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                            かけはし2007.9.17号

安倍辞任! 自公政権打倒へ

「労働ビッグバン」を打ち砕こう
労働契約法、日本版エグゼンプション、派遣法改悪の阻止を

労働法制改悪の「棚上げ」

 今年の五月二十三日、経団連の定時総会が予定されていた。この定時総会は一般企業の株式総会にあたる。この定時総会の二日前の五月二十一日、財界の三百二十人が自民党の幹部と経団連会館で向かい合った。この会談は経団連が定時総会に向けて自民党との最後の公式な「付け合わせ」の場と位置づけたものであり、「審問」する場でもあった。
 これを裏付けるように会談の冒頭に御手洗は、「経団連は政策評価をもとに政治的寄付(献金)を推進してきた。政策本位で政治に協力するという意味である」とあいさつしている。この発言の本音は「政治的に約束したことの中で、自民党はなにができ、なにができないのかはっきりさせろ。われわれの方は定時総会が目前にせまっている。それは献金の額にもかかわる」。つまり、出来高払いと言っているのである。
 経団連が献金の代価として自民党に要求していたのは、第一に法人実効税率の大幅引き下げと消費税の値上げ(2%)であり、第二は規制緩和の最終目標である「労働ビッグバン」に向けた労働法制の改悪であった。これらはすでに動き始めていた。〇六年十一月には、政府税調が経団連の要望に沿って答申に法人税の減税の必要性を盛り込んだ。労働法制の分野でも厚生労働大臣の諮問機関が〇七年二月の答申に「一定の条件を満たす社員を労働時間の規制から外す『ホワイトカラー・エグゼンプシヨン』と解雇の金銭解決を認める労働契約法などの導入」を謳った提言が答申されていた。
 だが今年になると「格差・貧困」に対する怒りが全国的に広がり、一方で「企業だけ減税して庶民は増税か」他方ではホワイトカラー・エグゼンプシヨンは「残業代ゼロ法案」という声があがり、統一地方選を揺さぶり、企業を告発する労働訴訟が全国的に展開され始めた。さらに国会では柳沢厚労相の「女性は子どもを産む機械」発言や「政治とカネ」問題で追い込まれ、自民・公明の与党は身動きがとれない状況に立たされた。
 他方、企業側も松下電器の子会社である「松下プラズマディスプレイ(PDP)」の偽装請負の告発に端を発し、御手洗のキャノンでも全国の工場で偽装請負が恒常化していることが暴露された。あろうことか御手洗は謝るどころか「法律の方が問題なのだから、法改正すべき」と居直る始末。さらにフルキャストやグッドウィルなどの人材派遣大手の派遣法違反が告発される。禁止されている職種への派遣や二重派遣、三六協定に該当する協定を締結せずに日常的に残業させる人権無視、その上「データ装備費」などを名目とした賃金の「ピンハネ」など、数え切れない程の違反が明らかとなった。そしてこれまでは決して表面には出てこなかったが、このシステムを利用して利益をあげているのがトヨタやキャノンなど日本を代表する大企業であることが暴露された。フルキャストやグッドウィルの後に大資本が隠れていたのである。
 この結果、五月に入ると自民党や公明党の中から「成長戦略といっても労働社会、消費社会の視点が全くない。このまま経営者の言い分に乗ったら参院選で負ける」という声が出始め、ついに税制問題も労働法制問題も参院選後まで棚上げすべきという意見が大勢を占めるに至ったのである。追いつめられた自民党と財界はついに五月二十一日の会談で正式に「棚上げ」を決定したのである。

