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米国は世界覇権の武器=石油の放棄につながる撤退はしない       
                           
かけはし2006.7.10号

再度全世界でイラク反戦を

          ジルベール・アシュカル



 イラク戦争から三年以上が経過した。マリキ新政権の発足にもかかわらず、イラクでは事実上の内戦的状況が激化している。米占領軍の政策は、対立をあおりたててこの内戦の火に油を注いでいる。このインタビューの中で、ジルベール・アシュカルは、イラクの現状を「低強度内戦」と規定し、占領軍の即時撤退の要求を軸にして反戦運動を再組織する必要がある、と強調している。


 スーザン・ワイスマン(SW):ジルベール・アシュカルは、パリ大学で政治学を教えており、また、ベルリンでも仕事をしています。彼は、「ルモンド・ディプロマティク」や「マンスリー・レビュー」を含む種々の刊行物に寄稿しています。最近の著書には、『野蛮の衝突』があります。 
 今年は、サキ・ブックスから新刊を、またブルダー・パラダイム・パブリッシャーから『東洋の大釜』および『イスラエルのディレンマ』を出版しました。また、現在の政治問題であるイラクからの撤退に関する記事を発表しました(ステファン・R・シャロンと連名)。
 これは、米国下院議員ジョン・マーサの立場、すなわち即時撤退を要求するが、実際には「再配置」を意味する立場に反論するものです。

低強度の内戦は存在する

――ジルベール、あなたはその後、ご自分の立場を変えましたか。

 米軍のイラク駐留が長引くほど、状況は悪くなっています。状況は悪化し続けています。先週またもや、悪化の新しい段階を経験しました。これは実際、非常に心配な事態です。「内戦を防ぐために米軍は駐留を続けるべきだ」という意見は、人民にとってはまったくとんでもない意見です。
 一方では、米軍の存在のために事態は一種の内戦に向かって確実に進んでおり、この進行のテンポはまったく明白です。もう一方では、ラムズフェルド自身が「内戦になってもわれわれは介入しない」と語っています。それでは、米軍は一体何のためにイラクに留まっているというのでしょう。

――実際、ブッシュ政権は、まだ内戦ではないと言い続けていますが、(元首相)アラウィは、内戦状態が存在すると言っています。意味論上の微妙な問題でもあるのですか。内戦が進行しているのでしょうか、それとも、何か別のことが進行しているのでしょうか。

 私はずっと以前から、イラクには低強度の内戦が存在すると言い続けてきました。最近、イラクの前首相ジャアファリがこの公式を採用しました。ジャアファリを米国は追い出そうとしています。
 まさに、この公式が正確なのです。イラクに存在するのは成熟した内戦ではありません。これは幸いなことです。なぜなら、成熟した内戦は、まさに完全な大惨事だからです。しかし、低強度の内戦は存在しており、その強度は強まり続けています。米軍の存在は、この発展を防ぐのではなく、実際には内戦を刺激する主要要因の一つになっています。
 米国の現場代表者であるカリルザード大使の昨年来の振舞い方も、私の主張に大いに関係があります。彼は火に絶えず油を注ぎ続け、あるコミュニティを別のコミュニティに対立させ、連合と対抗連合の形成を試み、他の分派を分断してきました。彼は政治情勢に極めて重大な干渉を行っており、その役割は誠実な仲介者というようなものではなく、古典的な分割支配の手法の実践者というべきものです。
 米国にとって、イラクで選挙で負けてからは、情勢に対する支配を維持する手段として、この手法しか残されていないのです。

――ブッシュ大統領は、世論をなだめるために撤退予定を発表するという期待に反して、戦争に関する彼のメッセージを主張し続けています。彼は「われわれは進み続ける(進路を変えない)」と言っており、「私の任期が終わる二〇〇八年以降も、米国はイラクに留まるだろう」と言っています。ブッシュのこの発表に、あなたは驚きましたか。別の選択はないのでしょうか。

