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大阪 「教員としての指導力不足」をでっち上げ      かけはし2007.6.4号

新任教員免職裁判で不当判決

教員免許法改悪案と一体の攻撃
市教委の処分追認した地裁
物言わぬ教員づくりが目的

 【大阪】二〇〇四年四月大阪市の小学校教員に採用され、条件付採用期間の切れる〇五年三月末で免職となったIさんの処分取り消し訴訟の判決が、五月二十一日大阪地裁であった。第一回口頭弁論は〇五年九月二十一日、それから一年九カ月後、判決は原告の請求を棄却するという不当な内容であった。
 処分理由は、学校日誌の記載の誤り、学年会計で金銭出納帳をまとめて付けたこと、ある期間の週案の未提出(提出の準備はされていた)、直前の時間年休の申請、出勤簿の押印の遅れ、学級崩壊などを理由とした「教員としての指導力不足」である。処分理由は、どれ一つをとってもほとんど理由にならないものばかりだ。事実を歪曲した校長の恣意的な具申書に基づき、一年間の条件付採用期間が切れる時点で大阪市教委が免職処分を行ったのである。

新任教員の配慮
を欠いた校長

 〇四年度新学期、Iさんは新任教員として五年生の担任となった。五年生の学年は三年生のころから指導困難で、持ち手がなかったところにIさんが当てられたというわけだ。「学級崩壊」には根深い複合的要因がある思うが、ベテラン教員すら「学級崩壊」の困難に直面する場合が少なくない。多くの場合、五・六年生の担任には新任教員をあてないよう配慮をしている学校がほとんどだが、Iさんの小学校ではそうではなかったようだ。
 教育という仕事は共同作業である。教育にはさまざまな面があって、誰かひとりの「有能」な教員だけでできるものではない。この特徴は、さまざまな職種のなかでも教員がもっとも際だっていると思う。制度上、新任教員には一年間指導教官がつくことになってはいるが、人間を相手にする仕事であるだけに、新任教員は経験を積んだ職場の同僚たちに助けられながら経験を積んでいくことが不可欠である。この点について、Iさんの学校では実際はどうだったのだろうか。校長は非常に乱暴な物言いをする高圧的な人物で、管理職として新任教員を支えななければならないという自覚は乏しかったようだ。

裁判報告集会
で判決文批判

裁判終了後、大阪弁護士会館の百人ほどの会場をぎっしり埋めて報告集会が開かれた。在間・小野両弁護士が判決文のポイントを報告した。
 原告側が考えた最大の焦点は、「教員としての基礎的能力の欠如」についての裁判所の判断であった。子どもに対する愛情が感じられないとか、子どもの心をつかめないとかという大阪市教委の判断について、判決はこれを退け、むしろ原告側の主張を認めている。
 しかし一方、板書の仕方がまずい、声が小さい、学級日誌の件、学年会計処理のこと、週案の未提出、朝会の当番の日の年休(代わってくれた人の当番を後でやっている)、運動会で演奏するブラスバンドの練習日に年休を取った等々のことについては市教委の主張をそのまま採用し、そして結論的に、「Iさんはストレスに弱く、教員としての自覚に乏しく、批判するばかりで独りよがりで、基本的事務処理に劣っている。複雑多様化した社会の中では、教員には高い能力が必要であるが、これらを欠いた教員が採用されれば市民に不信感をもたれかねない。条件付き採用期間は未だ正式採用の過程にあるから、正式採用にするかどうかは市教委の判断にゆだねられている」として、解雇は市教委の裁量内にあるとの判断を示した。
Iさんがハードな勤務で過呼吸になったこともマイナスに評価している。評価育成システム(大阪府の査定制度)では、管理職に対する提言シートを書くことができ、それは市教委にあげられるが、Iさんはこれに「手きびしい」ことを書いた。処分はこれに対する報復ではないかと思われるが、判決では、その証拠はないとしている。

行政権力に弱い
司法の体質を問う

 総じて裁判所は、教員としての適格性があるかないかの基本的な点では、いくら何でも市教委の主張を認められないから、些細な部分で認めて行政を勝たせたとの報告だった。行政相手の訴訟はほとんど敗訴になると言われているが、日本の裁判では特に言えることだ。司法が行政権力に非常に弱いことの証である。
 報告集会では、この度の判決が、教育三法案、中でも教員免許法「改正」案に見られるような政治の流れを反映しているとの意見も出された。こんなことで解雇されるのは信じられない、というのが学校現場の反応である。判決は、校長・教頭・教務主任に対する証人尋問の内容、Iさんの手記(「労働情報」に連載)についてはほとんどふれていないようである。二十年ほど前に条件付き採用期間が半年から一年にのばされたが、そのことが年度替わりを利用して解雇をしやすくする意味があることにあらためて気づかされた。

