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格差の足下からWTO社会を見据える           かけはし2006.5.15号

労働者も農民も競争にさらされている

脱WTO草の根キャンペーン・シンポ
「道具を替えるように、働 く者を替えてはならない」


民営化に向けて
労働強化が進行

 四月十三日、脱WTO草の根キャンペーン主催のシンポジウムが文京シビックセンターで開催され、四つの現場からの報告と討論に五十人が参加した。まず司会の大野和興さん(脱WTOキャンペーン代表世話人)は、日本でも様々な部門で、新自由主義による市場経済化が進行してきているが、お互いにその問題を共有化できていないことから、このシンポで、それぞれの暮らしや現場で、何が起こっているか知り、その背後には何が動いているのか探り、各々の闘いに思いを馳せながら何ができるか考えていきたいとシンポの方向性を示した。
 最初に各現場からの闘いの報告の第一弾として、郵政労働者ユニオンの須藤和広さんが報告した。
 来年十月の民営化に向けて、今から着々と合理化が進められている。まず、全国でJPS(ジャパン・ポスト・システム:トヨタ方式)が生産性を上げるという名目で導入された。これは、たとえば郵便物の区分けに何秒かかるか測定し、作業は立ったまま、手を四十五度上に挙げて行うなど細かな指示がなされ、椅子が職場から撤去されてしまった。これは安全衛生上問題となる。
 また、ツー・ネット方式という配達方法となり、普通郵便は非常勤のゆうメイトに、書留・速達は正職員(本務者)にやらせ、手渡す際戸口で他の商品もセールさせようと意図されたものだが、同時に、人減らしも進行し、受け持ち区域が従来の一・五〜二倍となり、七時間の労働時間内では配達できず、セールスどころではなく残業が常態化している。一方で、東京ではゆうメイトの募集に人が集まらず、二桁の欠員状況。ゆうメイトの時給は千円から千五百五十円までだが、成績給で正職員が査定するため、組合への苦情相談が一番多い。
 最後に、ANA(全日空)と郵政公社が提携した国際物流会社が認可され、中国・アジアに貨物宅配サービスを今後展開していく事業計画を持っていること、郵便局の統廃合が最近全国的に進行していることを報告した。特に、民営化法案にも反する郵便局の統廃合は、窓口だけを残すことで法律の灰色の部分で合理化を実施し、三十人いた局が五、六人となり、人員が拠点局に集約され、片道の配達距離が平均で五、六十キロになるような労働強化と地方での過疎化促進が問題となる。

拡大する労働条
件と賃金の格差

 続いて、全統一千葉市非常勤職員組合の三好和子さんからは、千葉市の大小四十四カ所の図書館で働く職員は、正職員百人、非常勤職員二百三十人、この他図書館司書資格を持つ嘱託非常勤が六十人で、非常勤職員の力がなければ、図書館の運営すらできない実情が報告された。
 この間、千葉市は図書館に指定管理者制度(業務の丸ごと民間業者委託)導入を進めてきたが、図書館はサービスを提供するところで、利益は生み出さない。民間委託されれば職員削減か賃下げなど労働条件の低下しかない。しかし、図書館法には、無料原則が明記され、貧しい者にも図書館は開かれているという理念を教育委員会は遵守すべきと団体交渉の中で訴えてきた結果、従来通り直営とすることが市の結論となった。
 非常勤職員の問題では、一九九五年組合結成までは正職員からの屈辱的な対応があった。例えば、当時アルバイトさんと呼ばれていたが、「アルバイトさんは、暑いとか寒いとか言ってはいけない」と言われたことがあった。病気療養もあり得ないことで、即、解雇となった。当時、六カ月後の雇い止め契約が問題で、半年後の再雇用の保証が全くなかった。現に、気に入らなければそのまま解雇ができたと当局が語っている。このため組合を結成して、六カ月後の雇い止めを廃止させ、病気療養後の復帰も認めさせた。
 一方で、賃金格差はすさまじい。二十年間勤続者も昨日入った職員も一律八百三十円。九年間一度も賃上げがなく、一時金・退職金もない。正職員は、手当・賞与込み平均時給二千九百六十円。こんな格差にもかかわらず、逆に教育委員会は、人事院勧告にともなった非常勤職員賃金を時給二十円引き下げると通告してきた。日常の労働条件が均等待遇とはほど遠いのに、賃下げの時だけ、「均等待遇」を適用してくるのか、疑問だらけだった。これには、さすがに多くの非常勤職員が怒り、組合が大挙して団体交渉に押しかけ撤回させることができた。
 終わりに、三月二十四日、国立情報学研究所非常勤雇い止め裁判、東京地裁判決では「道具を替えるように、働く者を替えてはならない」という有期雇用裁判での初めての勝訴判例が出されたことを力に頑張っていきたいと締めくくった。