最低賃金法の攻防

 だが五月二十一日、自民党と財界の確認を知りながらも政府の規制改革会議は、「労働市場改革についての意見書」を発表した。おそらくこの十年間にわたる「日本の規制緩和は自分たちが中心になって担ってきた」という自負であるとともに、ブルジョアジーの本音をぶちまけたとみることができる。意見書にはホワイトカラー・エグゼンプシヨン、解雇の金銭解決などの導入という五月末に提出される予定の規制改革会議の第一次答申の内容がそのまま盛り込まれていた。だが意見書を発表した記者会見で最も注目を浴びたのは、規制改革会議の福田秀夫委員(政策研究大学院大教授)が、「ワーキングプワー対策として議論されている最低賃金の引き上げについては、生活をかえって困窮させることにつながる」と指摘し、「平均的に生産性が向上しても、平均より生産性が劣る労働者が個別に出るのは避けられない。そういうことも踏まえて政策判断すべき」と述べたのである。これは数日前に安倍首相が国会答弁で「生産性の向上に見合った最低賃金の引き上げを実現していかなければならない」と語ったことに対する公然たるけん制であった。ホワイトカラー・エグゼンプシヨンと解雇の金銭解決の「棚上げ」は容認しても、「最賃」の大幅な引き上げは絶対に認めないというブルジョアジーの強い意志であった。「格差是正」より「格差」を利用して企業の利益を優先させるのである。この結果、〇七年最賃は労働法制改正をめぐる新たな対決軸として浮上することになった。
 労働者にとって最賃問題は非正規職問題とともに「ワーキングプアー」「格差」を生み出すもう一つの軸である。五月末連合、全労協、全労連の全国的な動きと合わせるように社民、共産、民主の三党は一斉に最賃法の改正案提出に向かって動き出した。

最賃と生活保護

 日本の最低賃金の水準は「先進国」の中では最も低い方にランクされている。現在日本の全国平均は時給で約六百三十円である。EU・ヨーロッパは軒並み千円を超えており、日本より低かったアメリカも八百円代に引き上げることがすでに議会で決議されている。七百円にも満たない時給では、一日八時間、週五日働いても年収は百五十万円にも届かない。加えて日本の最賃制は一番高い東京、大阪、愛知などのAランクから一番低い青森、秋田、沖縄などのDランクまで四段階に分けられている。そしてこの最賃制のあり方が地域格差の一因をなしている。
 マスメディアや民主党などは、「最低賃金法の最大の問題は、東京、大阪など十一の都道府県で最低賃金で得られる収入が、生活保護の水準を下回っている」「働いて得た収入が生活保護を下回っているのでは、働く意欲がそがれてしまう」と主張している。
 だが核心はここにあるのではない。日本ではこれまで最低賃金を基準にして各県レベルでの生活保護の額が決められ、逆に生活保護の水準が最低賃金の参考にされてきたのである。つまり双方の「低水準」が資本と行政(政府)に利用されてきたのである。多少の幅はあっても四十七都道府県の最低賃金の水準と生活保護もほとんど同額である。生活保護もまた当然にもAからDの四ランクに対応しているのである。
 最低賃金と同様に、生活水準をEU・ヨーロッパと比較するとその水準は三分の二にとどまっているし、税制の問題もあるので一概に言うことはできないが、スウェーデン、ノルウェーなどの北欧と比較するとその水準は半分以下である。問題の核心は「低水準」にある「最低賃金構造の底上げ」である。しかも全国一律の引き上げが求められている。
 今日最低賃金は、まず厚労省のもとに設置されている中央最低賃金審議会が上げ幅の目安・規準を決定し、各都道府県の審議会が最終的な「額」を決定するシステムになっている。
 八月八日中央審議会は〇七年度の最低賃金(時給)引き上げ目安を発表した。Aランク十九円、Bランク十四円、Cランク十円、Dランク六〜七円の上げ幅で全国平均で十四円で、時給にすると六百三十五円である。資本の側は昨年実績の五円を大幅に上回っており、「これでは企業がつぶれる。とくに地方の中小は無理だ」「小規模企業の賃金上昇率を参考に五円の上げ幅にとどめるべき」と一斉に抵抗している。
 当初、連合などの労働側は五十円を主張していたが、「格差」問題が国会における対決の軸になると、民主党が国会に提出した改正法案は今年全国平均で八百円とし、三年間で千円に持っていくとという方針となった。これと比較してみると今回の中央審の目安がいかに低いものであるかは明白である。さらに問題なのは上げ幅でAランクとDランクの間に最大十三円の差がついており、旧来通り一層「格差」を促進するものになったことである。中央審が出した〇七年の最賃の目安は明らかに規制改革会議の意向を百パーセント反映させたものである。
 労働政策研究・研修機構の集計によるとパートのうち時給が最低賃金の一・一倍未満の人の割合は、東京が六・七%であるのに対してDランクの沖縄や青森では二八・九〜三〇%になっている。コンビニやスーパーの募集でも東京が時給七百八十円〜八百円であるに対し、青森では時給六百十円というように最賃と同額の募集がめだつと報告されている。郵便局のゆうメイトも、年金再チェックのために各地の社会保険事務所に雇用されるアルバイトの賃金もこれに従うのである。最低賃金の上げ幅が全国一律百円であれば、その「底上げ効果」は地方の比率が大きくなるため「格差是正」の役割を果たすが、今回の上げ幅で十三円差は格差を一層拡大させるのである。まさに低賃金の構造は二重三重の重構造のもとで成立しているのであり、それがつくり出す差別構造と一体なのである。「ワーキングプア」「格差」の問題の中で「最低賃金法」が占める位置は極めて重大である。
 十月まで各地の最賃闘争は続くが、「格差を是正する全国一律千円を!」要求して闘おう。

