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                           かけはし2007.7.16号

生きるために闘いぬこう!


反貧困ネットワーク準備会
もうガマンできない!多様な分野から抵抗が始まっている

貧困問題は政治
と社会の責任だ

 七月一日、東京・三宅坂の社会文化会館で「もうガマンできない!広がる貧困 人間らしい暮らしを求めてつながろう」7・1集会が開催され六百三十人が結集した。主催は反貧困ネットワーク準備会。三月二十四日に開催された「もうガマンできない!広がる貧困――人間らしい生活と労働の保障を求める3・24東京集会」(本紙4月16日号参照)での切実な告発を受け、個々の問題を超えた貧困問題の解決のための恒常的な組織の必要性が確認され、「反貧困ネットワーク」(準)が作りだされた。
 この日の集会は、参院選を前に、広がる貧困に対する政治の側からの対応を求める意味を込めて準備されたものである。演壇には「貧困問題に取り組まない政治家はいらない!」と書かれたのぼり旗が林立した。主催者を代表して発言した宇都宮健児弁護士は、人間の尊厳を奪い去り、社会の紐帯を崩壊させる貧困は政治の責任だ、と訴えた。

作られた対立を
超えて連帯を

 第一部「作られた対立を超えて」では、最初に埼玉の小学校で非常勤補助教員の加藤貞子さんが発言した。「一日五時間、週五日の勤務。通常は午後二時四十分までの勤務だが、午後五時過ぎまでサービス残業をすることも多い。しかし同じ学校の教師からも教員とは認められておらず、年収は八十万円程度だ。夏休みなどの休暇中は収入がなくなる。これでは当然生活できず、昨年八月に『生活と健康を守る会』の支援で生活保護を申請し、認められた。今、埼玉・臨時教職員の待遇改善を求める会をつくって、自治体への要求を行っている」と語った。慎英博さん(四天王寺国際仏教大学大学院教授)は、無年金在日外国人問題の解決を訴えた。とりわけ一九六二年一月一日以前に生まれた在日外国人障がい者には障がい者福祉年金の受給資格が奪われているのである。
 次に「多重債務」被害者である高柳さおりさんが苦渋に満ちた経験を話し、「借金の解決は必ずできる。生活保護などの福祉を充実させる施策を」と呼びかけた。さらに「学校給食費未払い」問題について、いわゆる滞納問題が貧困・失業と密接に関連している調査報告が行われた後に「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子さんは、給食費滞納キャンペーンが「親の規範意識」の問題として宣伝されている現実を批判し、わずか〇・五%に過ぎない未納額を取り上げて大問題であるかのように扱う意図に疑問を投げかけた。
 「正規労働者と非正規労働者」をテーマとした報告では、ファミリーレストラン「グラッチェ」(「すかいらーく」グループ)に勤務していたが、月平均一三〇時間におよぶ残業で過労死した夫に代わり、東京東部労組に加盟し会社と闘ってきた中島晴香さん、スポット派遣の現状について訴えた藤野正己さん(グッドウィルユニオン)、特定郵便局で働いていた黒田ゆかさん(仮名)、IT企業で派遣労働者としてシステム開発にたずさわってきた宮田基さんが報告した。さらに連合生活福祉局長の小島茂さんが非正規労働者の激増、賃金の低下、超長時間労働、「ワーキングプアー」の増加の中で「社会的セーフティーネット」の再構築の必要性を強調した。

「底辺への競争」
を拒否するぞ

 第二部「〈貧困〉問題に取り組まない政治家はいらない!」では、各団体からの活動報告が行われ、派遣労働ネットワーク、首都圏青年ユニオン、フリーター全般労組、働く女性の全国センター、「生きさせろ」イベント実行委員会、作家の雨宮処凛(かりん)さん、貧困研究所(準)、全国公的扶助研究会、DPI(障がい者インターナショナル)日本会議、しんぐるまざあず・ふぉーらむ、自立生活支援センター「もやい」、ホームレス総合相談ネットワーク、ホームレス地域生活移行支援事業を考える会、寄せ場交流集会実行委員会、高金利引き下げ全国連絡会、首都圏生活保護支援弁護士ネットワーク、生活保護問題対策全国会議の各団体が発言した。
 最後に「人間らしい暮らしを求めてつながろう」7・1東京集会宣言(別掲)が採択され、赤坂を通って日比谷公園まで、貧困をなくす闘いへ向けて元気いっぱいのデモが繰り広げられた。参議院選挙に立候補している川田龍平さんもデモに合流し、差別と排除・貧困に抗してともに頑張ろう、とアピールを行った。
 今や貧困に対する闘いは、政治の最大の焦点に浮上している。新自由主義がもたらす「底辺への競争」を拒否し、公正で人間らしい生き方を求める運動は、戦争と憲法改悪、人権破壊の政治を許さない運動とつながっている。グローバル資本主義が必然的にもたらす戦争と貧困への闘いは、オルタナティブな反資本主義をめざす政治の流れを作りだす闘いである。ともに闘おう。      (K)


