もどる

違憲が色濃いハンナラ党の政治関係法          かけはし2007.5.21号

02年大統領選の敗北を教訓に国民の民主的権利を制限


大統領選をターゲット

 だれかが「大統領をしっかり選ぶために民主主義を暫時、留保しよう」と言おうものなら、以下のような反論の集中砲火を浴びることだろう。大統領をなぜ選挙というやり方で選ぶのか、民主主義を体現しようということではないのか、民主主義のために民主的権利の行使を留保しようと言うのは話にもならないではないか。しかし、このような事が実際に繰り広げられている。それも民主主義の殿堂とも言うべき国会という空間で、現在の支持率のままならば大統領選挙において大統領を輩出する可能性の最も高い政党の議員らが推進しているのだ。
 野党・ハンナラ党は3月に政治関係法の制・改定特別委員会(委員長アン・サンス議員、以下、特委)を設置した。今後、国会内で論議される政治関係法の制定・改定の過程に委ねられるハンナラ党案を作りあげるための機構だが、キム・ジョンフン、チュ・ソンヨン、チャン・ユンソク、キム・ギヒョン、イ・ジュヨンなど法曹界出身の議員らが特委内の5つの小委委員長を担当し活動してきた。実際には「政治関係法」という名称の法律が別にあるわけではない。政治にかかわるさまざまな法案、例えば選挙法、政党法、政治資金法などをひとつの名称で包括的に束ね、そう呼んでいるのだ。政治という名称を掲げてはいるものの、特委を作った時期や実際の活動内容を見ると、選挙関係法や2007年大統領選挙関係法と言うのがより近い。

自党に不利な材料の排除

 大選(大統領選挙)を公正に執り行うために選挙関連法案を整備しようということに反対する人はいないだろうが4月16日、アン・サンス委員長(アン議員は国会法制司法委員長でもある)の記者会見を皮切りに3日間かけて示された各法案は、他の政党や各市民社会団体から強い反発の声があがった。
 02年大選での敗北の経験を基にして、ハンナラ党にとって悪材料になりかねない一切の可能性を断ち切ろうと言うのだから、憲法に規定された国民の民主的権利、例えば表現の自由、集会・結社の自由を阻む違憲の素地が相当ある諸法案がどっと出てきた。
 代表的なのが、選挙期間中のキャンドル集会を禁止した公職選挙法改正案だ。特委の改正案は「選挙期間中、選挙に影響を及ぼしかねない団結大会、飲食会またはキャンドル・デモ、その他の集会を開催することはできない」と規定した。現行選挙法にも関連規定があることはある。各種の集会を制限している第103条3項を見ると「選挙期間中、選挙に影響を及ぼすために団結大会または飲食会、その他の集会を開催することはできない」となっている。

キャンドル集会も行うな

 一般の人々にとっては、どこがどう違うのか判断しかねるだろうが、大きな違いがある。現行選挙法では「選挙に影響を及ぼさせるために」という目的が比較的にハッキリしているのに反して、ハンナラ党特委が示した改正案では「選挙に影響を及ぼしかねない」と、極めて包括的だ。普通、集会というものは選挙権者と大部分が重なる大衆に向けて発言し、説得することを目的とするという点において、選挙にいかなる影響をも及ぼさない完璧に「純粋な」集会はない。選挙法がハンナラ党の主張通りに改正され、実際に厳格に適用されることになれば、選挙期間中にはいかなる性格の集会も不可能となるわけで、話したい事案が発生したとしても選挙が終わるまではしっかりと口をつぐんでいないと犯罪者となってしまう。
 現行選挙法に「その他、集会開催の禁止」が規定されているにもかかわらず、団結大会、飲食会とともにキャンドル・デモを別途、銘記したことについてアン・サンス委員長は「キャンドル集会が及ぼす爆発力は、この法にある団結大会や飲食会よりはるかに大きいから」だと説明した。
 これは02年、米軍装甲車の犠牲となった女子中学生を慰めを称えたキャンドル・デモや、04年の大統領への弾劾反対キャンドル・デモによってハンナラ党がそれぞれ大選や総選挙で敗北したという認識のためだと解釈されるが、02年のキャンドル・デモには当時、ハンナラ党の大選候補だったイ・フェチャン氏も参加した経過がある。

