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2007年度政府予算案批判               かけはし2007.1.22号

大企業のために民衆生活を破壊する「財政健全化」の嘘を暴こう

企業には減税、民衆には増税

 安倍政権は、グローバルな派兵大国化と新自由主義政策を促進し、財界の意向に忠実に応え、民衆生活破壊に貫かれた二〇〇七年度予算案を閣議決定した(06年12月24日)。安倍首相は、一般会計総額が〇六年度当初予算費四・〇%増の八二兆九〇八八億円、政策経費の一般歳出も同一・三%増の四六兆九七八四億円、借金を埋めるための新規国債発行を一五・二%減の二五・四兆円に抑えたことで、「財政健全化の意思を内外に示すメッセージ性の強い予算編成になった」と自画自賛している。
 強力な応援団である御手洗(日本経団連会長)は、「思い切った歳出抑制と法人税など税収の着実な増加で、財政健全化に向けた大きな一歩が踏み出された」とほめながら、安倍の「美しい国」のインチキイメージと連動して「希望の国」などというタイトルで改憲(2010年実現)と規制緩和、過労死促進法であるホワイトカラーエグゼンプション(労働時間規制の適用除外)などの新自由主義政策の加速化を提言し、「消費税率は二〇一一年度までに二%程度上げざるをえない。将来的には一〇%の引き上げと歳出削減」を実現しろと指令を出した。
 安倍は税収が増え、新規国債を抑制したと自慢しているが、予算の本当の姿は怒りなしではいられない内容だ! 大リストラと合理化、不安定雇用層の拡大によるコスト削減と賃金抑制で企業収益が増えたことによって法人税収が増え、さらに定率減税の廃止により所得税(国税)と個人住民税(地方税)の負担増、国民年金保険料・厚生年金保険料・介護保険料引き上げや生活保護費の削減などの連続的な社会保障改悪、医療費・教育費などの引き上げを強行してきた結果でしかない。
 新規国債発行を抑えたというが、〇七年度末の普通国債残高五四七兆円、国と地方を合わせた長期債務残高は七七三兆円という巨額な数字に上昇し続けている。国民一人あたりで約四二八万円も借金をしているのだ。与党による借金漬け体質の責任を隠蔽し、徹頭徹尾、民衆に負担と犠牲を押し付け貧困と格差を拡大することだけをねらっているとしか言えない。
 あげくのはてに民衆への連続増税攻撃、社会保障改悪を強要しながら資本や資産家に対しては、なんと減価償却制度(企業の設備投資に対する減税措置)の見直しと証券優遇税制の延長(株式等の売却益と配当金にかかる税率の軽減措置)によって一兆円規模の減税措置を強行しようとしている。また法人税は、かつて四三・三%(84年度〜86年度)だったが現在三〇%台に引き下げ続け、企業優遇税制の比重をまったく変えようとしていない。
 通常国会での予算審議を監視し、民衆に敵対する実態であることを暴露し、成立阻止の取り組みを強めていかなければならない。民衆に敵対する予算案を厳しく批判していかなければならない。

軒並み削られた社会福祉

 予算案は、〇六年七月、経済財政諮問会議がポスト小泉政権への中長期戦略として提出した消費税増税と民衆生活破壊に貫かれた「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(骨太方針)をベースにしている。方針は社会保障、公務員、地方財政、教育分野の財政削減と抑制を強調しながら、グローバル戦争戦略に積極的に参戦していく体制作りのため軍事費と米軍再編経費措置、ゼネコンのための環境破壊・乱開発の大型公共事業の「重点化・効率化」配分などを特別枠で行えと提言していたが、これを〇七年度予算案は忠実に守り方向づけたのである。以下、主だった民衆敵対予算案の実態を指摘する。
 生活関連予算は、軒並み削減だ。とくにひどいのが生活保護費で母子家庭などひとり親世帯に支給される母子加算を三年間で段階的に廃止することを打ち出し、四二〇億円削減した。パートなど低賃金・不安定労働に追いやられて働くシングルマザーを応援するのではなく、さらに打撃を与えることでしかない。また、児童扶養手当を手厚くすべきであり、増額分の財源を高齢者雇用のための基金から引っ張り出してくるといういいかげんな対応をしている。乳幼児期から社会的な支援の充実を豊富化させていくのではなく格差づけの強要を許してはならない。
 すでに生活保護費の老齢加算も〇四年度から三年で段階的に縮減、廃止を強行しているが、さらに追い打ちをかけるために予算案では持ち家に住んで生活保護を受けている高齢者には生活保護を打ち切り、自宅を担保に生活資金を貸し付ける「リバースモゲージ」制度によって対応しようとしている。カネがないなら自分の財産を売って生き延びろと自己負担の圧力を強めているのだ。
 資本の「新時代の日本経営」路線と不安定雇用政策の強化の結果として、若年層をはじめ失業率が高まり、ワーキングプア(働く貧困層)問題が深刻化しているにもかかわらず、失業対策費を〇六年度に比べ二二一五億円に半減した。削減の大部分は、失業給付に使われる雇用保険への国庫負担金であり一八四六億円も削減した。安倍政権は、「再チャレンジ」などとコマーシャルしていたが、雇用問題を軽視していることの現れだ。
 さらに障がい者自立支援法の強行制定によって一割応益負担を強制し、障がい者の生きる権利を侵害し続けているが、この政策に対して社会的批判が強まり、与党はアリバイ的にかわそうと補正予算で障がい者施設への補助の増額、自己負担を一時的に軽減する措置を導入する方針を決めた。しかし、予算案で対応するのではなく補正予算という場当たり的な対応でしかない。これ以上の弱者切り捨て政策を許してはならない。憲法の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための生活防衛の観点からの憲法改悪反対運動のメッセージが今ほど求められている時はない。

