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イスラエル 21世紀の反ムスリム十字軍         かけはし2006.8.14号

レバノンへの軍事侵攻を許すな

反戦運動に将来がかかっている
われわれは敵となることを拒否する
                  ミシェル・ワルシャウスキー


「反逆者」が提出した疑問


 「われわれは南部の村を灰塵に帰させねばならない。……私は、なぜここにまだ電気が通っているのかわからない」。
 イスラエルの法相で、労働党の前指導者であるハイム・ラモンのこの言葉は、ビント・ジュバイル侵攻の失敗の後でも、レバノンへの軍事侵攻を継続する意思を要約的に提起するものだった。内閣において労働党の閣僚ベンジャミン・ベン・エリエツェルに支持されたイスラエルの上級司令官にとって、解決策はすべての村落を破壊した後に南部レバノンの一部を占領することである。この計画によれば、イスラエルは地域の住民に、破壊に先立って数十の警告メッセージによる「問いかけ」を行う。留まることを決めた人びと、あるいは「人道的」な警告の呼びかけを受け取らなかった人びとは、テロリストと見なされる。
 恐ろしいことだって? まさにそうだ。しかし予期されないことではなかった。イスラエルのレバノンにおける戦争は、二十一世紀の戦争、すなわち世界を再植民地化し、全世界の人びとを帝国に服従させる戦争の典型である。
 こうした戦争において、市民の生命は、すべての戦争においてと同様に、きわめて限られた価値しか持たないだけではなく、能動的あるいは受動的にテロリズムを支持したという罪で、正当な標的と見なされるのである。実際のところ、テロリズムは彼らの文化の一部とされる。
 われわれは十年間にわたって、支配的な言説の漸次的な発展を目撃してきた。テロリストグループからテロリスト国家、そしてテロリスト民族への発展である。グローバル戦争の究極の論理は紛争の全面的エスニック化であり、そこにおいては政策や政府や特定の標的に対して戦っているのではなく、コミュニティーに体現された「脅威」に対して戦っているのである。恐怖が新しい時代の出発点であり、憎悪がその終着点である。イスラエル政府が二人のイスラエル兵の捕虜を口実として利用し、グローバルで終わりのない、先制的な再植民地化戦争の新たな戦線を開くことを決めた理由がここにある。

