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安部誠さん(東京管理職ユニオン副委員長)に聞く     かけはし2007.4.30号

派遣労働の現実と労働組合組織化への取り組み

私たちは敵の出鼻をくじいた
矛盾に食らいつく社会的闘いを


 雇用破壊が貧困問題をつくりだしている。雇用破壊の究極の姿が携帯電話を使ったスポット(=日雇)派遣である。スポット派遣の大手派遣会社のグッドウィルやフルキャストに労働組合を組織して闘い抜いている全国ユニオンの一員である、東京管理職ユニオン副執行委員長の安部誠さんに運動の現状を聞いた。(編集部)


全国ユニオンの闘いの成果

――今春闘はどうでしたか。

 全国ユニオンはここ三〜四年、均等待遇の問題として、どんな働き方でも時給千二百円の要求を出しています。去年ぐらいまではそれを言うと笑われたが、今年はそうではない。ワーキングプアー、格差社会の問題が取り上げられ、貧困の問題は雇用の問題だという社会的合意があるなかでの春闘だった。最賃は一番高いのが東京で七百十九円、一番低いのが沖縄で六百十円です。これまでの最賃要求は、五円、十円の世界で、上がっても一円、二円だった。野党とナショナルセンターが最賃は千円以上だと言い出した。
 連合の中で非正規の問題をメインにしなければいけないといったのは、笹森前連合会長だが、全国ユニオンのスローガンはその延長線上にある。働き方の問題、貧困の問題に関心が集まったのは、春闘の問題というより、年末から今にかけてエグゼンプション問題を含めた労働法制の改悪問題の浮上とともにせりあがってきた感じがする。三月二十四日の貧困の解決を求める集会に連合も関わっている。連合自体も今の若者問題、貧困問題は深刻であるという認識はある。そのことについてよく勉強もしているし、カネもかけているがそれを生かせていないのが自分たちも含めての現状だ。

――要求を出して、成果はありましたか。

 全国ユニオンは非正規と個人加盟が中心だから、産別的に表現できる成果としては現れない。自分たちの役割はメッセージを世の中に発信していくことだ。今年の場合は非正規春闘となうって三月一日、三月九日に行動を行った。
 三月一日、派遣協会と集団交渉を行いました。これは今年で五回目です。テーマとしてはスポット派遣です。スポット派遣はよくよく考えてみると、登録型派遣の究極の姿だろう。派遣業と、日雇いは、本来結びつかないはずだ。偽装請負に対しては、違法だ!ということができますが、スポット派遣は合法である分、余計、始末が悪い。
 反面、スポット派遣の労働実態の酷さ加減に触れたおかげで、全国ユニオンとして、「派遣労働は常用派遣を原則とすべきだ!」という主張がすっきり出せた。そのことについて、派遣業協会としても、スポット派遣は合法だとは言うものの、派遣業としてあるべき姿だとは言えないと思っているのではないか。業界の主流の人たちからみるとあれを派遣だとみられては困るだろう。

登録型派遣をなくそう

――派遣業界は四兆円の売り上げがあると言われているが、単なる紹介業・ピンハネ業界になっていないのですか。

 本来は紹介業ではない。専門的労働力を派遣するということだ。そこのところを彼らも強調する。また、派遣業だけではくくれない問題が出てきている。それは偽装請負・偽装雇用だ。偽装請負については派遣業界としても断固として取り締まらないといけないと言っている。
 もっとも、偽装請負や、スポット派遣を指弾されているフルキャストやグッドウィルなども協会に入れているのだから痛しかゆしだ。彼らは上場会社だけど、なんで去年の夏まで業界に入ってなかったかというと、入りたくなかったのと入れたくなかったのと両方だろう。厚労省の強い肝いりで、協会に入れろとなったらしい。

――法律をつぶさないかぎり派遣業はなくならないが労働者にとって必要なのだろうか。

 フランスなんかの派遣業は短期間の派遣を認めている。だけど給料は平均給与の倍だったりする。専門的で三カ月なり集中してやりたいという人はいないわけではない。ただしその場合は専門性なり高い技術性なりに限る必要がある。

