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グローバル化した自由貿易秩序が作り出す危機        かけはし2007.1.1号

国際通貨システムの再編と「もう一つの世界」

公正な社会経済体制を求め通貨取引税キャンペーンを

没落する「帝国」――アメリカ

 アメリカは、その余剰生産物を従属化した「周辺部」に流出させ、そこでその価値を購入させ資本を還流させる「中心」だった。しかし、今日のアメリカはもはや輸出超大国ではない。彼らは、輸出する以上に輸入し、生産する以上に消費している。
 この過剰消費を支えるのに必要な条件は、彼らの「ドル」を買ってくれる他国の投資である。さらに、アメリカは日本や中国、そして世界中から戻ってくるドルを再びラテンアメリカなど諸外国に投資して、債務から生じる利子払い分を稼いでいた。このようなドルの流出と還流が、「帝国」的貨幣循環の本質である。要するに、アメリカは売った以上に買い、諸外国がこの過剰購入に資金を提供し、アメリカはアメリカで、ラテンアメリカへの外国投資から上がった利益によって、この融資を購ってきた。
 しかしながら現在、このドルの循環力は、急激に弱体化している。ブッシュ大統領による富裕層への大幅減税やグローバル戦争のための軍事費増大によってアメリカ財政収支は、完全に赤字となり、経常収支も石油高騰や対中貿易赤字で急速に悪化し、解決の展望もないこの「双子の赤字」問題こそ帝国の没落を象徴するものである。
 余談であるが、このことが、アジア通貨危機の時に何の救済策ももたらさなかったIMF(国際通貨基金)のあり方を変化させ、今後はドル救済、アメリカ救済のための調整機関に改革させられていくと語られている。一九四五年来、君臨してきたIMFは、もはや建前としての経済危機救済機関と名乗ることもできず、今後は文字通り帝国救済機関となっていくのだ。
 帝国の没落に伴って、ドルの循環を支えてきたシステムの根幹であり、諸外国のアメリカへの融資ともいうべき外貨準備金制度に異変が起きている。諸外国からすれば、自国通貨危機の防止や対外債務の返済、緊急時の輸入決済のために外貨準備金を利用することが担保であった。
 一九九七年から始まったアジア通貨危機以来、アジア各国の外貨準備高は、特にこの数年急増している。二〇〇一年から二〇〇六年までの五年間に、中国、日本、韓国など東アジア八ヵ国の外貨準備金は、一兆ドルから二兆六千億ドルへと二・五倍にもなっている。特に中国は近年日本を抜き、世界第一位で、八千八百億ドルないし約一兆ドルへと突出している(第2位の日本は、8500億ドル)。しかも、そのほとんどがドル建て資産で、アメリカ財務省短期国債である。
 一方で、近年のドル安傾向の中、過度のドル依存からの脱却が開始されている。アジア通貨危機の反省から、二〇〇〇年五月にはASEAN(東南アジア諸国連合)+日中韓の間で「チェンマイ・イニシアティブ」が合意され、東アジアにおける二国間通貨協力が約束された。その後特筆すべきは、二〇〇二年日中中央銀行の間で、ドルとの対価なしで日中間で三十億ドルという通貨スワップ協定を結んだことである(この行き着く先に、ドル体制から独立したアジア共通通貨構想実現の可能性が指摘されているが、この点は後述する)。
 そしてドル安進行の中、各国中央銀行は最近、外貨準備金比率のドル比率をへらしている。たとえば、この十一月欧州中央銀行(ECB)主催の金融会議で「米国債以外での外貨準備の運用を検討している」と中国中央銀行責任者が発言し、さらなるドル安をもたらしたが、この市場の過剰反応を警戒してか「従来の外貨準備政策を変更する予定も米ドルを大量に手放すつもりもない」 「中国の外貨準備の分散運用は今に始まったことではない」と取り繕った。また、最近ロシア中央銀行も準備金の一部をユーロや円建てに切り替えた。
 その主な理由は、これ以上ドル安が進めば、各国が保有しているドル建て資産の価値が減少し、外貨準備金も大事な国家資産なので資産管理をする必要があるからだ。しかし、外貨準備のドル比率を減らすということは、ドル安につながること以上に、大量に発行されるアメリカ国債の買い手が減ることを意味する。アメリカ政府としては、国債の発行量を減らすか、または利率を引き上げて債券の魅力を高めようとする。しかし、どの選択肢でもアメリカ経済にとってはマイナスになる。ドル安で米国企業の国際競争力が増す可能性が出てくることも考えられるが、ドル安とドル離れが進んでしまうと、外貨準備金も受け皿としての第二の通貨ユーロや円の存在が強くなってくる。しかし他方、各国準備金のユーロへのシフトは、ユーロ高を招き、EUの輸出競争力の低下、EUへの輸入品増大、域内の失業率の上昇をもたらす。EUはアメリカに取って代われないだろう。
 このように9・11以降、アメリカの「帝国」的貨幣循環は衰え始めている。アメリカが没落しても、世界の他のどの国もアメリカには代われない。「テロとの戦争」の名の下に、グローバル化した戦争状態は、「帝国」の全世界がドル体制の防衛を必要とし、また同時にグローバル化した自由貿易は、ドル体制を掘り崩している。先に述べたIMFの役割の「改革」は成功しないだろう。富の偏在が世界的に拡大する中で、最大の赤字国アメリカが、IMFへの最大出資国であり、最大の議決権保持国であるのだから。