農業を直撃す
る新自由主義

 三番手の北海道農民連盟白川祥二さんは、北海道というと大型農業経営で、安定していると思われがちだが、実際は好んで大型化したわけではないと話し始めた。
 いまコメ栽培十二ヘクタール、タマネギ四ヘクタール、合計十六ヘクタール(東京ドーム十個分)耕作しているが、土地を借りたり買ったりして、その借金の支払いが大変。そして、機械も合わせて大型化するためその資金も大変になる。いま、コメ栽培農家は一俵あたり五百円ぐらいしか利益が出ない。それで、家族全員を養うのは無理。その上、コメ生産でも北海道は全国の半分も生産調整に協力させられているが、私のところはタマネギ栽培で何とか凌いでいる。WTOにおける農業交渉で、重要品目や上限関税が外されてしまえば、北海道でも農業はやっていかれなくなってしまう。
 一方、私の住む空知岩内という地域は、百軒あるうち後継者がいる家は十軒のみ。五十歳以下の人が町に二十人以下しかいない高齢者社会となっている。農業を担う次の世代が確実に減っている。離農者が増えれば、その耕地は雑草だらけになり、近くの公道も誰も手を入れないので、荒れてしまう。町ぐるみ、家族ぐるみで農業する以外何もできない町であり、農産物も安心・安全なものを作ってきた。今後消費者がどこまで国産品にこだわってくれるのか。WTO香港閣僚会議抗議行動の合間、中国農業を見学してきたが、そこでは万元戸といわれる大土地所有者が月給一万五千円で中国内陸部からの夫婦出稼ぎ農業労働者五百人を雇って、輸出用農作物を栽培していた。農作物の内外価格差が大きいのは、結局賃金の違いである。東京で、月給三万円で生活できますか。農民も賃金の下へ下への競争にさらされている。

