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アジア開発銀行(ADB)京都総会に対抗して       かけはし2007.4.30号

「貧困の削減」は名ばかりの「援助」
住民不在・環境破壊の開発を許すな



多国籍企業の
ための基盤整備

 五月四日〜七日、アジア開発銀行(ADB)の年次総会が京都国際会館で開催される。総会には世界六十七カ国・地域の財務大臣、中央銀行総裁など約三千人が参加者する。
 京都の財界を中心に〇五年十二月に「第四十回アジア開発銀行年次総会・京都開催支援推進会議」が設立され、大がかりなキャンペーンが展開されてきた。
 同推進会議のウェブによると、ADBは「アジア・太平洋地域の発展を目的に設立された国際的な地域開発金融機関です。貧困の削減を最重要課題とし、開発途上国の経済成長を促進する活動を支援」している。また、今回の年次総会では「失業の増大、人口の高齢化、急速な都市化、拡大する貧富の格差など、アジア・太平洋地域の将来の問題に対応する長期戦略の総合的な見直しを図る」ことが予定されているという。
 しかし、ADBは日本、米国をはじめとする政府が出資し、理事を送り込んでいるとはいえ、一金融機関に過ぎない。民主主義的に選出されたわけでもないし、国会のチェックを受けているわけでもない。その一方で、援助の対象とされる国の開発戦略に対して、当該国の政府や現地の自治体よりも大きな決定権を持っている。「貧困の削減」を掲げながら、融資の多くの部分は高速道路やダムの建設など、多国籍企業のための産業整備基盤が目的であり、住民立ち退きや環境破壊をもたらしている。ADBはまた、水道や電力・エネルギー産業の民営化推進に直接に関わっている。

バングラデシュ
・マニラで闘いが

 当然にも、ADBのプロジェクトに反対する運動が展開されており、ADBの活動を監視するためのNGOのネットワークが形成されている。ADB京都総会に向けて、そのようなNGOのネットワークやPSI(国際公務労連)などの代表が多数来日し、ADBに対する申し入れ行動やメディアへの働きかけを計画している。特に重要な焦点として、バングラデシュのフルバリ石炭事業は、住民立ち退きや環境破壊をめぐって、現地で三万人が反対デモに参加し、警官の発砲で死者が出ている。マニラの水道民営化は、貧しい人々が水道を利用できない状況をもたらしている。また、津波被害支援プロジェクトが新たな環境破壊をもたらしている報告もある。このような事実を知らせ、問題のあるプロジェクトの中止を求める運動を広げていくことは、ADBの最大出資国である日本における労働運動・市民運動の重要な責任である。
 また、通貨取引税の導入や不当な債務の帳消しを要求しているNGO・市民団体からも多くの代表が来日する。ADBや世界銀行などの国際金融機関の「開発援助」ではなく、新自由主義的グローバリゼーションに反対し、公正な金融・貿易のルールを要求する運動のアジア規模の運動とネットワークを強化することが、もう一つの課題である。
 これまでADBに対して監視・提言の活動を続けてきた「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、関西NGO協議会などの呼びかけで「ADB京都総会に向けたNGOネットワーク実行委員会」が結成され、五月五日・六日に京都で「市民フォーラム」を開催する(別掲呼びかけを参照)。
 同実行委員会では、ADBとの対話、ADBの改革を目指す団体と、「ADBはいらない」と主張する団体が相互の立場を尊重しながら協力してきた。ワークショップのテーマは、ADBとの関連に限定されない多彩な内容であり、アジアと日本の未来を考えるさまざまな視点から企画されている。数度にわたって開催された事前学習会は、フォーラムのテーマへの関心の高まりを反映している。
 市民フォーラムの一環として、ATTACは五月四日に通貨取引税をテーマとするセミナーを開催する。実行委員会有志の呼びかけで、国際会議場周辺でのアクションや街頭デモが予定されている。
 今回の市民フォーラムは、来年のG8に対抗する運動を準備する上でも、重要な経験とつながりをもたらすだろう。
 五月四〜六日、京都へ!(小林)


