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郵政民営化監視市民ネット総会              かけはし2006.5.1号

民営化反対の闘いは、これから

幅広い連携で公共サービスの防衛と再生を目指そう

新自由主義政策
を断念させよう

 四月九日、郵政民営化を監視する市民ネットワーク(以下、「監視ネット」)の第二回総会が開かれた。監視ネットは、昨年の郵政民営化法案の国会上程をまえに、公共サービスとしての郵政事業を市民と労働者のネットワークを通して考え、利潤最優先ですすめられる国会審議などを監視し、民営化でも利権温存でもないもうひとつの郵政改革のために提言、行動することを主旨として設立された。
 はじめに主催者を代表して監視ネットの事務局を担うATTACジャパンの秋本陽子さんからあいさつがあった。「フランスでは学生や労働者の闘いで青年労働者の解雇が自由になる初期雇用契約法を断念させた。この雇用法も郵政民営化もおなじ新自由主義政策の流れにある。新自由主義政策を断念させることが可能であることをフランスの闘いは示している」と、行き詰まりを見せる新自由主義政策を批判した。
 続いて、公共サービスを切り捨て利潤最優先で進められた郵政民営化法案の国会審議に対する取り組みを中心とした昨年度の活動を、映像を通じて振り返った。あの暑い夏の闘いで一度は廃案に追い込んだ郵政民営化法案は総選挙を経てゾンビのように復活した。監視ネットは国会審議の全体を通じて、「UBIN Watch News」を発行して国会審議における民営化推進派の欺まんを国会内外に宣伝し、総選挙を経て法案が通過した以降も、粘り強くニュース発行を通じてマスコミでは報道されない民営化の問題点を取り上げ続けてきたことが紹介された。
 つぎに活動方針案が提起され、民営化に突き進む郵政公社の動きを、公共サービスを守るという立場から監視し、問題点を広く訴え、世界の動きにもつながる活動を継続することが確認された。事務局メンバーを代表して郵政労働者ユニオンの松岡幹雄さんからの発言を受けた。「郵政民営化の影響は大きい。すでに各地で公共サービスの切り捨てを懸念する声が上がっている。監視ネットでは、民営化を憂慮する人々との幅広いネットワークを作り上げたい」。

切り捨てられる
二つの「公共性」

 総会に続き、法政大学教授の杉田敦さんから「公共性の回復のために」と題する講演を受けた。
 杉田さんは、人々の生存権に関わる「生活の公共性」と、政治的権利を保障する「表現の公共性」という二つの異なる公共性のどちらもが切り捨てられ、治安を意識した「セキュリティ」がそれにかわり幅を利かせる社会的状況を批判した。そして二つの公共性がじつは相互に関連しあっているがこれまでは交差することがなかったが、切り捨てられる二つの公共性を回復させるための議論を巻き起こさなければならないと語った。
 続いて、郵政民営化の現状と今後について郵便局の現場からの報告をうけた。
 パネリストは池田実さん(郵政ジャーナリスト)、松岡幹雄さん(郵政労働者ユニオン、豊中郵便局)、鈴木英夫さん(郵政労働者ユニオン、浜松郵便局)、森博道さん(郵産労、小石川郵便局)の四人。それぞれ民営化全体の推進状況、郵便事業、郵便貯金、郵便保険について現場の状況がリアルに話された(別掲)。

地域とのつなが
りと国際連帯を

 続いて報告者のパネルディスカッションが行われ、池田さんからは「民営化にはまだまだいくつものハードルを越えなければならないし、事業拡大では国会の承認を受けなければならないので、市民が国会に働きかける必要があるだろう。郵便労働者は地域とのつながりを意識して他の産業の労働者との交流を進める必要がある。また公社の国際物流推進は国際的な競争の一環であり、運動の側も国際的につながる取り組みを行わなければならない」と提起された。
 松岡さんはドイツポストの民営化の過程で労働者の側が勝ちとったこととして「劣悪な労働条件にある企業とは連携しない、利用者の陳情権を確保する、という二つの成果がある。日本でも取り組むべきだ。郵政公社の民営化で物流業界の労働条件の一層の悪化が進んでいる。関連産業の労働者の権利を確保する取り組みも必要だ」と提起した。
 鈴木さんは「地域と結びついた運動が今後の鍵になる。いま二四%の世帯、単身世帯では四〇%が貯蓄ゼロ世帯だ。貧乏人は金融サービスからも排除されるアメリカのような社会にならないためにも金融のセーフティネットを確保する取り組みが必要だ」と提起した。
 森さんは「簡保は公共福祉の増進のためにある。このことを忘れてはいけない。大都市以外ではみんな保険といえば簡易保険だ。民間保険会社は採算の取れないところにはサービスを提供しない」と提起した。
 最後に市民ネット事務局の細田さんが閉会のあいさつを行った。
 「今日だされた問題点を参加者みんなで共有化し公共サービスのあり方を考える取り組みをしたい。郵政民営化を監視する市民ネットワークは、じつはこれからの取り組みこそが重要になる」。      (H)

