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ラテンアメリカ情勢に関する覚書             かけはし2006.4.10号

新自由主義と対決し左へ舵を切った大陸

民衆の要求と圧力がボリビア、ベネズエラの左派政権を支える

 ラテンアメリカは左へ舵を切った。自由主義の拒否と大衆運動の抵抗が結びついた結果、この数年間にベネズエラ、アルゼンチン、エクアドル、ボリビアなどで前革命的情勢が切り開かれ、伝統的右翼は一連の選挙で敗北をこうむった。次は、メキシコ、ペルー、ニカラグアの右翼に同じことが起こる可能性がある。コロンビアは、反動的右翼が議会の支持を得て統治を続ける見込みの高い唯一の大国である。

 この情勢は新しい資本主義間矛盾を引き起こしており、特にアメリカ帝国主義との新たな緊張を作り出している。「対決」のオプションが存在し、これは依然としてブッシュ政権にとっての選択肢であり、ほとんどの国の反動的右翼にとっての選択肢である。彼らが軍事介入の道を取る可能性さえある。特にコロンビア計画をめぐってその可能性がある。コロンビアには、すでに「米国軍事顧問団」が存在している。
 しかし、現在の局面においては、米国のイラク、中東および中央アジアへの戦略的関与によって、ラテンアメリカにおける米国のプレゼンスは弱められている。軍事大国米国といえども、イラクを軍事的手段で占領しながら、同時にラテンアメリカで別の国に介入するのは困難なのである。

 支配階級にとって「第二の選択肢」が存在する。自由主義または社会自由主義の道をとる新しい左翼政府を利用して階級支配の体制を再編成することである。これにあてはまるのが、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリおよびエクアドルである。WTOにおけるブラジルに見られるように独自の政策を持つ輸出農業ブルジョアジーの利益に依拠することにより、統合されたラテンアメリカ政策による資源市場(石油、ガス、水)の再編成に力を入れることにより、近年の九%にまで達する高い経済成長率から利益を得ることにより、そしてブラジルのPT、アルゼンチンのネオ・ペロン主義、ウルグアイのフレンテ・アンプリオの助けを借りて社会的運動の政府転覆的エネルギーの発火を抑えることにより、これらの新しい政府は、社会的および政治的情勢のある程度の「安定化」を達成した。最も重要な例は、アルゼンチンのキルチネルである。
 これらの政府は、資本主義の主要矛盾の解決に成功しているわけではない。すなわち、自由主義的反改良は続いているし、社会的不平等は拡大しているし、人民大衆の状況に取り立てて言うほどの変化はない。それだけではなく、資本主義的グローバリゼーションの枠組みの中で、これらの政府は、帝国主義との関係で中長期的な自立政策を実行することに成功しているわけではなく、メキシコのカルデナスやアルゼンチンのペロンがとった道と同じような道を進んでいるに過ぎない。
 それにもかかわらず、IMFと世界銀行が支配している金融市場を尊重しつつ、またMERCOSUR(南米南部共同市場)のような地域政策の実施を試みながら、これらの政府は地域支配階級の利益のために新しい位置を獲得しようと努めている。