アジア開発銀行(ADB)京都総会・市民フォーラムのよびかけ

★(関連イベント)シンポジウム「通貨投機・金融自由化に対抗するアジアのネットワークを」
五月四日(金)午後一時〜五時、ハートピア京都(地下鉄丸太町下車)
主催・通貨取引税全国ネットワーク

★シンポジウム「どうおしやす?アジア開発銀行」
五月五日(土)午後一時〜五時、同志社大学今出川キャンパス至誠館
 ADBと日本との関係についての報告と問題提起、ADBが融資した開発プロジェクトが貧富の格差を広げている事例の報告、地域社会や環境に悪影響を与えている実態の報告を受けて質疑応答・ディスカッションを行います。日英逐次通訳あり。参加費・五百円
☆同日、午前十〜十二時に、同じ会場で「アジア・ドキュメンタリー映画上映会」第一部 」
☆同日、午後五時半から六時半、同じ会場で、交流会「開発と女性:女性のエンパワーメントのために」

★ワークショップ
五月六日(日)午前九時半〜午後六時半、同志社大学今出川キャンパス至誠館
☆第一部(午前九時半〜十二時半)
債務問題/WTO・FTA下のアジアの経済と人びとの暮らし〜農業・農村を中心に/ADBと気候変動問題/グローバル化と格差社会〜日本における野宿者排除との闘いと国際的連携

☆第二部(午後一時〜三時半)
日本の廃棄物輸出政策・三Rイニシアティブと経済連携協定/九条とアジアの平和/ADBと自然資源管理/アジアの国々における水道民営化とADBの関与/ADBはいらない−「有識者レポート」を批判する」

☆第三部(午後四時〜六時半)
先住民族と開発/電力の民営化とアジアでのたたかい/ツナミ被害の後にADB被害がやってきた?/アジア・ドキュメンタリー映画上映会・第二部


朝鮮半島日誌
北朝鮮の朴奉珠首相が解任される

4月2日 b「米国の要求は甘くなく米議会の圧力も大きかったが、徹底的に損益計算を行いわれわれの利益を貫徹した」(米韓の自由貿易協定(FTA)交渉正式合意について韓国ノ大統領が弁明会見)。
4月3日 b韓国国会で「拉北被害者支援法」が成立し、北朝鮮に3年以上拉致、抑留された人や韓国に残された家族に支援金などが支給されることに。韓国政府によれば53年の朝鮮戦争休戦後に北朝鮮に拉致された韓国人は3795人。
4月4日 b韓国外交通商省が金大中拉致事件などに関する外交文書(1976年)を公開、当時の日本政府(外相・宮沢喜一)が韓国政府に対して真相もみ消しを約束していたことなどが明らかに。b73年当時に東京都内で失踪したとされる女性と2児について、警察当局が北朝鮮工作機関によるによる拉致と断定し、捜査本部を発足させると一斉報道が始まる。
4月8日 b米ニューメキシコ州のリチャードソン知事ら米超党派訪朝団が空路で訪朝。b今年1月に米政府が自ら国連の対北朝鮮制裁決議に反して、ソマリアのイスラム勢力掃討に当たっているエチオピアが北朝鮮から戦車部品などを購入するのを黙認していた。
4月10日 b日本政府が対北朝鮮制裁措置の半年間延長を閣議決定。b「米国はマカオ当局が銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)内にあるすべての北朝鮮関連口座の凍結解除を準備していると理解している」「米国は問題の口座の凍結を解除するマカオ当局の決定を支持する」(米財務省が異例の声明発表)、b中国の温家宝首相が訪韓して中韓首脳会談がもたれ、海空軍同士のホットライン開設など軍事交流拡大などでも合意される。b韓国在住の脱北者諸組織20団体の連帯組織「北韓民主化委員会」の創立大会がソウルで開かれる。b日本の特定失踪者問題調査会が南北軍事境界線付近の韓国・江原道から風船に入れたビラ一万枚(拉致問題の情報提供を求める)を北朝鮮に飛ばすが、一部の行動は警察の規制、韓国の拉致被害者団体の抗議によって中止に。
4月11日 b北朝鮮で最高人民会議第11期第5回会議が開かれて、朴奉珠首相が解任(召還)され、新首相に交運部門テクノクラートの金英逸を選出。
●「BDA問題が解決されれば資金を受け取ってから1日以内に直ちに自分たちの全ての行動を始める。解決されればその次の日に国際原子力機関(IAEA)を招請する」(訪朝を終えた米超党派代表団が北朝鮮側発言をメディアに伝える)。
4月13日 ●「2月の合意を履行しようとする意思に変わりはなく制裁解除が証明された時、われわれも行動する」(北朝鮮外務省)。●10日から開かれていた南北赤十字会談が「離散家族の映像レター交換の今秋試行」などを盛り込んだ合意文を採択して終了、韓国人拉致被害者、朝鮮戦争時韓国軍捕虜の再会については「消息不明者の生死と住所の確認を離散家族問題に含めて協議する」ことに。●BDAが米財務省に対して「BDAが北朝鮮の不法行為を見逃してきたとする指摘は根拠を欠き政治的動機によるものだ」として金融制裁取り消しを申し立てる。
4月17日 ●中国共産党の対外連絡部副部長ら6人の代表団が訪朝(新華社通信)。 
4月18日 ●ピョンヤンで南北経済協力推進委員会が始まる。●BDAに対して米金融機関に代理口座を持つことを禁じる米財務省の制裁が発動される。
4月20日 ●「マカオの銀行BDAに凍結された資金が実際に解除されたことを確認し次第、IAEA実務代表団を招き寧辺核施設の稼働停止と検証監視手続き問題を討議する準備ができている」(北朝鮮原子力総局がIAEAに対して書簡で伝える)。