新規事業拡大の矛盾
          池田 実

 本格的な動きはこれから。当初、郵政事業縮小の方向で法案通過を推し進めてきたが、いまは逆に新規事業拡大にむかっている。民営化後の各会社を統括する日本郵政株式会社が発足し、社長に元三井住友銀行の西川善文が就任した。二〇〇七年十月に実施される民営化は十年の移行期間が設けられているが、その期間における同社の権限はきわめて大きいことから、民営化後の事業の方針に大きな影響を与えるだろう。
 当初、巨大物流多国籍企業のTNTと提携して中国へ進出する構想を描いていた。しかし郵政公社のネットワークなどを傘下に入れたいTNTと、物流メジャーとしてのし上がりたい郵政公社の思惑が一致せず、提携は伸ばし伸ばしになっている。一方で郵貯を住宅ローンや個人ローンに融資することも考えられている。リスクマネーにも拡大したい。事業展開については、四月一日に発足した郵政民営化委員会がチェックすることになっている。委員長は経済評論家の田中直毅だ。しかし各事業会社の業務拡大について監視するのが役目だが、先日発表された郵政公社と全日空との提携についても、本当にうまくいく見通しが全く不透明にもかかわらず、無批判にGOサインを出している。

集配業務の整理縮小
           松岡幹雄


 民営化をする理由として挙げられたのが、郵便事業の縮小傾向だった。しかし実際には郵便の総量自体は減っていない。人件費を中心にコストを徹底的に抑えながら二百五十億もの黒字をはじき出している。郵便料金が許認可制から届出制になった。この六月からは国際物流事業もOK。小包は郵便物ではなく貨物になる。郵便事業自体に支障をきたさなければ何をやってもいいという感じだ。
 しかしこれまでの信書中心から小包を中心とした物流事業に重点をおく方向にむかう。現在郵便と小包の割合は九対一だが、将来的には六対四にまで持っていきたいようだが、これは非常に危険なビジネスモデルだ。物流で成功したドイツポストを真似ようとしているが、同社は独占を維持しているし、稼いだ金で百社以上の関連民間企業を買収してきた経緯がある。郵政公社の野望はすでにTNTとの提携中断で破綻している。
 労働者の合理化も進んでいる。二〇〇三年の公社化から二年間で二万人が削減された。あと一年でさらに一万人を削減する。連続夜勤業務の導入、トヨタ方式による作業混乱、非正規職員に受け箱配達をさせて正規職員は速達などの対面配達を行わせ、ついでに営業も行わせるという二ネット方式による現場混乱が郵便局で蔓延している。
 集配局の再編も大きな問題だ。全国に約四千七百ある集配局のうち、千五十一局を窓口業務だけにして、将来的には集配センターを千百局にまで集約する。配達エリアが拡大してしまい、きめ細かいサービスの提供は不可能になる。過疎地域の切捨てだ。

小口利用者の切り捨て
           鈴木英夫

 保険事業の現場は、夢も希望も未来もない。三月末でほとんどの局で目標が達成できていない。東京では八十一局のうち三局しか目標を達成できていない。達成率は六八・五%に留まっている。そもそも達成できないようなノルマだ。人の入れ替わりも激しい。民間保険会社からの引き抜きもある。他の部署への配属希望も多い。だから保険の部署では五年未満の職員が四割近くもいる。
 かつては八十万円預けて百万円になるような貯蓄性のある保険だったが、いまでは百万になるまでに百十万円を支払わなければならない。だから満期になっても新たに再契約をしてくれる人は減っている。保険はお客さんからの紹介で新規開拓をしていた面もあるが、配転や異動などが多いとお客さんとの関係性が切れてしまう。
 最近では法令順守が厳しく言われる。違反すると処分され、最高で三年間保険の勧誘ができなくなる。そうなればそこではやっていけなくなる。
 保険加入の際に面接をして同意を取る必要があるのだが、土日出勤をして面接することもある。ノルマは月二万円の保険料の契約を年間百五十件取らないといけない。ほとんど不可能に近いノルマだ。ノルマだからといって法令順守のできない契約をとることを拒否する勇気を持つ必要がある。

