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読書ノート 『世界の貧困をなくすための50の質問』ダミアン・ミレー/エリック・トゥーサン著/大倉純子訳/柘植書房新社/2000円+税                                かけはし2006.8.7号

闘争と連帯のグローバリゼーションを作り出すために (下)



即時無条件全面
帳消し以外ない

 著者は途上国債務を「現代版奴隷制度」として厳しく批判する。そして「債務帳消し対象は全額でなくてはなりません。なぜなら、奴隷制は改善できない、全廃あるのみだからです」。
 「五世紀にわたる略奪、奴隷制、植民地支配、そして二〇年にわたる構造調整プログラムのあとで、南の人々は彼らが苦しめられたすべての悪に対する補償を要求する権利があります。この苦しみは、北が南の支配層の支援を得て作り上げた見えないメカニズムによるものです。債務の全帳消しが、この補償の最初の一歩となるべきです」。
 途上国はすでに借りた何倍もの金を返済してきたにも関わらず債務の鎖につながれたままである。「一九八〇年に借りていた一ドルに対し、途上国は今日までに七・五ドル返済したが、まだ四ドルの債務が残っています。……一九九五年以来、途上国政府は、自国の給与生活者や生産者の労働の実りから総額約二千五〇〇億ドルを北の資本家たちに対して『差し上げて』きました」。
 こうして著者らが所属するCADTMは、「何ら語るに足る債務帳消しが行われていなかった」にもかかわらずキャンペーンが終了した「ジュビリー二〇〇〇」を引きつぎ、南の諸国の社会運動で構成されるジュビリーサウスなどとともに、第三世界の公的対外債務全部の即時無条件帳消しを求めて闘って行くことになる。

グローバルな
力関係の逆転

 著者らは「債務帳消しに条件をつけるべきでしょうか?」という問いに対して、「誰にそのような条件を押し付ける権利があるのか?」として、「決定するのは現地の人々と、彼らが民主的に選んだ代表であり、それ以外の誰でもありません。……初めから終わりまで、全プロセスをコントロールする全面的な権利を彼らは持たなければなりません。……南に関する決定は、南のために南が行うというのが絶対的な原則です。……大きな借款条約に関しても、広範な市民討論のあとで議会で決定されるべきです」と答えている。
 だがそもそも本当に債務帳消しは可能なのか。それは単に南の独裁者を利するだけではないのか。「途上国の全債務の帳消しは、すでに見てきたように第一段階にすぎません。いったん全債務の帳消しを勝ち取ったら、権力関係は逆転するでしょう。その時には違った論理が通用するようになります」。「独裁制は債務システムの中で強化されます」。
 「だからこそ、私たちは、不正に獲得されたものの没収が不可欠であると考えています。現存の独裁制を揺るがすには、途上国の金持ちクラスによる使い込み事件や、タックス・ヘイブンや北の銀行に預けられている資産に関する詳細な司法調査が行わなければなりません。これらの資産は途上国の公的対外債務の三分の二に当たります」。
 そしてもし独裁者の使い込みを暴露し、その返還を求める取り組みを継続し続ければ「隠れた資金源は断ち切られ、独裁者の戦利品は没収され、新植民地主義の擁護者はその手段を奪われ、報いを受ける日が来るでしょう。これは途上国のすべての民主主義者にとって、現在の地政学的な『ロジック』がついにひっくり返ったという力強いメッセージとなるでしょう」。
 著者が言わんとすることは、債務帳消しによって支配者と民衆の力関係に変化がでるだろう、それはその後の世界的な階級闘争に影響を与えるだろう、ということである。だがその前提として、北の政府や南の腐敗した支配者をして債務帳消しに踏み切らせる力関係を作り出せるかどうかにかかっている。
 その力関係を作り出す途上国と先進国の社会運動の闘争と連帯のグローバリゼーションの上に、著者らが言う「第一段階」としての「権力関係の逆転」が起こるだろう。反資本主義左翼はその最先頭に立たなければならないだろう。

