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中東についての決議                   かけはし2007.3.26号

強力な反戦運動の構築を

第四インターナショナル国際委員会


T)帝国の誤算

1 二〇〇一年「9・11」後のブッシュ政権による、イラク戦争などの軍事的作戦を支持した米支配階級の超党派的合意は、イラク占領の中でこうむった失敗に直面して粉々に崩壊した。しかし米国の体制内部で行われている議論は、体制の側で一致して支持し続けられている問題に関するものではない。すなわち湾岸地域とイラクを支配する大きな戦略的重要性の是非にかかわる議論ではない。そこで行われている議論とは、この地域を米政府が長期的に保持することを保障しつつ、イラク占領の打撃を限定されたものにする最善の方法を探ることである。さらにこの討論は、イランにいかに立ち向かうかについてのものでもある。
 ブッシュ政権は、イランの宗教指導者(ムッラー)体制をベネズエラのウーゴ・チャベス政権のイスラム版と見なしている。その体制は、石油資源を条件とする自立の余地に依拠して、米政府の支配を拒否しその地域的覇権に反対している。米国の体制側のメンバーたちは、イラン政府が新自由主義に道を開いており、それはラテンアメリカで進行中の社会的急進化とは大きく区別されるものであると指摘して、テヘランとの暫定的妥協の可能性が望ましいと強調している。

2 米国本土への攻撃がなされて以来、ブッシュ政権が行った帝国主義的冒険のバランスシートは、破滅的なものである。アフガニスタンにおいてさえ、現在のところ攻勢に立っているのはタリバンである。タリバンは国土のかなりの部分を支配している。米国とその同盟軍の存在は、ワシントンがその支配から国土を「解放」したと主張してきたタリバンの運動に、新たな拡大をもたらす主要な原因となっている。北部同盟のイスラム原理主義者と西側諸国の占領軍の支配下のアフガン民衆の生活は、アフガニスタンの民主化・現代化とか、アフガン女性の解放とかいった虚偽に満ちた主張とはるかにかけ離れたものであり、この国の全領域でタリバンを惜しむ状況を作りだしている。

U)イラク

1 しかし帝国の攻撃の最大の目標はイラクだったのであり、ブッシュ政権の最も深刻な失敗はイラクでの大誤算である。ネオコンによる最初のプランは、「民主的」外観を持ち、多数派の社会的基盤を擁し、ワシントンの同盟者が支配する政権をイラクに樹立することを目指すものだった。しかし、そのための基盤は存在せず、イラク・シーア派――米国に感謝していると見なされたコミュニティー――の支配的勢力は親イラン派勢力であることがただちに理解された。
 紛争の「イラク化」という現実的シナリオにとって信頼しうるパートナーの不在の中で、この「イラク化」計画の失敗によりブッシュ政権は自らのヘゲモニーを維持するために、宗教的・エスニック的分割を利用するようになった。こうした方法は、宗教に基盤を置いた内戦の力学の促進へと帰結した。それは二〇〇六年二月(サッマーラーでの反シーア派の爆弾事件)で悲劇的な転換を見せた。その主要な犠牲者の一翼を構成していたのは女性である。次にこの力学がブッシュ政権の失敗へと跳ね返ってくるのは、いっそう明確になった。

2 ブッシュ政権は、その主要な敵(ムクタダ・アル・サドルが指導する運動)を孤立化させながら、首都バグダッドを軍事的に支配することを目指した軍事的エスカレーションにすべてを賭けた。この戦術を成功させるために、米政府はシーア派勢力との連合を破棄することを求められた。同時にブッシュ政権は、イランへの攻撃を準備しているという印象を与える軍事的身振りを拡大し、テヘランへの圧力をかなりの程度強めている。これらすべては、全中東レベルでシーア派とスンニ派の宗教的緊張をかき立ててイランの影響力に対抗することを目指した地域政策を骨格としている。 
 この犯罪的企図において、米政府はスンニ派のアラブ同盟国――超原理主義で米国に従属しているサウジ王政が率いる湾岸の石油王国と、エジプトおよびヨルダン――としめし合わせて行動している。イランの核問題は、これら地域的・国際的パートナーを脅すために米政府によって利用されている。この態度の帝国主義的動機は、米国の特権的同盟国であるイスラエルがすでに長きにわたって核保有国であり、イランと違って核拡散防止条約に調印していないという事実によって、いっそう明らかになっている。

3 ブッシュ政権の政策は、危険な前のめり飛行の域にまで達している。それはすでに冒険主義を露呈してきた政府として驚くべきことではない。現在、この冒険主義は、米国支配階級の中の増大する多数派によって非難されている。
 体制側の隊伍の別の重要な選択肢(ベーカー―ハミルトンのイラク研究グループ)は、何よりもまず政治的な手段によって、とりわけイラン、シリアとの妥協交渉によって、米国が陥っている袋小路から抜け出すことを呼びかけている。その目標は、こうしたやり方で打撃を限定的なものにし、ブッシュ政権が構想しているものよりも絶対的なものではなく、権威主義的なものでもない覇権を打ち固めようとすることにある。後者は、ブッシュが政権について以来追求してきた米国の一極的な世界覇権の大敗北という選択肢を拒否するものである。