中国人民元の大暴落の予見

 一兆ドルとも言われる中国の外貨準備金は、中国市場にも大きな影響力を及ぼす。今までの中国の外国為替管理制度では、企業や個人は一定額しか外貨の保有は認められず、国内に流入したほとんどの外貨は、必ず中国人民銀行が買い上げるシステムになっていたため、中央銀行が人民元を刷っては外貨を買い上げる構造になっていた。
 したがって、中国の外貨準備とは、中央銀行が買い上げた外貨にほかならず、中央銀行は外貨を買い上げるために債権を発行したり、通貨を多く刷るので、外貨準備は中央銀行の資産ではあるが、負債と引き換えに形成された資産である。つまり、中国政府の負債に他ならない。この外貨準備は、先の金融会議の発言のように対米交渉の外交カードにもなるが、五千八百億ドルともいわれる中国金融界の不良債権への充当が検討されている。
 その上、中国はWTO加盟時の公約に基づいて、本年末から金融サービスを全面的に自由化し始めた。つまり、外国の銀行や証券、保険など金融機関が中国市場に自由に参入し、人民元建ての金融サービスが可能となってくる(現地法人設立が条件だが)。これによって、外国の金融機関が海外から外貨建てで資本を導入して人民元に交換し、そして人民元建ての金融サービスを自由に展開するようになり、ヘッジファンド(注1)など短期資本を含めた資本の流入が一挙に活発化していく。
 とくに、〇八年北京オリンピック、二〇一〇年上海万博などのイベントで、資本流入がますます加速し、人民元は切り上がっていくだろう。しかし行き過ぎたバブルがその後崩壊すれば、アジア通貨危機の時と同様に、資金の一挙的流出によって、人民元の大暴落の可能性が十分にある。
 その時、中国金融界の不良資産に外貨準備金をすべて使っていたら、チェンマイ・イニシアチブをもってしても、外貨準備金は約四千億ドルしかない。ところが今や世界の為替市場では、年間三百兆ドル、一日あたり一兆ドル以上の短期資本(ホットマネー)の資金移動が行われている。経済のグローバル化、金融自由化は、通貨取引にも及んでいることは、アジア通貨危機に際して衆人が目にしたところである。
 先に述べてきたような外貨準備金制度の現状から、数年後の人民元の暴落は、確実にドルの暴落に至ることが明白であり、行き場を失なっている資本の無政府的投機が、二十一世紀の「帝国」を崩壊させるのかもしれない。しかし、その被害は労働者、農民、民衆にしわ寄せされる。経済危機の度に、民衆は失業とインフレに苦しめられてきた。いまこそ、民衆による投機的取引の規制が必要である。アジア通貨危機以降に求められたトービン税(通貨取引税)導入とタックス・ヘブン(租税回避地)の廃止が緊急に求められている。
 とくに、通貨取引税は「通常取引時は〇・〇一%程度の低率課税を課し、為替市場に投機的変動が生じた際は、短期大量取引に対して数十%という高率の税金を課す」という二段構えの税制構想へ発展してきた。この通貨取引税を求める運動は、今後数年内にアジアにおいて緊急に発展・拡大しなければならない。二〇〇七年アジア開発銀行総会(京都)、〇八年G8サミット、一〇年APEC(日本)という国際会議の日本開催の度ごとに対抗フォーラムを準備し、その一翼に必ず通貨取引税キャンペーンを行おう。そして、中国の政府・民衆に対して、人民元暴落への有効的対策としての通貨取引税導入を訴えかけたい。

