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                            かけはし2006.7.31号

臨時国会で共謀罪法案を廃案へ

「共謀罪とゲートキーパー法にレッドカードを!」パネル討論集会

 【大阪】七月十四日、近畿弁護士会連合会主催の集会が大阪弁護士会館で開かれた。伊賀弁護士の司会で、大谷昭宏さん(ジャーナリスト)、江澤伸子さん(角川書店出版事業部)、海渡雄一さん(日本弁護士連合会、共謀罪等立法対策ワーキンググループ事務局長)の三人のコメンテーターによるパネルディスカッションが行われた。秋の臨時国会に向けて問題点を整理する上では、時宜にかなった企画であったと思う。

「先祖がえり」し
てしまった与党案

 大谷さんは、「国は憲法については縛りをはずし、逆に国民をがちがちに縛ろうとしている」と今の状況を説明し、江澤さんは「国は市民の内心の自由を拡大解釈し、市民監視社会に踏み込もうとしている」と述べた。
 二〇〇〇年十二月の国連総会で採択された越境的組織犯罪防止条約は、〇三年日本でも批准された。そして関係国内法の整備の名目で、「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(共謀罪新設法案)が〇三年の通常国会に提出され、当初はほとんど関心を持たれなかった。その後〇五年衆議院選挙での自民党圧勝を受けて、〇六年の通常国会に上程され、継続審議となった。
 与党案では、長期四年以上の刑を定める犯罪について、組織的に共謀した場合に二年以下の刑を科し、犯罪の実行着手前に自首した者には刑を減免(最終案では、自首した場合情状により刑を免除する、となった)するというもの。処罰の対象になる団体についても限定がないし、犯罪の種類も重大犯罪に限定されていない。自首した場合の刑の免除は、密告者をつくることに作用するだろうといわれている。
 大谷さんは言う。警察の捜査では、団体の弱い部分を締め上げ自白をとれば、簡単に共謀罪が成立する。ややこしいやつは事前に逮捕しておけばよくなる。共謀罪には結果がない。自白をとればそれですべてだ。
 与党が閉会直前に民主党案を丸飲みするという前代未聞の態度に出たけれど、民主党が法案を拒否したために継続審議になった。この点をみると少なくとも与党は、民主党案のレベルまでは同意しているように国民の目には映るが、実は与党案は元の案に先祖返りしている。まるで、丸飲み案などは存在しなかったかのようである。

さらに619の
犯罪が対象に

 日本の刑法の体系では実行に移されたもののみが犯罪だと、反対運動の過程でよく言われてきたが、実は厳密にはそうではなくて、組織犯罪を未然に防止するとの名目で様々な法的措置が存在する。九一年には「暴力団員による不当行為防止法」、九九年には「組織的犯罪処罰法」が成立している。すでに共謀罪が十三、陰謀罪は八、予備罪が三十一、準備罪が六もある。この中で、凶器準備集合罪はかなりの広範囲な犯罪に適用されている。五十七の主要犯罪について未遂より前に処罰できることになっている。殺人・強盗・放火罪等については予備段階から、爆弾関係は共謀段階からの取り締まりが可能である。共謀罪は戦前の治安維持法だという言い方がされるが、現行法と併せて考えれば、それ以上だろう、と大谷さんは言う。
 事実、共謀罪の新設がなくても、取り締まりとしては十分すぎる状態だ。家宅侵入罪は、大谷さんの説明によれば、日露戦争に徴集される兵士の家に他の男性が進入する(「夜ばい」の習慣が手伝って)のを防止し、従軍兵士が戦争に専念できるようにするという目的でつくられたという。しかし現在この法律はもっぱら運動の弾圧に使われている。
 これが、日弁連が現刑法体系で十分だ、という根拠である。もともと日本政府は、条約審議の過程で、共謀罪は日本の国内法の原則に反するとしていたのである。にもかかわらず、共謀罪新設法案では、さらに六百十九の犯罪が対象となっている(与党最終案では、二十八の犯罪が除かれた。また、民主党案では対象犯罪は三百)。

