もどる

                            かけはし2007.6.4号

狭山事件の再審をかちとろう

3千人以上の結集で市民集会
「えん罪44年」〜百万人の声を東京高裁に届けよう


警察のデッチ上げ
が次々と明るみに

 五月二十三日、日比谷野外音楽堂で「狭山事件の再審を求める市民集会―えん罪44年〜100万人の声を東京高裁へ」が市民集会実行委員会の主催で開催され、全国から三千人を超える人々が参加した。
 狭山事件で石川一雄さんは無実にもかかわらず、無期懲役が科されている。石川さんが行った第二次再審に対して、二〇〇五年三月最高裁は棄却の決定をくだした。石川さんは再度昨年五月に第三次再審を東京高裁に行った。三月三十日に、狭山弁護団は自白と遺体の損傷状況が矛盾すると指摘した法医学者の鑑定書や「殺害時に悲鳴を上げた」との自白を否定する音響学者の鑑定書など新証拠五点を提出し、「新証拠によって、自白の重要な部分が虚偽である」ことが明らかになっている。
 年明けから、相次いでえん罪事件が明らかになっている。富山県では有罪が確定し、二年あまりも服役した男性が誤認逮捕であったことを警察が認め、検察が再審請求するという驚くべきえん罪事件が明らかになった。二月、鹿児島県の公選法違反事件で被告全員の無罪判決が出され、警察の捜査のあり方が厳しく指弾された。さらに佐賀県の北方事件、大阪の放火事件に対して無罪判決が出された。いずれも自白強要による警察のデッチ上げにもとづくえん罪事件だ。四十四年前の狭山事件がいまなお別の形で行われているのだ。石川さんの無実を勝ちとる闘いの重要性が改めて明らかになっている。

百万人署名達成!
何としても無罪を

 今回の狭山集会の重要性は、「袴田事件」の再審を求める会や死刑囚袴田巌さんのお姉さんが参加したことであり、昨年八月から行われた事実調べと再審を求める狭山署名が、ついに百万筆を突破し裁判所に提出したことだ。
 辛淑玉さん(人材育成コンサルタント)が「石川さんの後ろには多くの差別された人々がいる。石川さんの無罪を勝ちとる闘いは私のためであり、声なき人々のためである。百万人の声をいっしょに届けよう」と開会のあいさつをした。
 組坂部落解放同盟中央本部委員長の主催者あいさつの後、民主党と社民党の国会議員のあいさつが行われた。福島みずほ社民党党首は「五月二十一日、国連拷問等禁止委員会が日本政府に対して、代用監獄制度の廃止、取り調べ時間の上限を決めるべきだ、自白の強要をしない、取り調べの可視化などを求める勧告を出した。日本政府はこの勧告に従いに国内用の変えなければならない」と指摘した。
 次に石川一雄さんが「もし来年までに再審が決まらないようであったら、狭山事件の通りに自分を殺して、えん罪であることを明らかにしてほしい」と無実を求める強烈なアピールを行った。連れ合いの早智子さんは「昨日池袋駅頭で署名活動をやったら、若者たちが署名をしてくれた。狭山事件に光が当てられている。このチャンスを生かして何としても無罪を勝ちとりたい」と訴えた。

袴田巌死刑囚
の家族も訴え

 続いて、弁護団は三月三十日に新証拠の提出を行ったこと、そして新証拠の中味を紹介し、事実調べさえ行えば、無実は明らかだと報告した。
 次に、袴田事件の再審を求めるボクシング協会や清水・静岡市民の会が活動の報告を行った後、袴田巌さんの姉の秀子さんと鎌田慧さんが対談を行った。
 袴田事件は一九六六年に静岡県清水市で起きた一家四人強盗殺人・放火事件で、袴田巌さんがデッチ上げ逮捕され、死刑が確定している事件だ。袴田さんは再審を請求し、現在最高裁で審理中である。今年三月九日、一審で主任裁判官であった熊本氏が「無罪を確信し、事前に無罪の判決文を便箋三百五十枚にわたって書いていたが他の二人の裁判官を説得できず、有罪としたためしかたなく死刑判決を下さざるを得なかった」と退職して裁判官を辞めるにあたって衝撃の記者会見をした。
 姉の秀子さんは「事件の三日後に巌に会ったが話やその様子から事件に関係していないと確信した。未決の時は毎日のように手紙が来たが、死刑が確定してからは、いつ執行されるか分からないとダメージを受け、『毒殺される』などと言いはじめた。十八年前からは、姉である私を理解できずに面会を拒否するようになった。最近、ボクシング協会の元チャンピオンたちの支援があり、昨年三年八カ月ぶりに面会ができた。今日も浜松駅で、見も知らない人に激励された。巌は病気にかかっており、医療刑務所に移してほしい。最後に、一刻にも早く再審請求を行って、えん罪を晴らしてほしい」と訴えた。
 最後に、鎌田慧さんが「百万人署名が達成できたことは狭山の四十数年の力がまだまだ残っている証拠だ。他のえん罪事件の運動や改憲のための国民投票法を跳ね返していく運動と連携し無罪を勝ちとろう」とまとめた。集会後、銀座を通り常磐橋公園までデモを行い、狭山闘争の勝利を訴えた。      (M)