 まず第一に、ブッシュの発言は、まったく驚くべきことではありません。彼の言葉の意味は、彼が大統領でいる間は米軍はイラクから撤退しない、ということです。これはまったく論理的です。なぜなら、彼がイラクを侵略したのは、何かが起こったから、あるいはあらゆる犠牲が払われたから、撤退するためではありません。人命の犠牲は言うに及ばず、です。私が言っているのはアメリカ人の犠牲のことです。もちろん、イラク人の犠牲者はそれよりはるかに多いのです。
 ジョージ・W・ブッシュがイラクを侵略したのは、イラクの支配権を握り、長期的にそこに留まるためです。基地を建設している理由もここにあります。短期的な基地の建設ではありません。非常に長期的に維持する基地として考えられ、建設されているのです。
 彼らは、一九四五年の後のドイツと日本の例を引き合いに出してイラクに進駐しました。これは非常に長期間にわたって、たとえば石油を掘りつくすまで、駐留するという考え方です。イラクの支配権を握るのは、明らかに経済的および戦略的理由からです。石油の支配権は、世界の覇権にとって絶対的に重要な武器です。ブッシュ政権が執着しているのはこれなのです。

――ブッシュ政権は、現場の状況から、この地域における仰々しい目標の一部を縮小しましたが、セイムール・ハーシュは二カ月前に「ニューヨーカー」誌に、米軍の負傷者や死者を減らして米国内の反対意見をなだめるために、米国は空爆に重点を移すだろう、と書きました。ワシントンの政権は、ある種の再配置または一時的撤退を提案するでしょうか。

 一時的撤退は、ありそうもありません。

一時撤退はありそうもない

――ジョン・マーサ議員が示唆したような、国境への移動の可能性はどうですか。

 ないでしょう。一部の民主党議員などの考え方は、米国は再配置して、主として空軍基地を通じて状況への軍事的介入を維持するべきだというものです。
 一方では、これはイラクの状況を改善しないでしょう。他方では、ご承知のように空爆は、多大な民間人の死傷者をもたらします。これは、地域の支配を維持する方法としては、現状以上に利己的な方法であるということになります。ある意味では、それは現状よりさらに悪い状態です。

――米国が今撤退すると、バース党とシーア派の戦闘的分子がそれまでより組織され、さらに彼らの内部で分裂が生じ、より急進的な聖戦派を含む勢力が増大するという意見があります。再配置や段階的撤退も、彼らを勇気づけ、混乱が増すだろうという意見があります。
 また、トルコが侵略する可能性や、クウェートの要求に関する説まであります。何が起こりうるのか、どのようなシナリオが考えられますか。

 あらゆる種類の破滅的なシナリオを想像し、描くことができますが、現在が破滅的なのであり、われわれは破滅的状況のまっただなかにいるのです。もちろん、これはさらに悪化する可能性があり、悪化し続けています。毎日悪化しています。このことは非常に明白に事実によって示されています。米軍のイラク駐留が長引くほど、状況は悪化し続けます。
 侵略の日から今日まで、状況が確実に悪化し続けたことには議論の余地はありません。いろいろな数字を見てごらんなさい。まったく恐るべきものです。状況を悪化させないために米国は留まるべきだという考え方は、まったく間違っています。このことは明白であり、繰り返し証明されてきました。これ以上の証明は無用です。結論は明白です。イラクを回復させるのなら、米軍は出て行くべきです。
 私は、米国が出て行けば、直ちに楽園になると言うのではありません。それが問題ではありません。われわれ反戦運動は、侵略が起これば混乱になると言ってきました。われわれは侵略以前の長い間、そう言ってきました。侵略は起こり、われわれが予言したことが正確に発生しました。侵略は混乱状態をもたらし、非常に危険な状況をもたらしました。
 「これは混乱ではない、すばらしい状況だ、米軍は花輪で歓迎されるだろう」、イラクは二、三年でスイスのような国になる、と言っていた同じ人々が、今、「米軍は撤退するべきではない、撤退すれば混乱状態になる」と言っています。これはこっけいなことです。

――運動の内部にも、米国は、制裁による損害を含むあらゆる損害を償うために、マーシャル・プランのようなものを提供すべきだという意見があります。反戦運動がとることのできる立場を、どのようにお考えですか。