コラム
ストレスと、うつ


 親しい友人が、職場のストレスから数年来うつ病で苦しんでいる。かつて「ストレス解消法」などという番組や書籍が流行するたびに、私はそれを冷ややかに眺めていた。たとえばもっとも多いのが職場の「人間関係」での悩み。そんな抽象的な言葉では理解しようがない。そして溜まるストレスを解消するのが、趣味のスポーツや絵画や音楽鑑賞らしい。なんと陳腐な処方箋か。なんと小市民的な発想かと。
 労働環境のすべては、結局は資本家と労働者の対立の力学、関係性の所産である。資本家は搾取をさらに強化し、労働者の精神と肉体を極限まで蝕んでいく。組合があれば、その組合の活動しだいで、労働者は幸福にもなるし不幸にもなる。つまり労使のし烈なせめぎあいとその結果ぬきに、職場の問題の解決はあり得ない。だから「人間関係」という観念的な視点じたいがおかしいのだと。
 友人も職場での「人間関係」のせいで、典型的な症状が進行していった。「うつ」の特徴の一つは、気分や意欲だけではなく、関節の痛みや発汗、手足のしびれなど、身体症状も数多く見られることだ。うつになりやすい性格は、几帳面でまじめで責任感が強い。正直で小心、献身的で他人に気を遣う。調和的で争いができないこと。
 左遷や降格といったマイナス状況だけが、発病のきっかけではなく、ストレスからの解放や、マイホームの取得、目的の達成なども誘因になるというから驚く。
 こう書くと、どれか自分にも当てはまるのではないか。そういえば最近疲れが取れない。やる気が起きない。きっと私もうつだ。
 うつは「心の風邪」といわれている。誰でもかかる可能性があり、早期に発見すれば必ず治癒する、ありふれた病気なのだ。薬も飛躍的に進歩している。しかし他方で「精神病」に対する誤解や偏見が、広く根強く残っている。自覚症状がありながら知識がないために、最悪の場合は自殺に追い込まれてしまうこともある。このかんようやく労災認定が実現している「過労自殺」なども、この病気と無関係ではないだろう。
 うつ病の患者は増え続けている。WTOの疫学調査による有病率は、世界人口の三〜五%だという。職場では終身雇用や年功序列が最後的に解体され、成果主義・能力主義が定着している。正規社員を組織する巨大労組は体制内化し、その先兵の役割を担っている。派遣や契約社員の存在が、賃金格差と悪平等を推進している。労働者の分断と敵対に拍車がかかっている。
 強い者に服従する大衆心理が顕著に現れ、社会の閉塞感とフラストレーションが高まる。資本主義が人間をだめにしているのだ。だめにされる前に。私のストレス解消法は、休暇を取って集会に参加することだ。(隆)

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