共同声明
東アジアの軍事的緊張を拡大する
集団的自衛権の行使に反対する
(団体共同声明賛同募集:FAX03―3221―2558)

 5月14日の参議院本会議で、安倍内閣と与党は18項目にわたる付帯決議をつけ、自ら欠陥法案と認めたような悪法=改憲手続き法制定を強行し、憲法9条改悪の準備を大きく一歩すすめた。
 そして18日には、明文改憲を待たずに9条の「解釈」を大きく変え、米国と共に戦争のできる体制を整えようと、お手盛りのメンバーを集めてつくった首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(通称=有識者懇談会)の初会合を開いた。これは多くの人々が指摘しているように、「はじめに結論ありき」の人選のもとでおこなわれた、ほとんど「ヤラセ」といってもよいものだ。安倍首相はこのような小手先細工を弄して、歴代の自民党政権ですら憲法違反だと言ってきた集団的自衛権行使の「合憲化」に踏み切ろうとしている。
 「集団的自衛権の行使」とは自衛の名の下で行われる日米の攻守同盟体制であり、アジア・太平洋の広大な地域で日米両軍が一体になって戦争をすることを可能にするものだ。安倍首相は「集団的自衛権は数量的概念だ。4つの類型について容認されるかどうか検討する」などといって、強引に憲法第9条の解釈を拡大し、憲法9条を変える前に、憲法9条の制約を外して、日米共同作戦体制作りを進めようというのだ。このような動きはいたずらにアジアの軍事的緊張を激化させるものであり、大多数の人々が望んでいる平和の実現にとって百害あって一利なしだ。
b憲法をないがしろにする安倍内閣のこのような無法は断じて許されない。
b安倍内閣は憲法違反の集団的自衛権行使に道を開く解釈改憲の企てを止めよ
bはじめに結論ありきの、首相の私的諮問機関=有識者懇談会を解散せよ
b東アジアに戦争を引き寄せる日米軍事同盟の強化反対
b安倍内閣は憲法第9条を遵守せよ
以上連名をもって要求する。
呼びかけ団体
平和を実現するキリスト者ネット/平和をつくり出す宗教者ネット/許すな!憲法改悪・市民連絡会 


書評
設楽清嗣・高井晃 共著、旬報社刊 1500円+税
『ユニオン力(りょく)で勝つ』
経験からにじみ出る教訓



「共感」を呼び
さます語り口

 東京管理職ユニオンの設楽清嗣さんと派遣労働者ネットワーク・東京ユニオンの高井晃さんが共著で『ユニオン力(りょく)で勝つ』を出版した。高井さんとは話をしたことはないが、一九六九年の東大安田講堂占拠闘争の被告という共通性があり、設楽さんには七〇年代の三里塚闘争などでいろいろお世話になったこともあり、親近感をもって最後まで読ませてもらった。
 冒頭に「本書の目的は、今日の日本の労働者の雇用、労働実態を赤裸々に明らかにし、……設楽清嗣が主に正社員労働者の苦悩……高井晃が派遣労働者……など非正規雇用労働者の悲惨な現実について問題提起して、現状を変えていくための闘い方をともに語り合った。……」と記されている通り、テーマごとに二人が討論するという形式を取って進められている。
 この本がとくにすぐれている点は、新自由主義的な市場競争によっていかに労働者の雇用が破壊され、いかに労働者が過酷な労働条件の中に置かれているか、労働組合運動を通じて知ったり実感したことを具体的事例をあげ指摘していることである。しかもそれが極めて簡潔明瞭な言葉で語られている。読み進んでいると日常労働現場の最先端にいない私が「知る」という感じではなく、「共感」するのである。おそらくは設楽さんも高井さんも三十年を超えて労働運動の現場で闘ってきた経験の豊かさがそうさせるのだろう。