大阪市教委に
要請文を提出

 Iさんは、「教室に戻りたいという純粋な気持ちはなくなったが、これから教員になっていく人たちのためにも控訴審で闘う。大阪市役所に行きたい」と決意を述べた。大阪教育合同労組の山下委員長は、「今は国を挙げて教育を改悪しようとし、現場を知らないものが教育をいじくっている。学校現場に魅力がなくなっている。この裁判の目的の一つは教育の崩壊を食い止めていくことだ。問題は処分を行った大阪市教委だ。処分を出す直前の段階での大阪支部との交渉では、転勤処理で解決すると言っていたのに。本当の理由はなんだったのか聞きたい」と述べた。
 文科省の発表によると、全国公立学校で〇五年度に新任教員として採用され、条件付き採用後に正採用されなかったものは百九十八人で、過去最高である。厳しい採用テストを経て採用しているはずだから、使用者責任があるはずだ。
 東京都教委は昨年十月、新規採用教員に対する「任用前学校体験」の実施を通達した。これは、任意参加といいながらも全員参加を想定しているとして、採用予定者に体験を義務づけるもので、物言わぬ従順な教員をつくろうとするのが目的であることは明白だ。このようなやり方は教員の自主性をそぎ、教員のなり手を減少させ、やがて公教育の頽廃をもたらすだろう。かかる状況下でのIさんの控訴審に注目したい。
この後、大阪市役所に行き、三十人の代表が大阪市教委に要請文を渡した。市役所前では、裁判から連続して参加した大阪ユニオンネットワーク、大阪全労協、全学労組協議会のそれぞれの組合から次々とアピールがあり、最後に全体で抗議のシュプレヒコールをした。      (T・T)



パンフ紹介 編集・発行/日本共産青年同盟 頒価400円
『青年戦線』171号
改憲暴走に立ち向かうために

状況を変える
力をはぐくもう

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悪法ラッシュ
への反撃を!

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免状不実記載
弾圧との闘い

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被爆62年―今
こそ核廃絶へ

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 くわえてインドやパキスタン、さらに昨年核実験を強行した朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)なども核兵器を保有するようになり、核兵器の拡散に歯止めが利かなくなっています。核兵器は人類全体に破滅をもたらすものであるだけでなく、いったん持ってしまえば簡単には放棄する事が出来ない兵器です。いかなる国家、主義主張のもとであっても核兵器保有は絶対に許されません。暴力団の凶弾に倒れた伊藤前長崎市長が訴えたように、「核と人類の共存は不可能」なのです。
 広島の地で核廃絶を闘う同志からの訴えが届いています。軍事力への依存と国家間の覇権争いの行きつく先がヒロシマ・ナガサキであるということを今こそもう一度確認して反戦平和への思いを新たにしようではありませんか。62年目の被爆の年、そして日本帝国主義の敗北から62回目の夏を広島の地から始めましょう。今年の夏は広島、長崎で会いましょう!

差別をなくす
実践の深化へ

 憲法改悪は9条だけではなく男女の平等をうたった24条改悪の危機でもあります。安倍はその著書の中で、シングルマザーや同性愛のカップルへの露骨な敵意を表明し、自身のブレーンに「親学」なるものまで作成させて各家庭に押しつけようとしています。
 厚労相・柳沢の「女性は子を産む機械」発言に代表されるように、あたかも子供を産まない女性が少子化の「犯人」であるかのような差別的なデマゴギーをまき散らしているのが今の安倍政権はじめ政府・与党、そしてその背後にいる財界(ブルジョアジー)の姿ではないでしょうか?男が女を、年長者が年少者を……国籍、出自、からだの特徴などによって……という差別の構造は、過酷な資本主義社会の中で拡大再生産されています。これは、階級の隊列である私たちの中においても残念ながら同様です。「差別」の問題を深くえぐる訴えも三本掲載されました。共有し、実践につなげていきましょう。
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(『青年戦線』編集委員会)


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