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読書ノート 『世界の貧困をなくすための50の質問』ダミアン・ミレー/エリック・トゥーサン著/大倉純子訳/柘植書房新社/2000円+税                                かけはし2006.7.24号

途上国債務の発生と爆発的危機の構造をえぐり出す(上)



植民地支配の
あらたな手法

 第三世界債務廃絶委員会(CADTM)のダミアン・ミレーとエリック・トゥーサンによる『世界の貧困をなくすための50の質問 途上国債務と私たち』がついに翻訳、出版された。まちにまった出版だ。
 著者は「はじめに」で「豊かな自然と人的資源を持ちながら第三世界の国々はこの二〇年間、カラカラに干上がるまでに搾り取られてきました。とてつもなく膨れ上がった債務(国が抱える借金)の返済は、それらの国の人々から、人として最低限生きていくのに必要なものさえ奪ってきたのです」「支配のための巧妙な装置、植民地支配のための新たな手法として債務が使われてきた、といっても過言ではありません」として途上国債務問題の本質を簡潔に述べる。本書は、債務の起源、支配の構造とカラクリ、そしてわれわれ帝国主義諸国の労働者民衆の課題などが提示されている。
 著者はこの「支配のための巧妙な装置、植民地支配のための新たな手法」としての債務は、「まったく新しい根本的な解決策が必要とされています。それは簡単で、しかもとてもすっきりした方法です。債務を帳消しにするのです」と語り、債務帳消しにまつわる反対意見や懸念に対して本書の後半でていねいに説明する。
 そして、「債務帳消しは必要だが、十分ではない」と明示し「(南の国々の)独裁者たちが不正に儲けたお金を取り返し、奪われてきた国民にその富を返還するといった他の措置が一緒にとられなければならないと思っています。また、各国内ならびに国際の両レベルでの、借款(借り入れ)に代わる財源を確保することも提案しています。また、南の社会運動が進めている、いままで奪われた資源に対する保証要求への支持も表明しています」として、途上国の貧困解消にむけて債務帳消しのほかに取り組まなければならない課題を列挙している。

債務はいかに
創出されたか

 現在の債務問題を作り出したのは北の民間銀行、北の政府、そして世界銀行/IMF、そして南の腐敗した指導者たちである。一九六〇年代、アメリカからヨーロッパに流入したドルを大量に保有していたヨーロッパの民間銀行は、当時高度成長を記録していたラテンアメリカやアフリカの新興独立国に有利な条件で融資を行った。
 また一九七三年の石油価格高騰で多額の利益を上げた産油国は、その利益をやはり西側の民間銀行に預け(オイルダラー)、同様に南の諸国に貸し付けられた。同年のオイルショックによって国内市場の縮小を余儀なくされた北の諸国政府は、余剰製品を南の諸国へ販売するために、「ひも付き援助」(北の商品を購買するための南に対する低利な融資)を実施した。
 世界銀行は一九六八年から南の諸国が輸出の仕組みを近代化し、世界市場と緊密に繋がるような融資を行っていく。腐敗した南の諸国の指導者は、北の諸国からの融資や援助からいくらかを、ときには大半を自らのポケットに投げ入れた。債務のつけはすべて南の諸国の民衆に回されていく。
 民間銀行や世界銀行が腐敗した政権にどんどん融資をし続けた大きな理由のひとつが、冷戦における途上国の自主独立を嫌った帝国主義、とりわけアメリカ帝国主義の後ろ盾があったからだ。「世界銀行は、米国の影響がおよぶ範囲を強化しようと、さまざまな地域での戦略的同盟関係を支援しました(一九六五〜九七年ザイールのモブツ、六五〜九八年インドネシアのスハルト、六五〜八六年フィリピンのフェルディナンド・マルコス、六五〜八〇年ブラジルの独裁政権、七三〜九〇年チリのアウグスト・ピノチェト、七六〜八三年アルゼンチンのヴィデラ、ヴィオラ両将軍などなど)。他方で世界銀行は、支配的な資本主義モデルに従わない政策を実行しようとした国々に対して、条件付で融資をしました」。一度は自立的な工業発展を目指したエジプトのナセル、ガーナのエンクルマなどが帝国主義諸国の庇護のもとに連れ戻される。
 そして「その申し出を断るような南のリーダーに対して、それが誰であろうと、北の権力は容赦なくその政権を覆し、代わりに独裁者をその座に据えるか……軍事介入を組織しました」。
 このように途上国の債務問題は、金融資本主義と帝国主義の拡張、そしてそれに結びついた腐敗した南の権力者が作り上げたものであることが本書では繰り返し強調されている。