通貨取引税かアジア共通通貨か


 フィリピン、セブ島で十二月十一日から開催が予定されていた東アジア・サミット(ASEAN+6/注2)は、アロヨ政権が進める新自由主義的改憲策動への国内批判が強まり、タイ・タクシン政権の二の舞を恐れてか、その国際会議の主催側からの中止(表向きは台風接近だが)に至っている。そのため、日本政府が提唱する東アジア共同体構想の発表はお預けとなっている。
 そして、ASEAN+3(日中韓)で経済連携を深めたい中国と、ASEAN+6(+3にインド、ニュージーランド、オーストラリア)という東アジア共同体を構想する日本とのつばぜり合い論議も延期となった。急遽、来年一月早々の東アジア・サミットが再設定されたが、主催フィリピン国内の政情不安は付きまとうだろう。タイ、インドネシア、フィリピンなど途上国の経済自由化は、国内産業を荒廃させ、多国籍企業の参入に道を広げるばかりで、労働者・農民の抵抗は強まっている。
 一方中断されたとはいえ、ASEANサミットでは、当初予定二〇二〇年までの完全統合については、五年早め二〇一五年のASEAN共同体実現を打ち出すことになっていた。さらに自由化進展のために、@優先事業分野統合に向けた業種別統合改正A看護師資格の相互承認(MRA)BASEAN・中国間の包括的経済協力への枠組み協定におけるサービス貿易合意CASEAN・中国間の包括的経済協力への枠組み協定における物品貿易合意などが確認されることになった。
 重大なことは、これに先立つ十一月ベトナムAPEC(アジア太平洋経済協力会議)サミットに向け発表された、アメリカ政府によるAPEC全域での自由貿易地域協定構想(FTAAP)という強襲がアジア各国に影を投げかけたことだ。「太平洋の真ん中に線を引くことになる」と、アメリカはアジアのブロック化に神経をとがらせる。アジアのFTA競争から取り残され、南北アメリカ自由貿易地域協定(FTAA)も失敗してきたアメリカの巻き返しが、APECを利用して打ち出されたといえる。
 しかし、いち早くアメリカ提案に反対したのはマレーシア、インドネシア、タイなどのASEAN加盟国だった。「多くの貿易品目で競争力を持つ米国との貿易自由化交渉は、国内の反発を招き、ASEAN共同体実現の障害にもなりかねない」との理由だ。一方、東アジア共同体構想を進めたい日本政府のFTAAPに対する立場は、アメリカに配慮したあいまいなものとなっている。その一方、東アジア共同体構想は民主党までもマニフェストで提言し、経済自由化の帰結として二十一世紀における安定的東アジア共同体を展望する考え方も広まってきた。しかし、共同体論議の中での統一通貨=アジア共通通貨構想には、大きな幻想がある。
 欧州のように、帝国主義的列強国が肩を並べている経済圏では可能であったユーロに比し、アジアでは日本帝国主義の経済力が強すぎるため、その円を除外しなければ対等な統一通貨は困難であり、逆に円ベースでの共通通貨では中国が納得しないし、統一通貨にすらならない。チェンマイ・イニシアチブという通貨バスケット方式の拡大版を展望しても、たとえば、人民元の暴落時に日本政府は運命共同体として最後までは買い支えることはないだろう。各国国益の分裂が克服できない限り、政治的経済的統合は困難である。もちろん、共通通貨を除外した東アジア共同体に対してすら、アメリカ政府は、APECなどを通して介入を続けるだろう。

