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投 書 映画「モーツァルトとクジラ」を見て
彼らには共通の悩みがあった              
かけはし2007.5.14号

「障がい者」が人間らしく生きることができる社会の実現を!

S M


アスペルガー
症候群とは

 2月にシネスイッチ銀座で「モーツァルトとクジラ」という映画(ピーター・ネス監督作品)を2回見た。
 ストーリーを簡単に紹介したい。ドナルド(ジョシュ・ハートネット)はタクシーの運転手として働くが失敗ばかり起こしている。一見普通の若者である彼はアスペルガー症候群(AS、エイエス)という障害を抱えていた。彼は同じような障害を持つ仲間たちのために、彼らを集めて定期的に集会を開いていた。そこに新しいメンバー(女性)が参加した。美容師のイザベル(ラダ・ミッチェル)だ。2人は恋に落ちるのだった……。
 この映画は「アスペルガー症候群ここあり」という感じがした。この映画がアスペルガー症候群の人に対する世間の理解が深まることにつながればいいな。ぼくは、そう思った。
 八坂ありささんは述べる。「アスペルガー症候群は『高機能自閉症』、つまり『知的障害や言語障害を伴わない自閉症』と考えられている」(『モーツァルトとクジラ』、日本放送出版協会)。
 ローナ・ウィングさん(顧問精神科医)は述べる。「最近の研究では、アスペルガー症候群の人は200人から300人に1人の割り合いでいるらしいと分かってきました」(『アスペルガー症候群を知っていますか? アスペルガー症候群の理解のために』、特定非営利活動法人 東京自閉症センター・社団法人 日本自閉症協会東京都支部)。
 吉田友子さん(精神科医師。よこはま発達クリニック勤務)は述べる。「ASと自閉症を合わせて自閉症スペクトラム(自閉症連続体)といいます」。「自閉症スペクトラムの人……は人口の約1%……いるといわれています。つまり100人に1人ですね」。「1%ってどのくらいでしょう。世界人口59億100万人の中で……英国人(5865万人)である割合は約1・0%なるほど、だいたいこのくらいですね」。(ASの人は)「たまたまこの地球では少数派だというだけなのです。あなたは、何かのにせものではないし、間違った何かでもない。多数派と同じように感じる人になろうと考える必要なんてないのです」(『あなたがあなたであるために 自分らしく生きるためのアスペルガー症候群ガイド』、中央法規)。
 トニー・アトウッドさん(心理臨床家)は述べる。「アスペルガー症候群が親の適正を欠いた育て方、虐待、無視などがもたらしたという思い込みは一掃されねばなりません」。「アスペルガー症候群の成人の間でとても人気のあるキャラクターに、最近の「スタートレック」シリーズに登場する「データ」がいます。……彼がぶつかる問題は、多くのアスペルガー症候群の成人が直面する問題にとてもよく似ていて、彼らはその困難に共感できるので、データが彼らのヒーローとなるのは、少しも不思議ではありません」。「私は、アスペルガー症候群の人と彼らが出会う人たちの関係を、異なった文化をもつ人同士の出会いにたとえて説明します」(『ガイドブック アスペルガー症候群 親と専門家のために』、東京書籍)。
 『発達障害とメディア』という本(現代人文社発行、大学図書発売)に次のような文章がある。
 「ちょっと変わったオジサンが人々を騒動に巻き込むイギリスの人気テレビ番組『ミスター・ビーン』を見たことがあるだろうか。……ミスター・ビーンは、アスペルガー症候群という発達障害の人の行動をモデルにしてキャラクター化したと言われいる」。「ミスター・ビーンを心やさしい愉快な隣人と見るか、相手の気持ちがわからない気味の悪い男と見るか――。私たちが暮らしている社会の質そのものが問われているのである」。
 この映画のプログラムの中で、ジェリー・ニューポートさん(監修。この映画のモデルとなった人物)は「私は、『レインマン』がきっかけで、自分がアスペルガー症候群だと知りました。……」とコメントしている。
 北アイルランド生まれのケネス・ホールさん(当時10歳)は述べる。「ぼくはちがっているのが好き。ふつうでいるより、ちがっているほうがいい。ぼくはASがあることがうれしいし、ぼくがぼくであることを誇りにしている」(『ぼくのアスペルガー症候群 もっと知ってよ ぼくらのことを』、東京書籍)。この映画のプログラムによれば、アルバート・アインシュタイン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンなどもアスペルガー症候群だったと言われている。

機会があったら
「会」に参加したい

 1回目にシネスイッチ銀座1でこの映画を見た時は「ドナルドやイザベルは、何か余りぼくと似ていないな」と思ったが、2回目にシネスイッチ銀座2で見た時は「結構ぼくと似ている所があるかも知れない」と思った。
 ぼくは「自閉症かぶれ」ではない。ぼくは、ぼくの記憶が正しければ医師に「アスペルガー症候群が少しある」と言われたことがある。でもぼくはサヴァンでもないし数学も得意ではない。人と視線を合わせることはドナルド程苦手ではないかも知れない。
 ぼくは『東京精神病院事情』という本(悠久書房)を読んで精神科を受診した。ぼくは女の人と目を合わせられなかったり電車の中で「女の人に心を読まれているのではないか」という感じがする時などが苦しかった。ぼくは「てんかん性精神障害で、広汎性発達障害である」というふうに診断されている。ぼくの記憶が正しければ、「強迫性人格障害だとか、軽い神経症ではないかとか、この程度ではてんかんとは言えない」などと言われたこともある。
 いわゆるてんかんの発作はぼくにはないが、脳波に異常があるらしい。「障がい」とは関係ないかもしれないが、はしかと赤痢とお多福風に罹ったことがある。薬を飲んで突然死するケースもあるらしいので服薬がこわかったが薬(精神科の薬)を飲んだらとても楽になった。
 ぼくにはいわゆる幻聴はないかも知れないが「精神のチック症」がある。「頭の中に浮かぶことを望まない単語(または短い言葉)や気分」が頭の中に浮かぶことがあるのだ。これは「健常者」には分からないかも知れないが、ぼくには相当苦痛だ。もしかしたら、昔はこんな症状はなかったかも知れない。後、人間関係のトラブルが多い。「回りくどい」「細かい所にこだわる」所もあるかも知れない。「整理整頓が苦手」な所もある。共同作業所の職員には「質問が多い」とか「確認が多い」などと注意されることがある……。
 映画に話を戻そう。「普通に思われたい」というドナルドの気持もぼくには少し分かるような気がする。プロポーズされた後のイザベルの行動が良く分からなかった。この映画を見て、機会があったら「アスペルガー症候群の人(当事者)の会」にも参加してみたい。ぼくは、そう思った。
 ぼくの誤解でなければ、この映画には「精神障害者」を差別するような表現があった。『ガイドブック アスペルガー症候群 親と専門家のために』の207ページにも、そういう表現があった。ストーリー紹介の部分で、この映画のプログラムを引用に近い形(合成の形)で参考にした。この映画のシネスイッチ銀座での上映は終了している。この映画に興味のある人は、他の映画館で上映されるかビデオ化・DVD化されるかした時に見てほしい。「『障がい者』が人間らしく生きることが出来ない社会」は変革されるべきだ。ぼくは、そう考える。
 「モーツァルトとクジラ」/2004年/アメリカ映画/原題 Mozart  & The Whale
 (2007年4月5日)


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