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                            かけはし2007.6.4号

共謀罪の先取り弾圧を許すな

アジ連公開講座
「改憲と治安弾圧―裁判所・ 検察・公安警察を批判する」

 五月十九日、東京・文京シビックセンターで公開講座「改憲と治安弾圧│裁判所・検察・公安警察を批判する│」が行われ、三十七人が参加した。主催は、10・24免状等不実記載弾圧を許さない!国賠裁判に勝利する会、アジア連帯講座。
 神奈川県警公安三課は、昨年十月二十四日、反戦市民運動破壊のためにAさんを「免状等不実記載罪」によって不当逮捕した。運転免許証に記載されている住所が実家のままで、現住所が違うことで全国三カ所の家宅捜索、十日間の勾留と人権侵害に満ちた取り調べを行った。
 このような権力犯罪を絶対に許さないためにAさんと支援の仲間によって、「10・24免状等不実記載弾圧を許さない!国賠裁判に勝利する会」を結成し、国賠裁判が始まった(07年3月13日)。講座は、訴訟代理人の内田雅敏弁護士、川村理弁護士を招き、国賠裁判の意義、裁判所・検察・公安警察の犯罪を批判し、勝利を勝ち取っていくために行われた。
 内田雅敏弁護士のテーマは、「改憲と治安弾圧」で、自身の「これが犯罪?『ビラ配りで逮捕』を考える」(岩波ブックレット)をテキストにして、司法の反動化、検察・公安政治警察の暴走の背景、ビラ配布弾圧、微罪逮捕などの特徴、性格、そして改憲手続き法批判、憲法改悪反対運動の方向性などを提起した(講演要旨は別掲)。
 さらに、訴訟代理人の川村理弁護士は国賠裁判スタートにあたっての報告と今後の方向性を提起した。
 被弾圧者Aさんから裁判闘争にむけた決意表明が行われ、「今回の弾圧を強行した時期を思い起こしてほしい。改憲に向けた動きが加速し、反対運動の規制のために共謀罪成立強行を強めていた時期だった。まさに共謀罪の先取り弾圧としてあった。このような国家権力の犯罪を許さない」と訴えた。
 最後に、質疑応答が行われ、裁判勝利にむけてスクラムを強化した。 (Y)

内田雅敏弁護士の講演から
匿名性の影に隠れて責任を逃れる者を許すな


市民運動への
介入と弾圧

 警視庁公安部は二〇〇四年、立川テント村の自衛隊官舎へのイラク派兵反対ビラ配りで「住居侵入罪」で逮捕した。全国各地の運動団体に大きな衝撃を与えた。「住居侵入罪」という刑罰を目的外使用をした市民運動の弾圧だった。
 犯罪にならないような行為を捉えて公安警察は、かなり以前から不当逮捕・勾留、全国の家宅捜索を行っていた。
 例えば、日本赤軍の関係者と言われる人が成田から出発する前に、ホテルでペンネームで泊まる。成田に帰ってきてから「旅館法違反」で逮捕する。本来、予定されていない法律の適応があった。ただ、その時に「日本赤軍だから」というようなことで、抗議の声が起きなかった。
 とくにそれが顕著だったのは、オウム真理教事件だった。無茶苦茶な「微罪」で逮捕し、勾留・立件がされた。その時にも、「オウムだからしょうがない」という感じが世の中全体にあった。今にして思えば、こういった問題を放置し、おかしいという声を上げてこなかったことのツケが回ってきていると思う。
 「微罪」による逮捕・勾留は、ほとんどの場合が立件、起訴を予定していない。だから立川の場合は、起訴されて驚いたわけだ。だいたいの場合、「微罪」逮捕による取り調べの内容は「今何やっているんだ」、「運動をやめろ」などという話に終始する。
 そして、当然の「権利」のように関係者宅を家宅捜索する。今はフロッピーにいろんなものが入っているものだから、ごそっと持っていってしまう。公安捜査は、身柄を確保し、本人から情報を取り、転向を迫る。そして、家宅捜索で情報をごっそりと持っていく。これが狙いだ。あわよくば起訴をねらって、新たな地平を切り開くことにある。立川の事件は、検察庁、公安警察、公安検察にとって「新たな地平」を切り開いたと言える。
 一九七〇年代以前、公安警察は、もっぱら「過激派」と言われる人たちへの弾圧をやっていたが、七〇年代半ば以降、労働争議に介入し始め、その流れが定着している。
 この間の「微罪」弾圧は、ちょうど似た状況だと感じる。市民運動に公安警察が公然と介入し、情報収集するだけではなく、立件・起訴をし、有罪判決をねらってきている。
 事実、二〇〇三年、「警察公論」に公安検事が、「過激派構成員にかかる文書偽造、及び免除不実記載の起訴事例について」という論文を書き、「微罪」による逮捕・勾留が想像以上の効果を得ていると言っている。「微罪」弾圧の有効性を公安捜査の一つとして位置づけている。