ノルマに追われる簡保
            森 博道

 保険事業の現場は、夢も希望も未来もない。三月末でほとんどの局で目標が達成できていない。東京では八十一局のうち三局しか目標を達成できていない。達成率は六八・五%に留まっている。そもそも達成できないようなノルマだ。人の入れ替わりも激しい。民間保険会社からの引き抜きもある。他の部署への配属希望も多い。だから保険の部署では五年未満の職員が四割近くもいる。
 かつては八十万円預けて百万円になるような貯蓄性のある保険だったが、いまでは百万になるまでに百十万円を支払わなければならない。だから満期になっても新たに再契約をしてくれる人は減っている。保険はお客さんからの紹介で新規開拓をしていた面もあるが、配転や異動などが多いとお客さんとの関係性が切れてしまう。
 最近では法令順守が厳しく言われる。違反すると処分され、最高で三年間保険の勧誘ができなくなる。そうなればそこではやっていけなくなる。
 保険加入の際に面接をして同意を取る必要があるのだが、土日出勤をして面接することもある。ノルマは月二万円の保険料の契約を年間百五十件取らないといけない。ほとんど不可能に近いノルマだ。ノルマだからといって法令順守のできない契約をとることを拒否する勇気を持つ必要がある。



コラム
イチロー「差別」発言考


 その瞬間には号外を奪い合ってケガ人が出たという。王ジャパンまさかの逆転優勝。WBC大会で韓国に負けたイチローは、感情をむき出しにして言い放った。「ぼくの野球人生で最も屈辱的な日」「日本が三回も同じ相手に負けることは決して許されない」。常にクールだった彼のこの豹変ぶりはどういうことか。それともこれがイチローの「正体」なのか。これから始まるであろう派手な祝賀キャンペーンを思うと、暗たんたる気持になった。
 作家の星野智幸氏がこの言動を取りあげた。(東京新聞・四月三日)。いわく「屈辱という言葉は、相手から不当な辱めを受けたという敵意も含む。ここに相手を蔑むニュアンスを感じずにはいられない」。イチローの態度は、昨年衆院解散時の小泉純一郎とも重なる。「闘志と感情をむきだしに己を鼓舞し、仮想敵を作り、勝利ののちは自画自賛する。(中略)韓国という隣人の感情を想像しようとはしないデリカシーの欠如においても、両者はそっくりである」。星野氏は「屈辱」という「どう解釈しても差別的な発言」が日本のメディアで検証されなかったこと。すなわち日本人のなかに、それと同じような差別意識が潜んでいるがゆえに、誰も疑問に思わなかったのではないかと、感情を抑制して問いかけた。
 この論考に、読者の反響は真っ二つに分かれた。反対意見「イチローは差別主義者ではない」「発言はスポーツの世界のこと」はまだいい。「売国奴」や差別表現での中傷もあったという。賛成派は「言いたくてもうまく言えなかったことが的確に文章化されていた」「溜飲を下げた」などなど。紹介した追記事は星野氏の主張と賛成派を支持し、教基法改悪・愛国心強化策動に触れつつ、「日本が異論を封じ込める圧政の国にならないために」と訴える。
 「国家主義的スポーツショーの排外主義的興奮と暴力は、人権の拡充や民主主義の前進や人民の国際連帯にとってはマイナスでしかない。それは民族差別主義やファシズムの温床となり、人民の不満や怒りをそらせて国家主義的国民統合を強化する権力者にとっては、おおいにプラスに働き続けてきたのである」――故右島一朗同志は、スポーツナショナリズムの危険性を繰り返し主張した。
 イチロー個人の問題ではない。スポーツに象徴的に体現された現代社会のあり方が問われている。権力がメディアを利用して職場、学園、家庭に巧みに浸透させる数々の国益主義的イデオロギー。反戦集会に右翼が大挙押しかける時代状況を、われわれはしっかりと見据えながら、粘り強く反撃を続けよう。(隆)

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