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寄 稿                         かけはし2007.4.23号

「野宿者に投票権なし」だって?

││統一地方選投票日の釜ヶ崎で                稲垣 豊


 本紙前号でも報じたように大阪市は三月二十九日、釜ヶ崎解放会館などに住民登録していた二千八十八人の労働者たちの住民票を強制削除した。四月八日は大阪府議選・市議選の投票日だったが、住民票を削られた人びとは、投票権を奪われた。この日釜ヶ崎を訪れた稲垣豊さんにレポートしてもらった。(編集部)

2088人が
切り捨てられた

 四月八日、統一地方選挙投票日、大阪、釜ヶ崎の労働者の住民票削除を強行した大阪、釜ヶ崎では「野宿者に投票権なし」がまかり通った。大阪市は、住民票を削除された住民に対して、宿泊実態があれば簡易宿泊所で住民票を「復活」させる、野宿をしている人の場合は、自立支援センターに入所すればそこで住民票を「復活」させるとしていた。

 これまで釜ヶ崎解放会館などに住民票を置いてきたのにはさまざまな理由がある。当初約三千五百あった削除対象が最終的に二千八十八にまで減少したのも、住民票を移すことができる人がドヤやアパートなどに住民票を移したことによる。さまざまな理由で住民票を移すことができなかったり、ドヤやアパートを借りる現金がなかったり、あるいは自立支援センターには入所したくないという労働者二千八十八人が最終的に切り捨てられたのだ。
 今回の選挙で大阪市は、(1)ドヤやアパートに住民票を移しても投票ができること、(2)投票所で住民票の「復活」ができる場合もあること、などの情報を労働者に周知することが必要であったにもかかわらず、ほとんど有効な情報周知が行われなかった。投票所の市職員は、マスコミの取材に対して「情報は新聞などの報道でも周知している」という行政としての不作為を自らみとめるような発言をしている。

対応をしない
大阪市と選管

 投票日当日、釜ヶ崎解放会館には「住民票消されたけど投票できるか」と訪ねてくる労働者が後を絶たなかった。釜ヶ崎から少し離れた阿倍野地域で野宿をしているが住民票を解放会館においていた、という人も「せめて選挙くらいはいかないと」と訪ねて来たり、投票時間終了ぎりぎりに「心臓わるいんやけど、投票は権利やからね」と投票できるかどうかを聞きに来た労働者もいた。
 同日午後、釜ヶ崎解放会館は、萩之茶屋小学校投票所の選挙管理委員会の責任者に対して「これからでも地域内をまわり投票が可能であることを周知すること」などをもとめる要望書を提出した。しかしそもそもそんな気のない大阪市、選挙管理委員会はその後も何の対応もしなかった。投票所内にもうけられた「調査係」までたずねた労働者にのみ対応するだけであった。これは明らかに住民票を削除された労働者向けではなく、「大阪市はこれだけの対応をしている」というマスコミおよび今後の裁判対策でしかないことは明らかである。
 問題はこれだけではない。前述のように住民票を生活実態のある場所で「復活」させることができない人への対策がまったくなされていなかった。投票所内の一角に設けられた相談コーナーでは、「住民票を今の生活実態のあるところで『復活』させなければ投票はできません」「公園やテント、あるいは民間のシェルターには住民票を置けません」を繰り返すばかりであった。

選挙権の行使を
拒否するのか!

