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 FTAを庇護する新自由主義政権との対決を (上)   かけはし2006.4.24号

韓米FTA阻止闘争と階級的労働・民衆運動の課題

FTA阻止闘争の現局面

 韓米FTA(自由貿易協定)阻止闘争は、初期のスクリーン・クウォータ縮小反対の局面から各産業、部門別の共対委(共同対策委員会)が結成されるとともに全民衆的な闘争へと広がる動きを示している。
 これは韓米FTAがすべての産業や部門に及ぼす影響が極めて大きいということを反証するものであり、反WTO(世界貿易機構)闘争がそうであったように、反FTA闘争もまた初期の、いわゆる「反グローバル化活動家」たちの先導的な闘争から、労働組合をはじめとする基層大衆組織が参加する大衆的な闘争へと上昇していることを示しているのだ。それにもかかわらず一方では闘争基調などにおいて撹乱的要因が潜伏しており、他方では依然として韓米FTAの問題点や、この闘争の意義が大衆的に共有・拡散しているとは言えない。

闘争をめぐる撹乱の諸要因

 韓米FTA阻止闘争は基本的に韓国政府と米国政府間の交渉だという点において、これまで米国政府の交渉への圧力疑惑、交渉内容において米国の利害がほとんど貫徹されるだろう式の主張が行われてきており、それは現在もある。
 だが少なくとも韓国政府の発表によれば韓米FTAは韓国政府が積極的に乗り出していることが確認されており、特定産業の場合、むしろチャンスとなりえる式の主張も提起されているのが実情だ。
 問題は韓米FTAの問題点を扱う際に、米国の圧力を極端に強調するだとか、米国の国益だけが一方的に貫徹されるだろうとの主張を過度に強調する場合だ。大体にしてこれは「反米」というスローガンによって包装されるが、こうなると韓米FTAの本質である「労働者・民衆に対する搾取の深化」が政治的に暴露されるというよりは、「国家主義」に包摂される可能性が高まる。これは結局、韓米FTAを推進している主体である「現政権に対する態度の問題」にほかならない。
 昨年下半期の農民殺害の局面で展開された「大統領の辞任か、謝罪か」の論争、つまりノ・ムヒョン政権に対するハッキリしない態度が、まるで故障したレコード盤のように当面の闘争においても再燃される兆しだ。実際にこれまでFTA汎対委の執行委で、FTA締結を強行しているノ・ムヒョン政権や与党・開かれたウリ党に対して運動陣営がいかなる態度を取るのかについて若干の論難があっただけで、今なお整理ができていないという。
 周知のように韓国社会において運動陣営の一部は、韓国社会の矛盾の本質は米国にあると考えているようだ。ある歌の歌詞のように「諸悪の根源は米国」だ。この人々は「6・15共同宣言を実現する南朝鮮の1主体であるノ・ムヒョン政権」と決して敵対的になってはならない、と言うのだ。1部の文章ではさらに踏み込んで「(ノ・ムヒョン)政権退陣を叫ぶのは祖国統一という時代的課題を妨害する左傾的誤り」だと主張している。
 一方、1部にではあるが「FTAは大勢であり、1部の産業では韓国が有利となりえるがゆえに全面的な大衆闘争を組織するのは不可能」であり、「社会協約を通じてFTAによる被害部分の補償をさせよう」式の発想もないわけではないようだ。
 このようなそれぞれの主張は反新自由主義戦線を構築するうえで撹乱要因として作用しており、労働者階級の反新自由主義闘争を1国的なレベルに制限することとなるだろう。ひいては支配階級のイデオロギーである民族主義、国家主義へと傾倒し、労働者階級を武装解除する害悪的なものにほかならない。
 実際にこのような諸観点は、闘争においても自国産業保護論あるいは被害産業保護論へと結びついている経済主義、組合主義的偏向と結合し、「わが事業場だけ安定であれば良い」式の保身主義に流れることになろう。
 実際に自動車産業の場合、政府は完成車部門は韓米FTAによって恵沢を得るだろう式に流しており、部品社の大部分は工場閉鎖、雇用不安を味わうだろうが、完成車部門は今のところは大丈夫なので彼らが闘争に参加するのは難しいだろう式の敗北主義的発想もないわけではない。
 さらに問題なのは韓米FTAが北核問題と連動する可能性だ。すでに運動陣営の1部では「南北共助によって統一農業を実現しよう」式の主張が提起された経緯があり、コメ開放を強行した新自由主義政権との全面的な闘争を組織することに消極的な態度を示してきた。
 これは掘り下げて言えば1部の市民運動陣営は「新自由主義は大勢なのだから、どうしようもない」という論理の民族主義ヴァージョンにほかならない、ということだ。つまり「コメの輸入開放は親米改良主義政権であるノ・ムヒョン政権としてはどうしようもないので、自主的民主政府を樹立し南北共助による統一農業を通じて食糧問題を解決しよう」式の論理なのだ。
 このような主張が横行している中で、米国は「政治・軍事的な問題」である北核問題は模範的に解決するから、韓米FTAなどの「経済問題」については譲歩せよ、と韓国政府に取り引きを提案できるし、これに加えキム・デジュン訪北などを契機に北核問題が急進展を迎えることになれば、いわゆる運動陣営内でどんなレベルであれ態度の変化が起こるだろう。
 結局、韓米FTA阻止闘争において「反米」というスローガンは、闘争の課題を米国反対という国家主義的自国産業保護論に包摂されかねないという点で、致命的な限界として作用するだろう。
 最近のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、ワールド・カップなどの熱気が国家やマス・メディア、独占資本によって徹底して造作・流布・拡散されているという点を勘案すれば、これは決して杞憂ではない。そして1部の運動陣営がノ・ムヒョン政権に対する態度をあいまいにし続けていく限り、闘争は至るところで暗礁に乗り上げ座礁する危機に直面するだろう。そのために階級的労働運動・民衆運動陣営は、このような没階級的観点を徹底して警戒しなければならないだろう。