軍事侵攻に国内で
異議申し立ての声

 彼らは中東における「新しい民主主義」への道を切り開くために兵士を派遣し、この新たな種類のエスニック戦争の副次的な犠牲者として自らの国民を差し出す用意ができている。これは「ハアレツ」紙の1面に高い費用をかけて掲載されたイスラエルのネオコンたちの広告に、はっきりと表現されている。
 「イスラエルは世界的ジハードに対する戦争の前線に立っている。われわれには二つの選択がある。撤退と分離、一方的後退によって錯乱者たちを強化するのか。それはイスラエルをファナティックなイスラムと文明世界の間の大きな戦いの戦場にすることである。それとも穏健派を強化して……イスラエルを正義と異宗教間の理解(ママ)の世界センターにするのかである。中東においては手っとり早い近道など存在しない」。
 この広告の最後に短い注がついている。「覚えておけ。人間の生命への歪められた哲学的敏感さ(ママ)は、多くの人びとの生命やわが息子たちの血という高い代価を、われわれに支払わせることになる」(1)。
 現在の軍事作戦の正当性そのものではないにしても、その広がりに異議を申し立てる声がイスラエルの人びとの中でますます大きくなっている時に、米国政府は休戦のために活動している勢力の圧力にイスラエルが屈しないよう求めている。
 「レバノンの情勢を変えることを目指した戦略の指導的人物は、米国務長官コンドリーザ・ライスであってオルメルト首相やペレツ国防相ではない。彼女は、これまでのところ、休戦を支持する国際的圧力に立ち向かうことに成功している。……彼女は成功するための軍事的カードを必要としているが、残念なことにイスラエルはいまだそれを出すことはできなかった。ヒズボラとレバノンへの砲火による懲罰(ママ)以外には、現在にいたるまでイスラエルのカードは国境近くのレバノンの二つの村の征服に限定されている。もしイスラエルが戦闘における軍事的カードを改善しないならば、われわれは政治的解決における諸結果を手さぐりすることになるだろう」(2)。
 政治・軍事アナリストの長老ゼエフ・スキフはこのように述べて、この週末の米国務長官のイスラエル訪問の性格を要約している。
 しかし遅かれ早かれ米国政府は、最近ローマでその輪郭が描かれたものに多かれ少なかれ基づいた政治解決を受け入れなければならないだろう。つまりこの終わりなき先制攻撃戦争の次のラウンドに至るまで、イスラエルは戦争において、いわゆる文明世界の武装した前衛としての役割を果たしつづけるだろう。
 イスラエルの大衆が理解できなかったのは、アラブとムスリム世界の中心にある国家の存在自身に関して、彼らの政府の政策が持つ劇的な意味についてである。イスラエル国家は、その無制限の残虐さや文明的レトリックと戦略によって、地域の住民に対し、自らが中東における外国の敵対的機関であること、そしてあり続けようと願っていることを示している。つまりアメリカ合衆国の武装拡張と二十一世紀の反ムスリム十字軍以外の何者でもないということを。
 十世紀前の十字軍の運命については誰もが知っている。
 ベイルートの爆撃――レバノンのインフラの破壊、何百人もの市民の死、数十万人にのぼる難民、南部における焦土化政策――が引き起こした憎悪は、ムスリム世界全体にわたって巨大なものである。それは急速に北の諸国のムスリム社会に影響を及ぼすかもしれない。そして以前の外見上は類似している一九八二年のレバノン侵攻などとは異なって、この憎悪は、文明的言説によるグローバル戦争と紛争のエスニック化の「豊かな土壌」を発展させる。その結果、戦雲が消え去り、死者が埋葬された後にこの怒りを根絶させることはきわめて困難である。
 オルメルト、ペレツ、ハルツは今までのイスラエルの指導者の中で最も危険で無責任な人物であり、中東におけるわれわれの民族的存在そのものを焼却させるかもしれない火遊びを行っている。
 小さなイスラエルの反戦運動の肩に、現在のイスラエルの市民性とわれわれの社会の道徳的あり方がかかっているだけではなく、世界のこの部分におけるわれわれの子どもたちの未来そのものがかかっているのだ。
 「われわれは敵となることを拒否する!」は、われわれのデモのスローガンの一つである。こうしたスローガンがこれほど重要になり、これほど緊急性を帯びたものとなり、これほど存在そのものを賭けたものになったことはかつてなかった。
(注1、注2)「ハアレツ}紙06年7月30日付
(ミシェル・ワルシャウスキーはジャーナリスト、作家でイスラエルのオルタナティブ情報センター〔AIC〕の創設者。著書に『イスラエル=パレスチナ 民族共生国家への挑戦』柘植書房新社刊など)                            


イスラエル国内の抗議行動
「われわれはこんな戦争を望んでいない」


7月22日のデモに
2500人が参加

 レバノンへの爆撃が始まってから数時間後の七月十三日、テルアビブで二百人が抗議行動を行った。七月十七日にはテルアビブの街頭で六百人から八百人が抗議行動に参加した。「ハアレツ」紙によれば七月二十二日の土曜日には、戦争に反対するデモは二千五百人にまで拡大した。
 七月十三日、若者と古参活動家が並んだデモは、「ワン、ツー、スリー、フォー、われわれはこんな戦争を望んでいない」と叫んだ。
 「戦争は誰にとっても悪だ!」「ペレツ、あなたは教育と年金を約束した。われわれか受け取ったのは戦車と死体だけだ!」「ペレツ、ペレツ、レバノンから撤退を」「ユダヤ人とアラブ人は敵同士になることを拒否する」「戦争捕虜の交換を。兵士を家族のもとに戻せ」などといったスローガンも語られた。
 デモ参加者の中の古くからの活動家は、一九八二年にアリエル・シャロンが侵攻した最初の日のデモの記憶を呼び覚ました。その日、約二百人の活動家が集まった。その数は数週間のうちに一万人に達し、サブラ、シャティーラの虐殺に抗議するデモは四十万人を結集した。