――当初は日本でも派遣はそうだったはずですが。

 それが建前で、口入れ業とは違うという言い分だった。それにしても、派遣業法の成立は、戦後労働運動が弱体化していく大きな事件だった。一九七五年のスト権ストの敗北も、労働運動が弱体化していくひとつの大きな事件だったが、十年経って派遣業法が出てきた。三角雇用・口入れを解禁していくような突破口がここで出来てしまった。これは戦後の労働運動の中でもエポックな事件だった。
 その後十年経って、日経連の「新時代の日本的経営の考え方」が出されてくる。労働者を三つにぶつ切りにして、ひとつ目に管理職・マネージメントの連中は正社員で一割・二割でいいよ。専門技術者は三年なりで契約社員でいい。それ以外は全部派遣でいい。日経連はそうしたことを打ち出した。それの総仕上げが今回の労働契約法と労基法の改正だったはずだ。
 七五年のスト権ストの敗北は公労協・総評の解体のきっかけになった。九五年はリストラが本格化して雇用破壊が促進された。それを担保するのが、労働契約法と労基法改正と派遣法改正だった。派遣法の問題では、九九年の改定で、製造現場にまで派遣できるように改悪されてしまった。それまでは原則禁止で特定の場合に解除するとなっていた。

――話を戻して、派遣業についてはどうしたらいいのだろうか。

 政策的には原則として、派遣は常雇用にして規制をきちんとすべきだ。派遣会社が直接雇用し、派遣するようにすべきだ。仕事にあぶれた場合でも一定の保障しなければならなくなるだろう。登録型は客先が仕事はないと言ったから、あなたは雇い止めにするとなってしまう。
 「派遣は、原則、常雇用で!」というのは、現実的に可能だ。偽装請負やスポット派遣のすさまじさを見たときに、与党の中でも支持者が出てくるのではないか。登録型派遣をなくすように派遣法を変えろということだ。全国ユニオンとして厚労省に要求している。
 
――派遣・偽装請負ホットラインを昨年に引き続き、二月一日〜二日にやられましたが以前と変わったことはありましたか。

 木・金の、十時から二十時ということで行った。TVの放映が、昼間ということもあったのか、五十代以上の人の相談が三割だった。これはワーキングプアーが全世代に広がっていることを示していることだと思う。

スポット派遣との闘い

――スポット派遣についてはどのように取り組みを行ったのですか。

 スポット派遣というひどい働き方があるらしいというのは、一昨年の暮れくらいに私なども気がついていて、事務所の近所の高校生、中退者などに、日雇い派遣をやっているグッドウィルとかクリスタルとかで働いたことがあるのなら、その実態を教えてくれと頼んだ。焼肉を食わせるからと言って(笑)。
 彼らはその働き方が当たり前と思っていたが、驚いた。建設業への派遣は禁止されているのだが、後片付けだとか言って、解体現場に行かされた人がいた。
実態を知るためにわれわれの仲間がフルキャストに体験就労した。その直後、フルキャストの子会社の正社員が全国ユニオンに加入してきた。

――ホットラインをやると組合の組織化につながりますか。

 フルキャスト子会社の人たちの全国ユニオンへの加入も、数度に渡るホットラインの影響によるものが大きい。もちろん、待遇などの問題と、自分たちのやっている労働がかなりまずいことをやっているのではないかという疑問があったのだろう。
 全国ユニオン傘下に、派遣ユニオンがあるが、フルキャストユニオンは通称で、正式に言うと全国コミュニティユニオン連合会派遣ユニオンフルキャスト支部だ。そこを手がかりにして、日雇いで働いている人との接点も出来た。
 仲間が、体験就労したと言ったが、彼の個人情報がかなり流出しているのが判明した。例えば、「ひげ、清潔・不潔などの容貌」といった内容です。それはおかしいことだということと、その他にも違法な実態があったのでフルキャストと交渉した。フルキャストは最初、組合員が勤務している会社を閉鎖して、追い出そうとまでした。
 最終的にスポット派遣会社フルキャストと、フルキャストユニオンがフルキャストグループで働くスポット派遣スタッフの労働条件について協定を結んだ。@個人情報の適正な取り扱い・業務管理費(1稼動につき250円)の廃止・集合時間について、作業開始時刻よりも早い時間に集合を強制しない。集合を指示した場合、集合時間から労働時間とみなして賃金を払うA日雇い保険も適用申請するB有給休暇も認める――など。これは非組合員も対象だ。
 日雇い保険はまだ厚労省から認可されていないが、これが適用されれば日雇い派遣でも結構安定する。今まで八千円だったものが一万二千円、週五日として月二十四万円。どこまでいっても日雇いという不安定さはあっても、漫画喫茶や路上生活をしなければならないということは避けられる。仕事にあぶれても、日雇い保険が適用されれば、最低限のセーフティネットができる。白手帳の復活です。二カ月続けて、十四日働いていて、それであぶれるとアブレ手当てが支給される。
 