「住居侵入罪」
の目的外使用

 立川の事件は、「住居侵入罪」ということで逮捕してきた。戦前、「住居侵入罪」は、銃後における「かん通事件」を処罰しなければ兵士が安心して闘えないということで目的外使用がされた。つまり、「住居侵入罪」の保護法益が、住居の平穏ということから家長の住居権というような形で変えられて処罰された。
 そういった意味で立川の事件は、イラク派兵下、銃後の平穏を害するということで「住居侵入罪」で目的外使用をした。戦前の目的外使用も、戦争とのからみで行われた。今回の立川における「住居侵入罪」の目的外使用も、イラク派兵との関係で行われた。まさに軍隊との関連で、こういうような拡大解釈による逮捕・勾留が行われた。
 京都のケースだと、自分の衣類を宅急便で送る伝票の氏名欄にペンネームで書いて送ったということが、「有印私文書虚偽・同行使」で公安警察に不当逮捕され、関係者への家宅捜索も行われている(05・11)。さすがに準抗告によって勾留は、取り消された。
 神奈川県警公安三課によるAさんへの不当逮捕(06・10・24)は、「免状等不実記載罪」、つまり運転免許証の住所を変更しないでそのままにしておいたことを根拠にしている。刑法の場合は、保護法益というのがある。その法律を犯した場合に、社会の利益が害されるということだ。免許証記載の住所は、現実にそこに書かれている住所に連絡がつけば問題がないわけだ。だからAさんの場合、現実に生活をしている場所と、書かれている住所とが若干違った。ただし、書かれた住所は実家であり、母親がいて、時々帰っている。なんら保護法益、社会における利益が害されたというものではない。ましてや仮に形式的に、法律に触れるとしても、なにもそのことによって逮捕・拘留する必要性はない。そして、全国三カ所も家宅捜索を行った。
 さらに神奈川県警公安三課は、この間、神奈川の厚木基地を監視している相模原のグループに対して「詐欺罪」で不当弾圧を行った(07・1・23)。三人でアパートを借りていたが、契約書は二人だった。だが、三人で借りることは、不動産業者、大家に話しており、承知していた。ところが公安によって、これが「詐欺罪」としてでっち上げあげられ、逮捕した。このケースも当然のように三カ所の家宅捜索が行った。
 そもそも裁判所は、検察官が「極左暴力集団」という印を押して拘留請求をすると、裁判所は一切判断をしないで令状を発布してしまうところが問題だ。
 しかも「極左暴力集団」について、どういう資料に基づいて判断しているのかというと二十年、三十年も前のころの機関紙だったりする。Aさんの事件でも、昔の三里塚の新聞記事を出してきた。
 相模原のケースのように「詐欺罪」を使った逮捕・拘留というのは、全国各地であるが、起訴された事例はまだない。いずれこれが、どんどんエスカレートして、立川の事件で「住居侵入罪」で起訴がされたように、この「詐欺罪」を使って立件がされる事態が来るかもしれない。だから今のうちに、こんな無茶苦茶なことを許さないとを言っていかなければならない。