7・1東京集会宣言
「人間らしい暮らしを求めてつながろう」


 私たちは、すべての人が人間らしい暮らしができる貧困のない社会に生きたいという共通の願いを持っています。そのために、声を上げ、互いに広くつながることを目指して、この集会に全国各地から参加しました。
 今、貧困は急速に拡大しています。働いても働いても苦しい生活しか送ることのできない人が急増しています。就学援助を利用せざるをえない世帯、貯蓄ゼロ世帯、多重債務者、ホームレスの人など、貧困にあえぐ人が増大しています。先の見えない不安が広がり、自殺者は、ついに9年連続で3万人を超えました。
 私たちは、貧困の拡大を傍観し、容認する社会であってはならないと考えます。人々にガマンを強い、市民の連帯を分断しようとする力に対抗し、次のとおり訴えます。
 第1に、貧困の急速な拡大の大きな要因は、雇用の破壊です。政府は、自由競争、経済成長を重視して、労働規制を緩和しました。企業は、「必要な時だけ使い、いらなくなれば使い捨てる」「出し入れ自由」の労働力を確保するため、派遣、パートなどの非正規雇用化を急速に進め、1998年から2006年までの8年間に、460万もの人が正規雇用から非正規雇用に置き換えられました。その結果、大企業が史上空前の利益をあげる一方で、低賃金や短時間・短期の細切れ雇用が蔓延し、多くの人々が低所得に苦しむようになりました。残された正社員は、自らが非正規雇用に切り替えられる不安の下で過酷な長時間労働を強いられ、過労死の増加という深刻な事態を招いています。私たちは、このように、人間を使い回し、使い潰す雇用の破壊と、その犠牲を踏み台にして利益をあげるという不公正な社会のあり方に、もうガマンできません。
 第2に、こうした状況において、人々の暮らしを支えなければならないはずの社会保障が機能していません。医療費、年金、介護費用などの自己負担が増加する一方で、年金、雇用保険、生活保護の老齢加算・母子加算などの給付が削減されており、相次ぐ負担増と給付削減によって社会保障が切り崩されています。それに追い打ちをかけるように、保護基準の切り下げ、児童扶養手当の縮減など、さらなる切り崩しが行われようとしています。また、「自立支援」の美名の下に、障害者、ホームレス、生活保護世帯が福祉から労働市場へと体よく追い出されている現状があります。そのため、収入の低下や失業が生活の崩壊に直結し、どこまでも落ちていく「底抜け」の状態が作られています。私たちは、このような社会保障の破壊に、もうガマンできません。
 第3に、貧困は世代を超えて拡大しています。就学援助の利用割合が高い東京都足立区のある小学校では、クラスの3分の1の子供たちが、将来の夢を作文に書けず、自分が成長してどんな大人になりたいのかイメージできませんでした(朝日新聞)。未来を担う子供たちから伸び伸びとした夢を奪う社会に未来はありません。今を担う私たちには未来に責任があります。私たちは、未来を破壊する広がる貧困に、もうガマンできません。
 第4に、貧困を拡大させた政治的・社会的責任が、巧妙に、個人の自己責任の問題へと転嫁されています。貧しいこと、報われないことは、自己責任であり努力が足りないからだと喧伝されています。そのため、貧困に陥った人は、「競争に勝てない」自分を非難し、声をあげられません。外へ向かうべき怒りは、自分の内面を攻撃し、自己否定をもたらし、生きる自信や心の健康を奪っています。しかし、厳しい競争に曝され。真面目に働いて努力しても多くの人が報われない社会構造が作られている中で、自己責任論を強調して貧困を切り捨てるのは間違っています。私たちは、政治的・社会的責任の問題を個人の責任へと押し付ける「まやかしの自己責任論」に、もうガマンできません。
 貧困を拡大させる力は、大きく、しかも巧妙です。「働いている人より働けずに生活保護を受けている人の方が収入が多いのはおかしい。だから保護基準を最低賃金レベルに下げるべきだ」といったように、巧みに世論が誘導され利用されています。その結果、民意が分断され、市民の対立が作られ、下へ下へと落ちていく構造が生み出されています。私たちは、このように、巧妙に仕組まれ、作られた対立に惑わされません。私たちは本当は一人ではありません。今こそ、労働、福祉など個々の問題の枠を超え、また、政治的立場を超えて、人間らしい暮らしを求めてつながり、誰もが一人の人間として尊重される公正な社会の実現に向けて、貧困に抗するネットワークを広げて大きなうねりをつくりましょう。



