基法改悪案審議の最終局面で「野党共闘」を崩し、「問責決議案」に同調しなかった民主党の背信は、同党が教育基本法改悪に本質的には賛成であったことに最大の理由があった。民主党は防衛庁の省昇格法案にも賛成した。そして安倍政権による「集団的自衛権」発動の容認にも基本的に賛成の立場である。
 今国会の最重要法案の一つである改憲手続き法案についても、枝野・党憲法調査会長をはじめとして自民党との間の合意はほぼ達成されている。こうした中で、民主党は早急に改憲手続き法案の「合意」、与党・民主党の共同修正案の提出、早期可決・成立に持ち込むべきだとする意見と、参院選前の成立に与することはできないという立場との間に分裂している。
 安倍首相はこうした民主党の分裂的状態を見据えながら、当初は通常国会での成立を断念するとされていた継続審議中の共謀罪法案を、今国会で成立させると言明した。これは迷走状態にある安倍政権の求心力を高め、民主党の混乱を引き出して参院選に勝利しようとする思惑から発したものである。
 一月二十五日から始まる通常国会の中で、改憲手続き法案の廃案、「米軍再編」法案の成立阻止、労働法制改悪反対を軸に、波状的な国会行動と世論へのキャンペーンを繰り広げよう。その力で民主党の与党への「同調」をやめさせるためのさまざまな活動をも担わなければならない。そして四月自治体選と七月参院選で、改憲の勢力を大きく後退させるために闘おう。  (1月23日 平井純一)


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