もうひとつの運動―南米の夜明け


 帝国主義的資本主義グローバリゼーションへの反抗は、ラテンアメリカで発展してきた。グローバリゼーションに異議申し立てを開始し、「もう一つの世界は可能だ」をスローガン化した初めての世界社会フォーラムは、ブラジル・ポルトアレグレから開始された。となりのアルゼンチンではIMF政策が通貨危機を招いたとの認識が深まり、対外債務のデフォルトを通じて経済を再建してきた。続いてベネズエラ、ボリビア、エクアドルでは左翼的大統領が政権に就いた。
 二〇〇一年ベネズエラのチャベス大統領が提唱した「アメリカ州民衆ためのボリバール主義代替構想」(以下ALBA/注3)は、新自由主義的経済統合とはまったく異なる、社会的公正と連帯に基づく経済統合の新しい試みである。それはスペイン語で夜明けを意味し、アメリカ合衆国が南北アメリカ全域の新自由主義的統合を進めるためのFTAA(アメリカ州貿易自由地域協定)や、発効から一〇年経過したNAFTA(北米自由貿易協定)、今年かろうじて協定化されたCAFTA(中米自由貿易協定/注4)とは別の新しい経済連携を模索している。
 このALBAには、今年四月ボリビアも加わり、加盟三カ国で人民貿易協定(TCP)が結ばれた。そこでは各国人民のための連帯と相互支援、自決権が謳われ、教育・医療への支援(たとえばキューバ医学校にボリビアから奨学生五千人が入学、またキューバの医療従事者がボリビアで眼科手術など専門医療など技術・設備支援を含めて実施し、教育でも識字率を高めるため、スペイン語ほか先住民言語の教材・資金など提供している)、また、各国の石油や天然ガスの国有・半国有公社による開発・保護・交易や、輸出品への支払いに相手国の生産物での支払いも認めている。
 三国間人民協定以外に、ALBAは多数の公共企業体活動を含んでいる。その多くは〜スル(南の〜)と名前付けられている。たとえば、ペトロスル(最近設立された国営石油企業)、ガススル(半国営天然ガス企業)、テレスール(南のテレビ企業)、ヌエストラ・バンク〔我々のアメリカ〕(南の共同組合銀行)など。また、IMFからの自立を狙ってバンコ・デル・スール(南の銀行)創設も計画されている。この中でとくに、テレスールは、アメリカ拠点のCNNネットワークから独立し、ラテンアメリカ全体のテレビ放送をスペイン語・ポルトガル語で行っており、ベネズエラ、アルゼンチン、キューバ、ウルグアイ各国政府の援助とブラジルからの技術提供を受け、子どもや成人向けの文化・教育放送にも力を入れていることが脚光を浴びている。
 ベネズエラは今年、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル四ヵ国で構成されていたメルコスール(南米共同市場)の正式加盟国となった。ボリビアも加盟する意向だ。これは両国が加盟していたアンデス共同体(エクアドル、コロンビア、ペルー、ベネズエラ、ボリビア)を構成するコロンビア、ペルーが、相次いでアメリカ合衆国との二国間FTA(自由貿易協定)を締結したため、チャベスが激怒し脱退したことから始まっている。
 しかし一方で、ベネズエラは、ALBAはまだ初期段階であり、むしろメルコスール加盟によって、既存のWTO交渉から得られる自国利益を強化したいという考えもあった。また、WTO交渉でG20という途上国利害グループを代弁しつつ、WTO交渉での利害関係五ヵ国(FIPS)に選ばれたブラジルと、メルコスールという場で綱引き〔新自由主義自由貿易対ALBAの間で〕がなされることも予想される。
 もちろんチャベスのカリスマ的手法に疑問も出されている。今年大統領に再選されるや、二〇一九年までの大統領就任(任期20年!)を可能とする憲法改定を行おうとしていることが問題となっている。ラテンアメリカに歴史的に生まれてきたポピュリスト政権の再来がチャベスだともいわれる。しかし、彼が提唱したALBA構想は、ラテンアメリカで深い民衆運動の参加・高揚を作り出した。ベネズエラにおいても、チャベスなき民衆運動の夜明けが始まっている。
 また、ALBA構想で打ち出された超巨大開発型天然ガス・パイプライン事業(ベネズエラ、ブラジル、ボリビア、アルゼンチンを結ぶ7千キロに渡る工事)に対しても、アマゾンなどの環境破壊を引き起こすと反対運動が起きている。持続可能でエコロジカルなALBA構想にしようというものだ。 (北野はじめ)

