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与党が4月中旬衆院可決を画策              かけはし2007.4.9号

憲法9条改悪への歩みを押し戻せ

改憲手続き法案成立阻止へ
安倍内閣の暴走を止めよう


「併合修正案」を提出した自公

 三月二十七日、与党は民主党案を取り入れた形で、改憲手続き法案の「併合修正案」を衆院に提出した。「併合」修正案とは、民主党との「共同」修正案ではないが民主党案を「取り込んだ」という意味で「併合」という聞きなれない用語を使用したとのことである。
 今回の「併合」修正案では昨年末に自民、公明、民主の三党の間で合意されていた公務員の「政治的行為」の制限を適用しないとする項目を削除し、法案成立から施行までの三年間の間に「公務員の政治的行為の制限を定める国家公務員法、地方公務員法の適用を検討する」という形で、公務員の政治活動制限の方向を打ち出した。与党は「公務員の地位を利用した投票運動」については罰則規定を設ける方針だったが、その罰則規定をなくす代わりに三党合意に含まれていた国家公務員法、地方公務員法の政治活動制限規定の「適用除外」という項目を外してしまったのである。
 自民党の船田元・党憲法審議会長は、民主党との合意にもとづいて「公務員の政治活動制限条項を、国民投票運動にかぎって適用除外とすることを一時は考えた」ことを認めている。それが今回削除されたことは、民主党に対する攻勢を通して民主党内の亀裂を促そうとする思惑によるものだと見られる。
 その他の項目の問題点は、すでに本紙でも繰り返し批判してきたことがそのまま残されている。改憲手続き法案は「国民投票法案」と「国会法『改正』案」が一体化したものであるが、ここでは便宜上二つに分けて検討したい。

内閣にも改憲案提出権?

A 国民投票法案

 @「過半数」の基準がそれぞれ○で囲んだ賛成・反対を合わせた有効投票数の過半数であり、総得票数の過半数でもない。しかも最低投票率規定は導入されず、投票率が五〇%であったとしても全有権者の二五%程度で改憲が成立してしまう。外国では、改憲投票には最低投票率規定を設けている国も多く、立憲主義の原則に立つ以上、それは当然である。
 A投票方法については「一括」して賛否を問う方式ではなくなったものの、「内容において関連する事項ごとに」に発議するという形になっている。しかし何が「関連」する事項かの判断には恣意的な操作の入る余地がある。また憲法9条については各項目ごとに賛否を問う方式にすべきである。
 B発議から投票までの期間が六〇日から一八〇日と短期間であり、この期間中に改憲案について有権者が熟慮して判断する期間としては不十分である。短期間のうちに集中的なメディア宣伝によって世論誘導がなされることを排除し、問題点を慎重な討議によって明らかにしていくためには最低でも一年程度は必要。
 C改憲発議の広報のために国会に「国民投票広報協議会」を設置するが、その構成は衆参両院議員十人ずつで、各政党の議員数に応じて割り当てることになっている。しかしこの構成では改憲支持派が最低で三分の二を占めることになる。少なくとも賛否同数にするか、政党以外の中立的な構成に変えるべきである。
 DTVでの運動期間中の広告は、投票日の二週間前から全面禁止とされているが、TV・ラジオのスポット広告は、財界など資金力のある改憲派に圧倒的に有利であり、全面禁止にすべきである。「公費」での無料広告は政党のみに限定されているが、新聞紙上での無料広告は一定の要件を勘案した上で、市民団体等にも認められるべきである。
 E公務員の「政治活動」の制限規定は、教員などが学校で憲法について題材にすることを弾圧する口実に利用され、国民投票運動の自由な展開を萎縮させる効果を持つ。本来、国民投票期間中の有権者相互間の討議などにはあらゆる制限が課されるべきではない。

B 国会法「改正」案

 @改憲手続き法案成立後、改憲原案を審査する憲法審査会が衆参両院に設置される。審査会には改憲手続きについての議案提出権も持っている。すなわち、この法案は「改憲論議とは中立的な単なる国民投票のための手続き」を定めるものではなく、改憲プロセスを加速させることそのものをねらった法案なのである。
 A与党修正案では、議員が改憲原案(国民投票にかける前の原案)を発議するには衆院百人以上、参院五十人以上の賛成が必要とされる。しかし三月二十九日の衆院憲法調査特別委員会で社民党の辻元清美議員が内閣に改憲案の提出権がないことの確認を求めたところ、与党案の趣旨説明をした自民党の保岡興治衆院議員は「内閣が提出するケースを排除しているのではない」と答えている。
 だが憲法九六条は「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会がこれを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない」としているのであり、内閣の改憲発議権は規定されていない。改憲発議は、「国権の最高機関」であり「国の唯一の立法機関」(憲法四一条)である国会の専権事項であることは憲法解釈上当然のことであり、保岡議員の答弁は違憲の可能性が大きい。

国会内外の力で廃案めざそう

 このように「併合修正案」は、当初の与党案を部分的に修正したものの「改憲を都合良く進めるための法案」という問題点を、さらに色濃くしたものになっている。
 この点で「まっとうな国民投票法案のルールをつくる会」を作って、「改憲国民投票法案反対の護憲派」を非難してきた今井一氏が、昨年末の与党と民主党の合意を「私たちの主張が基本的に取り入れられたもの」と評価して「会」自体を解散し、あまつさえ三月二十八日の大阪での地方公聴会で与党側の公述人として登場した事実は、彼の果たした役割が実際のところ改憲派の戦略を後押しするものでしかなかったことをはっきりさせた、と言わなければならない。
 いま民主党は、与党単独で出した修正案への対応をめぐって混迷している。執行部内でも「慎重な対応」を主張して与党修正案に乗らないと主張する菅直人代表代行と、賛成の方向に党内をまとめるために議員総会開催を求めている鳩山由紀夫幹事長らとの間で意見は対立しているが、小沢代表は「改憲を参院選の争点にする」と打ち出した安倍首相への対抗上、「民主党案の丸呑み」以外に与党「併合修正案」には賛成しないとする態度を表明している。
 政府は民主党の動揺を誘いながら、四月十二日の衆院憲法特別調査委員会での採決、翌十三日の本会議での可決、今国会会期中の成立を最優先の課題としている。マスメディアは、今国会中の改憲手続き法案の成立が確実だと報道している。
 安倍政権と与党は、当初、五月三日の憲法施行六十周年までに改憲手続き法案を成立させるというアドバルーンを上げた。それは不可能になったとはいえ、改憲手続き法案の成立は、「軍隊慰安婦の強制連行はなかった」発言がもたらした米国メディアの批判と下院での「謝罪要求」決議の動きなどで、矛盾と混乱を深めている安倍政権にとって、政権の求心力を回復し、参院選を乗り切るためにも優先させなければならないテーマとなっている。
 三月二十二日の中央公聴会、三月二十八日の新潟、大阪での地方公聴会では、改憲手続き法案への批判、ないしは慎重審議を要求する意見が多数を占めた。改憲手続き法案に反対し、国会を包囲する運動のダイナミズムをさらに強めなければならない。四月十二日の日比谷野音集会と国会デモ(午後6時半)、四月十七日の「国会へ行こうアクション」第3波(午後6時、衆院第二議員会館前)、五月三日の憲法集会と銀座一万人デモの成功に向けて連続的な行動を。統一地方選挙で憲法九条改悪に反対する候補者の当選を!
(平井純一)


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