資本と政府に具体的反撃を


 七月に厚労省が発表した労働経済白書では戦後最長におよぶ景気回復とは裏腹に実質賃金は一貫して減り続け、逆に労働時間は延び続けており、労働環境は一向に改善されていないと報告している。とくに二十五歳から四十九歳の男子労働者の場合、週六十時間以上働く人の割合はこの十年間で五%近くも増加している。過労死が減るどころか増加し続けているのはこの実態の反映に他ならない。
 この間厚労省はグッドウィル、フルキャストなどの派遣法違反やキャノンや松下電器に対し正社員化を進めるように「指導」し始めている。これは派遣ユニオンが六月以降連続して、本社前行動や団体交渉要求の闘いを展開することによって、グッドウィルなどの悪質な違反を満天下に明らかにし、資本を追いつめた結果である。さらに資本の団体交渉の拒否に対しては都労委に対する不当労働行為救済申立を行い、「データ装備費」の名目で天引きされた分の全面返還を求める集団訴訟を起こした。この新しい闘いの発展に触発されて、連合は今年の大会で「非正規」支援センターの設置の運動方針を決定した。この一連の闘いと動きは、明らかに「格差」や「ワーキングプア」に対する反撃の糸口となるだろう。すでに店長をあたかも管理職であるかのようにし、残業代を払わない日本版エグゼンプションの導入との闘いはスカイラーク、セブンイレブン、コナカと連続して勝利し、新しい方向を切り開きつつある。
 厚労省の「指導」などの動きは、この広がり始めた闘いの圧力を受けているからに他ならない。さらに今まで厚労省の後ろ盾であった自民党が参議院選で敗北し、その上年金問題の浮上で監督官庁である厚労省が人々の怒りに包囲された結果でもある。
 七月五日に閉幕した通常国会に提出された労働契約法、労働基準法一部改正案、最低賃金法一部改正案は、たんに「棚上げ」されただけであり、秋の国会への継続審議となっているので決して「廃案」になったわけではない。経済財政諮問会議や規制改革会議は依然として、「労働ビックバン」を提唱し「労使自治に基づく雇用の多様化、容易な配転制度、派遣労働規制の緩和、時間に縛られない働き方の実現」と叫んでいる。「解雇の金銭解決」も「ホワイトカラー・エグゼンプシヨン」も「派遣法の改悪」も全く諦めず虎視眈々と攻撃の機会をねらっているのである。
 参院選における自民党の敗北と与野党の逆転は、闘う側に千載一遇の「時間とチャンス」を与えている。この機を利用し、最賃をはじめ継続審議の三法案の廃案にとどまらず、来年に提出が想定されている派遣法の改悪、日本版エグゼンプションを根本から打ち破る闘いを進めなければならない。「労働ビッグバン」を阻止する闘いは、参院での与野党の逆転状況を利用するだけではなく、資本への具体的な反撃を組織する闘いであり、新しい闘いと運動を一歩一歩積み上げていくことが求められている。テロ特措法延長、集団的自衛権容認阻止の闘いと連携し、安倍政府打倒の闘いを前進させよう!(松原雄二)


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