【注】
1 ヘッジファンドとは、ヘッジファンドとは、個人の大資産家や機関投資家など、私的なつながりで少数の投資家が多額の資金を出資し、株、債券、為替、不動産などでの投機的取引で、相場の変動から利益を出す短期資本を操る大型ファンド。その資産規模は、二〇〇五年で一兆ドルを超え、一国経済以上の規模を持っている。ジョージ・ソロスのクォンタム・ファンドや村上ファンドが有名。別名、ハイエナ・ファンド。
2 ASEANは、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、カンボジア、ミャンマー、ラオス十カ国。日本政府の東アジア共同体構想にはASEAN+三の他にインド、オーストラリア、ニュージーランドが入っているが、論争の前に、インドやオーストラリアと日本との二国間経済連携交渉が来年早々にも始まることこそ疑問だ。
3 ALBAはスペイン語で夜明けを意味し、
`ALternativa Bolivariana para la Americaaのスペイン語頭文字を取っており、一九世紀南アメリカ地域をスペインから独立させた英雄シモン・ボリバールの理想に因んでいる。
4 CAFTA(中米自由貿易協定)は、アメリカ合衆国と中米五ヵ国(ガアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、コスタリカ、ニカラグア)、ドミニカ共和国との間の協定。アメリカ下院でも反対が強く、二〇〇五年七月、二一七票対二一五票でかろうじて可決。コスタリカ、ドミニカ共和国はまだ未承認。中米各国ではその協定が、NAFTAモデルと同じでFTAAに道を開けることが問題となってきた。



静岡空港

強制代執行が迫っている
09年3月開港を阻止しよう

桜井建男(空港はいらない静岡県民の会事務局長)


 税金のムダづかいの象徴というべき静岡空港建設が地権者の反対を押し切って強行されようとしている。2月には強制代執行の可能性が強い。空港はいらない静岡県民の会事務局長の桜井建男さんにに闘いの方針を語っていただいた。