ガードマンを使っ
て野宿者を排除

 最後に、日雇全協・山谷争議団の荒木剛さんからは、日雇労働者が路上に追いやられ野宿者になってきたことから、野宿者運動を当事者の視点から闘い、最近では「持たざる者」の運動として行っていることが報告された。
 大阪うつぼ公園での強制排除に見られるように、二〇〇二年成立した野宿者自立支援法の中には、適正化条項があり、野宿者対策の上で、公園の適正化を図るというものだが、実態はそうなっていない。
 東京都の場合、自立支援センターが六カ所あるが、入所者は野宿をし始めて三カ月以内の人が多く、約五一%の人が退所後住み込み就労やガードマンに就いている。自立支援センターは後のために、地域移行支援事業(二年間月三千円のアパート生活で六カ月間は仕事保証)をやらせてきたが、仕事保証が全く進んでおらず、しかも「新規流入防止」までうたわれている。特に墨田区では、当初からこの地域移行支援事業を「テント・ゼロ計画」の名の下に進めてきている。この背景には山谷対策を労働者対策ではなく、地域対策として考え、山谷労働者を排除してきた姿勢がある。
 そこで起こったのが、墨田区内公園から野宿者を一掃するため、税金を使ってガードマンを雇い夜間巡回を増やして、公園にいる野宿者を夜も寝かさない攻撃であった。そして、香取さんという仲間が受験生に殺された。もともと二十軒ぐらい仮小屋のあった公園からガードマンによって追い出され、残ったのが香取さん一人だった。彼は小屋が建てられなかったから、雨を凌ぐために橋の下で寝ていたところ、少年らに殺されてしまった。
 あまりに対応がひどいので、弁護士と相談しながら対処したが、この攻撃は収まらなかったため、昨年八月から隅田川にかかる橋、桜橋テラスにおいて、小屋も持てない仲間、仮小屋のあった仲間、支援の仲間が夜間そこで寝て、ガードマンが来たら抗議するという闘いを続けて、最終的には四、五十人の仲間が夜間安心して眠れるようにした。新規流入防止地域である桜橋テラスに、逆に小屋を建て、孤立した仲間を集めることができた。
 この間花見があるということで、どこに行けばいいのか墨田区と交渉したが、何も対応しようとしない。自治体交渉では、野宿せざるを得ない潜在的な層に対する対策がないところで、新規流入防止はおかしい、桜橋の小屋は住むためのものではないと訴えてきた。しかし、これに対して、警察部隊を配備させながら墨田区と東京都建設局は、桜橋からこの小屋を撤去しようとしてきた。この攻撃では、向こう側の職員がこちらの支援者に蹴りかかってきたが、何とか弾圧を免れることができた。
 私たちの闘いは、悲惨な闘いなどではなく、仲間とつながりを持てないまま一人死んでいくのだけは何とかしたいと考えている。一人でいても、死ぬときは隣に仲間がいること、それが野垂れ死に抗することであり、野垂れ死をさせないことだろう。しかし、いまの日本の状況は本当におかしい。野宿している仲間を公園で見たら、たたき起こすガードマン。それを訴えても、マスコミは「絵にならない」と報道しようとすらしない。

正規と非正規職
の連帯が必要

 この後、質疑・討論となったが、郵政公社は民営化を待たず、新しい合理化方針を決定し、すでに配達局の統廃合が進められ、夜間窓口が廃止された局が出てきたことが指摘された。また、郵政労働者ユニオンの報告の中で、「非常勤職員に業務をさせている」との発言があり、千葉市非常勤組合の三好さんは、正規と非正規の関係性が表れた問題点だと指摘があった。
 そして、正規職員の問題性として、市当局が図書館の休み返上と一方的に方針化してきた時、正職員自身が土日働きたくないので、彼らは非常勤職員の増員を要求したことなど追加報告した。また郵政労働者ユニオンからも、民営化後のゆうメイトの解雇問題が予想され、いまから組合加盟や署名活動に取り組んでいることが話された。(北野)



台湾
統一独立論争に関するわれわれの立場
中台関係の中心的課題は民主的自由と社会的平等

急進的独立派
の路線に迎合

 陳水扁総統による「国家統一綱領」廃止の動きは、台湾内部と中台両岸における統一か独立という論争を再び浮上させ、いくつかの大国の関心を集めた。この「国家統一綱領」は一九九一年に、当時の国民党政府によって一方的に採択されたものである。綱領は統一を三段階に分けて段階的に実現し、「民主的で自由で経済的に平等な中国」を建設すると宣言しているが、なんら民主的経緯を経ることなく採択され、その後もほとんど真剣に実行に移されることもなく、早くから単なる紙屑であると認識されてきたものである。このような有名無実の看板を台湾の政治的実体にあわせて廃止することは当然のことである。問題は、この措置を決定する過程と意図、そしてその実質的な影響にある。
 周知の通り、陳水扁は総統に就任する際に「国家統一綱領と国家統一委員会の廃止についての問題は存在しない」と表明しており、これは彼の重要な政治的公約でもあった。二度にわたる総選挙での後退や政治スキャンダルが続き、多くの民衆が政権に不満を持つという状況のなかで、陳総統が中台関係に深刻な影響を及ぼす「統一綱領の廃止」を一方的に決定したことは、何よりもまず民主主義の原則に明確に違反する。
 つぎに、政府に対する民衆の不満が高まる中、陳総統は、民衆の不満の理由である政治と経済の路線(中台の対立、政官財の癒着、反労働者政策)を全面的に再検証することもせず、反対に党内の地位を固めるために急進的独立派の路線に迎合したことである。統一綱領廃止の後には、国民投票による憲法制定が政治日程にのぼっている。陳総統の行為が彼個人の権力の強化と台湾独立運動の発展を後押しし、台湾内部における統一か独立かという論争を激化させ、中台両岸政府の対立を深め、軍事的緊張から台湾海峡での衝突にいたる危険性を持つことになる。それは当然にも台湾内部の社会矛盾の解決にとって不利になる。

