もどる

06骨太方針                      かけはし2006.7.31号

財政危機を口実に消費税増税と社会支出切り捨て促進

新自由主義的「経済成長戦略」との闘いへ

ポスト小泉の中長期戦略

 小泉政権は、七月七日、経済財政諮問会議による消費税増税と民衆生活破壊に貫かれた「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(骨太方針)を閣議決定した。「方針」の具体化として、八月下旬までに2007年度予算の概算要求を編成する。第一回目(01年6月)から六回目となる「方針」は、「新たな挑戦の10年」などと掲げて、政府・与党の延命と大資本・銀行の利益拡大のために「成長力・競争力強化」、「財政健全化」、「安全・安心で柔軟かつ多様な社会の実現」などとネーミングし、ポスト小泉政権への中長期戦略として描き出した。
 あげくのはてに、「集中的かつ徹底的な改革を世界の動きを上回るスピードで実行していくことこそが挑戦を成功に導く鍵」であると決意表明し、引き続き「徹底した政府のスリム化」と「歳出削減」を貫徹せよとあらためて宣言した。要するに、ポスト小泉政権は、新自由主義的政策展開を従来よりもスピーディーに行えということなのだ。このような「方針」を厳しく批判していかなければならない。

企業減税と大衆増税のセット

 「方針」の第一の柱は、消費税大増税と「経済のグローバル化の中で、我が国経済の国際競争力を強化」するための法人税減税の方向を示したことである。
 小泉政権は、自らの経済政策の失敗として〇六年度予算時の国債残高が約五百四十二兆円、国と地方あわせた長期債務残高が七百七十五兆円以上に膨らみ、もはや待ったなしの財政破綻状況に追い込まれていた。雪だるま的に膨らむ借金構造をアリバイ的に「修復」するポーズをとるために、「骨太方針二〇〇五」(〇五年六月)で「歳出・歳入一体改革」の方向性を打ち出していた。
 引き続いて「〇六方針」では、財政健全化目標を掲げ、二〇一一年度の基礎的財政収支(借金と元利払いを除く収支)の黒字化に向けて、必要な財源を一六兆五〇〇〇億円とし、歳出削減額を一一兆四〇〇〇億〜一四兆三〇〇〇億円とはじき出した。そのうえで約二〜五兆円の足りない財源確保のために「税本来の役割からして、主に税制改革により対応すべきことは当然」、「経済動向に左右されにくいことに留意した特定の税収を充てることを検討する」などと強引な論理と消費税の福祉目的税化に触れて増税に踏み切ることを確定したのである。自ら作り出した財政破綻のツケを民衆に押し付けようというのだ。
 ただ「方針」は消費税の税率引き上げ時期や幅についての言及を見送った。この策略は、自民党の主導によるものだ。〇七年夏の参院選前に消費税増税論議によって政府・与党が不利な状況に追い込まれることを避けたにすぎない。小泉首相は、この意図について「歳出削減をどんどん切り詰めていけば、やめてほしいという声が出てくる。増税をしてもいいから、必要な施策をやってくれという状況になってくるまで、歳出を徹底的にカットしないといけない」と発言している。
 中川自民党政調会長は、「基礎年金の国庫負担を三分の一から二分の一にする〇九年度までにやらなければならない」と主張し、自民税調が「消費税十%上げるしかない」という意見まで出ている。
 消費税は一%上げるだけで二・五兆円も民衆の負担となる。政府・与党は、自らの責任を棚上げし、巨額な税収を強奪することによって生き延びようとしているのだ。新聞各社は、社説(朝日、毎日など)で小泉政府・与党のシナリオに賛同し、応援団だ。このような反動的意図をクローズアップし、消費税増税の水路を断つためのキャンペーンを開始していこう。
 そもそも消費税は、 民衆に対して同じ税率の負担が強要されるため、逆進性が強い税だ。低所得者への負担率は、高まっていくのだ。さらに、福祉目的税化にしても、所得の高低にかかわらず民衆に犠牲を転化しながら増税依存度を深めていき、安易な引き上げを繰り返す危険性があるのだ。もっとも政府・与党の本当の意図は、福祉目的と称して消費税率引き上げを強行するためのトリックでしかない。必要なことは、法人税増税をはじめ高所得者最高税率の引き上げ、金融所得や資産への課税を高めていくことだ。このことを一切主張しないところに政府・与党の本音が見えるではないか。民衆のために不公平税制を抜本的に改正しろ!

社会保障・教育・人件費の抑制


 「方針」の第二の柱は、社会保障、公務員、地方財政、教育分野の財政削減、抑制である。
 社会保障費は、一・六兆円の削減だ。リストラを進めながら、雇用保険の失業等給付の国庫負担の廃止を含めた検討が明記された。生活保護についても、母子加算の廃止を含めた見直し、「生活扶助」の抑制なども盛り込まれた。さらに介護・医療負担も連続増大だ。これらの攻撃は、明らかに憲法二五条の生存権の保障制度を真っ向から否定していく姿勢だ。財政面からも改憲の先取りを既成事実として進めている。
 公務員人件費は、公務員純減と賃金水準引き下げなどで二・六兆円削減し、公共サービス切り下げを強調している。
 地方財政に対しては、税源移譲の担保もなく、「地方の自助努力」を求めるだけだ。すでに多くの自治体財政がパンクしているにもかかわらず、国の財政再建に地方財政を協力させ、分権・自治とは逆行した形となっている。
 文教予算では、義務教育費国庫負担金について、教職員定数の「(義務制だけでも)今後五年間で一万人程度の純減」と明記した。「教育の機会均等」を破壊する義務教育 費国庫負担制度の廃止・削減がねら いだ。私学助成予算についても、「名目値で対前年度比マイナス一%とすることを基本」とし、定員割れ私学については「助成額の更なる削減」のいっそうの強化と「学生数の減少に応じた削減」の強行である。憲法と教育基本法による教育の機会均等と教育行政の教育条件整備義務の放棄でしかない。
 「方針」を受けて財務省は、七月十五日、二〇〇七年度予算の概算要求基準(シーリング)に関し、一般歳出の総額を〇六年度の概算要求基準額(四七兆五〇〇〇億円)以下に抑制することを明らかにした。さらに厚労相は年金財政の安定のため、〇七年度も着実に国庫負担割合を引き上げることを主張した。年金国庫負担割合(現在三五・八%)は、〇四年度の制度改革で二分の一への引き上げが決まっているが、必要な財源は二兆円を超え、消費税増税を前提としている。「方針」に基づく、立て続けの暴挙に反対していこう。