 報道によると、住民票を消された二千八十八人のうち四十四人が投票所を訪れて相談したが、結果的にわずか9人しか住民票を「復活」させなかった。あまりの杓子定規の対応に「もうええわ!」と怒りをあらわにして席をたつ労働者もいた。投票所で住民票が「復活」できる可能性があるということさえもほとんど周知せず、投票所を訪れても選挙権は行使できない。本当に労働者に選挙権を返すつもりであればさまざまな柔軟な対応ができたはずである。しかし大阪市はそのような人々から選挙権を奪い、そして切り捨てた。
 萩之茶屋小学校投票所は投票終了時間の午後8時を過ぎても、相談に訪れた労働者たちへの対応におわれた。しかし開票時間が迫る中、大阪市の取った対応は労働者を欺き、意図的に投票をさせない行為といわれてもしかたのないものであった。その地域に生活実態があることを確認したにもかかわらず、住民票をドヤに移すことを「拒否」する一方で選挙権の行使を要求した労働者に対して、担当職員は「それはできません」「投票するなら職権でドヤに住民票を記載します」を繰り返すのみであった。
 しかし開票時間が迫る中、市の対応に納得できない場合は、「仮投票」という方法があり、選挙権を行使させ、その後開票所でその投票を受理するかどうかを判断する方法があったことが翌日の「朝日新聞」の報道で確認されている。しかし担当職員は開票時間直前まで「住民票を『復活』させないと投票できません」を繰り返した。
 そして最終的に今回投票ができなかった理由を書面で要求した労働者に対して、担当の総務職員は「この方が責任者です」として書面を書かせたのが「投票管理者」であった。しかしこの「投票管理者」とは、公職選挙法37条では「投票管理者は、投票に関する事務を担任する」のみでなんら判断上の最高責任者でもなく、地域の住民から選任される「お飾り」的役職に過ぎない。前述の解放会館の申し入れを受け取ったのもこの「投票管理者」である。

自治体労働者
への問いかけ

 大阪市は、このようにして責任逃れをする一方で、労働者の住民票を削除し、野宿者たちの選挙権を奪い、その責任を地域住民に押し付け、労働者を欺いてきた。その背後には、大阪市長の関淳一、与党自民党・公明党、そして日雇い労働者を日常的に差別し、運動の弾圧を行ってきた西成警察署がいる。
 釜ヶ崎解放会館は投票日の早朝・昼と投票所前で投票を終えた有権者や地域の労働者に、このように制限された選挙がまかり通っていいのか、という内容のチラシを配布した。また四月一日には、これまで釜ヶ崎の実態に即した対応をしてきた西成区役所職員に対して連帯アピールを発している(別掲)。

 今回の責任を関大阪市長をはじめとする官僚、そして自民党・公明党など与党らにとらせなくてはならない。この問題を広く市民にアピールするためにも多くの仲間の支援が必要であろう。選挙後も住民票削除をめぐる闘いはつづく。この闘いに思いを寄せ、支援することが大阪市をはじめ全国の自治体労働者に問われている。新自由主義グローバリゼーションの時代において自らが本当につながらなければならないのはいったい誰なのかを常に問い続けながら、「おずおず」とでもいい、助言やサポートだけでもいい、できるところからか関わることが、「いま」できるかどうかが決定的である。

資 料
西成区役所で働く皆さん
当局による処分攻撃に負けないで下さい!


                            釜ヶ崎解放会館

 野宿生活が長いのでしょう、すっかり汚れたかばんを足下において、かばんの中に詰め込まれた衣類を次々と放り出し、底から大事そうに小さな財布を取り出しました。財布にはぼろぼろになった診察券と共に解放会館の名刺が1枚。「ワシはアオカンしてるけど住所は釜共やで」と、にっこり。「俺は解放会館しか住所置くとこ無いんや。住所消されたら住所不定になるんや。何も悪いことしてないのに、住所不定や。これから先どないしたらいいんや」。そう言って解放会館に走り込んできた労働者もいます。

 住民登録が削除されたって、日雇手帳の更新ができれば、生活保護が受けられれば、免許証の更新ができれば・・・と個別の権利が保障されればそれでいいのでしょうか。野宿している人、シェルターを利用している人たちにとって、「住所」はその人の存在証明でもあるのです。