台湾海峡の軍事
的緊張と危険性

 われわれは、台湾がすでに独立した政治的実体(中華民国)であると考える。そして国号の改称を中心とした「法理的独立」を追求することは、中国共産党の侵略に抵抗し、民主的自由を確保するための効果的手段ではなく、また政官財の癒着と社会的に不平等な台湾社会を改造する手助けにはならず、労働者民衆が追求する目標ではないと考える。反民主主義の中国共産党政権の下で、台湾の民主的政治は脅威を受けつづけているが、無数の中国の労働者民衆も同様に社会の底辺におかれている。(中国で)本当に利益を得ているのは極少数の権力者と富豪だけである。このような少数の支配的集団を孤立させ、中国民衆の理解と支持をかちとり、そして中国の政治と社会の改造を推進すること、これこそが最も効果的に中国共産党の脅威に対抗する方法である。
 だが、一部の与党支持者が追求する法理的独立は、台湾問題において中国民衆をさらに中国共産党の側に押しやることを容易にするだけである。また一部の野党指導者が提起している「最終的統一論」では、中国の民主化を進めるという目標が若干は提起されているが、具体的な方法やその順序はほとんど提起されておらず、どう実践するかについては言うに及ばずである。野党指導者が中台関係の改善を進める主な目的は、中台の経済的連携を発展させ、台湾資本の中国市場への参入を容易にするためである。中国の政治体制が民主的かどうか、社会構造が平等かどうかなどは、そもそも彼らの考慮の重点には置かれていない。このような政策は、客観的にみて、台湾に対する中国共産党による影響力を強め、将来のある時期に平和裏に台湾を支配することにつながるだろう。このような「最終的統一論」がどうして中台両岸に「民主的で自由で経済的に平等」をもたらすことができるというのだろうか。
 われわれは、台湾民衆が民主的自由を確保し、中国共産党支配を拒否することができる旗印は「独立」ではなく「民主主義」であると考える。台湾人民の民主的自決権の立場を堅持し、中国共産党の強制的な統一を拒否しつつ、積極的には「法理的独立」を追求しないこと表明して中国人民と国内外の華人の理解と同情をかちとり、中国共産党の「民族の大義」という大衆動員による台湾への武力行使を回避しなければならない。そして同時に中国の民主改革と社会改革を支援し、中国を民主的自由と社会的平等にむけて推し進める、これが台湾の労働者民衆にとって最も有利な道筋である。
 いま、中国共産党政府は台湾人民の自決権を承認していない。アメリカは覇権的立場から中台関係に介入し、台湾に武器購入を迫り、自ら「台湾海峡の現状」を定義すると叫んでいるが、その目的はその中から最大の利益を得るためである。台湾の与野党は、法理的台湾独立実現の道を猛進するか、ブルジョアジーの中台経済の利益だけに関心を持つかのどちらかであり、中台経済の一体化において被害を被る労働者民衆の権利を真剣に考えることはなく、中国の民主的改革と社会改造への支持も口先だけのものであり、与野党どちらもアメリカ政府への依存から抜け出ることはできない。このような状況において中台両岸の労働者民衆は、これらの大国や政党に自らの運命を委ねることはできない。力を結集し、中台の労働者民衆相互の理解、交流そして共同闘争を通じて、中台両岸における真の民主主義と平和を実現しなければならない。(2006年3月)


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