隠されていた国
連の立法ガイド

 共謀罪新設法案がでる背景には、9・11以降の米国からの要求がある。法律をつくるのは警察と法務省と外務省の官僚だ。彼らの言い分は、国連など国際的に取り組んでいることを日本でなぜできないのか、ということだ。
 越境的組織犯罪防止条約の批准に際して、国連が作成した立法ガイドがある。そこには、条約テキストを言葉通りに法改正案に含めるより、条約の精神に集中するようにし、法の整備では国内の伝統・原則と一致するようにしなければならないと書かれている。信じられないことだが、国会の審議ではこの立法ガイドの存在が隠されていたという。これは法務省の国民に対する裏切り行為だ、と大谷さんは語った。日本政府は国際人権条約などの国内法の整備などはしないのに、刑事では国内法に非常に積極的だ。
 海渡弁護士は、「日弁連としては、各国の批准状況・関係国内法の整備内容を調べる」とのべ、共謀罪廃案に向けての闘いへの参加を訴えた。

弁護士へのゲー
トキーパー規制

 弁護士が職業上知り得た情報で、資金洗浄やテロ資金送金など犯罪収益の流通取引の疑いがあるときは、顧客の同意を得ないで顧客や受益者の身元確認をし、政府機関に報告しなければならないとするゲートキーパー法(仮称:犯罪収益流通防止法)も越境的組織犯罪防止条約に端を発する。
 この制度を定めているのは、OECDの金融活動作業部会(FATF)である。FATFは、一九八九年G7のアルシュ・サミット宣言を受けて、マネーロンダリング対策の推進を目的に設立されたが、現在はテロ資金対策の推進も目的に加えられている。FATFは〇一年からFATFの勧告の改正作業を始め、その中に弁護士に対するゲートキーパー規制が含まれることが明らかになった。日本政府の態度は、この勧告に従うということであるらしい。

弁護士が密告者
にさせられる

 弁護士が職業上知り得た情報の守秘義務は法律によって守られている。勧告では、守秘義務又は法律専門家の秘匿特権に服する状況下で得られた場合のみ、報告義務から除外されている。とはいうものの、守秘義務の対象となるかどうかの判断は国にゆだねられているのである。したがって、ゲートキーパー法が成立すると、疑わしいという判断のレベルで金融取引に関する情報が法執行機関に通報され、これに基づいて対抗措置がとられる可能性がある。通報者は依頼者との関係では民事免責を受けるので、自ら処罰や懲戒をさけ、リスクを減らそうとする心理から、確たる疑惑がなくても通報しようとする場合が出てくる。そうなると、弁護士と依頼者の信頼関係は破壊されるし、弁護士としての法的助言もできなくなる。

不安感のあおり
たてと監視社会

 海渡弁護士は、すでにこの制度が実施されている英国では非常に憂慮すべき事態になっていると語った。つまり、弁護士が報告を怠った場合、報告を行った事実を依頼者に開示した場合は、五年以下の禁固刑の対象になるのである。金融機関には報告義務があるが、ほとんどの国では弁護士には規制がないし、またこの制度を適用することに強い反対運動がある。カナダでは、差し止めの仮処分が提訴され、政府はこの制度の適用を撤回した。米国では、制度の具体案すら提案されていない。
 さらに、ゲートキーパー法が適用されると、国際人権法や難民法・人道法との矛盾も生じてくるし、各国ごとに独立した司法や刑事法の原則との矛盾も生じてくる。日本の場合、政府機関とは金融庁であったが、〇五年十一月から警察庁に変更になった。警察と対抗関係にある弁護士・弁護士会が警察庁に捜査協力し、その統制下に置かれているような感じを与えることになる。
 司会の伊賀弁護士は、業務で大金(遺産分割)を海外に送金したら、金融庁から何の金だと問い合わせがあったと話した。大谷さんは、ゲートキーパー法が適用されると、「法律で守られている弁護士ですら守秘義務が認められないとなると、次は取材源を明かせとジャーナリストに襲いかかってくる。だから一緒に反対するのだ」と言い、また「国民の体感治安が悪化している、政府は治安の悪化をあおり新たな法律をつくる。自分の手抜きで犯罪が増えていながら、そのことは反省せずに、何々を買ってくれたら勉強すると言う」と話した。江澤さんは、「最近不安感をあおられ、市民がシステムに依存する傾向が強くなっている。われわれが監視されていることをもっと考えなければならない」と述べた。
 ディスカッションに続いて質疑応答があり、最後に小寺一矢大阪弁護士会長があいさつで、「二つの法案に共通しているのは密告ということだ。こんなことをしている国は滅びる」と語り、廃案へのさらなる努力を訴えた。 (T・T)