被疑事実を確認
しない裁判官

 今から二年後に、裁判員制度が始まる。裁判員制度が始まった時に、今の裁判所の量刑と裁判員制度の量刑とが違いが出てくるだろうと言われている。つまり、一般の感覚からすると、「今の刑は軽い」、「もっと悪いやつは死刑にしろ」という風潮がなんとはなしにかもし出されている。
 裁判員制度になった時、そこでの量刑基準と現在の量刑基準に差が出てくる。だからそこで二年後の裁判員制度に備えて、量刑基準を世間一般の「もっと重くしろ」という量刑基準に合わせろという動きが始まっている。最近では、死刑判決が多くなってきている。
 高裁で無期判決だったのが、最高裁でそれを破棄して死刑にしろという判決が出てきている。刑も非常に重くなってきている。それも裁判員制度をにらんだものだ。
 ここで問題なのは、裁判所だ。Aさんの事件でも、裁判所の責任を問うている。裁判所が逮捕状の請求があった時、あるいは拘留請求があった時に、本当に被疑事実があるのか、逮捕の必要性があるのか、などのチェックをしていれば防げる可能性がある。
 例えば、京都のコンビニの事件については、拘留請求があって、拘留を決定したけれど、準抗告をすることによって決定が取り下げられた。町田での「日の丸・君が代」強制反対のビラ配布ではバスの出入りの敷地に入ったところを住居侵入罪で逮捕されたが、拘留請求を裁判所は、却下した事例もある。
 国賠訴訟は、刑事手続きの違法性を民事でやっている。民事裁判のよさは、裁判で論争ができる。例えば、どういう資料にもとづいて逮捕状を請求したのかと問う。そうすると昔の新聞資料とか、一杯出してくる。そこで論争をしていくなかで、いかに法の建て前と、現実が違うかということが明らかになってくる。
 刑事の裁判官は、有罪判決を出すことによって、日本の治安を維持しているという発想になりがちだ。しかし、民事の裁判官は、民間同士の問題を取り扱うことが多いから、治安的な発想とあまり関係がない。ある意味では民事の裁判官のほうが、人権感覚が豊かな判断をすることができる場合がある。
 かつて集会場に入る時に、普通の集会でも警官が壁を作り、トンネルを作ってその中を通らせ、バタバタ触る。ひどい時は、荷物を開けさせられる。そこで検問訴訟をやった。
 また、同僚の弁護士が検問に抗議して、逮捕された。一日泊められて帰ってきたけど、違法な逮捕だということで、損害賠償請求を起こして、勝利判決をかちとった。
 「大喪の礼」(一九九〇年)に抗議するデモで学生一人が数寄屋橋の交差点で不当逮捕された。私が数寄屋橋警察に行ったら、接見の妨害をされた。それで国家賠償請求裁判を起こした。裁判でいろいろと資料を提出した。よく話を聞いてくれた。その裁判官は、「よくわからないから教えてください」と言ったことがある。それで一審は勝ち、高裁で負け、最高裁でひっくり返って勝った。
 最高裁でひっくり返った時、その一審の裁判官に礼状を書こうと思って、行方を調べたら、二人が最高裁の調査官でいた。こういうことは、少なからず影響するだろう。
 つまり、Aさんの事件を国賠訴訟で闘うことは、裁判で十分に論争するということだ。いかに法の建て前と現実は違うか。いかにずさんな審査で逮捕・勾留・家宅捜査令状が出されているかを明らかにしていくことにある。
 さらに国家権力の構成員である裁判官・検事・警察官らが匿名性において個々人が出てこない。匿名性で隠れている。違法行為が仮に認定されたとしても、国家としての責任としてあっても、個々の公務員の責任はない制度になっている。だから警察官・検察官・裁判官が責任を問われずにそのままになっている。無茶苦茶な逮捕状を請求をした警察官、拘留を請求した検察官、拘留を決定した裁判官にキチンと責任をとってもらおうじゃないかということだ。
 人権侵害をした裁判官、検事、警察官たちは、違法行為の責任が問われていない。匿名性の影に隠れて責任を免れている連中を絶対に許してはならない。国賠裁判の重要性がここにある。 (講演要旨、編集は編集部)



7・7アジ連公開講座の呼びかけ
「日本マクドナルドに見るサラリーマン社会の崩壊」
講師 田中幾太郎さん(ジャーナリスト)

 成果主義の導入、労働者派遣法の製造業への拡大、定年の延長、この間、小泉・安倍、自民・公明政権によって進められてきた新自由主義的経済政策の流れは、雇用破壊・格差社会を作り出し、大量の非正規雇用労働者、ワーキングプアーを生み出した。
 そして今、日本経団連と政府は参院選後のホワイトカラー・エグゼンプションの導入と労働契約法の成立を目論んでいる。
 今回のアジ連公開講座では、深く労働現場の問題に切り込んできたジャーナリスト田中幾太郎さんを迎え、田中さんの著作『本日より「時間外・退職金」なし』(光文社ペーパーバックス 定価1000円)をテキストに、藤田田体制からアメリカ本社直営に経営が変わった日本マクドナルドで、なにが起きたのかを見ながら、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入や定年制の撤廃がなにを意味するのかを考え、今後の労働者の闘いの方向性を探っていきたい。

田中幾太郎さんプロフィール
 1958年、東京生まれ。埼玉大中退。ジャーナリスト。南アルプスの山小屋番、
『週刊現代』記者を経て、1990年フリーに。外国人労働者やグローバル企業の問題を中心に取材執筆。2000年以降はマクドナルドを初め米資系企業の内幕を月刊誌等に連載。近著に『東京ディズニーリゾート暗黒の軌跡』(リベラルタイム出版)ほか。

b日時 7月7日(土)午後6時30分
b場所 文京シビックセンター・シルバーセンター4階会議室A(都営地下鉄春日駅、後楽園駅下車)
b資料代 500円
b主催 アジア連帯講座 東京都渋谷区初台1―50―4―103
D03-3372-9401/FAX03-3372-9402


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