インターネット情報の遮断

 偽証事実の公表に関する条項は、国民の知る権利と衝突する。改正案は候補に関する虚偽事実についての論難があった場合、裁判所は72時間以内にこれを決定しなければならず、また「明らかな証拠がない限り」言論の報道禁止仮処分も受け入れなければならない、と規定している。「虚偽事実が大選に重大な影響を与えたと認定される場合には大選を無効とし、再選挙を行う」との条項は、どこまでを虚偽の事実と見るのか、虚偽事実が大選にどのぐらい影響を与えたときに「重大な」程度というのか、極めてアイマイだ。選挙が終わった後、結果を承服するのかどうかをめぐって政治的葛藤や混乱が続くおそれもある。
 特委の改正案は選挙に不当な影響を与えるおそれがあると認定されるインターネット言論社やポータルの掲示板について、任意で該当情報の接近を遮断する措置ができるようにし、特定政党や候補者への支持または反対の意見を盛り込んだ文章、動映像(UCC)、音響などについて実名認証を受けるようにしているほか、テレビやラジオで政党と政党候補者、あるいは政党と無所属候補者間の候補者単一化の討論などを放送できないように規定している。まだハンナラ党の党論と確定してはおらず、国会の審議過程での加減を計算した交渉案であることを勘案したとしても、選挙期間に言論やインターネット、国民の口にくつわをかまそうとする法案だとの批判を買うに充分な内容だ。

他の各党が一斉に批判

 このようなハンナラ党の動きを他の各党がじっと見ている訳がない。チェ・ジェソン・開かれたウリ党のスポークス・パースンは4月18日、「大権のみを追い求めるハンナラ党の異常な執念が国民の政治意識、民主主義、言論に向けて戒厳令を宣言したもの」であり「軍事政権の末えいでもなければ想像しがたいことをしでかした」と厳しく非難した。
 イ・ヨンスン民主労働党公報部代表も、国民の基本権を抑圧した維新時代(パク・チョンヒ軍事独裁政権下)になぞらえ、「ハンナラ党版緊急措置10号」だと規定するとともに「執権してもいない政党がこのような事を言うのだから、執権することにでもなればどれほどひどいことになるか、それこそ身の毛もよだつ」と語った。
 ハンナラ党特委の政治関係法案は、極端な話、党内部でも共感を得られない状態にある。カン・ジェソプ代表は4月19日、「発表内容のうち違憲性のある条項などもあるようだ」「党指導部との論議なしに特委レベルで「オーバー」して発表し、それが党論であるかのように歪曲される場合がある。(現在、発表された)政治関係法は完全な党論ではないのだから、(指導部と)相談をしてくれ」と要請した。

ハンナラ党内で適用してみよ

 それにもかかわらず、ハンナラ党の政治関係法の制・改定特委が彼らの政治関係法にこだわろうとするのであれば、製薬会社が医薬品を市場に売り出す前に臨床実験を経るように、今年末の大選前に開かれるハンナラ党の大選候補の競選に適用してみる方法がある。
 まず「選挙に影響を及ぼしかねない」議員たちの各種の会合は停止し、集まることのないようにしなければならない。また相手候補の政策や道徳性について提起したい疑惑があったとしても「明らかな証拠がない」虚偽の事実を公表してはならず、各言論は報道禁止の仮処分を受け入れなければならない。ハンナラ党競選選管理委員会は虚偽の事実が競選にどの程度の影響を及ぼしたのか測定し、再選挙を実施すべきか否かを判断しなければならない。
 そうなれば、今回の政治関係法を提起している特委の議員たちの口から、このような言葉が出てくるかも知れない。どこにこんな法があるのか?(「ハンギョレ21」第657号、07年5月1日付、キム・ボヒョプ記者)