兵役を拒否した
兵士たちも参加

 七月十七日には、占領地域での兵役を拒否した兵士たちの多くもデモ行進した。このデモに参加した組織はグシュ・シャローム、イェシュ・グブル、拒否への勇気、「分離壁」に反対するアナーキスト、平和のための女性連合、バラド、ハダシュ、タアヤシュ、家屋破壊反対委員会、オルタナティブ情報センターなどである。この人びとは声を揃えて叫んだ。「交渉のテーブルに復帰を」「すべての閣僚は戦争犯罪者だ」「われわれは入植のために殺しも死にもしないぞ」。
 「ハアレツ」紙は、七月二十二日のデモではイスラエルのパレスチナ人市民の参加の比率が高かったことに留意した。
 「これまでのイスラエルの反戦抗議デモとは異なり、イスラエルにおける主要なアラブ人組織――ハダシュ、バラドなど――が多数参加した」。
 「ハアレツ」紙は、中東を根本的に作り替えると米政府のプランにおけるイスラエル政府の役割、という新しいテーマについても指摘した。「首相と国防相の辞任を求めるという通例の呼びかけ以外に、反米の抗議という点でも際立っていた。『われわれはシオニズムの名で殺すことも死ぬこともしない』という叫びとともに『われわれは米国のために死んだり殺したりしない』という叫びや、ジョージ・W・ブッシュ大統領を非難するスローガンがあった」。                                



著名7氏が英紙ガーディアンに共同声明
レバノンへの爆撃は戦争犯罪
米英の戦争加担責任を追及

 米国に支援されたイスラエルによるレバノン攻撃は同国をマヒ状態におとしいれ、くすぶる煙でおおい、そして怒りをかりたてた。カナの大虐殺と人命の損失は単なる「やり過ぎ」というようものではない。現に存在する国際法に従えば、それは戦争犯罪である。
 イスラエル空軍が意図的かつ計画的に行ったレバノンの社会基盤の破壊もまた戦争犯罪であり、これはレバノンをイスラエルとアメリカ合州国の属国の地位に貶めようとして企図されたものである。
 この企ては裏目に出た。世界中の人びとがあきれ返って注視しているからだ。レバノンで言えば、現在人口の八七パーセントがヒズボラの抵抗を支持しており、その中にはキリスト教徒とドルーズ派の八〇パーセント、スンニ派の八九パーセントが入っている。他方、アメリカ合州国がレバノンを支持すると信じているのものは八パーセントしかいない。
 しかしこのような攻撃が、「国際社会」が設置するどんな法廷でも裁かれることはないだろう。これらのおぞましい犯罪を犯し、あるいはそれに加担したアメリカ合州国とその同盟国がそのような裁判をさせはしないからである。
 ヒズボラを一掃するためのレバノン攻撃はかなり前から準備されていたことが、今では明らかになっている。アメリカ合州国と常にアメリカに忠誠を尽くす同盟国英国とがイスラエルの犯行に青信号を出したのだ。英国では圧倒的多数がブレア首相に反対しているのにである。
 レバノンが享受した短い平和は終りを告げ、機能麻痺に陥れられたこの国は、忘れようとしていた過去の一時期をいやでも思い出さざるを得なくさせられた。レバノンに向けられた国家テロが、「国際社会」が手出しをせず黙ってみているなかで、パレスチナのガザ・ゲットーで繰り返されている。この間パレスチナの残りの国土が、アメリカ合州国の直接的関与とアメリカと同盟国の暗黙の了解のもとで、イスラエルに併合され解体されている。
 この残虐な行為の犠牲者に、また、こうした行為に対してレジスタンスを開始した人びとに、われわれは連帯と支持を表明する。われわれ自身は、それぞれ自国の政府がこれらの犯罪に加担していることを、可能なすべての手段を使って暴露する。パレスチナおよびイラクの占領と、一時的に「中断」されているレバノンへの爆撃が続く限り、中東に平和はないであろう。
タリク・アリ/ノーム・チョムスキー/エドゥアルド・ガレアーノ/ハワード・ジン/ケン・ローチ/ジョン・バージャー/アルンダティ・ロイ
(メーリングリストに流された寺尾光身さんの訳を転載)


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