もどる

構造改革の現場から(11)                 かけはし2006.9.4号

管理強化と長時間労働でストレスにさいなまれる学校現場

 教育基本法改悪案が自民・公明の与党と民主党の双方から国会に出され継続審議となっている。東京や広島では「日の丸・君が代」強制に抵抗する教育労働者に処分が繰り返されている。これらと対をなして、学区制の廃止、学校選択制、小学校からの英語教育、小中・中高一貫校の導入や全国学力テストの実施、教職員評価・成績主義賃金制度、民間委託化など新自由主義の波が学校現場を襲いつつある。教育現場・学校の実情について、中学校教員二人に聴いた。

教職員評価制
度と学力テスト

――教職員評価制度、成果主義賃金の導入はどうなっているでしょう。

A 県教委は教職員評価制度、成果主義五段階賃金導入に向かって、今年から目標管理制度を導入しました。これは学校目標にマッチした自己目標を作り管理職の面談を受け自己評価をするというものです。現場に近い人、現場を知っている人ならこんなものはうまくいかない、やる時間もないと思うわけで、市町村教委も校長もよしとしてはいません。上からの指示に戸惑いおずおずと対応しているといっていいでしょう。

B 中にはこれが出てくれば、さっそく数値目標を立ててがんばる、がんばらせるという学校も出てくるわけです。朝の登校時あいさつ一〇〇%、給食の残菜ゼロとか、不登校ゼロ、テスト八十点以上が八〇%とか、とんでもない目標例が示されたところもありました。指摘を受けなければ危険だと認識しない人もいます。

A こんなことがやられたら子どもたちも大変だし、教職員もまともにやったら倒れるでしょう。何より職員同士の協力関係が壊れて、結局のところ成果はあがらないことになると思います。

――「ゆとり教育」が「学力低下」や「問題ある子どもたち」を作り出したと喧伝され、文科省は授業時数増や全国学力テストの実施を打ち出していますが。

A 県での学力テストの結果を市町村単位で公表するという県教委方針に組合が反対し、教育事務所単位での結果公表となっています。低い結果にいきり立って学校に乗り込んだ教育事務所幹部もいたという話もあります。来年四月には全国学テが実施されますが、その日にはたとえば修学旅行があるのに変更しなければいけないのかなど、教育課程の圧迫を危惧する声が上がっています。

B こうしたテストは統計と競争への駆り立てが目的ですから、百害あって一利なしです。一回で三十億円くらいはかかるともいわれています。やめるべきです。

格差社会と子
どもへの影響

――学区制廃止、学校選択制、英語教育、小中・中高一貫教育はどうなっているでしょう。

A 教育特区で英語表現科が小学校に導入されました。小中一貫校は来年ひとつ増えます。中高一貫校も県内にひとつできます。その実効性については疑いの声が多く出され『目立つこと』をやっているに過ぎないと指摘されています。今、市町村合併や過疎化等で統廃合され近くの学校がなくなってバス通費がかかる、低学年の子どもが授業終了後もすぐには帰れないという問題が起きていますし、学校がなくなることでいっそう地域の過疎化に拍車がかかっています。本当はこの問題の解決のほうが重要なのですが。

B つい最近、県教委は普通高校の全県一学区制方針を出し、審議会を開きました。パブリックコメントでは九割が反対なのに、なぜか賛成が多いアンケートを発表しました。二年後から実施しようとしています。ねらいは、東大に合格するエリート育成のためだという指摘もありますが、それよりはむしろ、地域の小さい高校をつぶし、再編統合して県の財政負担を減らそうという、いわば国鉄のローカル線廃止と同じ攻撃だととらえています。

――格差社会の影響は子どもたちにどのように現れていますか。

A 給食費や学用品、学習・修学旅行費用など自治体が負担する就学援助を受ける子どもたちの割合が増えています。私の学校では一五%を超えました。休日の部活動で弁当のふたを少しだけ開いて食べている子どもの姿もたびたび目にしています。援助を受け取った保護者が生活費に入れてしまい給食費等が未納になっているケースもあります。
 一方、海外旅行の話をしている保護者のグループが生活保護や就学援助を受けている人たちを「甘やかすべきでない」などとあけすけに非難している場面にも出くわし格差社会の現実を見た思いがしました。

――不登校などにはどう対処していますか。

B 文部科学省や教育委員会は不登校を減らす数値目標を掲げ学校への復帰策をとるよう現場に求めてきています。根底には不登校悪論があるのでしょう。私たちは、急がせない、不安を抱かせない、追いつめないことを基本に、個別にアドバイスと支援、励ましを行うようにしています。