郵政民営化監視市民ネット学習会
郵政事業を労働者・市民に取り戻す闘いの継続を



格差社会の深まり
と民営化は一体

 六月十五日、郵政民営化を監視する市民ネットワーク(以下、市民ネット)主催の学習会が行われた。今年十月の民営化に向けて進む公共サービスの切り捨て政策をまえに、再び民営化を押し戻すための陣形をつくる学習会として設定された。二十人の郵政労働者や市民が参加した。
 はじめに、市民ネット事務局の稲垣豊さんから、この間の市民ネットの取り組みが報告された。市民ネットではニュースやウェブサイトなどを通じて民営化を前にした郵政事業の中でどのような事態が進行しているのかを広く伝える活動を継続してきた。最近では、現場の労働者や切り捨てられる地域の人々を取材してビデオにまとめた『郵便ウォッチビデオ』をインターネットを通じて発信している。今後も切り捨てられる公共サービスの実態を追い続け問題を告発していくことが確認された。
 つづいて、「郵政民営化に突き進む事業の現状」と題して山下唯志さんが講演を行った。山下さんは現在、日本共産党の吉井英勝衆議院議員秘書として国会内外をつなぎ活動している。
 山下さんは「官から民へ、という郵政民営化のペテンが押し切られた。しかし、経済財政諮問会議に提出された推進派の資料からも、決して『民』には流れないことがはっきりしている。国の借金が増えていくと、結局は家計の資金をそれに当てざるを得ない。郵政民営化とは全く関係のない話しだ」と改めてウソで塗り固められた郵政民営化推進派の主張を批判した。
 「郵政民営化には、利害関係者が複雑に絡んでいる。ひとつは業界内部の対立。たとえば郵便事業とヤマト、郵便貯金と銀行、というふうに。郵政民営化はこれらの業界の利害と直結している。法律の変更によって競争条件が左右される業界はすべて民営化について何らかの意見を提出している。しかし郵政事業は単に郵便を配ればいい、というものではない。全国あまねく安い値段でサービスを提供することが必要である。民間企業のように儲かるところだけをやってはならない。今回の民営化でこの『あまねく』というユニバーサルサービスがないがしろにされてはいけない」。
 山下さんは郵政民営化が、日本を作り変える総資本の方針であると指摘した。
 「多国籍化した大企業にとって、日本の官僚制度は使い勝手の悪いものになってしまった。新しい体制をつくりたい、として出てきたのが構造改革路線だ。財界は二〇〇四年に郵政民営化を主張し、それは『小さな政府への試金石である』と言ってきた。同時に『賃金の市場化』も主張しており、これは個別の企業や業界を超えた総資本としての要求であったといえる」。
 「またアメリカの強い意向も民営化を進める原動力のひとつだ。アメリカは一九九〇年代に入り、強いドル政策を進め、金融立国を標榜した。他国に対しても同様に『金融開国』を迫り、その日本版が橋本内閣による金融ビックバンであった。アメリカの金融資本が進出しやすいように規制緩和を迫ってきた。民営化によって郵貯、簡保会社は早々に完全株式会社化される。現在の企業合併など、多国籍資本によるのっとりという危険もでてくるだろう。それは小泉政権の五年間に拡大してきた格差社会をさらに推し進めることになる」。