軍事費・公共事業費の特別枠


  こうした歳出削減を強化しながら「方針」は、ポスト小泉政権下においても、米のグローバル戦争戦略に積極的に参戦していく体制作りのために軍事費について「名目伸び率ゼロ以下の水準とする」と明記し、〇六年度予算における約四兆八千億円の水準を維持せよとアピールする。さらに、三兆円規模の米軍再編経費は、「支障が生じると見込まれる場合は、各年度の予算編成過程において検討し、必要な措置を講ずる」という文言をわざわざ付けて、特別枠にランクアップして増額を容認しようとしているのだ。米日グローバル戦争への支出拡大を許してはならない。
 公共事業費においても同様の扱いだ。空港・港湾など環境破壊・乱開発の大型公共事業の「更なる重点化・効率化を図る」と明記し、ゼネコンのために五年間で毎年三%ずつも増やすことを前提にしている。そのうえで三・九兆円〜五・六兆円を削減すると設定したにすぎない。
 「方針」の原案となった自民党の歳出削減案では、公共事業に関して「これまでのデフレ状況と異なり、賃金などのコスト増が生じうることを考慮する」などと弾力条項を設定した。この弾力条項は、膨大な利権につながる軍事費、ODA予算削減の際にも適用しようとしている。利権がらみ、無駄で環境破壊の乱開発の実態を暴きだし、これ以上のやりたい放題にストップを!

新しい政官財ゆ着の構造


 小泉政権発足とともにに組織された経済財政諮問会議(議長・小泉首相、奥田トヨタ自動車顧問、福井日銀総裁、ウシオ電機の牛尾会長など)による「骨太方針」と称する政策提示と強引なトップダウン方式による運営手法によって増税、規制緩和、公共サービスの解体と民営化推進、医療・年金・介護保険改悪など数々の悪行を繰り返してきた。そして、「〇六骨太方針」は、次期政権への地図として作成された。同時に、来年の参院選にむけた準備のための布陣でもあった。
 今回の「方針」は、従来の経済財政諮問会議、官邸主導による取りまとめではなく、中川政調会長を先頭に自民党の族議員たちの介入を全面的に認め、その戦略作成部隊として各省庁官僚を動員した。小泉は、あえて「これからは政府・与党一体だ」と発言した。つまり、ポスト小泉の有力候補として安倍官房長官を押し出し、新たな政官財利権構造を再生したのである。
 公共事業費削減をめぐる綱引きを見ただけでも、象徴的な事態が進行していた。「方針」決定を前にして大手ゼネコンで組織する日本土木工業協会、日本建設業団体連合会、建築業協会は、「これ以上の公共事業削減は業界の存亡にかかわる」と危機感丸出しで、公然たる陳情を政府・与党に展開した。青木自民党参院議員会長、片山参院幹事長は、「このままでは選挙戦は戦えない」と叫びながらゼネコンや資本の要求を代弁し、公共事業の大幅圧縮を経済状況に応じて対応する弾力条項を設けさせ、優遇政策を残させたほどだ。
 さらに日本経済団体連合会の御手洗会長は、方針が@大企業のための「経済成長戦略大綱」を示したA民衆生活に犠牲転化した歳出改革を具体化したB消費税増税と法人税減税を射程にした税制改革について掲げていることに全面賛美している。続いて経済同友会、日本商工会議所も支持表明しつつ、地方交付税削減を強化せよと圧力をかけた。
 財界が喜ぶ「経済成長戦略」とは、大資本を中心にしてロボット開発やIT(情報技術)活用を通した生産性向上、国際競争力の強化のための施策の全面支援だ。三兆円規模の市場だと豪語している。
 すでに政府・与党は〇七年度予算の概算要求に、約三〇〇〇億円を設定する方針だ。大企業に手厚い財政支援プロジェクトは、政府・与党・財界によって計画され、「方針」によって確定させたのである。「財政の健全化」と言いながら、大企業の利潤拡大について、用意周到に積み上げられていたのである。
 また、次期政権は、日米首脳会談(六月二十九日)において「二〇〇六年日米投資イニシアティブ報告書」で確認したように、医療分野を中心とした規制緩和の継続・拡大、企業の合併・買収の推進などを実現していくための政権とされている。日米利権構造と新たな政官財支配の野望に抗議していこう。
 「方針」の横暴な民衆生活破壊戦略を許さず、この八月の〇七年度予算の概算要求期において警戒を強め、批判を強化していくことを訴える。(遠山裕樹)


もどる

Back