 石川静岡県知事は、静岡空港の二〇〇九年三月開港に向け、年明け早々にも土地収用のための強制代執行攻撃を始めようとしています。二度の開港延期を重ね、社会的必要性がきわめて疑わしいがゆえに県民合意を永久に得られることのない静岡空港事業は、かえってそのために強権発動を余儀なくされる局面に行き着いてしまっているのです。
 この第一弾として二〇〇五年秋に強制測量を行い、矢継ぎ早に収用委員会を開き、二〇〇六年十月二十日には畑部分、十一月八日には山林部の収用採決を行いました。さらに第二弾として十二月十九日を畑の明け渡し期日として、千七百人の共有者と立ち木トラスト所有者の山林部分の明け渡し期日を〇七年一月十日とする通告を行ってきています。残っている大井さんの空港西側の山林などはまだ収用委で審理中ですが、早期に採決し同じように通告してくることは明白です。
 私たちは強制測量に対して四人の本来地権者を中心に現地で連日抗議行動を展開し、収用委に対してもあえて「敵の土俵」に踏み込んで対決してきました。それは彼らの思惑通り「簡単には採決させない」ためであり、〇九年の開港にむけた彼らのスケジュールをできるだけ阻むねらいでした。
 その結果、収用委は県当局の意向を受けただけで、まともに検討もせず予定していた結論を採決するだけの形式的機関であることを暴露できたと思います。とくに収用委が開催されるたびに、空港建設が公共事業の名を借りた税金の無駄使いであり、ゼネコンに奉仕するだけのものであることを県民に知らせることができました。同時に地権者を始め闘っている人間は、保証(金)が目的では決してなく、行政のいい加減さに怒っているのだということを再度新聞やテレビを通して明らかにできたことです。
 年明けに県当局は収用委の採決に基づき地権者たちに対して移転通告である「催促書」や強制執行の費用見積りなどを記載した「戒告書」、「代執行命令書」を送付してくると思いますが、これに対しては「採決取り消し訴訟」で対決していこうと思っています。二〇〇六年内にも第一次原告団をつくり、一月中旬に提訴する予定です。西側部分は第二次訴訟になります。その意味でこの訴訟は事業認定取り消し訴訟を引き継ぐものになると思います。「新強制収用法」は、執行費用を闘う側に押しつけることによって、闘争をつぶすという法体系になっていますが、私たちはこのどう喝には屈しません。

土地収用反対
賛同署名運動

 この訴訟と平行した闘いとして、静岡空港に反対しているすべての団体名で十一月末より「静岡空港・土地収用に反対する賛同署名」運動を開始しています。これは静岡空港の建設に反対であると表明した県民の三分二の声を力にし、県当局に圧力をかけ、強制収用を断念させるための闘いです。
 県当局は表向きは用地の取得ひとつとっても、「話し合い」はポーズだけです。つい先日の十二月六〜七日に絶滅危惧種であるオオタカの営巣木を切り倒しました。オオタカの子どもが巣立ったばかりの木というのは全国でも例がない話です。
 また十二月県議会で知事は空港運営会社に対して財政支援の意向を表明しました。つまり「開港」前に血税を投入する保証がないと空港運営会社は成り立たないし、担い手がいないのです。さらに十一月中旬に入って県当局と空港会社は一方的に土地・立ち木の損失補償金を送りつけ、一方では代執行の法外な費用請求をちらつかせてどう喝し、一月十日まで伐採するように脅迫してきています。これは地権者に対する脅しです。このようなことができる権限は空港会社にはありません。訴訟と署名はこれに対抗するための闘いです。