「壊れていく」
労働者の現状

 本書は次の五項目で構成されている。
一、労働者が壊れていく
二、追いつめられる正社員
三、派遣は使い捨てか
四、管理職・事業主という名の労働者
五、ユニオン力で突破する
 一の「労働者が壊れていく」の項では、「規制緩和」の名のもとに進められた攻撃がいかに非人間的なものであったかを長時間労働と低賃金構造、なぜ非正規職が増大したのかということを資本の攻撃との関係で具体的に説明し、反撃の糸口を指し示している。
 二の「追いつめられる正社員」では、非正規職と比較して雇用が安定しているはずの正社員が、規制緩和の名のもとにバブルの崩壊以降、一方ではリストラ、他方では長時間労働に追い込まれストレスで健康を壊してしまう実体を明らかにしながら、それに対してどう闘うべきかを述べている。同時に成果主義による賃金ダウンを飲むのか辞めるかが強制されている職場の現実を説明しながら、「成果主義賃金の帰結は労働組合から賃金交渉権を剥奪したい」と思う資本の意図を暴露しながら、労働組合の重要性を明らかにしている。

「派遣」と管理
職の闘いとは

 三の「派遣は使い捨てか」では、政府と資本が派遣法を改悪しながら職種などの規制を緩和し、どんどん正社員の代替として正社員以上に働かされている派遣社員の実態を採用段階から派遣期間や労働条件に至るまで、労働組合活動の経験に基づいて暴露している。さらに「いざなぎ景気」を超えているというのに、派遣労働者の賃金が依然として低いままで年収二百万円代に圧倒的多数がとどまっている現状を具体的な例や数字を出して明らかにしている。
 四の「管理職・事業主という名の労働者」の項では、形だけの「管理職」が時間外賃金をもらえず長時間労働を強制されている実態を管理職ユニオンなどでの闘いの経験をまじえながら述べている。とくにマクドナルド、文教堂書店の例は分かり易い。同時に労働組合の結成と闘いが「資本の非人間的な壁」を打ち破っていく上でいかに重要であり、武器になるかを闘いの実践を通して語っている。また個人事業主にすれば時間外賃金や社会保険料を雇用主は払わなくても済んでしまう日本型の「偽装雇用」の問題をプロ野球労働組合など例に出しながら解説し断罪している。日本経団連会長でキャノン会長である御手洗富士男が、キャノンの偽装請負を暴露されながらも「派遣法制に無理がありすぎる」「法律の方が悪い」と居直っているところに今日の日本の経営者の姿勢があると指摘し、闘う側の決意を要求している。

ファイティング
ポーズを取る

 五の「ユニオン力で突破する――ファイティングポーズのとり方」では、「ケース@、解雇だ!と言われたら」「ケースA、賃下げだ!と言われたら」という形で十三の具体的ケースをあげて労働者一人ひとりに闘いの仕方を教えている。本著が一般に出版されている労働運動に関する書籍との大きな違いは、この十三の項目、いかに闘うかということを述べているかに尽きると思う。まさに「百戦錬磨の二人が、闘い方を伝授」しているのである。
 「高井――……自分がファイティングポーズをきちんととらないとダメなのです。設楽――そうそう。われわれはサポーターなんだ。高井――ユニオンというのはそういう役割なんだ。だから、自分でその気にならなければ何も解決しないよと。……高井――労働運動の原点は古い言葉であるけれども、一人ひとりが職場の主人公なんだと。……だから、一度グランドに立ってみろ、自分が選手になれ……設楽――トラブルが発生したときに自分がファイティングポーズをとるということがまず基本だね……」(P59〜60)。
 労働者の反撃は、労働者一人ひとりが怒り、闘うということによってしか始まらないというのが二人のメッセージである。「ここまで労働者がなめられていいか」という呼びかけに応ええるのかはこの本を読んだ私たちの責務である。(松原雄二)


もどる

Back