――この要求を勝ちとるために運動をしたのですか。

 運動の成果だと思う。やっていることがあまりにもひどかったのですよ。フルキャストは派遣法違反などでずいぶん警察の家宅捜索が入っていた。行政の圧力もあった。フルキャストがOKしたから、東の横綱のグッドウィルもOKするのが当然でしょ、というのがわれわれの立場だ。フルキャストで、業務管理費が取られていると相談が寄せられ、この協定書を見せたらその分を払ってくれたということもありました。

持ち株会社との団体交渉

――三月九日、グッドウィルとの交渉はどうでしたか。

 グッドウィルユニオンの公然化です。組合員はスポット派遣の人です。その日は、組合結成通知と、団交の申し入れをした。(※4月6日に、第1回団交が開催され、現在、交渉継続中)申し入れをしている間、グッドウィルが入っている六本木ヒルズの前で宣伝行動をした。

――日本マクドナルドの高野さんの裁判はどうなっていますか。

 会社側が学者を立てて、今までの判例の「管理監督者の定義づけは間違いだ」と鑑定書を出してきた。日本マックユニオンが全面的に証人に立つことも含めて高野裁判を支援することを決めた。年内には判決が出るだろう。もし、この裁判に負けるということがあれば、日本版エグゼンプションはいらなくなる。証人尋問が行われる時に、集会などをやろうと思っている。

――他に、特徴的なことはありますか。

 持ち株(HD)会社との団交問題は大きな問題になると思う。HD会社は、傘下の会社のほとんどの、ある場合全部の株を持っている。HD会社が別法人だからといって、団交権がないとなったら、労組法じたいが骨抜きになってしまう。私たち、東京管理職ユニオンでも、子会社の売却問題などを巡って、HD会社に対する団交の申し入れ、拒否したHD会社に対して、不当労働行為であるとして、労働委員会に救済の申立を行っている。

「ベアの分を非正規に回せ」

――設楽清嗣・高井晃著『ユニオン力で勝つ』労働旬報社―が三月に出版されました。「何かあったら、相談にこい。闘えば解決の道はある。困っていれば組合は力になれる。自分たちが力を持てる」という本ではないかと思いますが。読んでほしい本です。本の出版についてどうですか。

 あれ読んで、労働組合ってこんな簡単なのという人もいた。ユニオン運動・組合運動は自己防衛ではだめだということだ。ぼくら管理職ユニオンは東京から始まり関西と東海がある。ある一定の力がついた段階で、援助したうえで独立してもらう。全国管理職ユニオンにはしなかった。
 全国ユニオンの全国委員会が一月にあった。全国労働金庫労組(全労金)の委員長がゲストとして報告した。それによると、全労金の組合員は五千人、非正規が三千人くらいいる。この三年間で非正規職員七〜八百人を組合に組織した。非正規の組織化のために、「組合のリーダーは組合の代表ではなくて、職場の代表になるべきだ」と組合員の自覚を促した。去年から、定昇を別にしてベアを要求しないで、ベアの分を非正規の人に回せと要求している。これはなかなかできないことです。

――理事者は要求には応えていますか。

 応えている。公務員も含めた、企業内労働組合運動のひとつの方向性を示しているのではないでしょうか。社会的連帯を考えたら重要なことです。わが組合がこうしたことをやっているという話は、今までいろいろ聞いたが、一番感動した。

――昨年安部さんにインタビューした時は、日本版エグゼンプションや派遣の問題は社会的に大きな問題になっていなかった。それがいまや、貧困、格差問題などの中心問題になった。全国ユニオンや管理職ユニオンがそうした問題にいち早く気づき、それにくらいついて運動をつくってきたと思っています。今後はどうでしょうか。

 意図的にやっているわけではなくて、マックの問題をやっていたら、エグゼンプションの問題が出てきた。偽装請負の話はこんなのがあるなと思ってやったら、話題の中心に押し上げられた。
 いずれにしても、非正規問題が一番大きな問題です。管理職ユニオンの立場から言っても、私たちの組合を支えた団塊の世代が続々と非正規になっていく。非正規の問題抜きに日本の労働運動は語れない。労働運動は、本来、社会運動のはずです。今日出てきた問題に興味を持ち、対応するスタンスをもたないと社会運動でなくなってしまう。日本の労働運動がダメになっていったのは、社会性をどんどん喪失していったことにあるのではないかと思う。

「都市が寄せ場化している」

――管理職ユニオンの組合事務所は職場の外にありますが、企業内だけでなくいろんな人が外の組合事務所にたまって、そこでいろんな課題をやれるような団結をつくりだしていく。そんなあり方についてどう考えますか。