A 教員の意図が子どもや保護者に伝わらないこともあり悩みですね。

B 教育・学校現場のみの世界だけに生きていれば互いに追い込まれていかざるを得ないでしょう。子どもも大人も外の、別の世界に触れて重圧・ストレスから逃れ、かわしたほうがいいですね。

労働組合の現状
と教員の意識


――組合はどうなっていますか。組織率や職場での活動状況をお知らせ下さい。

A 組合員は五割。分会の集まりを持つ時間はなかなか取れません。今年は二回、四月に役員を決めたのと七月にケーキを食べながらの集まりをようやく持てリフレッシュの場にすることができました。分会長として職場での取り組み、支部・県・全国の活動への参加を推進しているところです。

B 八割の組織率。毎年新採用や転入者が加入しているというまれな分会です。分会会議は年度始めと年度末、学期ごとに開催、交流会や歓迎会という飲み会には講師も参加。組合の新聞チラシ配布、署名、動員の役割分担が機能しています。校長交渉も年度始めの確認交渉を必ず行い、問題があればその都度行っています。県内の全体状況からすればかなり良い例外的職場です。
 支部的には、講師支援策として採用試験学習の場の提供や交流会の開催などに力を入れるようになってきています。県教組に組合員化をはかるよう意見も言っていますが、まだ方針になっていない段階です。

――非組合員の意識状況はどうなっていますか。

B 非組合員が反動的な人、というわけではないと思います。自分と社会との関係が切れていて、目の前の仕事だけの世界にいるという感じがします。

A 部活を勝たせよう、点数を上げよう、ソツなくやろうと懸命ですね。うまくいかない、評価されていないと愚痴ってもいます。早期の退職や病休に追い込まれている人もいます。残念ながら社会や教育の行く末に対する関心、危機感は抱いていないように見えます。

B そんな人たちを何とか組合の行事に参加させて運動を理解してもらおうと手は尽くしていますが…。

――「日の丸・君が代」の状況は。子どもたちの反応はどうですか。

B もともと県内では定着していましたが、抵抗に対する処分はありませんでした。子どもたちを学校行事の中心に据えようということで卒業式をフロアー上の対面式で行うなどの取り組みを行ってきました。壇上には子どもたちを祝福する絵が飾り付けられ、日の丸は三脚でフロアーにおいています。昔のエライさんを見上げる重苦しい式というものからはかなり改善されてきたように思います。
 学校よりも影響を与えているのはワールドカップ、サッカーの試合。大きな日の丸が打ち振られ有名歌手が君が代を朗々と歌っているのを見せられながら子どもたちの意識が作られているのです。批判的精神を育てようと思うとかなりの工夫が必要ですね。

A そんな状況にあって、何のためらいもなく熱心に君が代を子どもたちに歌わせている教員も出てきています。

教育基本法改
悪に抗して

――教育基本法改悪の動きと闘いはどうなっていますか。

A JC(商工会青年会議所)が神社宮司と手を組んで新しい歴史教科書をつくる会の幹部を招いた講演会や、家父長制復活を進める教育フォーラムを開いています。一昨年に市議会では教育基本法改悪を求める意見書が可決されていますが、他の市町村には広がりはしませんでしたし、県議会にも出されませんでした。

B 通知表に愛国心評価を入れた小学校が県内に十数校ありました。指摘を受け今年度は取りやめになっていますが、現場の危機感はまだまだ弱いですね。
 義務教育費の国庫負担問題など教育費や賃金に直結することでは反応も比較的良く、集会にも人が集まりますが、憲法・教育基本法ではなかなか盛り上りません。教育基本法の理念に反する教育が進められてきた現状にあって、法が変えられても何がどう変わるのか、リアリティが感じられないのかも知れません。

A 扶桑社の社会科教科書は採択されなくて喜んでいましたが、採択された他社の歴史教科書が戦争記述などで大きく後退しているのを見て愕然としています。教科書問題への取り組みをきちんとしなくてはと改めて思わされました。

B この秋から組合では、テレビ・ラジオ・新聞・インターネットバナー広告を出して教育基本法改悪反対を広く外に、一般市民に訴えていこうとしています。その動きが還流して教育現場からの闘いも作り出せたらいいなあと思っています。