FTAと韓国資本の利害

韓米FTA阻止闘争は反グローバル化闘争の延長線上で重要な位置を占めている。

 韓米FTAだと言うから、まるで1国的なレベルの闘争のように思われるが、反グローバル化闘争であるWTO反対闘争、APEC反対闘争の延長線にあるのであって、その意味するものは格別だ。これは韓米FTAが超国籍資本にとっても重要な意味があるということを示している。新自由主義の世界化はWTO体制という大きな枠から大陸的水準の州範囲のFTAや国家間のFTAを緩衝的なやり方で推進してきた。
 だがこれは破竹の勢いで成功街道を進んでいるのではなく、至るところで難航している。それは、ほかならぬ全世界の労働者・民衆の闘いの結果だ。昨年、全米自由貿易協定が破綻したのも、WTO・DDA交渉が引き続き困難さを味わっているのも、一方では国家という枠を媒介とした資本分派間の利害関係の衝突という側面も存在はするけれども、一層重要なのは新自由主義の世界化によって苦しめられている労働者・民衆の闘いの結果でもあるのだ。
 そのために米国が自ら告白しているように、韓米FTAこそは自由貿易推進15年ぶりの大収穫となるべきものであり、超国籍資本の立場からはWTO・DDA体制を強固にする架け橋の役割、他のFTAを加速化する契機として期待するに充分なものなのだ。
 反面、韓米FTAが労働者・民衆の抵抗によって難航に遭遇すれば、全米自由貿易協定に続きWTO・DDAなど全般的な新自由主義・自由貿易の構図に否定的な影響をもたらしかねない。このような点で韓米FTA阻止闘争は決して1国的な観点からアプローチすることはできない闘争であり、反グローバル化、反新自由主義闘争の重要な環として作用する可能性を持っている。

韓米FTA阻止闘争は新自由主義政権たるノ・ムヒョン政権に政治的危機をもたらし得る事案であり、逆にこれは労働者・民衆運動陣営が階級闘争の力学関係を覆すことのできる政治的契機となるだろう。