「日の丸・君が代」処分撤回へ
「再発防止研修」に抗議し被処分者の闘いに連帯を


 七月二十一日、「日の丸・君が代」不当処分撤回を求める被処分者の会の呼びかけによる「再発防止研修抗議・該当者支援行動」が会場である東京都総合技術教育センターで行われ、百五十人以上が駆け付けた。
 前段の抗議集会が全水道会館で行われ、被処分者の会共同代表の星野直之さんは、「『再発防止研修』は今回で三回目だ。許しがたいことに今日は、都高教大会だ。都教委は、わざわざぶつけてきた。明らかに不当労働行為だ。大会には、会の仲間たちが処分反対・再防止研修強行に抗議する緊急特別決議の採択に向けて闘っている。そもそも『再発防止研修』は、セクハラ・体罰・飲酒事故などを起こした教員に行うものだ。なぜ『君が代』斉唱に抗議した教員に対して処分し、『研修』参加を強要するのか。このことを都教委は、ちゃんと説明できないでいる」と批判した。
 弁護団は、「私たちが反省すべきことはなにもない。研修を受ける法的根拠はない。良心に従って行動する者に、反省を迫るということを許してはならない。差別発言を繰り返す石原都知事、都教委の米長こそが『研修』を受けるべきだ」と力強く抗議した。
 被処分者は、「われわれ自分の信念と良心に従って行動した。反省すべきことはなにもありません。この意志を研修中に、しっかりと表明し、抗議していきたい」と決意表明した。
 集会終了後、被処分者を先頭にして会場に向かった。すでに待機していた仲間たちの激励拍手を受けながら入場し、正門前では弁護団による「研修」強行の不当性を追及する行動と支援による激励シュプレヒコールが続いた。

石原都政の異常
な教育を告発

 東京都教育委員会は、〇五年周年行事・〇六年三月卒業式・四月入学式で「君が代」斉唱時、愛国心教育の強制に抗議して不起立・不伴奏を闘った教職員三十五人に対して懲戒処分を強行したあげく、思想転向を強要する「服務事故再発防止研修・基本研修」への参加を命じた(六月二十日)。
 〇三年十・二三通達(入学式・卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について)以降、延べ三百五十人の不当大量処分が行われている。石原都政下の都教委の改憲と教育基本法改悪を先取りした処分と転向強要に対しては、被処分者を先頭に裁判闘争も含めて果敢に反撃の闘いが展開されてきた。
 さらに再発防止研修の執行停止の申し立てを東京地方裁判所に申し立てていたが、裁判所決定の中で「研修や研修命令は合理的に許容されている範囲を超えるものとして違憲違法の問題を生じる可能性がある」(〇四年七月二三日決定)、「内心の自由に踏み込み、著しい精神的苦痛を与える程度に至るものであるならば、これは、教職員の水準の維持向上のために実施される研修の本質を逸脱するものとして、教職員の権利を不当に侵害するものと判断される余地はある」(〇五年七月十五日決定)と批判し、違憲違法性を指摘している。それにもかかわらず都教委は、なんら「反省」することなく愛国心教育を強制する職務命令を繰り返し続けている。
 被処分者の会は、「都教委の『懲罰』『弾圧』に屈することなく、石原都政下の異常な教育行政を告発し続け、生徒・保護者・市民と手を携えて、自由で民主的な教育を守り抜く決意を新たにしている。憲法・教基法改悪の先取りとしての『日の丸・君が代』強制を断じて許さず、『再発防止研修』に抗議し、不当処分撤回まで断固として闘い抜くものである」と力強く抗議声明を発している。都教委の不当処分・「再発防止研修」強行を糾弾し、被処分者の闘いを連帯していこう!       (Y)


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