構造調整プロ
グラムの本質

 現代資本主義の危機が途上国債務を絶望のふちに追いやった。固定相場制を機軸とした国際通貨制度が一九七一年に崩壊し、変動相場制に移行したことでドルの価値が下落する。政治的には一九七五年のベトナム、一九七九年のイラン、ニカラグアといった一連の屈辱的な敗北を経済的に挽回するために、財政危機から抜け出し、高インフレを押さえ込む必要があった。
 米国連邦準備制度理事会議長ポール・ボルカーは米国内の金利を大幅に引き上げ、世界からの投資を米国に引き戻す措置を図った。それにともないアメリカの影響が及ぶ地域ではどこでも金利が急激に上昇、南の諸国へ融資された資金の金利は一九七〇年代の四〜五%から一六〜一八%にも引き上げられたことで、債務支払額が一挙に三倍以上に膨らんだ。
 それだけではない。債務返済のためにドルを稼ぐ必要のあった南の諸国は、その経済を輸出指向型経済(輸出のための生産)に転換したが、主要な輸出産品である原材料や農産物などの価格が大幅に下落したことで債務返済の道はさらに遠のくことになる。返済のためにさらに高利の融資を受けた。途上国は債務累積の坂道を転げていった。
 「一九八〇年以降、途上国の対外債務は増え続け、一九八〇年に六〇〇〇億ドルだったものが、一九九〇年には二兆一五〇〇億ドル、二〇〇一年には二兆四五〇〇億ドルになりました」。
 債務国側もこの雪ダルマ式に増え続ける債務に対して傍観していたわけではない。一九八二年にメキシコで、そして他のラテンアメリカ諸国で債務危機が勃発、モラトリアムが宣言される。貸し手であった北の諸国の銀行は債務回収ができないことに弱りきっていた。「そしてまさにその時、豊な国々の決定に基づいてIMFが介入してきたのです。IMFは危機のある国々がなんとか彼らの債務を返済し続けられるように、貸付を行いました」。「この融資は返済が困難な状況になった国に貸し付けられるもので、借りた金は銀行や他の民間の債権者への返済に使う、ということが条件になっていました」。
 IMFは債務国がちゃんと債務を返済することができるように「指導」する。悪名高い「構造調整政策」である。「一〇〇あまりの途上国が、進んで、あるいは諦めて、IMFの構造調整政策導入に署名しました」。IMFは、拠出金の額によって国ごとに投票権が異なり、その政策がきめられる。二〇〇〇年段階でアメリカが一七・七%、日本が六・三%、先進国全体では六三・七%を占める。IMFでは重要事項の決定には八五%の多数票が必要であることから、加盟国で唯一一五%以上の投票権をもつアメリカは事実上の拒否権を持っていることになる。
 世界銀行も資金調達の方法が異なる他は(金融市場で調達)、IMFと同じく途上国の経済政策に介入してきた。これら一連の政策は「ワシントンコンセンサス」と呼ばれており、短期的な「ショック療法」は、財政建て直しのための教育社会保障費の縮小、補助金の打ち切り、輸出のための通貨切り下げ、投資をひきつけるための金利引き上げなどがあげられるが、そのどれもがその国の民衆にとって「ショック」を通り越して死に至らしめるような政策であった。
 また長期的な「構造改革」は、輸出指向型経済(モノカルチャー)、関税障壁撤廃、資本移動と為替規制の撤廃、付加価値税の導入、そして公共企業の民営化などが進められた。「一事が万事、構造調整プログラムは北の金融機関と多国籍企業の利益を守るようにできています」。これがIMFと世銀による債務救済の正体であった。(つづく)
(早野 一)


許すな!関西生コン労組への弾圧
『労働運動再生の地鳴りがきこえる』出版記念シンポ

吹き荒れる国
策捜査・弾圧

 七月八日、日本教育会館で「『労働運動再生の地鳴りがきこえる』出版記念東京シンポジウムが開催された。
 最初に長谷川武久さん(全日本建設運輸連帯労組・中央執行委員長)が開会のあいさつをした。
 「二〇〇五年一月に、関西生コンへの不当な権力弾圧が行われた。警察・検察は組合の役員を長期に拘留し、五十数カ所を超える組合事務所・家庭への不当捜索を行った。公判中だが弾圧はいまなお終わっていない。大阪府警は異常な執念を持ってスキがあれば第四・第五の弾圧をかけてこようとしている。これは国策による不当弾圧だ」。
 「五月二十五日に、検察側は『政治資金違反法事件』に対して、武委員長に禁固十カ月、関西生コン支部には罰金五十万円、戸田ひさよし執行委員(門真市議)には禁固二年、追徴金三百六十万円、後援会にも罰金五十万円、追徴金九十万円。違反容疑になったのは四百五十万円だから、追徴金と罰金で五百五十万円の上に禁固刑がつくというとんでもない論告求刑があった。六月二十二日には、『強要未遂・威力業務妨害罪』で武委員長に懲役三年、その他の執行委員には懲役二年から一年の求刑があった」。
 「まともな労働運動を抹殺しようとする不当・理不尽な警察・検察に闘う包囲網を作らなければならないということで全国運動をはかっている」。
 「そのために@『国策捜査』に反対し、『公正裁判』を求める署名Aビラ配り弾圧、共謀罪の新設などに反対しジャーナリスト・学者による国会内シンポジウムの開催B法務大臣への要請CILOの結社の自由委員会への提訴し勧告を求めるD破産倒産に苦しんでいる中小企業と労働組合が協同労働・政策闘争をする。それを新たな全国運動として発展させる。ご協力をお願いしたい」。