 私の意見では、反戦運動は、これまでそうであったように、「即時撤退」の要求を中心に組織されるべきです。
 この要求は、ますます世論の心の琴線に触れるものになっています。世論調査に反映される「受動的反戦運動」とでも呼ぶべきものは、最近は大きく高まっています。このことはあなたの方がよくご存知です。しかし、組織された反戦運動は、二〇〇三年二月十五日に到達したピーク以降は、任務に応えていません。
 この巨大な、前例のない、国際的な、真の大衆的動員以降、運動は勢いを失い、多くの混乱があります。もちろんそれは、残念ながらイラクから送られてくる画像によって助けられるようなものではありません。
 ベトナム戦争のときには、動員の要因の一つとして、抑圧されたベトナム人、米国の侵略の犠牲者の姿が民衆の心を動かしました。反戦デモでは、それらの写真が掲げられました。
 イラクから送られてくる多くの(レジスタンスの)画像は、破壊やその他の野蛮な行為を強調するためにメディアが選んだ画像です。また、現場には非常に複雑な状況があります。理解し把握するのが容易でない状況であるというのは本当です。
 




投稿
九条の会全国交流集会に参加して

「若い人たちに広げたい」
                    大森 敏三


 六月十日、九条の会全国交流集会に参加した。JR信濃町駅から会場に向かうと、個人やグループで、参加者らしい人たちが緑の濃い神宮外苑を会場に向かって歩いていく姿が見られた。開会三十分前だったが、すでに受付は人で溢れ、ロビーでは各地の九条の会が資金集めと宣伝を兼ねて独自に作成したグッズが所狭しと売られている。ポスター、ステッカー、日本手ぬぐい、帽子、バッジ、リーフレットなど、それぞれが地域の特徴を生かしたデザインで、どれも買って帰りたいという衝動に駆られる。
 会場に入ると、一階、二階ともに満員で、空いている席を探すのも一苦労。見渡すと、参加者の多くは中高年(!)だったが、若い層もそれなりに参加しているという印象だった。壇上には二年前にアピールを発した呼びかけ人九人のうち六人(三木睦子さん、鶴見俊輔さん、澤地久枝さん、加藤周一さん、小田実さん、大江健三郎さん)が並び、会場からは大きな拍手が送られた。
 呼びかけ人六人が順にそれぞれの思いを話されたが、印象に残ったのは三木睦子さんと小田実さんのお二人だった。九十歳とは思えない張りのある声で、「戦争のつらさ、苦しさを知っている『年寄り』が集まって、二度と若い人にそのつらさ、苦しさを味わせたくないという思いで始めました。」と訴えた三木さん。
 かつてベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)を鶴見俊輔さんらとともに作り上げ、市民運動の先駆者とも言える小田さんは、「もっとも理想的であることがもっとも現実的である」のだと話し、その理由を「自衛隊を軍隊として認めて、その上で法律で歯止めをかけるという考えが強くなっている。私に言わせれば、この考えは夢想的である。今でも自衛隊が勝手な行動をしているのに、九条を変えればもっとひどいことになる。日本には石油も食料もない。これで戦争ができるのか。夢物語に過ぎない、まやかしの現実論である。われわれの国を守るためには、世界平和を達成する以外にはない。そして、平和主義の国として生きていくための基礎は憲法なのだ」と説明した。
 午後の分散会で、印象に残った発言を紹介すると、「有権者の過半数署名を達成した。そうすると、九条を守ろうという新聞の意見広告に市長、市議会議長、教育長が名前を連ねてくれた」(高知・土佐清水)、「マジメなだけでなく、酒を飲みながらその中でちょこっと九条の話も出して、若者の中に仲間を増やす」(三重・ヤング九条の会)、「九月九日に、JR西九条駅から近鉄奈良九条駅までを憲法九条を守ろうと呼びかけながら走り通すという取り組みを予定している」(RUNNERS 9の会)、「お寺を全戸訪問して、三十七寺に呼びかけ人になってもらった。千人を超す呼びかけ人には、ニュースを原則手渡ししている」(福岡・京築)など。
 やはり発言者の多くは、共産党系のようではあったが、「今までにない幅広い運動を」という意識は感じられた。もう一つ発言で共通していたのは、「何とか若い人たちに運動を広げたい」との思いで、各地で試行錯誤している様子だった。その中では、若い人たちの感性が理解できないという声もあり、たとえば「集会にへそだしルックで参加してくる」「学習会の看板を見てふらっと参加したりしてくる」と困惑気に語るリタイア世代の発言には会場からも笑いが起きた。
 とにもかくにも、改憲反対運動の初めての全国的な結集という意味では、少なからぬ意義を持つ集会だったと思う。


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