 西成区役所は住民基本台帳法を釜ヶ崎の実態に即して柔軟に運用してきたのだと私たちは理解しています。けっして「違法を黙認」してきたのではありません。ところが大阪市は内部調査の結果、責任者を処分する方針とのこと。私たちは大阪市当局による責任者の処分を決して許しません。あなたたちが行ってきたことは釜ヶ崎の労働者の生きる権利、働く権利を守る行動だったのです。住民登録の業務に携わった方たちは誇りと自信を持ってください。私たちはあなたたちに感謝状を贈りたい気持ちです。
 西成区役所で働く皆さん。処分されるべきは、移動させる場所もない人たち二千百人の住民登録を強制削除し、選挙無効の原因をも作り出した憲法違反の実行行為者・関市長そのものではないでしょうか。
 当局の処分攻撃に屈せず、背筋を伸ばして働いてください。私たちはあなたたちを応援しています。
       4月1日



「やんばるの森を守ろう」集会
米軍ヘリパッド建設に反対する高江区の住民

生態系の破壊
水資源の汚染

 四月十六日、「やんばるの森を守ろう!米軍ヘリパッド建設を止めよう!」集会が、東京・南部労政会館で開かれた。「なはブロッコリー」と沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックの共催で開かれたこの集会では、「なはブロッコリー」代表の本永貴子さんが沖縄・東村高江の米軍ヘリパッドに反対する地域住民の闘いを報告した。
 一九九六年のSACO合意では普天間基地の返還と引き換えに那覇市の辺野古に新基地を建設するとともに、沖縄本島北部のやんばるの豊かな森に広大な面積を持つ米軍北部演習場の約半分を返還するかわりに米軍基地強化のために六カ所のヘリパッド(ヘリコプター着陸帯)と進入路の建設が条件になっていた。そして、このヘリパッドに配備されるのは、最新鋭のオスプレイ垂直離着陸機である。オスプレイは、安全性が疑問視され、事故によってすでに二十人以上の死者が出ているしろものだ。
 同時に、北部演習場は面積は縮小したものの米軍ジャングル戦闘訓練センターに名を変え、その機能は飛躍的に強化されている。この地域はヤンバルクイナやノグチゲラなどの貴重な動植物が生息し、世界自然遺産の候補地にも選定されるなど豊かな生態系で知られる。この地域でのヘリパッドの建設と戦闘訓練の激化は、この貴重な自然を破壊する。現に、近接する福地ダム、新川ダムは「県民の水がめ」として沖縄の貴重な水資源の供給地だが、今年一月には米軍が使用したと見られる弾薬が一万発以上回収され、水質汚染の危険が現実のものになっている。こうした中で高江区の住民はヘリパッド建設の撤回を決議し、地域ぐるみで反対運動を繰り広げている。

米軍の激しい
サバイバル訓練

 集会では最初にNHK沖縄が制作した沖縄米軍基地とその戦闘訓練を報じた「『隣人』の素顔」がビデオで上映された後、本永貴子さんが現地の実情を報告した。
 「高江区はヘリパッドに包囲された存在だ。ジャングル戦闘訓練センターは民間所有地との仕切りがない。その中で米兵のサバイバル戦闘訓練、夜間無灯火訓練が行われており、その規模は七百人から千人の兵隊が一カ月間訓練できるほどだという。高江区の住民は百五十人以上いるがそのうち五分の一は子どもであり、生活の安全が日々脅かされている。サバイバル訓練の中では野性動物も食べる訓練が行われ、こんなことをしていては生態系や絶滅危惧種の動植物が危機におちいることは明らかだ。私たちは、辺野古の闘いと高江の闘いは一体のものと考えており、辺野古を止めれば高江も止まると考えて辺野古の闘いも支援してきた。ぜひ皆さんも高江のヘリパッド反対の運動を支えてほしい」。
 今年二月から環境影響評価図書の閲覧が開始され、闘いは重要な局面に入っている。辺野古新基地建設の闘いとともに、東村高江区住民の米軍ヘリパッド建設に反対する闘いを支援しよう。       (K)


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