本書が私たちに
問いかけるもの

 本書の訳者である大倉純子さんは、「訳者あとがき」のなかで、日本政府の途上国に対する債権の問題に触れている。
 「二〇〇〇年の段階で、アフリカを中心とする重債務貧困国四一ヵ国に日本が持っていた債権は約一兆二〇〇〇億円。ダントツ世界一位でした。……スハルト、マルコスといった独裁体制時代に日本から貸し付けられたお金もかなりの額に上ります」。「債務帳消しをどう考えるかは確かに難しい問題です。帳消しのプロセスや、帳消しにより浮いた資金をどう使うかに対して、市民のコントロールが十分に及ばない債務国が多いのも事実でしょう。だからといって、債務問題を放っておいていい、ましてや多くの借金を背負わせている国の市民である私たちが知らなくていい、ということにはならないでしょう」。
 この問題意識は、著者による「日本語版への序文」で述べられた次の一文とつながることでわれわれに対する強いメッセージとなっている。「アジアの社会正義を求める闘いにおいて、債務問題はその重要性に見合うほどの注目を集めてきたとはいえません。私たちはこの本がこの重要な闘いにわずかながらでも貢献できることを、心からのぞんでいます」。
 著者であるダミアン・ミレーとエリック・トゥーサン、そして大倉さんからのメッセージを、われわれはどのように受け止め、そして行動に移すのかが問われている。われわれの古くからの友人でもあるエリック・トゥーサンの「貢献」に応えようではないか。
      (早野 一)


均等待遇アクション21
「改正」均等法でどう変わる、どう変える働く現場

 七月二十日、渋谷勤労福祉会館で、「『改正』均等法でどう変わる、どう変える働く現場」の集いを均等待遇アクション21が行った。男女雇用機会均等法は今国会で十年ぶりに「改正」された。
 中島通子さん(弁護士)が「改正のポイントと附帯決議の解説」を行った(別掲)。続いて鴨桃代さん(雇用均等分科会労働側委員)が「労政審雇用均等分科会審議に向けて」b改正均等法の省令・指針について、bパート労働対策について――を報告した。
 「均等法分科審議会で論議になったのは、『間接差別の指針について』であった。労働側は@事例を集めてほしいA幅広く意見を求めてほしいB国連女性差別撤廃委員会にどうのように報告していくのか――と意見を言った。審議日程が二日間しかないことに抗議した。厚労省は柔軟に対応するとなった。九月二十九日に指針を出すことになっている」。
 「その後、パート法について論議していく。パート労働法について、政府から九つの提言がされている。いずれも労働力不足、少子化対策が主眼だ。政府は法改正ではなく、指針でやっていこうとしているようだ。フルタイムパートをどうするか、有期雇用者の中でパートが四〇%から六七%に増大している。そして、経営者にとって優秀なパートを正規職化し、それ以外のパートの待遇をさらに低くしていくという二極化が進んでいる。こうした全体のパート労働の賃金・処遇を底上げていくことが重要だと訴えていきたい」。
 会場からは、@非常勤をNPO化して、そこに指定管理者制度による外部委託を行っている。パートが二極化され、さらにひどい労働条件にされているAある女性指導員はそれまでのフルタイムパートをやめさせられ、一週間に二時間しか働くことができず、結局四カ所も別の場所で働かなければならなくった。雇用保険も適用を除外されたBある銀行では正社員が三十人、派遣とパートが百五十人。その中で優秀な派遣社員などから正社員を何人か雇うとする雇用形態になっている――こうしたひどい事例が訴えられた。今後も男女雇用差別を許さない闘いをしようと確認した。(M)