4 ここ数カ月の出来事は、当初から明白だったイラクの「抵抗運動」の性格を確認するものであった。それは帝国主義的占領者への民族的抵抗であるだけではなく、宗教的内戦勢力でもある。イラクのスンニ派アラブ人地域で創設された武装組織は、当初から占領に対する正当な闘争と、多数を占めるシーア派の支配に対する反動的な闘争の双方を遂行してきた。昨年、シーア派アラブ人の間での占領に反対する主要な運動は、血まみれの宗教的報復に転換した。イラクのアラブ人を占領者に対する共通の民族的反対の中で統一しようとするムクタダ・アル・サドルの構想は、明確に危機に瀕しているように思われる。
 現在イラクのコミュニティーの中で、依然として支持を集めうる闘争を行っている唯一の勢力は、階級勢力、すなわち石油労働者組合である。この闘争は、イラク侵略の主な理由をめぐるものであるがゆえに、とりわけ重要である。この闘いを、あらゆる国の反帝国主義者と労働者運動が支援しなければならない。

V)レバノン

1 二〇〇六年七、八月のレバノンのヒズボラに対するイスラエルの攻撃は、中東におけるイランの影響を打ち崩そうとする米国の願望に適合したものである。ブッシュ政権がイラクに対する侵攻を行うや直ちに、イランとの対立は主要な関心となり、この衝突の主要な領域としてレバノンが選ばれ、レバノンにおけるテヘランの同盟者として二つのターゲットが提示された。シリアの存在とヒズボラである。
 この問題については、イラクの問題と違って、米国政府はフランス政府の積極的な協力をあてにすることができた。しかし米政府のレバノンにおける同盟者はヒズボラを打ち負かす能力がなかったため、米国はこの課題をイスラエルに振り当てることになった。

2 イスラエルの攻撃は完全な失敗をこうむった。ヒズボラはイスラエルを抑止する能力を示しただけではなく、イスラエル国家内での戦闘を実行することにも成功したのである。それはイスラエル――アラブ戦争の歴史で初めてのことであった。
 米仏両政府は、「Bプラン」に頼らざるをえなかった。すなわち国連の看板の下にNATO軍(ドイツ、スペイン、フランス、イタリア、そしてとりわけトルコ)を南部レバノンに配備しつつ、米政府の同盟者に支配されたレバノン政府が、ヒズボラを打ち負かし、武装解除する新たな企てを、これらNATO軍隊が助ける、ふさわしい機会を待つことにしたのである。

3 それ以来、レバノンにおける米仏両政府の同盟者とシリア・イラン両政府の同盟者との間での緊張は、かなりの程度激化した。ヒズボラの側に立って反対派ブロックを形成した諸勢力は、多数派を構成する勢力と質的に異なっているわけではない。
 彼らは、反対派と多数派の間の権力再配分のための闘いを行っている。反対派を政府の決定と「提携」させるようにである。レバノンとその債務に関するいわゆる「パリ3」会議の展望の中で採択された新自由主義綱領に対して、反対派が真の動員を行わないやり方は、彼らの社会・政治的性格を鮮明に示すものである。
 したがって現在進行中の闘いは、反対派が同時に新しい選挙法のために、そして早期の議会選挙のために、民主主義的要求を提出しているにもかかわらず、支配階級内部の妥協交渉を優先的に目指すものである。それにもかかわらずブッシュ政権は、レバノンにおける自らの同盟者に対して非妥協的な態度をとるようそそのかしている。米国の最も密接な同盟者は、レバノン民衆を内戦に追いやるワシントンの願望を暴露する挑発的な態度さえとっている。

4 ヒズボラは、彼らが原理主義的イスラム教組織であるという事実にもかかわらず、イスラム原理主義のテロリスト潮流と同レベルで扱うことはできない。ブッシュ政権とイスラエルが、ヒズボラをアルカイダと連携しているかのようにするやり方は、断固として非難されなければならない。
 ヒズボラは、シーア派社会の主要な武装部隊となった大衆政党であり、イスラエルの度重なる攻撃への抵抗の中でレバノン住民の貧しい階層の多数派を構成している。この意味でヒズボラが行う武装抵抗は正当な闘争であり、この組織は「イラク抵抗勢力」の諸分派と同一レベルで捉えることはできない。
 したがって、レバノン左翼がイスラエルと帝国主義勢力に対する抵抗においてヒズボラと同盟するのは正当なことである。国際反帝国主義左翼は、レバノンの抵抗運動に対して、その指導部の社会的・政治的性格とは独立に、またそれがヒズボラによって指導されているにもかかわらず――その原理主義的・コミュナリスト的性格と、社会的・政治的問題に対するその態度を批判しつつ――政治的支持を与える義務がある。しかし、国際反帝国主義勢力と労働者運動が、優先して支持しなければならないのはレバノン左翼、とりわけその主要勢力であり、自らも抵抗闘争に従事しているレバノン共産党である。