労働市場規制型
ユニオンが必要

 木下武男さん(昭和女子大教授)が「二極化社会の到来と関西生コン運動」と題して記念講演を行った。木下さんは「今後の労働運動の再生には、関西生コン支部が行ってきたような労働市場規制型の個人加盟ユニオンを創造的に発展させることが必要だ。労働組合と政党がゆ着した『指令動員・中央集権型運動』でなく自発的結社の組み込みが必要であり、先進的ユニオニストとして労働運動NPO・労働運動ボランティアなど、幅広く社会運動として取り組んでほしい」と提起した。
 続いて特別報告を武建一さん(全日建連帯労組・関西生コン支部委員長)が特別報告を行った。武委員長は「私はこれまで、何度も命を狙われ、解雇・起訴もされたがそれを跳ね返して闘いを前進させてきた。タコ部屋での奴隷的労働条件を年収七百五十万円、休日百二十五日、職場の自由と人間としての平等を確保してきた。中小企業経営者を事業協同組合へ加入させ、雇用を安定させるために新規事業に対して、組合の同意を認めさせ、経理の公開をさせてきた」と運動の発展状況を述べた。今後について、「志を高く持った者の組織化と大衆運動の結合などの運動は労働運動再生になり」、「それをより発展させるものとして政治・思想団体として『関西コミュニスト同志会』をつくった」と武委員長は提起した。
 次に、酒井直昭さん(鉄建公団訴訟原告団団長)と脇田憲一さん(共著者 元総評オルグ・労働運動史研究)がそれぞれあいさつした。御地合二郎さん(全日農書記長)、太田武二さん(命どう宝ネットワーク)が闘いの現場から発言した。最後に、弾圧を許さない署名運動への協力が提起された。なお、このシンポジウムは岡山、大阪、水戸、北海道でも行われた。(M)
b署名取扱先
全日本建設運輸連帯労働組合
東京都千代田区岩本町3―6―5 電話03―5820―0868
同・関西地区生コン支部
大阪市西区川口2―4―28 電話06―6583―5546
b『労働運動再生の地鳴りがきこえる』武建一・脇田憲一編著/社会批評社/1800円+税

「関西地区生コン支部事件」のあらまし

【第一事件=大谷生コン事件】(05年1月)
 関西地区生コン支部が大谷生コン社に対し、約束を守って生コン業者団体(大阪広域生コン協同組合)に加入するよう働きかけた二〇〇四年十月の組合活動が、「強要未遂」及び「威力業務妨害」罪にあたるとして、翌〇五年一月十三日、武建一支部委員長、片山執行委員ら支部役員四人を逮捕。同年二月二日全員を起訴した。第二事件と併合で公判中。
【第二事件=旭光コンクリート事件】(05年3月)
 第一事件と同じ構図の事件。関西地区生コン支部が大阪府下の別の生コン会社(旭光コンクリート工業)に対し、約束を守って大阪広域生コン協組に加入するよう働きかけた〇四年十月の組合活動が「強要未遂」及び「威力業務妨害」罪にあたるとして、〇五年三月九日、武委員長と外一人を再逮捕。同時に新たに二人の執行委員を逮捕。同年三月二十九日に四人全員が起訴され、第一次事件と併合で公判中。
【第三事件=政治資金規正法事件】(05年12月)
 関西地区生コン支部が、大阪府門真市の戸田ひさよし市議(連帯労組近畿地方本部の委員長も兼務)に対し、政治資金規正法に違反して資金を提供したとして、〇五年十一月九日に支部事務所や戸田市議事務所などを家宅捜索。同年十二月八日には戸田市議を逮捕した。同年十二月十三日、第一・二事件で保釈寸前だった武支部委員長を再々逮捕。十二月二十八日、武委員長、戸田市議を起訴、公判中。
《異常な長期勾留》
 第一事件及び第二事件で逮捕、起訴された支部役員は武委員長ら六人。「罪障隠滅のおそれ」を理由に、公判が始まって検察側立証が終わった十月になっても保釈せず、接見禁止が続いた。
 被告人質問がすべて終了した〇五年十二月十五日(第1事件の逮捕から11カ月、第2次事件逮捕から9カ月ぶり)、ようやく保釈許可決定。しかし、実際に勾留を解かれたのは五人だけ。武委員長は直前の十二月十三日に第三次事件で再々逮捕されたため、第一次・第二次事件では保釈許可を得ながら引き続き勾留。武委員長と戸田市議は拘置所で越年した。
 これに対し連帯労組が抗議の全国統一ストを敢行し、佐高信、鎌田慧、大谷昭宏氏らジャーナリストが重大な人権侵害と組合弾圧に抗議する署名活動をよびかけた〇六年三月八日、武委員長が一年二カ月ぶり、戸田市議が三カ月ぶりに保釈された。(署名よびかけチラシより)


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