 一年前の事務所と違うのは、全国ユニオンが、必要があって派遣ユニオンをつくると同時に、全国ユニオンの事務局もここに事務所を置くようにした。フリーター全般労組は偶然のように知り合ってここにいる。失業者ユニオンもあるので、フリーターから管理職から失業者までいる。雇用問題のデパートのようですね。(笑)
 ちょっと話はずれますが、去年のフリーターメーデーで、今まであった山谷や釜ヶ崎とかではなくて、「都市が寄せ場化している」と提起した人がいた。そう考えていくといろんな発想できるのではないか。例えば、携帯電話の電話料金を一カ月払わないと止まる。『せめて三カ月間は止めるな!』と要求する。それは携帯電話が日々雇いのライフラインだからです。こんなスローガンは、スポット派遣の仲間に接しなければ理解できなかったでしょうね。
 労働組合に入るということが、社会性を獲得する通路になっていればいい。企業内組合でユニオンショップを結んでいるところがあるが、組合に入ったということさえ本人が知らない場合もある。春闘も昔と比べると微々たるものだ。
 そうなると労働組合に入っていることが、社会性に通じるものになっているかというと全然そうはなっていない。合同労組の意義はたとえひとりであったとしても、社長と団交の席では対等にやりあえるという権利を勝ちとれることだ。それと他の組合員の会社の団体交渉に行けるわけだから、いろんな知らない世界をのぞける。雑多な人が入ってくるのだから、いろんな人とつきあえる。
 社会性を獲得できるかどうかは、個々の組合員の問題が大だけれども、スタートラインに立てることだけは事実ではないでしょうか。

――数年前に「漂流する若者たち」というNHKのドキュメンタリー番組で、北海道から福島へ派遣された労働者のことをやっていました。そこで、派遣が偽装請負にされた例がありました。こうした人たちは会社内の寮に入っています。この人たちを組合に組織する場合、さきほど、社会運動という話がありましたが、どうしても会社の外で労働者のたまり場的な組合事務所が必要だとお考えですか。

 労働組合は社会運動だが、限界があることも事実だ。あくまで労働問題だけに絞るべきだ。例えば、悩みごと相談みたいなことを表看板に掲げてはいけないと思う。労働問題以外を業務としてしまうのは労働組合の自殺行為ではないか。労働問題以外は、外部の専門家等との連携の中で解決する態勢を取ることが必要だと思う。例えば、メンタルヘルス問題などは、ある領域をこえた場合、専門家に委ねるべきであると思います。専門外のことを熱心にやって、かえって仇になることもある。必要なのは、社会運動上の連携だ。連携の場は大いに必要だ。

国家のありかたをめぐる闘い

――今後の労働法制の問題で、労働契約法が成立すると少数派労働運動ができなくなってしまうと危惧する意見が多いがどうですか。

 その通りですが、そういう問題の立て方に私は反対です。これが通るとわれわれはもっと追いつめられるというスローガンでは広範な闘いが組織できないだろう。日本版エグゼンプションの導入をいったんは止めた。緒戦で勝利したのに、どうしてそういう後ろ向きの立て方をするのか。労働者の内の八二%の人が労働組合に入っていないのだから、労働組合に入っている一八%の人が特権を持っていると見られる。「少数組合の権利を守れ」という言い方は、世間では「特権的労働者の特権を守れ」としか見られない。労働組合の権利主張運動だけだともともと勝負にならない。われわれの特権を、世間の人々に拡大し、わかちあうという方向でなければ話にならないと思う。
 一昨年あたりから、エグゼンプションと、労働契約法がセットになって出てきた。それに反対する共同アピール運動を立ち上げた時に、とにかく「労働組合運動」ではなくて、「国民的社会運動」にしなければならないと考えた。「国民的社会運動」の洪水で政府案を流すにはどうしたらよいかと考え、エグゼンプションをキャンペーンの中心軸に据えたと、私などは位置付けている。
 今回は、ある意味で法案の問題であった。しかし、一九七五年のスト権ストの敗北、八五年の派遣業法の成立、九五年の「新時代の日本的経営」という流れの延長としてみるならば、今回の労働法制を巡る問題は、本質的には〈国家の形〉を巡る闘いだったはずだ。次に出てくる時は、敵も文字通り国家のあり方を巡る闘いだと位置付けてくるはずだ。
 われわれが敵に倍する覚悟と、スケール、そして、一人一人が、頭を柔らかくして知恵を持ち寄ることができるならば、必ず大きな運動はつくれるし、勝利することができると思う。

――貴重なご意見ありがとうございました。(文責編集部)


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