中島通子さんの発言から
間接差別の厳格な規制を

 結論から言いますとたいへん残念です。最大のポイントであった間接差別が国際的な間接差別とまったく異なるものとして法律に書かれたということです。今の日本には経営者側がイエスと言わなければ絶対に法改正は実現しないのです。
 間接差別とは見えない差別を目に見えるような形にして、これも違法だということで是正していく。なぜ、見えないかというと、ひとつは今までの男女別の差別をしていたそういう基準を是正せざるをえなくなってきた。それで形を変えて、家族手当、住宅手当、社宅を貸すとか住宅資金を貸すとかかつては男子従業員のみに支給するとなっていた。これを是正して、言葉を変えた。世帯主とか収入の多い方とか。形を変えた差別は男女別ということではないので見えにくくなっている。
 もうひとつは、今まで当然と思われていた慣習。いろんな職場で家族手当をもらうのは世帯主が当然だと受け入れてきた。
 社会が変わり、職場も変わり、雇用慣行もいろいろ変わっていくなかで、どんどん形も変えてますます見えにくくなっている。これが間接差別です。
 直接差別だけでなく、間接差別を違法だと規制しなければ差別はなくならない。これは性差別の最たるものですが、他の民族差別などでも同じだ。これが世界の常識になっていて、各国では違法だと禁止されるようになってきている。一九七五年にイギリスでは性差別禁止法が成立した。
 ところが日本ではそのようなことになっていない。男女別としなければ、違法ではないということがまかり通っている。これに対して国連の女子差別撤廃委員会とILOからは何回も、「日本では間接差別は違法であることをはっきりと法律の中に定義しなさい」と勧告されている。
 各国で最も間接差別の判決が出ているのはパート差別だ。今回の法改正で、政府はこのパート差別問題に手をつけなかった。
 政府は国際的メンツが立たないということで法改正を行った。省令で定める限定列挙ということで三つのことを上げた。@募集・採用における身長・体重・体力要件Aコース別雇用管理制度における総合職の募集・採用における全国転勤要件B昇進における転勤経験要件。この三つに限定するということは間接差別の法理と矛盾する。見えない差別を全部掘り起こして、これは間接差別だとしていくことが重要だ。こんな無理をして法案を通してしまった。間接差別なんて入れるのに反対だと言っていた使用者側に「三つに限定することによって、これで大丈夫と説得して」法改正したものです。
 私たちは非常に苦い経験をしている。一九八五年の最初の均等法が定年退職解雇、裁判で確定したものだけについて違法と規定して、昇進などについては努力義務にとどめた。法案が成立したその年に、日本鉄鋼連盟事件があった。基幹職員とその余の職員というひどい分け方をして、その余の職員(全部の女性職員)について、憲法の主旨に反するけれども、均等法が努力義務にとどまっていることから違法とまではいえない、という判決が出された。
 今回の最大の焦点はこの三つ以外は違法でないとなってしまったら、また裁判で負けてしまうことになる。しかし、運動の成果で、附帯決議の2で、「間接差別は厚生労働省令で規定するもの以外も存在しうるものであること、及び省令で規定する以外のものでも、司法判断で間接差別法理により違法と判断される可能性があることを広く周知し」を入れさせた。
 これは使えます。ここに大きな手がかりがあります。少しでも使えるものは使っていこうと考えています。間接差別と思うものを掘り起こして、裁判にかけて活用していきたい。通達に載せて、パンフレットし講演会や研修会に使うようにさせる。それは大いに活用したい。(発言要旨、文責編集部)

解説
「改正」均等法の問題点
間接差別から外されたパート差別

 六月十五日の衆院本会議で、男女雇用機会均等法改正法案が全会一致で可決・成立した。最大の焦点であった「間接差別禁止」は省令による「限定列挙」のままである。さらに、パート差別を均等法の中できちんと「間接差別」であると規定することが、現在働く女性の過半数を超える非正規労働者の切実な要求であるにもかからず、見送られてしまった。
 「一九八五年には女性労働者に占める正社員比率は六八%であったが、均等法が改正された九七年には五八%に減少し、〇四年にはついに四八%にまで落ち込んだ。女性労働者は少数の総合職や管理職と、圧倒的多数の不安定低賃金のパートや契約、派遣という二極化状態にある」(「均等法改正の問題点」酒井和子、『労働情報』4月15日号)。このように均等法が出来て二十年たっても、さらに女性のパート化、貧困化が進んでいることを示している。
 要求される均等法は、男性の働き方に合わせる男女平等ではなく、仕事と生活を調和できる働き方と、どんな働き方でも均等待遇と雇用が保障されることである。
 付帯決議では、五年後を待たずに見直しを図ることなどが盛り込まれた。来年四月の法施行に向けて、秋から雇用均等分科会で省令・指針などの審議が始まる。職場の「間接差別」の実態を明らかにして、差別の撤廃にむけていかなければならない。   (M)

男女雇用機会均等法改正のポイント(06年6・15成立/07年4・1施行)
・性差別禁止の範囲の拡大
・間接差別の禁止
・妊娠・出産などを理由とする不利益扱いの禁止
・妊娠中・産後一年以内の解雇の無効
・セクシュアルハラスメント対策の事業主に義務付けと男性に対するセクシュアルハラスメントもその対象にすること
・実効性の確保(セクシュアルハラスメント、母性健康管理措置を調停など及び企業名公表の対象とする。報告徴収に応じない場合の過料(20万円以下))の創設

男女雇用機会均等法改正の衆議院附帯決議(要約)
1、間接差別の法理・定義についての周知徹底
2、間接差別は省令以外にもあり、裁判で違法とされる可能性もあることを周知、対象事項の追加見直し
3、雇用均等室は省令以外の間接差別の相談にも対応
4、雇用形態の多様化による格差解消のために法の周知徹底と的確な適用・運用
5、雇用管理区分について適切な比較が行われるように指針を策定する
6、ポジティブ・アクションの普及促進(事業主への援助)
7、事業主に対する報告徴収など行政指導の強化
8、都道府県労働局の紛争調整委員会、雇用均等室等の体制の整備
9、仕事と生活の調和のための長時間労働の抑制
10、パート労働者と正社員との均衡処遇の法制化
11、ILO百号条約に則り男女賃金格差是正


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