正義と民主主義
実現のために

 福島、和歌山、宮崎と三県で知事が主導した官製談合が浮上し、相次いで知事の辞任・逮捕に発展しています。福島の談合にいる水谷建設は、静岡空港の建設でも中心的役割を呈しています。現在私たちが知り得ているだけでも、鹿島、大成というゼネコンの第一次下請けとして空港本体部の土木工事の八割近くを一手に引き受けています。
 静岡空港にからんだ平均落札率は〇五年までの過去五年間は九六・五%であったものが、福島で水谷建設の談合問題が発覚し、指名停止を受けると落札率は六〇%代まで下落しています。これは過去の入札・落札がなんであったのかを明らかにしています。談合以外には考えられません。いずれこの五年間の事実経過は証明されるものと期待しています。二年前に県庁の全部署で裏金問題があることが暴露され、連日新聞紙上をにぎわせました。この中には県警も入っています。「談合・裏金問題」は長く続いてきた静岡県庁の体質そのものに派生していると思います。
 この頂点にいるのが知事です。新聞紙上で明らかになっていますが、石川知事は知事選のたびに二億円を超す政治献金を手にしており、それも表側に出ているだけの数字です。
 空港建設に反対する闘いは沼津高架線化、第二東名と公共事業の名のもとに巨大ブロジェクトを押し進め、談合や裏金問題などの腐り切った県政と対決する最前線の闘いでもあり、勝利するためには県民各層と協力しながら、闘っていくことが必要だと考えています。
 私たちは十一月二十五日、静岡で第六回反空港全国集会を開催しました。その中で開港はしたものの予想を大きく下回る利用客に低迷する神戸や新北九州空港、依然として実績の上向かない関西新空港や中部国際空港の実態を知りました。そしてそのいずれも財政的にも環境的にも大問題を抱え、各自治体を財政破綻の危機に追い込み、住民に負担を強制していることの報告を受けました。
 私たちは全国各地で`正義と民主主義aのために闘っている人がいることに勇気づけられました。静岡空港の建設に反対する闘いもこの全国の闘いと密接不可分な一部であることを確信しました。静岡空港に反対する世論は県内では多数でも、闘いを担う運動主体は未だ少数です。
 このような力関係を強制代執行にむけて打ち破るために、採決取り消し訴訟と空港建設反対署名を展開していきます。
 〇九年三月開港の阻止と来年に予定される強制代執行阻止の闘いに全国から支援をよろしくお願いします。

「静岡空港」土地収用に反対する賛同署名のお願い

 全国のみなさん!
 静岡空港は土地収用を強行してまで進めるべき事業ではない、という多くの反対の声を静岡県当局に届け、強権発動の中止を実現するために、全国のみなさんのご賛同署名を心からお願いいたします。
 賛同して頂ける個人、団体は下記までメールにてお願いします。★なおメールには「お名前(個人、団体名)」「ご住所」「所属・職業等」「賛同のひとこと」「公開の可否」をご記入ください。
■賛同メールへ
http://kuukouno.hp.infoseek.co.jp/11.25sandousyomei.htm
■手紙・FAXの場合は下記へ
〒420―0839 静岡市葵区鷹匠2―12―10「市民ひろば」内空港はいらない静岡県民の会 пEFax:054―653―2791



山谷越年・越冬カンパの呼びかけ

 テントを張ろうにも張れずに転々とせざるをえない野宿の仲間、「三千円アパート事業」と引き換えにテントからの追い出しを迫られる仲間が一緒になって、八月から続けられている東京都への要求行動。十一月六日〜十日のハンスト闘争を経て、全都各地から集まった仲間たちは、地域の垣根を越えたつながりを作り、「おれたちはここにいる」とはっきりと主張し始めました。それは野宿者運動の、とても大きな可能性を感じさせるものです。
 しかし、現実はとても厳しく収入に比して現場活動費は容赦なく飛んでいきます。都庁前行動に加えて、大阪・長居公園の追い出し反対への応援、炊き出しの食材調達のための農作業も、待ったなしです。これまで共同で蓄積してきた力をバネに、越年・越冬を迎えようとしていますが、これはなんとしてもやりきらなくてはなりません。毎度のお願いで大変恐縮ですが、多くの皆さんの圧倒的な冬期カンパを心からお願いいたします。
[振込先]郵便振替口座 00190―3―550132 山谷労働者福祉会館運営委員会
衣類物資カンパのお願い
 特に防寒着、新しい下着、靴下など。靴、石けん、シャンプー、カイロなどの生活日用品も歓迎。炊き出し用の食材(米、野菜、乾物、缶詰、調味料など)そして何より現金カンパを。
東京都台東区日本堤1―25―11山谷労働者福祉会館 TEL・FAX03―3876―7073(宅急便は日曜の午後指定でお願いします。)


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