 「対決」のオプションも「社会自由主義的」オプションも、大きな障害に直面している。あらゆる運動の中で特有の形態で繰り返し姿を現す社会的運動の現実である。すなわちアルゼンチンの労働組合とピケテロス、ブラジルの土地なき農民運動とCUT指導部の政策にもかかわらず目覚めることができるブラジル労働組合主義、エクアドルの先住民民衆とその組織である。
 しかし、大陸の安定化にとっての主要な二つの障害は、「ボリバール主義革命」とボリビア情勢である。国家外交や、ALBA(アメリカ大陸諸国のボリバール主義的オルタナティブ)構想のようなラテンアメリカ統合プロジェクトに大陸のすべての国を結集する必要性の問題を超えて、ラテンアメリカ左翼内の論争には二つの立場がある。すなわち、ルラやキルチネルに代表される社会自由主義と、チャベスのボリバール主義過程である。アメリカ帝国主義と対決する政策によるのか、それとも、一連の社会的および民主的政策の適用によるのか、である。一連の政策とは、健康、教育、飢餓撲滅計画、特定の農場や土地の占拠、住宅政策、協同組合、そして特に、何百万人ものベネズエラ人の高度の動員と分極化である。ベネズエラ情勢は南米大陸のホットスポットになっている。
 この沸騰状態が、今や、二十一世紀の社会主義に関してチャベスが提起した論争によって刺激されている。これらは積極的側面である。しかし、ボリバール主義過程には一連の問題が存在する。その第一は、チャベス政権の「ボナパルチスト」的特徴に結びついた問題である。すなわち、権力の集中、チャベスと人民の直接的関係、真の党の不在である。党は、多くの場合、単なる選挙のための装置に過ぎず、大衆動員や組織への呼びかけは、多くの場合、権力者が大衆民主主義や自己組織化に対して課す制限によって邪魔されている。
 たとえば、PVDSA(国有石油会社)の自主管理で達成された前進は、石油管理ストライキ後、まったく後が続いていない。反対に、テクノクラートたちが復帰している。キューバ共産党の代表たちは、民主主義、管理および共同管理に関するあらゆる点で否定的な役割を演じている。もし、石油収入で費用をまかなって健康、教育、食料に関する人民の基本的必要を満たすという大胆な目標が闘争の中で達成されていたら、ベネズエラ資本主義の社会経済的構造は実質的に転換され、乗り越えられていただろう。
 これからの二年間は、ベネズエラの革命過程にとって決定的になるだろう。チャベスはトロツキーから引用する習慣があるが、こう言った。「あらゆる革命は反革命のムチを必要とする」。ボリビアの革命過程は、実際、右翼反革命とアメリカ帝国主義への反応によって特徴づけられ、そのたびに過程を急進化させてきた。
 「反乱右翼」の再度の対決や新たな挑発があれば、さらなる急進化がもたらされるだろうということは、誰も疑わない。しかし、右翼もブッシュ政権も、失敗したクーデターから教訓を学ぶことができるし、他方では、来るべき二〇〇六年後半の大統領選挙への参加を拒否することでチャベス体制の威信を失墜させることを追求し、あらゆる社会経済的プロセスを阻止することで過程を泥沼化することを追求することができる。
 この場合は、チャベスとボリバール主義プロセスのすべての擁護者たちは、大衆民主主義と社会経済的内容の面で過程を深化させる力を見つけなければならない。そして、そのためには、棚ボタの石油からの収入だけでは十分ではないであろう。新しい政治的選択が必要になる。

 しかし、このシナリオの次元の一つはインターナショナルである。ベネズエラでは、インターナショナルは最後まで演じられるであろう。多くの評論家は、エボ・モラレスを「ルラとチャベスの間」に位置づける。実際、ボリビアの副大統領は「アンデス資本主義計画の必要性」に関する表明を行ったが、エボ・モラレスの最初の政策はチャベスに近づくものであった。すなわち、古い軍幹部の追放、大統領の給与の五七%削減(すべての政府高官に同様の削減が波及するはずである)、土地なき農民運動の一つとの交渉と土地改革を打ち出した。
 このプロセスの指導部と大衆の問題に関しては、ベネズエラとボリビアの関係は逆転したと言うことさえできる。ベネズエラでは、チャベスは歴史過程全体の産物であるが、彼の政治的重みが大衆運動を刺激すると同時に、大衆運動の空間を限定している。
 ボリビアでは、大衆運動がモラレスの取るコースを決定してきた。たとえば、憲法制定議会の召集や炭化水素資源の国有化は大衆運動の要求から直接出てきたものである。彼は約束を守るだろうか。いずれにせよ、この国において、われわれはラテンアメリカにおける社会的政治的反乱の頂点の一つを見出している。今後数週間、数か月で、その姿が明らかになるだろう。情勢は開かれたが、大衆運動の圧力は、ボリビアの政治的、行政的、制度的混沌状態を作り出している。ボリビアはベネズエラとともに、ラテンアメリカ情勢にとって鍵の一つになっている。