競争主義教育のための投資


 文教関係費は三兆九二五六億円と〇・三%の減額だ。義務教育費国庫負担金や国立大学法人運営交付金、私学助成などを削減し、教育基本法改悪による新自由主義的教育改革推進のために全国学力調査六六億円、学校評価推進八億円などの予算配分を行った。とりわけ私立の大学などへの私学助成が二十三年ぶりに減額され、一%減の四五四七億円となった。グローバル資本競争を勝ち抜く産学協同体路線に基づく私大再編と文科省による統制を財政面から強めていこうとしている。
 いじめ対策予算を計上したが、最も必要な対策である教職員の増員について全く無視し、児童・生徒の減少に伴う自然減分の教職員を削減する傾向を強めている。丁寧なコミュニケーションを土台とする教職員の充実と少人数学級の実現によって教育現場の豊かな基盤作りが求められているにもかかわらず、競争・差別・選別主義政策に基づいて「投資」していく教育予算となっている。教基法改悪による教育予算の具体的な姿をストレートに表現している。
 予算削減と大資本のための予算編成は、これだけではない。多くの中小・家族農家の切り捨てを推進し地域農業・集落営農の衰退を招く品目横断的経営安定対策に一三九五億円、担い手確保・育成事業等に一四一億円を計上した。「戦後農政の大転換」として位置づけているが、そもそも食料自給率の向上、食料主権を確保する要求の高まりと逆行した予算編成なのである。
 大企業のための「経済成長戦略大綱」の関連施策に三〇九二億円を計上しながら、中小企業対策費は一六二五億円でわずかでしかない。中小企業は、TT化やグローバル化などにより厳しい競争環境に置かれ、その経営基盤も脆弱だ。中小企業対策を重層化しなければ障がい者の充実した雇用も含めて縮小していくだけだ。市場競争による資本淘汰は、健全な経済環境なんだと放置してもいいのだというのが本音だろう。大資本のための予算案であることを厳しく批判していかなければならない。

米軍再編に向けた予算措置

 軍事費は〇六年度当初予算から〇・三%減の四兆七九八三億円で、対前年度比で五年連続のマイナスとなったが、特徴的なことは憲法改悪の先取りであるグローバル派兵大国化路線に基づく防衛庁の省昇格と海外派兵の本務化のための予算配分を行っていることだ。日米一体のミサイル防衛(MD)関連予算に四二七億円増の一八二六億円、米軍との有事共同作戦体制の本格化の突破口として陸上自衛隊中央即応集団の新編成費、海上自衛隊が使用する高速・大容量の衛星通信回線の整備費などを計上した。
 在日米軍再編関連経費として七二・四億円が、SACO(沖縄における施設及び区域に関する特別行動委員会)関連経費と同様の扱いの別枠扱いで計上した。内訳は関係自治体への交付金制度の初年度分約五〇・五億円、普天間飛行場移設関連の環境影響評価(アセスメント)調査費十億円、海兵隊グアム移転のアセスの調査費三億円、嘉手納飛行場以南の土地返還の調査費に一・九億円などだ。今後、本格再編にともなってさらに増額していくことが予想される。米軍「おもいやり」予算も例年通り予算計上している。
 また、軍事費とセットで治安対策やテロ・ゲリラ対策費も手厚く配分した。民衆の生活破壊を押し進める、軍事・治安弾圧体制の強化に歯止めをかけなければならない。
 安倍政権は、公共事業関係費が〇六年度当初予算比三・五%減の六兆九四七三億円となり、六年連続で圧縮したとアピールしているが、政官財癒着と利権構造を覆い隠すためのみえみえのトリックでしかない。経済成長方針のための強気の政策などと称して、スーパー中枢港湾整備予算で対前年度比三七・五%増の五二四億円を筆頭に、三大都市圏環状道路も国費ベースで九・七%も伸ばしている。
 さらに、アジア・ゲートウェイ戦略会議でぶち上げた国際路線の全面的自由化と二十四時間空港化にむけた着手として、成田高速鉄道整備費に一四億円、羽田空港、成田空港B滑走路延長のための予算計上など空港整備費も手厚く計上した。整備新幹線建設費も本年度と同額の七〇六億円も盛り込まれた。

消費税引き上げのステップ

 以上のように予算案は、民衆の生活関連予算の削減と増税負担を押しつけ、大企業優遇の予算配分と減税を行っていくという小泉政権時の手法を踏襲することによって、よりいっそうの「格差」「二極化」が拡大することは必至だ。安倍政権は、〇七年夏の参院選前に消費税増税論議によって政府・与党が不利な状況に追い込まれることを避けるために、消費税の税率引き上げ時期や幅について明らかにしていない。参院選後、消費税増税論議が一気に「沸騰」することは確かだ。そのことを見据えて、御手洗ビジョンは二段階の消費税増税を提言しているのである。予算案は、そのためのステップとして位置づけているのだ。
 民衆のための社会保障、福祉、教育、医療費を充実した予算案の組み換えを掲げ、〇七年度予算案に反対していこう。(遠山裕樹)


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