 ノ・ムヒョン政権は社会の2極化解消を云々しながらもFTA交渉の締結について強い意志を示しているのは、総資本として機能している国家にとっては必然的選択とならざるをえないことを意味する。またこれは韓米FTAが2極化を一層深化させることを反証するものでもある。
 しばしば国家主義を克服できない1部の運動陣営は韓国経済の対米従属性の深化を問題にするが、まさに重要なのはこれの直接的な結果が労働者・民衆の暮らしの条件を極端に悪化させるだろうということにある。むしろFTAは世界化にいち早く適応している韓国の1部独占資本にとってはチャンスとなり得るだろうし、すでに資本の運動にとって国籍などは、わずらわしいものにすぎない。万一、資本にとって民族主義が必要であるとするならば、それは階級大衆を糊塗するための手段として活用するときだけである。
 対米貿易で黒字規模が減少するにもかかわらず、総資本たる国家はなぜFTAを強行するのか。繰り返しになるが、1部の運動陣営の主観的解釈とは違って韓米FTAは単に米国の圧迫によって進められているのではなく、冷静に考えようとすれば1部の産業にとって効果が全くないと言うことはできない。1部産業の効果という言葉は、裏を返せば韓国資本の利害関係が反映されるのがFTAだということだ。
 つまり、かつてのニンニクなど農水産物を開放しつつ携帯電話の輸出が急増するだろうという経済団体の主張のように、FTAは結局、資本運動の利害関係の産物なのだ。結局、韓米FTAの本当の効果は「利潤蓄積の危機を克服するための搾取の深化であり、これによって恵沢を受けるのは少数の資本家階級」だけだ。そのために自国産業保護、南北共助などの主張は結局のところ資本の利害に奉仕することになるだろう。
 すなわち、単純に米国の圧力のためだけではなく、世界化している国際的資本運動に韓国の独占資本もまた適応しないならば資本間の競争で生き残れないからだ。ノ・ムヒョン政権がずっと東北アジアの物流・金融のハブ(拠点)として韓(朝鮮)半島に言及してきたのは、もはや1国的な水準の経済政策によって資本蓄積の危機を突破できないという現実を反映しているのだ。
 問題は、依然として存在している国家間の産業不均等や資本規模の不均等、技術格差、中国、インドなどの競争国家の挑戦などによって、はたして韓国政府(総資本)の意図する通りに韓米FTAが対米輸出増大や国家の競争力強化、正確には韓国資本の競争力強化へと順調に結びつくのか、だ。
 ところで、利潤蓄積のための休みなき資本運動にとって、決して労働者・民衆の生存権などは優先的考慮の対象とはなり得ないし、その先の見えない悪無限的な搾取の深化に向かってブレーキのない列車のように駆けぬけていくほかはない。韓国の資本運動もまた、このことから断じて自由ではありえない。
 このような点で韓米FTAの締結は1つの側面においては蓄積の危機を克服し、競争力を備えるための資本運動の産物であり、また他の側面においてはこれは危機を一層深化させる方式によって労働者階級・大衆に対する攻撃を強化するものとしてのみ機能する。結局、その結果は新自由主義政権の政治的危機として現れるだろう。
 だが、ノ・ムヒョン政権もまた、これをよく承知しており、資本主義の歴史が語っているように、資本運動が決定的危機を迎えるときに登場するのがまさに資本主義の左の翼・社民主義だ。ノ・ムヒョン政権は労働者・民衆運動陣営内の改良主義的勢力に対して、この上ないカウンター・パートナーと考えるだろう。しかも運動陣営の1部は、「南北共助、南北経済協力の強化によって統一された富国強盛国家」を主張しているように、ノ・ムヒョン政権としては民族主義、愛国主義を活用し、またいくらでも活用可能な政治分派として利用しようとするだろう。
 そしてこれは一方では社会的合意主義、社会協約、社会的交渉などによって、すでに労働者・民衆運動に深刻なほどに拡散している。これに加え、自らの属する産業部門、あるいは事業場の利害にのみ埋没している経済主義、組合主義的偏向は、農民闘争、労働者闘争、部門別闘争へと孤立・分散されることにひと役、買うことは間違いない。
 そのために階級的労働運動・民衆運動陣営は韓米FTA阻止闘争がこのように民族主義的傾向に突き進んだり、あるいは各主体別の個別対応へと分散されるのを放置してはならないだろう。また上半期の非正規改悪案阻止闘争、労使関係ロード・マップ粉砕闘争とどのように融合しつつ全民衆的な闘争として広げていくのか苦心しなければならない。これを通じて広範な反新自由主義共同闘争の戦線を再構築し、新自由主義政権との激突を準備しなければならないだろう。(つづく)


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