切り捨てられる
地域のサービス

 つづいて山下さんは郵政事業の現状を語り、切り捨てられつつある公共サービスをまもる取り組みを訴えた。
 「現在、過疎地域にある郵便局七千二百二十局のうち普通局は百六十局しかない。他は特定局(5000局)や簡易局(2000局)である。しかし三百の簡易局が一時閉鎖されている。またこの四年近くで郵便局は三百近くも減っている。最近、全国の特定局長に対するアンケートで、民営化後も引き続き局長を続けるかという質問に対して、四百人もの局長が続けない、あるいは分からないと回答している。民営化後、郵便局が減ることが予想される」。
 「減っているのは局舎だけではない。サービスも低下している。全国千四十八の特定局でそれまで行っていた集配事業を廃止する。先ほども言ったように過疎地の多くが特定局だ。それまではその特定局にいる郵便局員が郵便物の集配を行ない、地域のきめ細かなサービスを担ってきた。しかしこの集配事業の廃止によって、遠く離れた別の地域から郵便局員が郵便物配達のためだけに来る。これではきめ細かなサービスができるわけがない。最近、北海道、そして奄美の郵便局を視察した。そこでは地域の行政サービスの一端も郵便局員が担っているようなところだ。このような地域が切り捨てられようとしている」。

トヨタ方式の
ムリ・ムダ・ムラ

 今年も年賀の配達に多大な遅れが発生した。郵政公社は「利用者の遅出し傾向のせい」としているが、実際はそうではないと山下さんは指摘する。山下さんが視察した世田谷郵便局で聞いた話は驚くべきものだった。
 「『ムリ・ムダ・ムラ』をなくすために導入されているトヨタ方式によって、経費削減が最大の命題になっているので、たとえ人手が足りなくても、『出社するな』と上から止められるという。人件費削減のためだという。それで業務に支障をきたしていたら元も子もない。トヨタ方式の導入でバイトの定着率も下がったことも問題だ。また公社が発足した二〇〇三年から〇六年度までに人員が九千六百七十六人も減っている。その分、非正規雇用の労働者を大量に雇っている。民間であれば正規職員を非正規に変えた場合、人件費は下がる。しかし公社では逆に人件費が上がっているという。超過勤務が増えたからだ」。まさにムリ・ムダ・ムラもいいところである。
 十月一日民営化で何が起こるのか。山下さんはまず金融システムの混乱が発生するのではないか、と指摘した。
 「当初、当時の生田総裁は『できない』と言っていた。そしてシステムが構築できなければ半年延期するとも言っていた。しかしその後『暫定システムで大丈夫』と発言を修正している。本当に大丈夫なのか。みずほ銀行の時も混乱が生じた。またシステムだけでなく、普通の銀行として出発できるのか。現在の特定局や簡易局で銀行と同じように厳しい縛りをかけられるのか。特定局長からも『厳しすぎる』という声が漏れている。また民間銀行はこのかん、儲かる事業、すなわち富裕層を対象とした金融商品を押し出している。郵貯がそのような方向に進んでいいのか。リスクをともなったサービスは拡大するだろうが、肝心の基本的なサービスはないがしろにされていくであろう」。
 山下さんは今後の取り組みについて次のように提起した。「郵政民営化は間違っているからこそ、参議院で否決された。しかしペテン的手法で衆議院を解散し、メディアを総動員した選挙で小泉自民党は勝利し、郵政民営化法が成立した。しかし民営化反対の声は付帯決議に生きている。『現行水準が維持され、万が一にも国民の利便に支障が生じないよう、万全を期すること』という付帯決議を十月一日以降も生かして取り組んでいく。ちょうど国会が開催されている最中だろう。国会内外をつないであらためて民営化の問題点を訴えて生きたい」。

10月民営化を
前に次の集会

 若干の質疑応答をはさみ、最後に監視ネットの事務局で郵政労働者ユニオンの棣棠浄さんから、今後の取り組みについて提起があった。「十月一日の民営化までに参院選がある。格差を拡大する公共サービスの切り捨てを再度、この時期に訴える必要がある。また、国際的な視点も重要だ。この春、アジア太平洋労働者連帯会議(APWSL)の連帯ツアーに参加してニュージーランドを訪問した。ニュージーランドは郵政民営化が進められ公共サービスがぼろぼろにされた。いまそのゆり戻しが始まっている。公共サービスが売り物にされてしまう問題点は国境を越えて共通している。このことも訴えていきたい。また国内におけるサービスの低下、とりわけ集配事業が集約化された現場を訪れて現状を把握する必要がある。十月一日の民営化直前にはこれらの問題点をふまえて、市民ネットとして大きな集会を開いて、民営化の問題点を再度訴え、民営化後も続く取り組みにつなげていきたい」。
 公共サービスは売り物ではない。郵政事業を労働者・市民に取り戻そう。(H)


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