 国際的観点からは、二極分化にかかわる一連の問題が存在する。二極分化とは、一方をアメリカ帝国主義と伝統的右翼、もう一方を人民と反帝国主義政府、すなわちキューバ、ベネズエラおよびボリビアとする二極分化であり、さらに第二のより微妙な分極化、社会自由主義的政府(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、エクアドル)と上述の反帝国主義政府の間の分極化である。ルラとキルチネルは、チャベスとモラレスに対して積極的に右への圧力をかけている。
 また、ルラ、キルチネル、チャベスの間で、モラレスを制しようとする闘いが存在する。ラテンアメリカ左翼は、自由主義的反改良の道を進むのか、それとも帝国主義と手を切るのか、という選択を現在経験中である。すなわち、ルラかチャベスか、である。これらのすべては、米国の対決政策と、大衆運動の力学対自国における自己の利益を守ろうとする支配階級の力学にかかっている。

 この情勢は、政治的綱領的問題に関していくつかの結論をもたらしている。
bこの問題を、イラク戦争反対の闘いとともに、われわれの連帯行動の中心に据え、ベネズエラにおけるボリバール主義プロセスとの国際的連帯キャンペーンを展開すること。すなわち、ベネズエラ共同行動、連帯集会、援助や連帯派遣団など。インターナショナルおよび第四インターナショナル諸組織は、このキャンペーンの先頭に立たなければならない。
b綱領的問題においては、社会的および民主的要求の綱領を各国の天然資源、土地および富に対する国および人民の主権に関する要求に結びつけ、もちろん土地改革に結びつけること。炭化水素資源の公共的収用および国有化の要求も、これらの国の社会的政治的要求の核心に据えなければならない。
 民主主義の問題も中心的問題である。それは腐敗政治家を追放することであり(憲法制定議会のような要求の意味もここにある)、社会的収用の過程を深化させることである。企業の管理、共同管理、経営に関する要求はベネズエラやボリビアでは優先事項である。
b最後に、社会的政治的情勢に関する論争を、チャベスが口火を切ったベネズエラにおける社会主義だけでなく南米大陸全体の社会主義に関する論争の開始に結びつけるチャンスである。

 ベネズエラが世界およびラテンアメリカにおいて占める位置による限界にもかかわらず、ボリバール主義の経験は、社会主義に関する議論を再開することを可能にしている。この論争は、今日、すべての組織において起こっており、それは始まったばかりである。もちろん、あらゆる種類の社会主義が存在するが、イデオロギー的環境が一九九〇年代初期には「歴史の終焉としての自由主義的民主主義」のテーマで特徴づけられ、一九九〇年代から二〇〇〇年代初期にかけては反自由主義のテーマで特徴づけられてきた中で、チャベスが社会主義対自由主義および資本主義の問題を位置づけた方法は、ラテンアメリカの社会的および政治的前衛の諸部分の間の意識の発展の深化と、とりわけ一連の戦略的問題の反響を示すものである。
 チャベスの方法は左翼の中の社会自由主義に反対する重要なテコの支点である。それは民衆の要求の満足を自由主義的資本主義反対の戦略の中心問題に据え、反改良には関与しない。
 チャベスの方法は、鋭い危機の情勢あるいは前革命的情勢における管理の力学に結びついた協同組合の経験を前進させ、労働者と公的当局による共同管理に結びついた管理のテーマに向かって進むことを可能にする。それは社会的必要性を中心に据えた別の論理、別のシステムの必要性と、財産の別の形態、公共的社会的収用を、中心問題として提起している。

 フランソワ・サバドは、革命的共産主義者同盟(LCR、第四インターナショナル・フランス支部)の政治局員で、第四インターナショナル執行ビューローのメンバーである。(「インターナショナルビューポイント」電子版06年2月号)


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