抗議声明
安倍政権の死刑執行を許すな
05年11人、06年20人、今年はすでに10人と世界のすう勢に逆行

 「美しい国」を掲げる安倍内閣は、昨年12月、4人の大量の死刑執行を行ったのに続き、4月27日、3人の死刑執行を行った。死刑廃止が国際的な潮流になっている時、死刑という残虐な刑罰はその流れに逆行するものであり、絶対に許されるべきではない。死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90の抗議声明を掲載する。(編集部)


 本日、名田幸作さん(大阪拘置所)、小田義勝さん(福岡拘置所)、田中政弘さん(東京拘置所)に死刑が執行されたことに対し、強く抗議する。
 名田幸作さんは死刑確定後恩赦を5回、再審請求を4回申し立てており、最後の恩赦請求が本年4月17日に不相当となり、弁護人に再審請求の準備をする旨の手紙を出した直後の執行だった。小田義勝さんは一審での死刑判決直後に控訴を取り下げて確定しており、最後まで審理が尽くされていない状態で執行された。田中政弘さんは再審請求が本年2月10日に棄却され、4月18日付で弁護人に発信した手紙には「すでに恩赦請求書ができており、あとは日付を入れて5月21日くらいに提出予定」だと記載されており、提出直前に執行されたことになる。
 長勢甚遠法務大臣は、昨年12月25日に4名もの大量処刑を行ってからわずか4カ月で更に3名の死刑執行をしたことになり、1993年3月の死刑執行再開以降、在任中に複数回死刑執行を行っている法務大臣でも、このような短期間に多数の執行を行った法相は存在しない。過去6年は一度に1〜2名の執行であり、およそ許されるものではない。
 また、国会開会中の執行は、1993年3月26日の後藤田正晴元法相が執行した時以降、閉会を翌日に控えた2000年11月30日に行われて以来のことである。しかし、開会中とはいえ、ゴールデンウィーク前日であり、死刑執行に関する国会での議論ができない時を選んでいることに違はいなく、いずれも正面から議論をすることを避けた時期を、あえて選んでいるといわざるを得ない。
 また、最近の常軌を逸した厳罰化の流れの中で、03年までは年間2〜7人だった死刑確定者が04年は14人、05年は11人、06年は20人、本年はすでに10人と激増し、確定者が100人を超えていた異常な状態で、確定者の人数を減らす目的のために執行を急ぐ行為は、確定判決の増加を更に加速させようとするものであって、不当であり、極めて政治的に行われた死刑執行である。
 死刑は、残虐な刑罰であり、民主主義の理念に真っ向から反するものである。死刑には犯罪抑止効果がないばかりか、かえって、社会の倫理観を荒廃させる。死刑に必ず冤罪があることは、免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件の再審無罪で証明されたところである。死刑は直ちに廃止されなければならない。
 死刑廃止は国際的な潮流であり、すでに世界の3分の2以上の国と地域で死刑は廃止されている。日本は、国連や欧州連合など国際社会から強く死刑廃止を求められている。今回の死刑執行はおよそ許されるべきものではない。
  今回の死刑執行は安倍内閣において2回目であり、国家が人を殺す国など「美しい国」であるはずがなく、更に安倍内閣が掲げる再チャレンジという政策にも真っ向から反するものであって、その欺瞞性に強く抗議する。
 われわれは、日本政府および法務省並びに法務大臣に対し、今回の死刑執行に強く抗議するとともに、直ちに以下の施策を実施するよう求める。
1 死刑の執行を停止し、死刑廃止に向けて努力すること。
2 死刑に関する情報を公開すること。
3 死刑確定囚に対する処遇を抜本的に改善すること。
4 犯罪被害者に対する物心両面にわたる援助を拡充すること。
2007年4月27日

死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90


もどる

Back