――ジェンダーフリー教育の現状、バッシングの動きは。

B ジェンダーフリーを進める活動については、最初、組合の執行部や活動家を含めてかなりの抵抗がありました。そんなことより大事なこと、経済闘争や政治闘争がある、という反応でしたが、ここ五、六年でずいぶん良い方向に変わり、活動に参加し実践する男性も増えてきました。

A 組合の女性部の取り組みもあって県内の男女混合名簿は小学校で五割、中学校で三割に達し、今後さらに多くなる流れにあります。県立高校は全校が共学化されました。県・市町村での男女共同参画の取り組みもさまざまに重ねられてきています。性教育の取り組みも結構行われています。これに対して、「更衣室も男女一緒」など意図的にゆがめられたイメージをジェンダーフリー教育に与えてバッシングする質問が県議会で自民系から行われています。また、「純潔教育」推進の動きも台頭しているなかで、統一教会などが偽装団体の名で教員に取り入り「自己抑制教育」の講演を中学生に行っている事実も明らかになっています。全国的には、男女共同参画条例の改悪や性教育カリキュラム変更の圧力が加えられているところもあります。
 カバン・トイレの色別表示、制服から職業教育までジェンダーバイアスをただし、人々をそのとらわれから解放していく教育、両性の自立と平等の教育、人権の保障を求める運動の重要性はさらに増しています。職場の仲間、地域の人々とともに、この取り組みを進めて行きたいですね。

――ありがとうございました。



コラム

ブックオフで買った「太陽のない街」


 お盆の最中、連れ合いがブックオフに行きたいと言い出した。読む本がなくなってしまったのだという。仕事柄本を買うなら書店でと思うのだが、彼女曰く「読みたい本が、安く買えるんだから」と一言。それに、そのブックオフには巨大なハードオフなるリサイクルショップが併設されており、ハンドバックからスカートは言うに及ばず、洗濯機から貴金属まで何でもそろうショッピングタウンなのだ。何時間いても飽きないと彼女。車の運転が嫌いな当人に代わって、ハンドルを握ることと相成った。
 郊外のブックオフは、戦艦を模して建てられたホームセンター本社の一階にあった。広い駐車場もほぼいっぱい。店内では福引きセールが行われていた。当然買い物客も多く、それぞれが熱心にお目当ての品を探して歩き回っている。店内では自由行動が原則。読みたいジャンル、見たいコーナーが違うのだから仕方ない。そんな訳で店内では、もっぱら携帯電話で連絡を取ることになる。それぐらい広いのだ。
 ブックオフなる本のリサイクルショップが誕生して十年くらいになるだろうか。確かなことは分からないが、街中の古本屋に取って代わったことは間違いない。神田の古書店のような専門書を期待するのは無理だとしても、かつてのベストセラーやマンガ本などはかなり充実している。誰が持ち込んだのかと思う本も並んでいるので面白い。ボク自身も先だって、新右翼のイデオローグ鈴木邦夫が書いた『がんばれ新左翼』パート1から3までを定価の半額で手に入れた。帯も付いた美本である。目を皿のようにして棚を見ていけば、書店で買わなきゃ良かったと思う本も多い。とにかく半額以下なのだ。
 ブックオフのいいところは古書店でないところ。つまり、目利きで本を仕入れたり値段を付けていないところだ。新刊に近い物、美本なら単純に定価の半額。古かったり、やや痛んだりしていればもっと安い。
 しかし、その逆もある。よく右翼の輩が作って企業などに押し売りする函入り布クロス貼りの豪華本(?)が並んでいるのはよろしくない。値段を見たら一万五千円也。目利き商売の古書店なら絶対に取らないだろうなと思う物が堂々と鎮座しているのだ。
 となると必要なのはお客の目利きということになる。ブックオフは単純に定価から売価を算出しているからだ。もちろん買い入れもその通り。価値ある古書でも高くは取ってくれない。使い方で得もするし、損もする本屋さんなのだ。
 そういえばボクも一度だけブックオフに本を売ったことがある。連れ合いと同居するとき、あまりのくだらない本(?)の多さに驚いた彼女はボクにその処分を命じたのだ。その時思い浮かんだのがブックオフ。家まで取りに来てもらって一万円くらいになった記憶がある。ついでに、本箱も持って行ってもらった。
 何時間いても飽きない彼女だが、ボクは一時間でグロッキー。「私は一緒に見ないよ」と言う彼女に抗して買って帰ったのは、山本薩夫監督のDVD徳永直の「太陽のない街」だった。  (雨)


もどる

Back