W)パレスチナ

1 二〇〇六年六月以来ガザに対して行われているイスラエルの攻撃は、レバノンにおける断固たる行動、ブッシュ政権のイランとその同盟者に対する行動と同じく、地域の戦略的枠組みに適合したものである。二〇〇六年一月の議会選挙でのハマスの勝利は、ワシントンにとって深刻な失敗だと見なされ、米政府はただちに欧州の同盟国に対して、新たに民主的に選出されたパレスチナ政府に「追放(オストラシズム)」措置を取るよう強力な圧力をかけた。
 同時に米政府は、彼らのパレスチナのパートナーであるマフムド・アッバスや、ファタハ機構で支配的な位置を占める右派セクターに、あらゆる妥協の展望や、ハマスとの民族統一政府を拒否するよう強力な圧力をかけた。それはイスラエルの攻撃が始まるような展開を妨げるためだった。

2 スンニ派原理主義組織であるハマスとの同盟は、イラン政府にとって貴重な成果である。それはシーア派のイランがその汎イスラム主義を見せつけ、シーア派国家としてのイランを、アラブ世界とイスラム内での大多数を占めるスンニ派から孤立化させようとする企図に対抗するものである。イランがヒズボラと同様に米国とイスラエルの第一のターゲットとなったのはそのためであり、またイランがレバノンでの同盟者とラディカルな反イスラエル的態度を共有していたためでもある。
 イスラエルは、レバノンでそうであったように、ハマスを彼らの主要な拠点であるガザで打ち負かすことができないことを示し、ガザの一部を再占領することもないまま、ひどく高価な軍事的・政治的代価を支払うことになった。したがって主要な戦術は、イスラエ
ルによる外部から加えられる攻撃と、とりわけファタハ内の米国の同盟者を武装させ、彼らを非妥協的態度と挑発に押しやることでパレスチナ人に内戦をそそのかすやり方との結合によって構成されている。
 ブッシュ政権の失敗は、アラブにおける米国の同盟者を、パレスチナの諸分派間の妥協を支持する方向に促している。そうすることにより、イラン政府がハマスへの支援からもはや利益を引き出すことのないようにさせるためである。

3 ハマスはヒズボラと同様に大衆的基盤を持った運動であり、パレスチナ民衆の重要な部分の抵抗への願いを表現する存在になってきた。献身と誠実というハマスの名声は、ファタハが支配するパレスチナ自治政府機構のマフィア的という悪評や実態と対照的である。
 しかしハマスの綱領的性格は、シオニスト・コンセンサスの打破に資するような政策の定式化がまったくできないことに表現されている。それどころか、無差別的にイスラエルの市民を脅かす自爆攻撃に頼ってきたハマスは、このシオニスト・コンセンサスを生み出し、打ち固める役割を長期間にわたって果たしてきたのである。ある意味でハマスは、シオニスト右派の「好ましい敵」なのであり、ハマスは軍事的挑発行動と、パレスチナ政府のトップの敵対者の面目を失墜させることで、シオニスト右派の強化に少なからず貢献してきたのである。

4 反帝国主義者と労働者運動は、政府を自由に選択するパレスチナ民衆の諸権利を支持し、イスラエル、米国、そして欧州の同盟国によるハマス政権の絞殺に対して精力的に闘わなければならない。反帝国主義者と労働運動は、抵抗闘争を行っている勢力の性格とは独立して、イスラエルの攻撃に対するパレスチナ民衆の正当な抵抗に連帯しなければならない。しかし、反帝国主義者と労働運動は、ワシントンと同盟しているパレスチナ右派に対する独立した政治的闘いや、パレスチナ民衆内部でイスラム原理主義に対するイデオロギー的闘いを遂行しているパレスチナ左派組織と特別の連帯関係を打ち立てなければならない。

X)課題

 中東において帝国主義の攻勢がこうむった軍事的・政治的後退は、反戦運動を精力的に再出発させるためのとりわけ有利な枠組みを、非常にはっきりとした形で作りだしている。現在、米国とその同盟国は、異なった組み合わせの中で三つの地域戦争――アフガニスタン、イラク、パレスチナ――に従事している。それに加えて、当面は潜在化しているレバノンでの戦争がある。
 同時にブッシュ政権は、イランに対する戦争の準備をきわめてこれ見よがしな形で行っており、またソマリアへの介入で最近示されたように軍事行動の範囲の地域的拡大をためらってはいない。ブッシュ政権は壁際に追い詰められているが、追い詰められた猛獣と同様に、いっそう危険である。以下の優先的課題を軸に、帝国主義的冒険を即時かつ無条件に終わらせるために、強力な反戦運動を構築する努力を倍加することが緊急に必要である。

bイランに対するいかなる攻撃にも反対
bイラクから占領軍の撤退
bアフガニスタンに介入している軍隊の撤退
bレバノンからのNATO軍の撤退
bパレスチナの内部問題への干渉の中止とパレスチナへの制裁の撤回

 この闘いの中で、第四インターナショナルは、この地域で進歩的闘争を遂行している労働組合や政治勢力との特別の連帯関係を築きあげる。第四インターナショナルは、民主主義的でフェミニスト的で反帝国主義的な中東における左翼の再生を追求しようとする。
 2007年2月


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